監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
会社設立時に必ず作成する定款(ていかん)は、本店所在地や事業目的の変更などが生じた際、変更の手続きが必要になることがあります。定款の変更による登記を行うとき(変更登記)は、変更事由が生じてから2週間以内に手続きをしなければなりません。
本記事では、定款の基礎知識から株式会社で定款変更が必要になる代表的なケース、定款変更を行う際の手続き方法や注意点について解説します。
目次
定款とは
定款(ていかん)とは、会社の組織や活動についての基本的なルールを明文化した「会社の法律」を取りまとめた書類です。定款には、目的(事業の内容)や商号(会社名)など、会社法で定められた事項が記載されています。
会社法に従い、株式会社や合名会社、合資会社、合同会社の設立時には定款を作成しなければいけません。
株式会社の設立に伴って定款を作成する場合は、発起人全員の署名または記名押印が必要です。定款を作成したら公証役場で認証を受け、初めて認証を受けた定款(原始定款)2部のうち、公証役場と会社で1部ずつ保管します。
作成した定款は、変更事由が生じた際に変更手続きを行います。株式会社の場合は株主総会で定款変更の決議を経ることで定款の内容を変更できます。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第二十六条・第三十一条・第四百六十六条・第五百七十五条」
定款の記載事項は3種類
定款に記載する内容は会社法によって一定の基準が設けられており、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つの項目に分けられます。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、定款に必ず記載しなければならない事項であり、記載されていない場合は定款自体が無効となります。
絶対的記載事項
- 事業の目的
- 商号
- 本店所在地
- 資本金額(出資財産額)
- 発起人の氏名と住所
「会社が発行する株式の総数(発行可能株式総数)」は絶対的記載事項には含まれていませんが、定款作成時に記載することが一般的です。
会社法上、発行可能株式総数は設立登記申請時までに定款に定めればよいとされていますが、定款作成時に盛り込まずに設立登記前に追加すると手間がかかります。
定款作成時に定めていない場合、設立登記申請時までに、発起人全員の同意を得て定款変更によって発行可能株式総数を定める必要があります。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第二十七条・第三十七条・第九十八条」
相対的記載事項
相対的記載事項とは、法的には記載しなくても問題ないものの、記載がないとその事項について効力が認められない事項です。
相対的記載事項
- 現物出資
- 財産引受
- 発起人の報酬・特別利益
- 設立費用
- 設立時取締役および取締役選任についての累積投票廃除
- 株主名簿管理人
- 株券発行
- 取締役会の設置 など
上記のうち、「現物出資」「財産引受」「発起人の報酬・特別利益」「設立費用」の4つは「変態設立事項」と呼ばれ、定款で定める場合には原則として検査役による調査を受けなければいけません。
変態設立事項とは、通常の会社設立の形態と比べると変わっている形態にあたる事項を指します。変態設立事項では、不正や発起人の間での不公平が起きる可能性があるため、検査役が調査を行わなければならないと会社法で定められています。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第二十八条・第二十九条・第三十三条・第八十九条・第百二十三条・第二百十四条・第三百二十六条」
任意的記載事項
任意的記載事項とは、絶対的記載事項と相対的記載事項以外の事項で、会社法その他の強行法規の規定等に違反しない事項です。相対的記載事項とは異なり、任意的記載事項についてその内容を決めた際に定款に記載しなくても効力は生じます。
任意的記載事項
- 定時株主総会の招集時期
- 株主総会の議長
- 取締役の員数
- 事業年度
- 公告の方法 など
これらを定款に記載するかどうかは任意であり記載がなくても問題ありませんが、記載しておけばその内容を明確にできます。
定款の記載内容や作成方法をより詳しく知りたい方は、別記事「会社設立に必須の定款とは? 認証方法や記載事項について詳しく解説」をご覧ください。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第二百九十六条・第三百十五条・第三百二十六条・第九百三十九条」
定款変更が必要なケース
定款に記載している事項に変更が生じたら、定款変更の手続きを行う必要があります。これは、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項のいずれの項目であってもです。
定款を変更する代表的なパターンとして、以下の3つが挙げられます。
定款変更が必要なケース
- 本店所在地の移転
- 役員の人数や任期の変更
- 事業の目的や商号(会社名)の変更
本店所在地の移転
本店所在地は、定款の絶対的記載事項です。本店所在地の移転があったときには必ず定款を変更しなければなりません。
このとき、定款だけでなく登記内容の変更も必要です。変更登記をする際には、本店移転登記申請書に加えて、取締役会(設置されていない場合は株主総会)の議事録も必要になります。
役員の人数や任期の変更
役員(取締役・監査役)の変更は、原則として定款内に記載された事項に基づいて行われるため、定款変更の必要はありません。ただし、定款に記載された役員数よりも増減したり、役員の任期を変えたりする際は、定款ならびに登記内容の変更が必要です。
事業の目的や商号(会社名)の変更
事業の目的も、定款の絶対的記載事項です。事業の目的を変更する際には、定款ならびに登記内容の変更が必要になります。
変更登記について詳しく知りたい方は、「変更登記とは?商業登記・法人登記の違いや手続きを解説」をご覧ください。
法人登記の記載事項を変更した場合は変更登記も必要
定款変更に伴い、登記が必要になるケースと登記が不要なケースがあります。定款に記載されている事項のうち、法人登記の記載事項に該当するものを変更するときは、変更登記もあわせて行わなければなりません。
以下は代表例です。
記載事項 | 変更登記も必要となる代表的なケース |
---|---|
絶対的記載事項 | ・商号の変更(社名変更) ・新規事業の展開、事業からの撤退等に伴う事業の目的の変更 ・発行可能株式総数の変更 ・本店の所在地の変更 |
相対的記載事項 | ・株券の発行 ・取締役会の設置 ・監査役の設置 |
任意的記載事項 | ・資本金の額の変更 |
定款変更の方法と手続きの流れ
定款は会社のルールを定めたものであり、その重要性から、内容を変更する際には会社法で定められた手続きに則って対応しなければいけません。代表者や取締役の判断で変更できるわけではなく、株式会社の定款変更では株主総会の特別決議が必要です。
定款の変更は、以下の流れで手続きを進めます。
定款変更の手続きの流れ
- 株主総会の特別決議
- 株主総会の議事録の作成
- 定款変更のための変更登記
- 変更定款と議事録の保管
1.株主総会の特別決議
株式会社での定款変更には、原則、株主総会の特別決議が必要です。特別決議とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議です。
株主総会の一般的な決議である「普通決議」では、議決権の過半数を有する株主が出席し、そのうち過半数の賛成が必要ですが、定款変更ではより条件が厳しい特別決議を経る必要があります。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第三百九条・第四百六十六条」
2.株主総会の議事録の作成
株式会社が株主総会を開催した場合、会社法に基づき議事録を作成して保管しなければいけません。議事録は、株主総数や出席株主数、定款変更の内容などを記載して作成します。
議事録自体に作成期限はありませんが、変更登記をするケースでは、変更登記申請書に議事録を添付して法務局に提出する必要があります。変更登記は株主総会での決議後2週間以内に行わなければならず、議事録の作成や関係者による確認・押印などは2週間以内に終えなければいけません。
法務局のサイト「商業・法人登記の申請書様式」では、変更登記申請書の記入例や株主総会の議事録の作成例を公開しているので、議事録を作成する際は参考にしてください。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第三百十八条」
3.定款変更のための変更登記
変更登記の申請方法には、書面申請とオンライン申請の2つがあります。
書面申請では、必要事項を記入した申請書および必要書類を、所轄の登記所(法務局)に持参もしくは郵送で提出します。
オンライン申請では、法務局が提供する専用のソフト(申請用総合ソフト)を使用して申請を行います。
【関連記事】
変更登記とは?商業登記・法人登記の違いや手続きを解説
4.変更定款と議事録の保管
定款変更のための一連の手続きが終わったら、変更した定款と議事録を保管します。変更した最新の定款は「現行定款」と呼びます。現行定款には「変更前の原始定款」と「変更決議を行った株主総会議事録」が含まれ、これらをまとめて保管しなければなりません。
このとき、最新の定款の内容を確認しやすくするため、変更内容を反映した最新の定款を作成して一緒に保管しておくとよいでしょう。
株主総会の議事録の保管期間は10年です。会社法上、本店では株主総会の議事録を株主総会の日から10年間、支店では議事録の写しを5年間、備え置く必要があります。
出典:e-Gov法令検索「会社法|第三百十八条」
定款変更でかかる費用の種類と金額
定款変更そのものに費用はかかりませんが、変更登記が必要な場合、法務局で登記をする際に登録免許税がかかります。また、登記の手続きを司法書士に依頼すると別途報酬の支払いが必要です。
登記事項の変更の登記でかかる登録免許税は原則として3万円ですが、変更登記の内容によっては税額が異なることがあります。主なケースの税額は以下のとおりです。
定款変更の内容 | 登録免許税の税額 |
---|---|
商号(会社名)の変更 | 1件につき3万円 |
事業目的の変更 | 1件につき3万円 |
本店所在地の変更 | 1件につき3万円 |
資本金(増資) | 増資額の1,000分の7の金額 (3万円に満たないときは申請件数1件につき3万円) |
法務局の管轄外に本店を移転すると、移転前と移転後の地域の法務局でそれぞれ手続きが必要になって3万円ずつかかるため、合計6万円の費用がかかります。
商号の変更と事業目的の変更の登記を行う場合、この2つの登記の手続きを別々に行うとそれぞれ3万円の登録免許税がかかるため、費用は合計で6万円です。しかし、2つの変更の登記を同時に行えば登録免許税は3万円で済みます。
司法書士に登記の手続きを依頼すると、2~4万円ほどの費用がかかります。報酬額や報酬体系は司法書士事務所によって異なるので、司法書士事務所のHPなどで確認するようにしてください。
定款変更の注意点
ここからは、定款変更をする際に注意しておきたい2つのポイントについて解説します。
原始定款に変更を加えてはいけない
会社設立時に作成した定款を「原始定款」と呼びますが、この原始定款を直接変更することはできません。必ず定款変更の手続きを行いましょう。
定款を変更する際には、まずは株主総会等を催し、定款変更に関する「特別決議」を行い、議事録を作成します。その上で、定款変更の内容に応じて法務局へ登記申請を行い、新たな定款と原始定款を保管しなければなりません。
公証人の認証は不要
株式会社の設立時には、公証役場で定款の認証を受けなければなりません。
しかし、すでにある定款の内容を変更する場合は、公証人による認証は不要です。株主総会での特別決議を経るなど、定款変更に必要な手続きが行われていれば効力を生じます。
まとめ
定款変更とは、定款に記載されている内容を変更することです。絶対的記載事項だけでなく、相対的記載事項や任意的記載事項であっても、定款記載の事項を変更するなら定款変更の手続きをしなければいけません。
たとえば、本店所在地の移転、役員の人数や任期の変更、事業目的の変更のような場合に定款変更が必要になります。株式会社が定款を変更するためには株主総会での特別決議が必要です。
定款の変更が必要になると、手続きの手間がかかるうえに登録免許税などの費用がかかることもあります。定款を作成した後に修正が必要になって手間がかからないように、会社設立時に定款を作成する際は、定款の記載事項について十分に検討するようにしてください。
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定款変更で必要な手続きは?
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詳しくは記事内「定款変更の方法と手続きの流れ」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。