労働者の権利意識の向上などから、働いた分の残業代を正当に請求する風潮が高まっています。このため、従業員から残業代を請求されるケースは少なくありません。
そこで今回の記事では、残業代の計算方法の基本や、残業代を支払うべきケース、残業代未払いのリスクなどについてご紹介していきます。
目次
- 残業代(時間外手当)の計算方法の基本
- 時間外労働の「割増し賃金」
- 残業代の請求は直近2年分
- 残業代を請求されたら払う必要があるケース
- 年俸制なので残業代を払っていなかった
- 固定残業代なので残業代を払っていなかった
- 残業の指示を出していないので残業代を払わなかった
- タイムカードなどの勤務時間の管理を行っていないので残業代を払っていない
- 管理職だから残業代を払っておらず、代わりに管理職手当をつけている
- 残業代の端数を切り捨てている
- 残業代の未払いによるリスク
- 悪質と判断された場合、懲役や罰金の可能性あり
- 未払い分の残業代の支払いと遅延利息の発生
- 従業員のモチベーションの低下
- 企業イメージの低下
- まとめ
- 給与計算や労務管理などをカンタンに行う方法
残業代(時間外手当)の計算方法の基本
時間外労働とは、平日に1日8時間・週40時間の労働時間を超えた労働を指します(ただし、人材が不足しがちで週末や休日の営業が多い、商業、映画・演劇業(映画製作の事業を除く)・保健衛生業・接客娯楽業のうち、常時使用する労働者が10人に満たない職場では、特例として週44時間を超えた労働となります)。
時間外労働にあたる労働時間においては、最低でも通常の1.25倍の給与を残業代(時間外手当)として支払わなければなりません。
また、原則として、会社が従業員に時間外労働または休日労働をさせる場合、労働者の過半数が所属する労働組合(あるいは労働者の過半数が支持する代表者)と会社が、「36(サブロク)協定」と呼ばれる、時間外労働についての取り決めを行い、労働基準監督署に届けなければいけません。
36協定の届出書は、以下のように記載します。
引用元:厚生労働省
時間外労働の「割増し賃金」
1.25倍の残業代さえ負担すれば、会社はいくらでも従業員を残業させられるわけではありません。
一般の労働者の場合、例えば1ヵ月に45時間、1年に360時間を超えた場合は、限度時間超えの残業として、通常よりも割増しの残業代が適用されます(限度時間は「1日を超えて3ヵ月以内の期間」と「1年間」のそれぞれについて協定する必要があります)。
このほか、休日勤務、深夜勤務、1ヵ月60時間を超えた時間外労働について、それぞれ割増し賃金が規定されています。
<割増し賃金の種類と割増率>
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
時間外 | 法定労働時間を超えたとき | 25%以上 |
(時間外手当・残業手当) | 時間外労働が限度時間を超えたとき | 25%以上(※1) |
時間外労働が1ヵ月60時間を超えたとき | 50%以上(※2) | |
休日(休日手当) | 法定休日(週1日)に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜(深夜手当) | 22時から5時までのあいだに勤務させたとき | 25%以上 |
残業代の請求は直近2年分
労働基準法第115条で、残業代を含む賃金の時効は2年、退職金は5年と定められています。そのため、未払いの残業代がある場合は、特に退職時などのタイミングで、過去2年間までさかのぼって、まとめて請求される可能性があります。
また、労働者側が未払い残業代の請求について裁判を起こして訴えたときや、使用者側が未払い残業代の支払いを承認した時点で、その時効は中断します。
また、時効を経過したあとの期間でも、使用者側が残業代の支払いを承認すると、時効の主張はできなくなります。例えば、使用者側が5年分の残業代の支払いを承認してしまったら、時効に関係なく5年分の残業代を支払わなければいけません。
未払い残業代の請求は、従業員が労働基準監督署に申告して調査が行われた結果、是正勧告を受ける形で行われるケースが多く見られます。あるいは、弁護士事務所などから内容証明郵便が届く、労働組合の団体交渉から訴訟に発展するなど、さまざまな請求方法のパターンがあり、今後も増えていくことが予想されます。
残業代を請求されたら払う必要があるケース
従業員から残業代を請求された際に、支払うべきケースを挙げていきます。
年俸制なので残業代を払っていなかった
年俸制は、目標の達成度など仕事での成果を基に、1年間の報酬を決定する賃金制度です。1日あたりの賃金を決める日給制、1ヵ月あたりの賃金を決める月給制と同様に、1年あたりの賃金を決めている形態です。
ただし、労働基準法第24条2項によって、賃金は月に1回以上支払うように定められていますので、毎月分割して支払います。
特段の取り決めがない限り、年俸制は残業代を含む賃金体系ではありませんので、法定労働時間を超えて働いている場合には、残業代の支払いが必要です。
固定残業代なので残業代を払っていなかった
固定残業代は、みなし残業代ともいわれています。固定給に残業代が含まれている場合は、「月給30万円(固定残業代25時間分50,000円を含む)」といった形で、基本給と残業代の部分を明示しておく必要があります。
みなし残業代として含まれている時間を超えて残業をした場合には、別途残業代が発生します。
残業の指示を出していないので残業代を払わなかった
残業が会社の指揮命令下にあったかどうかが、残業代の支払いの判断材料になります。上司が残業を命令していない場合でも、部下が残業をする事実を知っていて黙認していた場合には、会社の指揮命令下にあったとみなされ、残業代の支払いの対象となります。
また、業務マニュアルなどで、「緊急時の対応」が指示されている場合も、上司の命令がなくても、緊急時の時間外労働が指示されているとみなされ、残業代を支払う義務が生じます。
タイムカードなどの勤務時間の管理を行っていないので残業代を払っていない
タイムカードなどによる労働時間の管理を行っていない場合、残業の事実の証明が争点となります。パソコンのログアウト記録やメール送信記録、業務日誌などで、残業の事実が確認できる場合には、従業員から未払いの残業代の請求が裁判でも認められる可能性が高いので注意が必要です。
管理職だから残業代を払っておらず、代わりに管理職手当をつけている
労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、労働基準法上の労働時間や割増賃金等に関する規定は適用除外になります。
しかし、管理監督者として認められるには、経営者と一体的な立場にあり、出退勤の自由があること、また、地位にふさわしい手当が支払われていることなどが要件です。
会社では管理職と名のつく地位についていても、労働基準法上の管理者に該当しなければ、残業代の支払いが必要です。
残業代の端数を切り捨てている
残業代のもととなる労働時間の算出を、1日ごとに30分単位で計算し、30分に満たない時間は切り捨てられているケースがあります。
しかし、1日の労働時間の計算は、1分単位で算出をしなければ、労働基準法第24条の賃金の全額払いの原則に反してしまうのです。 ただし、1ヵ月の通算で30分未満の端数を切り捨てることは認められています。
残業代の未払いによるリスク
残業代の未払いによる経営上のリスクは次のようなものがあります。
悪質と判断された場合、懲役や罰金の可能性あり
未払い残業代がある場合、前述のように従業員が労働基準監督署に申告する可能性があります。従業員の申告によって立ち入り検査が行われると、法令違反があるときは是正勧告がされ、法令違反はないものの改善が望ましいときは指導票の交付がなされます。
是正勧告には強制力はありませんが、指摘事項を改善しない場合や悪質と判断された場合には、逮捕や書類送検となるケースもあります。起訴されると、懲役刑や罰金刑を受けるリスクがあることを念頭に置きましょう。
未払い分の残業代の支払いと遅延利息の発生
複数の従業員が、未払い残業代の支払いを求めて裁判を起こすと、多大な支払いが発生し、経営を圧迫する可能性があります。
さらに、残業代だけではなく、遅延利息も請求されるリスクも生じます。未払いの残業代に対する遅延利息は、使用者が個人の場合は民法の規定で5%、法人の場合は商法の規定で年利6%です。従業員の退職後の期間は、賃金の支払いの確保等に関する法律により、年利14.6%にも及びます。
従業員のモチベーションの低下
与えられた業務を遂行するにあたり、時間外労働が発生するにもかかわらず、残業代が正当に支払われないと、従業員は会社への貢献を評価されていないと受け取りやすくなります。従業員のモチベーションが低下し、仕事の質が悪化することが懸念されます。
企業イメージの低下
労働基準局から是正勧告を受けたり、従業員からの残業代の未払い訴訟が起こったりすると、企業イメージの低下につながるおそれがあります。
まとめ
未払いの残業代の問題は、資金繰りの面で経営上のリスクになるだけではなく、企業イメージにも影響します。未払いの残業代が発生することがないように、労働時間を適切に記録し、時間外労働に対する割増し賃金を適切に支払っていくことが大切です。
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