
出勤簿とは、労働者の労働日数や出勤・退勤時刻などを記した帳簿のこと。労働基準法を根拠とする「法定帳簿」のひとつで、労務管理を行ううえで重要な書類と位置付けられています。近年、テレワークの普及などにともないワークスタイルが多様化していますが、従業員の働き方にかかわらず、出勤簿は正確に作成しなければなりません。
本記事では、出勤簿に記載すべき事項や書式、保存義務期間について、法的根拠とあわせて解説します。
目次
出勤簿とは
出勤簿とは、企業に属する労働者の出勤日、労働日数、出勤・退勤時刻などを記した書類です。賃金台帳、労働者名簿、年次有給休暇管理簿とともに、労働基準法を根拠とする「法定帳簿」として作成および保存の義務が課せられています。
帳簿の種類 | 概要 |
---|---|
労働者名簿 |
・企業が雇用する従業員の基本情報を記録するための帳簿 ・従業員の氏名、生年月日、住所、雇用年月日、雇用形態(正社員、パート、アルバイトなど)が記載されたもの |
賃金台帳 |
・従業員への給与の支払い状況を記録する帳簿 ・従業員の氏名、労働日数、労働時間数、基本給や手当の種類・金額、控除項目・金額などが記載されたもの |
出勤簿 |
・従業員の労働時間や出勤日数を正確に把握するための帳簿 ・出勤日、出勤(始業)・退勤(終業)の時刻、日別の労働時間数、時間外労働や休日労働の記録、深夜労働の記録などが記載されたもの |
年次有給休暇管理簿 |
・従業員の年次有給休暇の取得状況を管理するための帳簿 ・従業員ごとの有給休暇の付与日数、使用した日数、残りの有給休暇日数、取得した日付や時期などが記載されたもの |
出勤簿に記載すべき対象者
出勤簿への記載が必要となる対象は、当該企業に勤めている従業員全員です。正社員、契約社員、パートタイム・アルバイトといった雇用形態に関係なく、雇用契約下にある全員の勤務状況を記載しなければなりません。
なお、労働基準法の第41条第2項に規定された「管理監督者」に該当する管理職はこれまで、出勤簿に勤怠情報を記載する必要がない(義務はない)とされてきました。理由は、経営者と同様に従業員を管理する立場にある管理監督者は「自身の判断で出退勤できる自由裁量を持ち合わせている」と考えられたためです。
しかし、2019 年4月に労働安全衛生法が改正され、他の従業員と同じように管理監督者も「労働者」として労働時間の把握が義務化されています。
出典:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法六十六条の八の三」
なお、管理監督者は役職名ではなく、職場における権限や実際の職務内容といった役割、賃金などによって判断されます。
タイムカードと出勤簿の違い
出勤簿を作成するには、正確な勤怠管理が必要となります。出勤・退勤の記録として「タイムカード」を採用している企業も多いですが、タイムカードは従業員個人が記録を行うことが多いため、必ずしも正確な出勤・退勤時刻を反映しているとは言い切れません。
そのため、実際の労働時間を示す証拠書類としてタイムカード単体を出勤簿の代わりにすることはできません。タイムカードを出勤簿の作成に使用する場合は、作業日報や残業許可証といった補足的な資料と照合する作業が必要となります。
また、労働基準法の改正により、2019年4月から自己申告型での労働時間把握が禁止されました。勤怠管理においては、「マクロを組んだエクセルの一括入力」「紙の出勤簿」といった主観的な申告のみの運用は認められません。
労働時間を客観的に証明するため、ICカードやスマートフォンといったデジタル端末からの打刻と、出勤簿など労働時間を記録する帳簿を並行して運用することが厚生労働省で定められています。
出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
出勤簿を作成する目的
出勤簿を正しく記帳することで企業は従業員の労働時間を適切に把握でき、それが正確な賃金台帳の作成につながります。賃金台帳の作成に至る流れについて確認しておきましょう。
従業員の労働状況を把握する
出勤簿の主たる目的は、労働者が実際に働いた時間を適切に管理することです。
労働基準法によって従業員が働ける時間や日数には制限が設けられており、労働基準法や就業規則に反した働かせ方をした場合には企業に罰則が科されるため、適切に管理しなければなりません。
加えて、長時間の残業や深夜労働などの割増賃金、深夜に残業した場合であれば時間外労働と深夜労働の両方の割増賃金を支払う必要もあります。企業には、どこからが時間外労働や深夜労働に当たるのかを正しく把握し、適切に管理することが求められます。
正確な賃金台帳を作成する
企業は、従業員の労働状況を適切に把握して出勤簿を作成すると同時に、従業員の給与も適切に計算しなくてはなりません。
労働基準法において労働時間は「1日8時間まで」または「週40時間まで」と定められており、これを超える場合、企業は従業員に対してその時間に対する割増賃金を支払う義務があります。
時間外労働、深夜労働、休日労働など割増賃金が発生するケースにはさまざまな種類があり、労働時間に応じて休憩時間を控除する必要などもあるため、給与計算の作業は複雑です。しかし、出勤簿が整備されていればそのデータをもとに給与計算を効率化でき、賃金台帳への反映も正確になります。
出典:厚生労働省 東京労働局「しっかりマスター 割増賃金編」
出勤簿の書き方
出勤簿を作成するにあたっての書式や記載事項、ルール、違いがわかりにくい用語などを解説します。正確な出勤簿の作成が義務付けられているため、法令違反にならないよう適切に扱いましょう。
出勤簿に記載すべき項目と記載例
出勤簿の書式に法的な取り決めはなく、フォーマットは任意です。ただし、従業員の勤怠管理と正確な給与計算のために、以下の項目を記載しているケースが一般的です。
出勤簿に記載すべき主な項目
- 出勤日と労働日数
- 日別の労働時間数と始業・終業時刻、休憩時間
- 時間外労働を行った日付と始業・終業時刻、時間数
- 休日労働を行った日付と始業・終業時刻、時間数
- 22時から翌5時までの深夜労働を行った日付と始業・終業時刻、時間数
出勤簿は、上記の項目が記載された独自のエクセルファイルなどで作成する、出退勤の管理システムを導入して自動で作成する、といった方法があります。
出勤簿に記載すべき項目について、詳細を以下の出勤簿の例とあわせて解説します。

①出勤日と労働日数
出勤日(労働日数)を記載します。リモートワークや出社を問わず、労働している場合には出勤日と判断し、労働日数として計算します。
②日別の労働時間数と始業・終業時刻、休憩時間
日別の労働時間数、始業・終業時刻、および休憩時間を記載します。
出退勤の管理システムを導入すれば、労働時間数の計算を効率化しつつ正確性を保つことができます。労働時間(実働時間)は「勤務時間(拘束時間)から休憩時間を除いた時間」、休憩時間は「始業から終業までの間で、自由に利用できる時間」と理解しておきましょう。
③時間外労働を行った日付と始業・終業時刻、時間数
④休日労働を行った日付と始業・終業時刻、時間数
⑤22時から翌5時までの深夜労働を行った日付と始業・終業時刻、時間数
夜22時から翌5時までの間に労働した実態があれば記載します。
一般的な出勤簿に記載されている主な項目
その他、退勤管理や給与計算をする上で記載頻度の高い項目は以下のとおりです。
名称 | 内容 |
---|---|
勤務時間(拘束時間) | 始業から終業までの時間 |
所定労働時間 | 企業が決めた1日の労働時間 |
法定労働時間 | 労働基準法で決められた労働時間。原則1日8時間、週40時間を超えてはならない |
法定内残業時間 | 労働時間のうち、所定労働時間を超える8時間以内の部分。賃金の支払いは必要だが割増はしなくてよい |
なお、変形労働時間制を採用している場合はこの限りではありません。
変形労働時間制とは、業務上の忙しさや業務内容の特殊性に合わせて、企業と従業員の双方が労働時間の配分などを行い、全体としてかかる労働時間の短縮を図ろうとする仕組みのことです。一例として、繁忙期の所定労働時間を増やす代わりに閑散期の所定労働時間を減らす、といったケースがあります。
出典:厚生労働省「変形労働時間制の概要」
勤務時間と労働時間の違い
出勤簿に関する混同して使われがちな用語に、「勤務時間」と「労働時間」があります。
「勤務時間」と「労働時間」の違いを明確にするポイントは、休憩時間を含めるかどうか。以下では、実際のタイムスケジュールを例に両者の違いを解説します。
勤務時間とは
「勤務時間」は始業から終業までの時間のことで、いわゆる「拘束時間」を指します。
例:10:00〜19:00勤務の場合、途中で休憩が何分あったとしても「勤務時間」は9時間
労働時間とは
一方の「労働時間」は、「勤務時間」のうち実際に労働した時間のことです。「実働時間」などと呼ばれることもあります。
例:10:00〜19:00勤務の場合、途中で30分の休憩が2回あれば、「労働時間」は8時間
なお、休憩時間のルールは労働基準法第34条に規定されており、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を与えることが義務付けられています。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第三十四条」
出勤簿の作成や保存に関する注意点
出勤簿を扱う際には、必ず守らなくてはならないルールがあります。取り扱いが適切でない場合はペナルティが課される恐れもあるので注意しましょう。
出勤簿の保存義務は原則5年
出勤簿は、上記の「その他労働関係に関する重要な書類」に該当します。以前は3年間の保存が義務付けられていましたが、2020年4月に施行された「労働基準法の一部を改正する法律」において賃金請求権が時効によって消滅するまでの期間が5年間へと延長されたことにより、出勤簿の保存期間も5年間へと変更されました。
ただし当分の間は経過措置が適用されるため、3年間の保存でも問題ないとされています。
出典:厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律(令和2年法律第13号)の概要」
退職者の出勤簿も保存しなければならない
注意したいのは、「退職者分の出勤簿」も5年以上保存しておく必要がある点です。これは労働基準法第115条の規定で、退職金の請求権の時効が5年間と定められたためです。
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第百十五条」
退職者の出勤簿の記録保存期間は、最後に記載された日を起算日とし、これより賃金支払期日が遅い場合はその支払期日を起算日とします。
出勤簿の保存義務にはペナルティがある
万が一、保存義務期間内に出勤簿を廃棄したり紛失したりしてしまった場合、労働基準法第120条を根拠に、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。出勤簿の管理には細心の注意を払いましょう。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第百二十条」
出勤簿作成における労働時間の切り捨てに注意
労働時間管理の原則として、企業は従業員の労働時間を1分単位で記録し、1ヶ月単位の合計時間で給与を計算する必要があります。そのため、「○時までに出社しない社員は半休扱いにする」「3分の遅刻を30分の遅刻扱いで処理する」といったように、企業内のルールで自由に残業時間の端数を切り捨てることは認められていません。
企業が独自ルールで残業時間の切り捨てを行えるようになると、適切な給与支払いがなされなくなるからです。適切な方法に則っていない処理は、労働基準法へ抵触する恐れがあるため注意しましょう。端数処理の取り扱いを誤ると、従業員からも追求される可能性があります。
出典:厚生労働省「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」
勤怠管理をカンタンに行う方法
従業員の打刻情報の収集、勤怠情報の確認、休暇管理に毎日膨大な時間を割いていませんか?
こうした手続きは勤怠管理「freee人事労務」を使うことで、効率良く行えます。
freee人事労務は打刻、勤怠収集、勤怠・休暇管理を一つのサービスで管理可能

勤怠打刻はタイムカードやエクセルを利用し従業員に打刻作業を実施してもらったのちにエクセルなどに勤怠情報をまとめ勤怠・休暇管理を行なっていませんか?
勤怠管理ソフト「freee人事労務」では、従業員に行なってもらった勤怠打刻情報を全て自動で収集し勤怠情報の一覧をリアルタイムで作成します。
そこから勤怠情報の確認・修正が行える他に休暇管理も同時に実施することができます。
さらにそこからワンクリックで給与計算・給与明細発行を実施することができるので、労務管理にかける時間を劇的に削減することが可能です。
気になった方は是非勤怠管理ソフト「freee人事労務」をお試しください。
まとめ
出勤簿は、従業員の労働を適切に管理するために必要な帳簿であり、従業員に対して適切に給与などを支払うためにも重要なものです。必要事項を正確に明記し、決められた期間内はしっかり保存しておくようにしましょう。
正確かつリアルタイムに情報を記録・管理するという点では、出退勤管理システムの導入を検討してみるのもいいでしょう。それによって出勤簿管理や給与計算の手間を減らすことができ、ヒューマンエラーや改ざんなどのセキュリティリスクを低減することにもつながります。
よくある質問
出勤簿とは?
出勤簿とは、労働者の労働日数や出勤・退勤時刻などを記した帳簿です。労働基準法によって、すべての企業に作成と一定期間の保管が義務付けられています。
詳しくは記事内の「出勤簿とは」をご覧ください。
出勤簿はどんな書き方?
出勤簿の書き方には法的な取り決めはなく、フォーマットは任意です。ただし、従業員の勤怠管理と正確な給与計算のために、一般的な記載項目があります。
詳しくは記事内の「出勤簿の書き方」をご覧ください。
出勤簿は何年保存しなくてはならない?
出勤簿の保存義務は原則5年です。ただし現時点では経過措置の適用があるため、3年間の保存でも問題ないとされています。
詳しくは記事内の「出勤簿の保存義務は原則5年」をご覧ください。