
支払われた給与の根拠となる勤怠情報や給与支払額、控除額などの内訳が記載された「給与明細」は、電子化して交付することが可能です。電子化することでコストの削減や業務効率化など、さまざまなメリットを得られます。
しかし、電子化を進めるには従業員の同意を得るなどの手順を踏まなくてはいけません。本記事では、給与明細の電子化を進める手順やメリット・デメリットなどについて解説します。
目次
給与明細の電子化とは
給与明細とは、支払われた給与の根拠となる勤怠情報や給与支払額、控除額などの内訳が記載された書類のことです。
健康保険法などにおいて、税金や保険料などを控除(天引き)した場合は、 その計算内容を従業員に通知することが義務付けられています。
第百六十七条 3. 事業主は、前二項の規定によって保険料を控除したときは、 保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。
本来、控除額だけ通知すれば法律上は問題ありませんが、給与などの内訳についても従業員に知らせるために給与明細を発行しています。
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給与明細の電子化・ペーパーレス化は法的に認められている
2006年度の税制改正によって、給与支払者は給与所得の源泉徴収票や給与明細、特定口座年間取引報告書を電磁的方法によって交付することが可能となりました。
この際に電子交付する方法は次の3つです。
源泉徴収票などの電子交付の手段
- 電子メールを利用する方法
- 社内LAN・WANやインターネット等を利用して閲覧に供する方法
- CD等の媒体に記録して交付する方法
インターネット等の利用が可能なことから、クラウドソフトによる交付も問題ありません。
なお、給与の支払いを受けている従業員から請求があった場合は、書面での交付義務があるので注意しましょう。
出典:内閣府「平成18年度税制改正の要綱」
出典:国税庁「1.基本的な事項」
給与明細を電子化・ペーパーレス化する流れ
給与明細を電子化・ペーパーレス化する流れは次のとおりです。
給与明細を電子化・ペーパーレス化する流れ
- 電子化する範囲を決める
- 従業員から同意を得る
- 電子化・ペーパーレス化のためのツールを導入する
- 電子化・ペーパーレス化後の環境を整備する
給与明細を電子化するには担当者だけで決めるのではなく、従業員の同意も必要です。正しい手順を理解して円滑に電子化を進めましょう。
1.電子化する範囲を決める
電子化は給与明細だけでなく、源泉徴収票などにも適用できます。そのため「毎月の給与明細だけを電子化する」「給与明細に加えて源泉徴収票も電子化する」など、どの書類を電子化するのか決めましょう。
また、所得税法で定められているように、従業員から請求があった際は書面で通知しなくてはいけません。電子化だけでしか対応できない環境にするのではなく、従来のように書面でも出力できる状態にしておく必要もあります。
出典:e-Gov法令検索「所得税法 第二百二十五条」
2.従業員から同意を得る
担当者が給与明細の電子化を導入しても、従業員から同意を得られない場合は書面で交付しなければなりません。必ず従業員からの承諾を得たうえで導入を進めましょう。
承諾を得る際の書式に法的な定めはありませんが、主に以下の内容を伝えて同意を得ると認識の齟齬なく電子化を進められます。
電子化を進める際に伝えておくべき事項
- 電子交付する書類の名称(給与所得の源泉徴収票、給与等の支払明細書の別等)
- 電磁的方法の種類やその具体的な方法
- 受信者ファイルへの記録方法(XML形式、PDF形式、暗号化して受信者ファイルに記録する旨及びその復号化方法等)
- 交付予定日(毎年○月○日までに交付、給与支給日に交付等)
- 交付開始日
- その他参考となる事項
従業員から同意を得るためには、一方的に電子化の旨を伝えるのではなく、メリットなども合わせて伝えると同意を得られやすいでしょう。
また、通知の際に「指定の期限までに回答がない場合は承諾したものとする」と同時に伝えておけば、回答がなかったときに承諾したとみなすことができます。
出典:国税庁「2.事前承諾」
3.電子化・ペーパーレス化のためのツールを導入する
従業員から同意を得られて給与明細の電子化が進められる状態になったら、導入するツールを検討します。
ツールによって機能やコスト、対応できる従業員数などは異なるため、最初に決めた電子化の範囲や自社の予算などに合わせて決めるのがおすすめです。従業員数によって月額のランニングコストが変わるツールもあるため、自社で運用する条件を正しく把握し、紙で発行するときのコストと比べるのも大切です。
また、すでに給与計算システムや勤怠管理システムを使っている場合、ツールを連携して業務をより効率化できる可能性もあります。そのため、既存のシステムとの連携も1つの検討材料だといえるでしょう。
4.電子化・ペーパーレス化後の環境を整備する
せっかく電子化を実現しても、閲覧できる従業員や閲覧方法が限定されてしまっては浸透しない可能性があるため、どの従業員も使いやすい環境を整えることが必要です。
たとえば、リモートワークをする従業員が多い場合は、出社しなくても閲覧できる環境を整備する必要があるでしょう。
また、書面での交付を希望する従業員はもちろん、住宅ローンや教育ローンの審査などで書面の給与明細が必要となった従業員にも柔軟に対応できるようにしておくことをおすすめします。
給与明細を電子化・ペーパーレス化するメリット
給与明細を電子化・ペーパーレス化すると、担当者も従業員もメリットを得られます。具体的な電子化によるメリットを3つ紹介します。
管理コストを削減できる
給与明細を電子化・ペーパーレス化すると、さまざまな管理コストを削減することが可能です。
具体的には次のような管理コストを削減できます。
- 紙・封筒
- 印刷代
- 郵送代
- 郵送にかかる人件費
書面で給与明細を発行している場合、在宅勤務の従業員が多いと郵送にかかるコストが大きくなってしまいます。封入作業を行っている間にも人件費は発生しているので、電子化によるコスト削減効果はあらゆる場面で感じられるでしょう。
給与明細書の紛失を防げる
給与明細には基本給や社会保険料、所得税額など大切な情報が記載されています。書面で交付して従業員が給与明細をなくしてしまうと個人情報が漏れてしまうほか、確定申告や住宅ローンの審査に支障をきたす可能性があります。
電子化すれば保管のスペースを確保する必要もなく、紛失のリスクを減らせるでしょう。書面でも給与明細の再発行はできますが、個人情報漏えいの観点から、電子化しておくほうが安心です。
人事・労務全体の業務を効率化できる
給与明細を電子化すれば印刷や郵送の作業を減らせることに加え、封入時の入れ間違いや誤配などを防げます。
また、法改正などによって税率や保険料率に変更があった際に自動でアップデートしてくれるツールもあるため、計算ミスやツールの買い替えといった手間もかかりません。
たとえばfreee人事労務では、勤怠データや従業員情報から自動で給与額や控除額を計算できます。給与明細を自動で作成し、従業員への給与明細の配布までをweb上でワンストップで行えます。
給与明細を電子化・ペーパーレス化するデメリット
給与明細を電子化・ペーパーレス化するデメリットを2つ紹介します。どちらも電子化を進める前に対策をとれるので、事前に把握しておきましょう。
従業員に使い方の周知が必要
給与明細の電子化は、 パソコンやスマートフォンからインターネット経由で給与明細を確認することを意味します。 そのため、従業員がパソコンやスマートフォンを使えることが前提です。
また、使用するシステムによってはログインして操作することも必要なので、操作マニュアルを用意しておくと安心です。マニュアルを備えておけば、今後入社してくる従業員に使い方を教える際にも活用できます。
情報管理に気を付ける必要がある
書面よりも紛失のリスクが少ないとはいえ、電子化後も情報管理には気をつける必要があります。電子メールで送り先を間違えてしまうと個人情報の漏えいにつながるほか、システム障害やサイバー攻撃によって個人情報が流出する可能性も考えられます。
ツール自体がセキュリティ対策できているのかを確認するのはもちろん、人事・労務担当者もセキュリティ対策への理解を深めておくとよいでしょう。クラウドサービスの普及に伴い、総務省では「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン」を定めているため、こちらを参考にするのもおすすめです。
給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
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まとめ
給与明細の電子化は、コスト削減や業務効率化などのメリットがあります。ただし、導入は担当者だけでは進められず、従業員の同意が必要です。また、従業員から希望があった場合は書面で交付しなくてはいけません。
正しい手順で給与明細の電子化を進め、すべての従業員が活用できる環境を整えれば多くのメリットを得られます。給与明細の電子化以外の機能を備えたツールもあるため、他の業務との連携も考えながら電子化を検討しましょう。
よくある質問
給与明細の電子化・ペーパーレス化をする流れは?
給与明細の電子化・ペーパーレス化は次の流れで進めていきます。
- 電子化する範囲を決める
- 従業員から同意を得る
- 電子化・ペーパーレス化のためのツールを導入する
- 電子化・ペーパーレス化後の環境を整備する
詳しくは記事内「給与明細を電子化・ペーパーレス化する流れ」で解説しています。
給与明細を電子化・ペーパーレス化するメリットとデメリットは何ですか?
給与明細を電子化・ペーパーレス化するメリットには、管理コストの削減や紛失防止、業務効率化があります。一方でデメリットには、従業員への周知や情報管理があげられます。
詳しくは記事内「給与明細を電子化・ペーパーレス化するメリット」「給与明細を電子化・ペーパーレス化するデメリット」で解説しています。