過重労働問題の社会問題化や働き方改革による規制強化の中、労働基準監督官の活動が注目されています。
ある日突然労働基準監督官がやってきて、労務管理の状況について調べられるのが臨検調査です。臨検調査の結果、各種労働法規制に違反していると是正勧告が出されます。
是正勧告とは何か、よくある違反例とその後の対応について説明します。また是正勧告の際に交付される是正勧告書と指導票、施設設備の使用停止命令の違いについてもあわせて解説します。
目次
労働基準督官はどのような権限を持っているのか?
労働基準監督官の権限として大きく分けると二つあります。「司法捜査権」と「行政職員としての監督権限」です。
司法捜査権限とは
司法捜査権は労働基準法に、このように規定されています。
この権限に基づき強制捜査する際は、裁判所に捜査令状を請求する権限があります。
行政職員としての監督権とは
行政職員としての監督権限としては、労働基準法ではこのように規定されています。
この権限に基づく、労働基準監督官による事業場への立ち入り調査のことを「臨検監督」といいます。また、事業主が臨検監督を拒否した際の罰則も決まっています。
是正勧告とはどのようなものか?
是正勧告とは、臨検監督後、労働基準監督官が労働基準法等に違反している事項について是正を勧告することです。臨検監督を受けた事業場の法令違反について指摘され、併せて是正期日の期限が記載されています。
例えば、残業代の未払い(労働基準法第37条割増賃金)についての是正内容は、過去の未払い残業代の支払いになります。是正期日は何時迄に実際に労働者に支給するかの期日になります。
是正勧告を無視し続けると、最終的に司法処分につながる
是正勧告は行政指導となります。つまり是正勧告を無視又は放置してもそれだけでは刑罰に問うことはできません。
ただし、是正勧告の内容は罰則のある法令違反についてですので、何も対応しなければ本来の違反行為を元に司法処分(強制捜査や逮捕、検挙、送検等)をされることがあります。
労働基準法違反の企業は全体の約7割
実際に臨検監督を受けた企業の約7割で、労働基準法違反が見つかっています。
是正勧告書、指導票、施設設備の使用停止命令の違い
是正勧告書とは
是正勧告書とは是正勧告内容を記載した書面です。各労働基準監督官から事業主宛てに出されます。記載内容には、違反している法条項等、違反事項の詳細、是正期日が含まれます。また、実際、誰が受け取ったのか確認するために、受領期日と受領者職氏名の記載欄があります。
例えば時間外や休日労働の残業代未払いであれば、次のような記載内容になります。
法条項等 | 労働基準法第37条 |
違反事項 | 営業部の労働者、五反田太郎他2名について 平成28年1月から平成29年5月分の時間外及び、 休日労働の割増賃金が適正に支払われていないこと |
是正期日 | 平成29年7月31日 |
指導票とは
指導票は罰則のある法令違反ではないが、改善事項すべきことがある場合に交付されます。
施設設備の使用停止命令とは
施設設備の使用停止命令とは、労働安全衛生法第98条に基づく命令です。
都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、機械等に法令で定められた安全措置がされていない時等で危険の発生が予測される際に、作業の全部又は一部の停止、建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止するため必要な事項を命ずることができるとされています。
この権限は労働基準監督官が労働者に急迫した危険がある場合は、即時に行うことができるともされています。
例えば、動力プレスに安全囲いが無く金属板の抜き差し作業をしているのを労働基準監督官が発見して、即時に使用停止命令と安全囲いの設置を命じる行政処分を行うような時になります。
是正勧告でよくある違反内容は
是正勧告でよくある違反内容について、いくつか事例を挙げていきます。
違反例1 就業規則の違反例
事業場で常時10人以上の労働者を使用する使用者は、必ず就業規則を作成し、労働基準監督署に届出なければなりません。(労働基準法第89 条)
この就業規則の作成義務及び届出義務に違反していれば、罰則があるため是正勧告されることとなります。
違反例2 労働時間の違反例
労働基準法では、労働時間は休憩時間を除いて、原則として1週で40時間、1日で8時間を超えて労働させてはならないことになっています。
これを超えて労働させる必要がある場合は、労働基準法第36条に規定される「時間外・休日労働に関する協定届(36協定)」を使用者と労働者代表の間で協議して締結の上、所轄労働基準監督署長に届出る必要があります。
上記の36協定を締結、届出せずに法定労働時間を超えて働かせたり、36協定の範囲を超えて労働させたりすることにより、労働基準法違反となり是正勧告されることとなります。
違反例3 年次有給休暇にまつわる違反例
労働基準法では、「雇入れの日から6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者」に対して、有給休暇を与えなければならないとしています。
年次有給休暇に関連した違反として、次のようなケースが多く見られます。
- 年次有給休暇を与えていない
- 労働者からの取得申出を認めていない
- 労働基準法が定める日数通りに付与していない
- アルバイトやパートに年次有給休暇を与えていない
有休を取れないことに不満を持った、労働者本人が労働基準監督署に労働基準法違反を申告して、労働基準監督官の臨検監督につながり、是正勧告を受けることが多い事例です。
その他の違反例
その他、次のような違反により是正勧告を受けるケースも多く見られます。
- 年一回の定期健康診断の受診をさせていない労働者が居る
- 法定帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)を備えていなかった
是正報告書の書き方と提出方法
是正報告書とは
是正報告書とは、是正勧告を受けたことに対して、是正をしたことを所轄労働基準監督署長に書面にて報告する文書のことです。
是正報告書の書式は、特に法令で決まったものはありませんが、是正勧告を受けた際に書式のひな型を交付されたり、労働基準監督署のホームページよりダウンロードできたりします。
是正報告書の内容
是正報告書には是正勧告書で指摘された事項について、是正年月日と是正内容を記載します。添付資料として是正内容が分かる物が必要です。
例えば時間外や休日労働の残業代未払いで是正勧告を受けての是正報告でしたら、次のような記載内容になります。
違反法条項等 | 労働基準法第37条 |
是正内容 | 営業部の労働者、五反田太郎他2名について 平成28年1月から平成29年5月分の時間外及び 休日労働の割増賃金として、金281万円を支払いました。 |
是正年月日 | 平成29年7月31日 |
添付資料 |
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是正報告書の提出
作成した是正報告書は、是正期日までに労働基準監督署に提出します。
是正期日までの提出が難しい場合には、労働基準監督署に提出ができない事情と期限の延長について相談しましょう。なお、一定の是正や改善はしたものの完了していない場合には、途中経過と是正完了年月日を記載しての提出となります。
是正報告書を提出しないと、どうなる?
是正勧告を受けても無視や放置する、または是正報告書を提出しない場合は、悪質と判断されて司法処分(強制捜査や逮捕、検挙、送検等)をされることがあります。
書類送検された事例としては、労働基準法第24条違反(賃金の支払い)、第32条違反(労働時間)、第37条違反(割増賃金)による事例が多く見られます。
また、いわゆる「労災かくし事案」は、労働安全衛生法に基づく「労働者死傷病報告」の提出義務違反に当たります。
労働者災害補償保険法に基づく各給付を使用せず、被災労働者に充分な補償がなされない時には、悪質とされて送検処分とされる場合が多いです。
まとめ
是正勧告を受けたときは、時間との戦いです。速やかに法違反を是正し、是正報告しなければ、法違反の状態が長く続くこととなります。
また未然防止として、人事労務freee (クラウド給与計算ソフトfreee) などの各種人事労務管理ソフトを活用して、正しく勤怠管理や残業代の支払いを行い、法定3帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)を備えることも重要です。
「ブラック企業」と呼ばれないためにも、法令順守、正しい労務管理を心掛けて行きましょう!
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執筆: 岡 佳伸(特定社会保険労務士&キャリアコンサルタント)
社会保険労務士岡佳伸事務所の岡です。私は元労働局職員(厚生労働事務官・ハロ-ワーク勤務)として各種雇用保険業務に携わりました。各種助成金の活用や各種労働トラブル解決に強みを持っています。宜しくお願い致します。
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