監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
請求書の相殺処理とは、取引関係のある二者間で発生している債権・債務を同じ金額分、相殺し消滅させることです。相殺処理は、2023年10月から発行されているインボイス(適格請求書)でも行うことができます。
本記事では、相殺処理の仕組みや条件、インボイスの場合に必要な対応について解説します。
目次
インボイス(適格請求書)の相殺処理は可能?
自社と取引先の間でお互いに売り買いが行われている場合に、それぞれの債権・債務を同じ金額分、消し合う方法を相殺処理といいます。
インボイス(適格請求書)であっても、このような相殺処理は可能です。なお、インボイスでない請求書でも、同様に相殺処理ができます。
ただし、相殺処理は原則として双方の合意のもとに成り立ちます。債務を相殺したい場合は、相手に必ず手続き上の不都合がないかを確認するようにしましょう。
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請求書の相殺処理の仕組み
たとえば、A社はB社から50万円の商品を、逆にB社はA社から30万円の商品を掛取引で購入し、A社B社それぞれに買掛金(債務)が発生したとします。通常の取引であれば、A社はB社へ50万円を支払い、B社はA社へ30万円を支払うという手続きが必要です。
しかし、二者間で相殺処理を行えば、A社がB社へ20万円を支払うのみで手続きが完結します。そのため、双方の支払い・受け取りにかかる経理業務の手間が削減できるのです。
そもそも相殺とは、民法上で、「同じ種類の債務を負っている者同士で、その債務の金額(対当額)を相殺できる」と定められているものです。
頻繁に購入や提供が行われる商取引の場合、その都度代金を払うのではなく後でまとめて代金を支払う「掛取引」を行うことで、売買にかかる手間などを減らしています。
掛取引は購入代金を後で支払うことから、購入者は購入時点ではいわゆる借金をしており、債務を負っている状態です。この債務を免除できる条件として民法上で相殺が認められているため、商取引やそれに関連する請求などで活用されています。
出典:e-Gov法令検索「民法|第五百五条」
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一方的な相殺処理も条件次第で可能
前述のとおり、相殺処理を行う場合は原則として双方の合意を得る必要があります。しかし民法に定められた要件をすべて満たしている場合は、相手からの合意を得ずに一方的な意思表示であっても、相殺処理を行うことは可能です。
民法上の要件は以下のとおりです。
相手からの合意がなくても相殺処理ができる要件
- 両者が互いに同じ種類の(同種の目的を有する)債務を有している
- 両者の債務が返済をしなければならない時期(弁済期)にある
- 両者の間で相殺を禁止する特約を結んでいないなど、相殺が許されている
出典:e-Gov法令検索「民法|第五百五条」
ただし、民法上の要件を満たしているからといって、相手に了承を得ることなく一方的に手続きを進めるのは、ビジネス上、トラブルのもとになりかねません。どのような状況であっても、基本的には相手の合意を得たうえで処理を進めるようにしましょう。
相殺処理がある場合のインボイスの書き方
相殺処理を行う場合、インボイスには以下の項目を記載します。このうち、④~⑥は発行する請求書がインボイスとして認められるための必須項目です。
相殺処理がある場合のインボイスの記載項目
- 請求金額(相殺処理を行う前の合計金額)
- 相殺金額
- 差引請求金額(相殺処理後の、実際に請求する金額)
- インボイス登録番号(適格請求書発行事業者登録番号)
- 適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額など
インボイスにおける相殺処理の書き方に、法的な決まりはありません。処理内容に関して双方がわかりやすい形にまとめましょう。具体的な記載例は以下のとおりです。
相殺は金額が引かれる処理であるため、相殺金額の前には「-(マイナス)」を記載します。また、日本の経理・会計業務上の慣行として浸透していることから、マイナスの意味で「△(▲)」を記載しても問題ありません。
そのほか、インボイスを1枚にまとめず、相殺前の金額が載っている書面と、相殺金額および相殺後の金額が載っている書面の2枚に分けて発行する方法もあります。どの方法を採用するかは、双方の処理のしやすさを考慮したうえで決定しましょう。
相殺処理を証明する領収書を発行することも
相殺処理は経理業務の手間が減るなどのメリットがある一方で、本来のお金の流れが不透明になるデメリットもあります。
そこで、領収書(相殺領収書)を発行し、相殺処理を行ったことの証明とするケースがあります。相殺領収書には、下図のように相殺処理を行った旨と具体的な金額を明記します。
相殺領収書の発行義務はありません。ただし、片方だけの領収書では双方の債務相殺を証明できないため、仮に片方が発行を希望する場合はもう一方も発行に応じる必要があります。
なお、通常の領収書は金銭などの受領事実証明のために用いられるものであり、印紙税が課されると定められています。しかし相殺領収書の場合、実際に金銭などを受領しているわけではないため印紙税が課されません。一定額を超える取引に必要な収入印紙なども、相殺領収書には貼付する必要がありません。
また、相殺領収書は通常の領収書に比べて簡易的なものでもよいとされています。インボイスへ記載すべき登録番号なども、相殺領収書に記載する必要はありません。
出典:国税庁「No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書」
出典:国税庁「No.7126 相殺した場合の領収書」
まとめ
インボイス(適格請求書)を含む請求書の相殺処理は、事前に双方の合意が得られているのであれば行っても問題ありません。相殺処理は金銭のやり取りを最小限に抑えられることから、経理業務の負担軽減などにつながるメリットがあります。
2023年10月からインボイス制度が始まり、仕入税額控除の適用を受けるには要件を満たした請求書の発行が必要です。相殺処理を行う場合も、インボイス制度への対応に不備がないようにしましょう。
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よくある質問
インボイスの相殺処理はできる?
インボイス(適格請求書)において、双方の買掛金の相殺処理を行うことは可能です。
相殺処理の仕組みについては記事内「インボイス(適格請求書)の相殺処理は可能?」をご覧ください。
相殺処理をした場合のインボイスの書き方は?
相殺処理をした場合のインボイス(適格請求書)は、インボイスに必要な「登録番号」「適用税率」などのほかに、相殺処理ならではの以下の事項を記載する必要があります。
- ・請求金額(相殺処理を行う前の合計金額)
- ・相殺金額
- ・差引請求金額(相殺処理後の、実際に請求する金額)
詳しくは記事内「相殺処理がある場合のインボイスの書き方」にて解説しています。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。