2016年、野村グループは大手金融グループで初めてfreeeを採用し、各社に分散していた財務経理機能の集約をスタートしました。
その推進母体になったのが、「財務経理シェアード・サービス・センター(SSC)化プロジェクト」、そして、プロジェク トがスピンアウトして発足したコーポレート・デザイン・パートナーズです。
freeeによるバックオフィスの標準化と、シェアードサービスを融合させ、企業に立ちはだかる課題をどのように解決するのでしょうか。代表取締役社長を務める田中秀和さん、クライアント・ソリューション1部部長の周雪禅さん、同部シニアマネージャー小野澤卓哉さんに話を聞きました。
グループ全体のスピードと機動力――freeeの導入に向けた課題
――御社の事業概要について教えてください。
田中秀和さん(以下、田中): 当社は、野村ホールディングスの戦略的業務子会社として、グループにバックオフィス業務の標準化に向けた企画、DXコンサルティングサービスや包括的な経理業務BPOを提供しています。
原点は、2014年に野村ホールディングスと野村證券でクラウド型の立替経費精算システムを導入したことに始まります。その後、野村グループ全体に展開され、経費業務の標準化と大幅なコスト削減が実現しました。
これを機に、2016年に「財務経理シェアード・サービス・センター(SSC)化プロジェクト」が発足。freee会計を中心とした会計システムの導入が進みました。その後、2019年に野村ホールディングスから分社化して、設立したのがコーポレート・デザイン・パートナーズ(CDP)です。
――freee会計の導入は分社化前とのことですが、どのような経緯で導入することとなったのでしょうか。
田中: まず、グループ内で会計システムの共通化を目指そうという動きがありました。その背景には「決算の早期化」や「法改正や新制度対応を見据えた環境整備」という課題がありました。
私は、野村ホールディングス、野村證券で管理会計のグループ統括に携わるなかで、「経営報告の時短化」「決算の早期化」を重要な課題として捉えてきました。連結財務会計を早期に締めることで、より迅速かつ正確な経営報告が可能になります。ただし、連結財務会計チームは早期に会計を締めることの困難さを感じていました。
そこで、私たちは単体会計プロセスの最適化、適切なデータ活用、DXによる課題解消を考え、まずfreee会計の導入による子会社の単体財務会計の標準化を進めることから着手しました。また、グループ全体の経理機能の機動力の向上も期待していました。 この点は、のちに大いに成果を実感することになったのですが、足元、数年にもおよぶ各種制度対応、改正電帳法やインボイス制度に対応する際、グループ全体でのfreee会計による標準化と集約化の効果を享受することができました。
各社が共通のプロセスでシステムを運用するため、グループの基準を1つ決めてしまえば、各社は即アジャストできるようになります。
以前からIFRSの適用に向けて検討を進めてきましたが、会計基準の変更や制度対応にフットワーク軽く対応できることは、グループにとって大きなメリットになります。
現場への実装しやすさが導入の決め手に
――さまざまなクラウド型会計システムがあるなか、freee会計を選んだ決め手はなんでしょうか?
田中: システムの標準化を検討した際、API連携や各モジュールの進化が目覚ましいfreeeはもともと有力候補でしたが、決め手は「市場シェア」と「操作性の高さ」です。
2016年当時、スタートアップ企業の100社中40社がfreee会計を採用しているという調査結果がありました。野村グループの子会社は比較的小規模な企業が多いため、スタートアップ企業のトップシェアであるシステムを選択するのは、極めて自然な流れでした。グループ内でも大規模な野村證券などには大手のERPを、小規模な会社にはfreeeを採用するという棲み分けが決まったのです。
――操作性の高さについてはいかがでしょうか?
小野澤卓哉さん(以下、小野澤): 非常に使いやすいインターフェースが好評で、バックグランドが営業部門出身のメンバーでもなじみやすいです。
周雪禅さん( 以下、周): 前部署では大手ERPを使用していましたが、システムは難解という先入観がありました。freee会計を使ってみると、マニュアルなしで操作できる直観的な操作性に驚かされました。
会計業務には「仕訳を切る」というスキルが求められますが、私たちは、仕訳がわからなくても会計業務が進められる社員を育てていきたいと考えています。
経理経験者に限らず、幅広いメンバーが使えるfreee会計には大きな魅力があります。
さらに、「マスターデータを一つにする」というfreeeの思想にも共鳴します。システムごとに異なるマスターが存在するのではなく、多様な機能を一つのマスターで利用できることは重要です。freeeの周辺ツールやアプリ充実することで、マスターデータ一元化のメリットも最大限に生かされるでしょう。今後、周辺ツールの充実にも期待しています。
freee会計によって標準化を進展 実装の流れを振り返る
――freee会計に限らず、新たなシステムの導入は業務フローの変更を伴うため、抵抗感がある人もいるかもしれません。現場の方々の反応やそれに対してどのように浸透させていったのかを教えていただけますか?
田中: 導入にあたって、グループ会社の経理現場から、反発がまったくなかったわけではありません。これまでのシステムとは仕様が大きく異なりますし、現場では今までの方法で問題なく運営できていたことも理解できます。
しかし、野村グループのCFOも、そして私も「グループでルールとシステムを統一し、少人数で運営できる体制を目指したい。サスティナブルな運営体制を築きたい。」という思いで一致していました。この理念のもと、freee会計の導入にGOサインを出しました。導入の実践は、4つのグループ会社からスタート。トップマネジメントの協力を得て、システムの統一に歩みを進めていきました。
導入から現在に至るまで、現場では電子帳簿保存法やインボイス制度などへの対応を迫られ、コロナ禍にも直面しました。システムの統一を進めることで、新制度への対応もグループが足並みをそろえて進められますし、コロナ禍ではリモートワークが浸透。クラウド型のfreee会計を軸にした会計運用は大きな力となりました。
現在は、複数のグループ会社の会計をチームで担当し、シェアードサービスを提供しています。例えば、1人が3社を対応したり、2人で複数の会社をローテーションで担当したりすることで、効率的な業務運営と業務継続性を担保して進めています。実装から試行錯誤を重ね、freee会計を中心にした業務プロセスの標準化とシェアードサービスの提供体制を確立できています。
自動化も進展し、コスト削減と内部 統制向上を実現
――4社から始まったfreee会計の導入も、現在はグループ20社まで進んだとお聞きしました。グループで横断して導入することで得られた効果について教えてください。
周: 経費や会計業務の標準化が進むことで、データ活用、自動化も進展しました。
税理士や監査法人も同じデータを扱えるため、税務や監査対応がスムーズになり、チェックが容易になっています。監査法人とはAPIを通じて証憑を自動連携し、監査の工数削減および報酬削減につながりました。また、毎年、監査指摘件数も記録を更新し4年前に比べて半減したことは内部統制が向上したとして評価を得ており、大きなベネフィットを感じています。
さらに、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用し、夜間に仕訳処理を自動で行う体制が整っています。
これにより、社員は朝出社後に異常値の確認を行うだけで、迅速に業務を進められるようになりました。現在では、ルーティン業務の約7割がRPAで動いており、業務効率化が大幅に進んでいます。
田中: freee会計による標準化と私たちのシェアードサービスにより、グループ各社はコーポレート業務に時間を取られることなく、フロントビジネスに専念できる環境が整っています。
標準化とシェアードサービスの可能性に目を向けて
――各社へのfreee会計の導入が進み、グループ内の会計業務の標準化が進んだ先はどのような展望がございますか?
田中: 導入当初、freee会計は「小規模な企業に限定されるもの」という先入観がありました。しかし、最近でも1000名規模の会社にfreee会計を導入し、第1四半期を無事に締めることができました。新しい可能性を生かし、グループへの業務標準の浸透を加速していきます。
確かな導入実績により、野村グループではfreee会計の価値が認められるようになりました。ただし、私たちが直面し、解決してきた課題はグループ内に限ったものではありません。労働人口の減少に伴い、会計や税務スキルを持った人材を十分にアサインし、業務を回していくのが困難になる時代が迫っています。
変化に適応しながら成長を続けていくためには、「危機に直面したとき」ではなく、従来業務が滞りなく回っているときから先を読み、変化を指向していかなければなりません。シェアードサービスの構築・提供がますますプレゼンスを増していくでしょう。会計は競争領域ではないため、私たちは多くの企業に対して勇気を与える存在になりたいと思います。
――freee会計の導入やシェアードサービスを検討している企業に対して、何かメッセージはございますか?
田中: freee会計の導入による標準化とシェアードサービスの利点を享受できるのは、特定の業界に限らず、内部統制や業務継続を重視する上場会社の場合、グループ子会社を3社以上持つ企業があてはまると思います。
また、シェアードについては、何よりコスト削減が最優先で求められることがあります。私たちの導入実績のように効果は確かに大きなものです。しかし、コスト削減の即効性を求めすぎると、組織体制を逼迫させ業務変革に着手する余力がなくなる等、十分に効果を出せないことがあるかもしれません。制度変更や労働環境の変化にスムーズかつスピーディーに対応できるという点、定年等の人手不足による業務継続リスクを軽減できるという点、「目に見えないコスト削減」にも目を向けていただければと思います。
私たちCDPは、freeeとのパートナーシップを通して業務の効率化と標準化をさらに推し進め、多くの企業や業界の皆様と切磋琢磨しながら、世の中に有益なモデルを提供していきます。
(執筆:佐々木正孝 撮影:小野奈那子 編集:ノオト)