長時間労働や残業代未払いなどの問題から「働き方改革」が話題となる中で、働き方を取り締まる、労働基準監督署の調査が注目されています。この記事では元労働局職員で現社労士の筆者が労基準署の調査の内容や種類、調査の流れや必要な各種書類について、正しく理解できるように解説していきます。
目次
- 労働基準監督署の調査とは? 他の行政調査との違い
- 労働基準監督署の担当する法律の領域
- 労働基準監督官は「司法捜査権」と「行政職員としての監督権限」を持つ
- 労働基準監督署調査の種類について
- 定期監督とは
- 申告監督とは
- 災害時監督とは
- 再監督とは
- 労働基準監督署調査の準備と当日の流れ
- 用意するもの
- 該当する書類がなかった場合は?
- 調査の所要時間と出席者
- 実際の調査内容について
- 労働基準監督署の調査で労働基準法等違反が見つかったときは
- 年間どのくらいの企業が調査を受けているか、また調査を受けやすい企業は?
- 調査を受けやすい企業は?
- 労働局ごとの重点取り組み
- 労働環境をチェックするための「自主点検表」
- 「自主点検表」とは
- 「自主点検表」は提出必須なのか?
- まとめ
労働基準監督署の調査とは? 他の行政調査との違い
労働基準監督署の調査は、労働まわりの最低基準が守られるよう、調査権限が強く設けられています。
労働基準監督署の担当する法律の領域
労働基準監督署が担当する主な法律は、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などの労働まわりの法律です。
これら3法では、「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法第25条1項)を労働者が営むために必要になる、以下の項目に関する最低基準を定めています。
- 賃金
- 就業時間
- 休息
- 安全衛生
また、最低基準を守らない経営者(使用者)に対する罰則が設けられ、法が守られるように制定されているのが特徴です。
労働基準監督官は「司法捜査権」と「行政職員としての監督権限」を持つ
企業が労働基準法を遵守できるよう、労働基準監督官は「司法捜査権」と「行政職員としての監督権限」を持っています。
司法警察権に基づき、労働基準監督官は捜査令状を請求し、企業を強制捜査することが可能です。
また行政職員の監督権限として、事業場への立ち入り調査(臨検監督)を行なうことができ、臨検監督を拒否した際の企業への罰則も決まっているのです。
労働基準監督署調査の種類について
労働基準監督署が行なう調査は、主に「定期監督」「申告監督」「災害時監督」「再監督」の4つに分かれます。
定期監督とは
定期監督は、労働基準監督署がその年の監督計画に基づき、労働条件、安全衛生全般について調査するものです。監督計画では、前年までの実績などから調査の対象事業所が任意で決定されます。
定期監督の予告はあるの?
労働基準監督官が事業場に立ち入り調査して実施する場合は、事前に書面や電話により事前予告があり、日程調整が行われることが多いですが、事前予告なしに突然訪問してくる場合もあります。
複数社まとめて集合し監督される場合も
定期監督の中には、1社1社立ち入りで調査する方法のほかに、「集合監督」という複数の使用者を一斉に呼び出して行う方法があります。効率的に複数の事業場を調査できることから、近年は「集合監督」の実施が増えているようです。
申告監督とは
申告監督は、労働者から労働基準法等各種法令違反の申告があった際に行われます。
申告監督の場合も事前に調査予告がある場合とない場合があります。また、指定された日時に労働基準監督署に呼び出されることもあります。
申告の権利
申告の権利は、労働基準法 第104条で規定されています。また、使用者はこの申告を行ったことにより、労働者に解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないと決められています。
なお申告した労働者名については、労働者本人の了承がない限りは原則伝えない扱いがされています。
災害時監督とは
一定以上の労働災害が発生した事業場に対して原因の究明や再発防止のために行われる調査を、災害時監督と呼びます。
再監督とは
再監督は、上記の3つの調査において違反が確認されたり、過去に是正勧告を受けた事業場が指定期日までに「是正勧告書」を提出しなかった場合に行われる調査です。
労働基準監督署調査の準備と当日の流れ
「集合監督」や呼出調査であれば、労働基準監督署からの通知書面で指定されたものを持参します。ここでは、代表的なものについて触れて行きます。
用意するもの
- 出勤簿やタイムカード等勤怠状況がわかるもの
- 賃金台帳
- 労働者名簿
- 労働基準法等で定められた各種協定や届出の控え
指定された期間分持参することとなりますが、最長2年分を求められる時もあります。
指定された期間分持参することとなりますが、最長2年分を求められる時もあります。
本来、労働基準法で決められた記載事項(氏名 、性別、生年月日、現住所、履歴(過去の学歴、経歴、職歴、雇入れ年月日、退職(死亡を含む)年月日とその事由)が記載されたものを準備する必要があります。
代表的なものとして36協定があげられます。
該当する書類がなかった場合は?
上記のような書類が揃わなければ場合、調査当日までに作成するのが望ましいです。
また、労働基準法等で定められた届出をしていなかった場合は、調査前に届け出るのが望ましいでしょう。もっとも、届出遅れた事実はすぐわかりますので、今後は定められた期日までに届け出る旨の指導を受けることとなります。
調査の所要時間と出席者
当日の所要時間は、調査目的や企業規模にもよりますが、2時間から3時間程度で終了することが多いです。
また、出席者は資料の内容を説明できる総務人事担当者が望ましいでしょう。事案によっては顧問や関与されている社会保険労務士の方が同席した方が良いかと思います。
実際の調査内容について
各種の資料を見ながら、労働基準法等違反がないか確認して行くこととなります。例えば以下のような点がよく確認されます。
- 就業規則を作成しているか。過半数代表は適正に選出されているか。
また、労働者に周知しているか。(就業規則の作成義務がある場合) - 就業規則が正しく運用されているか、実態にあっているか。
- 労働基準法に定められた労働条件について書面で通知しているか。
- 労働基準法等に基づく各種届出を行っているか
- 労働基準法で定められた各種帳簿(出勤簿、賃金台帳、労働者名簿)等は作成されているか、また、事業場に備え付けられているか
- 正しく割増賃金は支払われているか
- 労働基準法違反が前提のシフト管理がなされていないか
- 労働安全衛生法に基づく健康診断は実施されているか
労働基準監督署の調査で労働基準法等違反が見つかったときは
調査の結果、労働基準法等違反が見つかった際は 会社には是正勧告書が交付されます。また、法違反とは言えないまでも改善した方が良い事項がある場合は指導票が渡されます。
是正勧告書には是正期日が記載されていて、その期日までに法違反を是正することを求められます。割増賃金の未払いが見つかった場合は、遡及して支払いを求められることが多いです。
>> 関連記事: 是正勧告とは?よくある例と必要な対応
年間どのくらいの企業が調査を受けているか、また調査を受けやすい企業は?
平成27年に実際に定期監督が実施された事業者数は、約16万事業場です。その約7割の企業で、労働基準法違反が見つかっています。
平成27年、定期監督実施事業場数133,116、違反事業数92,304、違反率69.1% 申告監督実施事業場数22,312、 違反事業数15,782、違反率70.7%
参考 厚生労働省
調査を受けやすい企業は?
原則として調査される企業に「労働基準法等の法違反の申告が労働者よりなされた企業」が挙げられますが、それ以外にも次のような企業が、一般的には調査の対象となりやすいと言われています。
- 36協定の特別条項の協定時間が長い企業
- 36協定や裁量労働制の協定等、毎年労働基準監督署に届出が必要な物が届出をされてない企業
- 労働基準法等の法改正があったのに、就業規則の変更届出が長期間されていない企業
- 各労働局の行政運営方針にて最重点取り組みとされている業種
労働局ごとの重点取り組み
労働局ごとの行政運営方針では、その年注力して取り組む業種やテーマが決められています。たとえば平成29年度の東京労働局では、次の業種などを重点としています。
- 自動車運転者の労働条件に関しての重点監督
- 民間人材ビジネスなどに対しての厳正な指導監督
- 労災かくしの排除のための監督指導など
参考 東京労働局
労働環境をチェックするための「自主点検表」
各労働基準監督署では、長時間労働や安全衛生に関する自主的な取り組みを促し、取り組み状況を把握するため、「長時間労働抑制のための自主点検表」や「安全衛生管理自主点検表」などの自主点検表を送付して提出を促しています。
「自主点検表」とは
自主点検表は、各事業場の状況に応じてチェックをつけていく形式のものです。点検表にて改善が必要とされた事項については、法違反の部分となりますので改善や是正の取り組みが必要となります。
「自主点検表」は提出必須なのか?
点検表の提出は、労働基準監督署から督促を受けますが、あくまで協力依頼という取扱いです。法的な回答義務はなく、提出は任意となります。
ただし、各種臨検監督での法違反の指摘事項と重なりますので、放置は禁物といえます。
まとめ
労働基準監督署の調査を受けとなると不安になるかもしれませんが、法違反を是正し、正しい人事労務管理を実施するチャンスでもあります。
法違反の指摘を受けないためにも、正しく勤怠管理や残業代の支払いを行い、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)を備えることが重要です。 その際には、人事労務freeeなどの各種人事労務管理ソフトを活用するなどの、低コストで必要事項をカバーできる仕組みを取り入れるのも選択肢の一つです。
正しい労働法の知識を身につけ、労働基準監督署の調査を恐れないホワイト企業を目指して行きましょう!
執筆: 岡 佳伸(特定社会保険労務士&キャリアコンサルタント)
社会保険労務士岡佳伸事務所の岡です。
私は元労働局職員(厚生労働事務官・ハロ-ワーク勤務)として各種雇用保険業務に携わりました。各種助成金の活用や各種労働トラブル解決に強みを持っています。宜しくお願い致します。