戦後から70年以上続く千代田ゴム株式会社は、ウレタンやゴムなどの材料の販売や加工、製造を行っています。
バックオフィスは、紙を中心とした業務に課題を抱えていました。コロナ禍や資材高騰などによって業界全体に逆風が吹くなかで、効率化・コスト削減が急務だったと言います。
そこで導入されたのが、freee会計とfreee人事労務、そしてfreee勤怠管理Plusです。その導入の背景や経緯、成果について、代表取締役専 務の髙遠さん、総務部の保坂さんに伺いました。
次の70年を見据え、紙中心の業務から脱却を目指す
ーー事業内容とお二方のプロフィールについて教えてください。
髙遠さん(以下、髙遠) 千代田ゴムは、ウレタンやゴム、硬化性ポリマーなどの製品を扱っている会社です。BtoBのビジネスで、いわゆる町工場などに材料を供給しています。
もともとは創業者が、終戦翌年の1946年に商社として始め、戦後復興とともに成長してきました。当時はベルトホースや自転車のゴムチューブを大量に仕入れて、販売していたそうです。
今の社長の代からは、ポリマー製品であるウレタンの仲卸と加工業を始めました。現在は、もともとやっていたゴム長靴やゴムチューブなどの売上は1割未満で、ウレタンの仲卸と加工が売上の多くを占めています。創業から70年を超え、日本のものづくりの一翼を担ってきた企業だと自負しています。
そして、私は代表取締役専務です。前職はウェブ業界で仕事をしていたのですが、5年前に父の経営する当社に戻ってきました。製造業や仲卸業のことはまだわかっていない部分もありますが、70年続いている会社の次の70年を見据え、必死に取り組んでいるところです。
保坂さん(以下、保坂) 私は総務部に 所属し、人事、経理、総務、そしてシステム改修などバックオフィスの業務を多岐に渡って担当しています。
もともと大学職員として長く勤めていて、昨年4月に当社へ転職しました。前職でも経理システム入れ替えの経験があったので、それを生かして当社のfreee会計導入でも、担当者として進めてきました。まだまだ道半ばですが、今のところ、うまく導入できていると思います。
ーーfreee会計の導入前、経理業務にはどのような課題がありましたか?
髙遠 製造業特有の商慣習や会計処理があり、経理業務が非効率でした。
そのひとつが、手形や小切手です。業界内では今でも多く使われているのですが、紙の手形や小切手は書留で届くので、担当者が出社していなければいけません。コロナ禍の影響で、出社する社員を半数ずつにしたときに、業務を少人数でやるのが大変だったこともあって、紙中心の業務を課題と捉えていました。
出社を要する業務はこのほかに、請求書や納品書の発行がありました。当社の基幹システムを使って、請求書、納品書、請求書控が一式になっている用紙に印刷していたため、それらを手作業で切り分ける作業に無駄がありました。
業界の特徴として、各社の締め日がバラバラであるのも難しい点です。当社の締め日と取引先の締め日が ずれていると、その間に納品した商品の金額分の差異が生じますし、納入日で計上するか、発送日で計上するかによっても差異が生じます。そうした事情でミスが起こりがちで、作業やチェックには大きな手間がかかります。
経理業務は3〜6人体制で行ってきました。これだけの人数がいたのも、手作業が多かったり、手形や小切手を発行したり、請求書を送ったりするのに、人手が必要だったからです。
保坂 五十日(※)には、特に手間がかかっていました。月末に請求書を送る作業は、3人でやっても半日かかります。請求書を切り分けたり、送ったりする作業は、3人がかりで毎月トータルで丸1日ほどかかっていました。
手書きの請求書も多い業界なので、1枚ずつの金額のチェックが必要だったり、請求書のフォーマットや大きさ、紙の質も違ったりするのも大変でしたね。
※五十日…ごとおび。各月の5日、10日、15日、20日、25日、末日を指す
ーー人事労務の業務にはどんな課題がありましたか?
髙遠 出退勤の確認作業に手間がかかっていました。もともとはタイムカードを用いて勤怠管理をしていたのを、ICカードを使った管理に変えていました。ただ、拠点が分かれているので、結局は勤怠表を印刷して工場とFAXのやりとりを繰り返し、打刻漏れを埋める作業が発生してしまっていたのです。
また、人事労務課のサーバーにしか勤怠管理ソフトが入ってなかったので、各オフィスでは入力や修正ができなかったところも課題でした。一人ひとりに出勤 状況を確認しないといけないのが大変でしたね。
経理経験がなくても、導入支援の丁寧な説明でスムーズに
ーーfreeeを選んだ理由、導入のきっかけを教えてください。
髙遠 経理担当者の定年退職などにより、人員が減ることは決まっていたんです。少人数でもバックオフィス業務をまわせるようにするため、保坂に入社してもらうのと並行して、freeeの導入も進めていきました。
freee会計はもともと不動産管理事業を営む別の会社で使っていて、とても直感的でわかりやすい点に魅力を感じていました。不動産の管理会社では、ある程度決まった収入と支出があります。自動登録しておけば、後はイレギュラーなものだけに対応すればよかったので、やりやすかったんですよね。
製造業の複雑な処理にfreeeを使ったときに機能するかどうか、不安な部分はありました。しかし、「導入支援サービスもあるので、試行錯誤をしながらであれば導入できるはず」と意思決定できました。
ーーどのような流れで導入を進めましたか?
保坂 2021年6月からfreee会計の導入を始めました。既存の会計システムも稼働させながら、10月頃まで手形や「相殺」などのイレギュラーな処理を検証しました。
11月からは既存ソフトとfreeeを並行稼 働させ、同じ数値が出るかどうか、検証作業をしました。2022年3月まで検証作業を行い、4月から新しい会計年度に合わせて本格導入しています。
freee人事労務とfreee勤怠管理Plusも、2022年2月から導入を始めています。
ーー導入時に苦労したのはどんな点でしたか?
保坂 イレギュラーな処理には苦労しました。特に、相殺は業界ならではの経理処理かもしれません。例えば、ひとつの取引先にゴムの材料を売り、部品として仕入れることがあります。
つまり、同じ取引先に売りと買いの両方が発生するのですが、互いの振り込みの手間を省くために、取引額が大きいほうが相手先に振り込む商習慣があったんです。
もともとは手形の金額が大きいと、収入印紙の金額が大きくなってしまうのを避けるために相殺していたようで、理にかなっている面もありました。ただ、freeeに合うやり方ではなかったので、相殺せずに売買ともに総額で振り込むやり方に変えました。
ほかにも、基幹システムとfreeeの連携などに苦労しましたが、導入支援サービスとして丁寧に説明してもらいながら作業できたので、スムーズに進めることができました。私自身に経理業務自体の経験はなかったので、素人目線の質問をすることもありましたが、導入支援サービスにはとても助けられました。
経理業務にかかる人員が5人から1人に
ーーfreeeの導入でどのような変化がありましたか?
保坂 経理業務に関しては、最大で5人いた経理の人員が、2022年7月からは私1人になります。それでも、業務を問題なくまわせる見通しが立っています。リモートワークで自宅から仕事を完結させることもできそうです。
また、freee人事労務とfreee勤怠管理Plusの導入で、打刻漏れへの対応が楽になりました。以前は、毎回電話をかけたりFAXを送ってもらったりして確認し、私が入力していましたが、今は出退勤の打刻漏れがあっても、一覧で見られるので確認がとても楽です。漏れがあるときには、チャットツールで「打刻申請してください」と連絡するだけで済んでいます。
髙遠 経営層の視点では、会計データをリアルタイムで見られるのがありがたいです。
freee導入前は、2〜3週間かけて会計ソフトのデータをまとめたあとにエクスポートして会計士の方に渡し、さらに2〜3週間後に試算表を受け取っていました。データを見られるのに1〜1.5カ月ほどのタイムラグが生じてしまっていたんです。
それがfreeeを導入したことで、リアルタイムで試算表を確認し、対応できるように。
また、製造業では、入金サイトが120日ほどになることもあり、資金繰りがきわめて重要になります。以前はキャッシュの動向に気づくのが遅れて、あわてて資金移動することもありました。
freeeと銀行口座を連携させれば、 登録残高と銀行口座の残高がリアルタイムで見れるようになりますし、各銀行のネットバンキングにログインしなくても、一覧で見られます。また、キャッシュフローを予測してファイナンス戦略が立てられるようになるので、今後生かせると考えています。
製造業の現状に危機感 バックオフィスのコスト削減が急務
ーー今後の展望について教えてください。
髙遠 高度経済成長を支えてきた製造業の仕組みは、昨今厳しい状況になっています。コロナ禍でさらに打撃を受け、昨今の物価高と材料供給の不足が追い打ちをかけている状況で、強い危機感を持っています。
そんななかで事業戦略を立てていくと、バックオフィスのコスト削減は急務と言えます。リソースを最適化して、freeeでオートマチックに経理が完結される状況を作ることで、創業70年を超える当社が次の70年を生き残っていく土台を作れると考えています。
また、業界全体として考えても、取引が煩雑でない会社が好まれるようになっていくと考えています。例えば、請求書を送る場合、紙で書いて郵送して10日かかる会社と、ウェブで完結していて1日で届けられる会社では、事業スピードが段違いですよね。当社はスピード感のある会社を目指していきますし、業界全体としてそういう会社が 増えるといいなと思っています。
保坂 担当者の立場として、まずはfreee会計とfreee勤怠管理Plusと人事労務の連携をもっと強固にしていきたいです。
また、髙遠も言ったように、freee経由で請求書をやり取りできる体制は整えていきたいですね。普通郵便の土曜日配達が廃止されたことで、都内でも郵便物がこれまでより1日程度遅れることもあります。それを機に、ウェブ上でやり取りする会社が増えています。業界への働きかけも含めて、効率化を実現していきたいです。
(取材・執筆:遠藤光太 撮影:北村渉 編集:ノオト)