雇用保険料とは、公的な労働保険制度である雇用保険の掛け金のことです。従業員と雇用主の双方で負担します。
本記事では雇用保険とは何か、加入対象者、計算方法などについてわかりやすく解説します。
▶︎ 社会保険の計算方法については、まずはこちらの記事!
目次
雇用保険とは
そもそも雇用保険とは、失業した方や休業する方が給付を受けるための労働保険のひとつです。
会社が従業員(労働者)を雇用すると、強制的に雇用保険加入の適用事業となり、その会社で働く従業員は基本的に被保険者になります。
ただし、1週間の労働時間が20時間未満と短かったり、31日以上の雇用が見込まれない場合は、雇用保険に加入できません。
雇用保険について詳しく知りたい方は、別記事「雇用保険とは?加入対象や社会保険との違い、手当の種類について解説」をご覧ください。
出典:厚生労働省「雇用保険制度の概要」
雇用保険料とは
雇用保険料とは、公的な労働保険制度である雇用保険の掛け金のことです。労働保険制度とは、「雇用保険」と「労災保険(労働者災害補償保険)」の二つを合わせた総称で、いずれも国が管掌する保険です。
雇用保険と労災保険の給付はそれぞれ別に行われていますが、両保険料の納付に関しては労働基準監督署へ一緒に納めます。
雇用保険料の支払いは事業者と従業員の双方が負担しますが、従業員が負担する金額は労使折半ではなく、事業者が多く支払うようになっています。
一方、労災保険料は事業者が負担するため、従業員は金銭の負担は一切ありません。そのため、労災保険料は給与明細に記載されません。
雇用保険料の対象となる賃金
雇用保険料の対象となる賃金は、従業員に毎月支払われる給与の金額だけではなく、賞与額にも適用されます。雇用保険料は税金や社会保険料などを控除する前の額面の金額から算出されます。
雇用保険料の対象となる賃金
- 通勤手当(非課税分を含む)・定期券・回数券(通勤のための現物支給分)
- 超過勤務手当・深夜手当(いわゆる残業手当など)・宿直手当・日直手当
- 家族手当・子供手当・扶養手当
- 技能手当・教育手当・特殊作業手当
- 住宅手当・地域手当
- 皆勤手当・精勤手当などの奨励手当
一方で、雇用保険料の対象となる賃金と対象とならない賃金もあります。たとえば、以下のような賃金は雇用保険料の対象とはなりません。
雇用保険料の対象にならない賃金
- 役員報酬
- 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・年功慰労金・勤続褒賞金・退職金
- 出張旅費・宿泊費
- 休業補償費(「労働基準法」第76条。労働者が業務災害により休業した場合に支給)
- 傷病手当金(「健康保険法」第99条。労働者が業務外の傷病により休業した場合に支給)
- 解雇予告手当(「労働基準法」第20条。30日前の解雇予告なしに労働者を解雇する場合に支給する手当)
注意すべきは、所得税の計算では控除の対象とならない「通勤手当」が、雇用保険料の計算では対象となることです。
また、健康保険料や厚生年金保険料は標準報酬月額を基に計算しているので、1年間の保険料は変わりません。
しかし雇用保険料は、残業で発生した超過勤務手当や深夜手当などにより、総賃金額が変わると金額が変動してしまいます。
そのため、会社は従業員の雇用保険料を毎月計算しなくてはなりません。
雇用保険料率とは
雇用保険料は、毎月の給与総額に「雇用保険料率」を掛けて算出されます。雇用保険料率は、失業保険の受給者数や積立金の残高に応じて毎年見直しが行われており、料率に変更がある場合は毎年4月1日から施行されます。
業種は「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに分類されます。
2024年4月1日から2025年3月31日までの雇用保険料率は以下のとおりです。
出典:厚生労働省「令和6年度の雇用保険料率について」
※「農林水産の事業」は、園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖及び特定の船員を雇用する事業については一般の事業の率が適用されます。
事業の種類によって保険料率が異なる理由
雇用保険は「一般の事業」と「農林水産・清酒製造の事業」「建築の事業」の3つに分類されており、それぞれに分類された事業の保険料は異なります。
なお、各事業の保険料率は一般の事業が一番安くなっており、建設の事業が一番高く設定されています。
農林水産・清酒製造の事業の保険料が高い理由
農林水産・清酒製造の事業は季節によって事業規模が縮小し、就業状態が不安定になることがあることから失業保険を受給する可能性が高いとされているため、一般の事業に比べて保険料率が高く設定されています。
ただし、農林水産の事業の中でも、季節的な休業や事業規模の縮小がないと厚生大臣が指定する以下の事業は、一般の事業として取り扱われて、保険料率も一般の事業と同様となります。
建設事業の保険料が高い理由
建設の事業は、正社員だけではなく個人事業者(一人親方)などと、建築物単位で一定期間だけ雇用契約を結ぶケースが多く、失業給付を受けるケースがその他の事業と比べて多くなると考えられるため、保険料率が3つの事業の中で一番高く設定されています。
また、建設の事業には独自の助成金が多いのも、保険料率が高い理由です。この建設の事業独自の助成金の財源は雇用保険料から賄っているのですが、一般の事業でもらえる金額に上乗せして支給される助成金が多いという特徴があります。
出典:厚生労働省「建設事業主等に対する助成金」
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、以下の計算方法で算出されます。
雇用保険料の計算方法
- 雇用保険料 = 給与額または賞与額 × 雇用保険料率
具体的にどのように計算されるのか、以下の例題を参考にしてください。
例:税金・社会保険料など控除前の給与額が30万円・賞与額は50万円の場合
① Bさんの「給与」にかかる雇用保険料
30万円×6÷1,000(2024年4月「一般の事業」の雇用保険料率)= 1,800円
② Bさんの「賞与」にかかる雇用保険料
50万円×6÷1,000(2024年4月「一般の事業」の雇用保険料率)= 3,000円
Bさんが2024年4月1日から2025年3月31日の間で給与の際に支払う雇用保険料は1,800円、賞与の際に支払う雇用保険料は3,000円です。
端数が出た場合
雇用保険料の従業員負担額を源泉徴収する場合、1円未満の端数が出た際は、原則として「50銭以下の場合は切り捨て、50銭1厘以上の場合は切り上げ」となります。
ただし、「全て切り捨て」など、労使間で慣習的な端数処理などの特約がある場合は、従来どおりの端数計算方法で取り扱うことも認められています。
以下では、端数が出た際の取り扱いを具体例を出して解説します。
端数が出た際の取り扱いの具体例
(1)給与総額が24万3,022円の場合の雇用保険料
(2024年4月「一般の事業」の保険料率)
243,022円 ×6÷1,000=1458.132円 →1,458円
※端数が50銭以下の場合は切り捨て
(2)給与総額が24万3,088円の場合の雇用保険料
(2024年4月「一般の事業」の保険料率)
243,088円 ×6÷1,000=1458.528円 →1,459円
※50銭1厘以上の場合は切り上げ
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まとめ
雇用保険料率は、失業保険の受給者数や積立金の残高に応じて毎年見直しが行われるため、注意が必要です。
また、毎月固定ではなく、残業代などで給与が増減する可能性があるため、経理担当者は毎月計算する必要があります。
よくある質問
雇用保険とは?
雇用保険とは、失業した人が再就職や起業するまでに必要な給付を受けることができる労働保険のひとつです。
詳しくは記事内「雇用保険とは」をご覧ください。
雇用保険料はどう計算する?
雇用保険料は、「雇用保険料 = 給与額または賞与額 × 雇用保険料率」で算出されます。
詳しくは記事内「雇用保険料の計算方法」をご覧ください。