建設業は社会保険に未加入の事業者が多いことが問題となり、国土交通省による対策が進められています。社会保険に未加入だと、会社の評価が下がることもあります。
今回は、建設業における社会保険の加入の意義や方法などについてご紹介していきます。
目次
なぜ建設業の社会保険未加入が話題なの?
なぜ、建設業界において社会保険に未加入の事業者が多いことに注目が集まっているのでしょうか。社会保険未加入者が多い理由や国土交通省の対策についてご紹介します。
公共工事の受注で社会保険の加入が厳格化
国土交通省は、社会保険未加入業者が多いことが、建設業界に若手の人材が集まりにくい要因のひとつとなることを懸念し、社会保険を管轄する厚生労働省と連携して、対策を進めています。
国土交通省の直管工事では、2015年4月から施工管理台帳を基に、元請業者だけではなく、下請け業者の社会保険未加入が発覚した場合に、建設業担当部局に通報されることになっています。2015年8月からは、入札公告を伴う工事で、元請業者が社会保険未加入の業者と一次下請け契約を結ぶことが禁止されました。
また、公共工事の入札のためには、「経営事項審査」を受ける必要があります。これは、建設事業者の「経営状況」「経営規模」などを数値化して評価する審査ですが、その項目のひとつとして、社会保険への加入の有無があります。社会保険に加入していないとこの項目で減点されてしまうため、審査結果の数値がその分低くなってしまうのです。
また、国土交通省では、元請業者に下請け業者の社会保険の加入を指導するように、通達しています。
建設業は一人親方が多い
建設業界は、元請けから下請け、さらに孫請けへ発注される多重構造です。単独企業のように労務管理が一元管理されておらず、建設業界では社会保険への未加入業者が少なくありません。
建設業では、企業に雇用されず、元請業者と直接契約して仕事を請け負う大工やとび、左官などの「一人親方」と呼ばれる職人が多いのも特徴です。一人親方は、個人事業主として、国民年金と国民健康保険への加入が義務付けられています。
ただし、建設業の個人事業主向けには、全国建設工事業国民健康保険組合(建設国保)という、業界独自の国民健康保険のしくみが整備されています。一般的な国民健康保険よりも、保険料が割安となる場合がありますので、ご不明な点は同組合にお問い合わせください。
引用元:全国建設工事業国民健康保険組合
社会保険に未加入だと何が起こるか
社会保険に未加入の場合、病気やケガの際の費用の問題だけではなく、仕事の受注や採用などにも関係してきます。
社会保険未加入は仕事の受注に影響
社会保険の未加入業者は、前述のように公共工事の受注で一次下請け契約ができなくなり、公共工事の入札で不利な扱いを受けることになります。
さらに、2017年以降については、「社会保険に未加入の業者との契約をするべきではない」「未加入の作業員の現場入場を認めるべきではない」との国土交通省の見解も出されています。社会保険の未加入は、建設業者にとって死活問題になる可能性があります。
追徴金の発生や罰金のリスクも
社会保険事務所などの調査で、社会保険に加入義務のある事業所が未加入と発覚すると、最大で2年分の社会保険料が追徴金として課されるおそれがあります。悪質とみなされた場合には、6ヵ月以下の懲役あるいは50万円以下の罰金を科されるケースもあります。
求人もしにくくなる
ハローワークでは、社会保険に加入していない場合、求人票を受け付けず、加入するように指導が入ります。社会保険に未加入の事業者は、採用自体も不利になります。
個人の問題では生活の維持に影響
勤務先が社会保険に未加入で、個人で国民健康保険や国民年金を支払っていない場合は、健全な生活を維持することに影響を及ぼします。健康保険に加入していない場合、病気にかかったりケガをしたりした場合に、全額自己負担となり費用負担が大きくなります。また、公的年金未加入の期間が長いと、将来的に年金を受け取れない、あるいは年金受給額が少額のため生活を維持できないことが想定されます。
建設業の社会保険の加入基準と必要な対応
労働者が何人いるかによって、必要な保険が異なります。ここでは、労働者の人数に応じて加入すべき保険や基準、手続きなどについてご紹介します。
建設業の社会保険の加入基準
まずは、各種保険の加入基準についてご紹介します。
以下の画像にまとめたように、建設業では、株式会社などの法人と個人経営の事業所のうち、常時使用する労働者が5人以上の場合は、雇用保険と健康保険、厚生年金への加入が義務付けられています。5人以下であれば、雇用保険以外は必須ではありません。
社会保険加入のために必要な対応
必要な社会保険がわかったら、それぞれに加入するための書類提出などの手続きを行いましょう。
・雇用保険
雇用保険に加入する場合には、被保険者となる人を雇用した翌月10日までに、管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。初めて雇用保険の加入手続きを行う場合には、事前に保険関係成立に関する手続きを済ませておく必要があります。
・健康保険・厚生年金保険
健康保険・厚生年金保険(社会保険)に加入するためには、労働者を雇用した5日以内に、所轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を提出します。
・雇用保険
個人経営の事業所で、常時使用する労働者が一人親方を含め5人未満の場合は、雇用保険への加入が義務付けられ、国民健康保険と厚生年金保険への加入は義務付けられていません。
雇用保険に加入する場合には、5人以上の労働者がいる場合と同じように、管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。
・国民健康保険・国民年金
国民健康保険と国民年金への加入は任意です。加入を希望する場合には、労働者がそれぞれ加入手続きを行います。国民健康保険は労働者が居住している住所の自治体に、国民保険は年金事務所に届出を提出します。
一人親方は国民健康保険、及び国民年金への加入が基本です。しかし、実際には一人親方が労働者と認められる場合には、ほかの労働者と同じように、会社の雇用保険や健康保険、厚生年金に加入させる必要があります。
なお、国民健康保険には一般的な市町村組合のほかに、建設業界の労働者が加入できる国保組合として、全国土木建築国民健康保険組合や建設連合国民健康保険組合があります。国保組合に入っている場合は、事業主が健康保険適用除外承認を申請し、年金事務所の承認を得ることで、健康保険適用除外を受けることが可能です。この場合には、雇用保険と国民健康保険、厚生年金に加入する状態になります。
元請業者に法定福利費を明示した見積書を提出
国土交通省は建設事業者に対して、法定福利費を元請業者への請求額に反映させるように指導しています。法定福利費とは、企業が従業員の社会保険料を支払うために必要な費用です。元請業者に見積書を提出する際には、見積もり条件が決められているケースでも、法定福利費を内訳として明示し、納めるべき社会保険料を確保できるようにすることが大切です。法定福利費を含まない建設請負契約は、建設業法の不当に低い請負契約の禁止にふれるおそれもあります。
まとめ
保険の加入有無は、建設業を営む事業所のビジネスに大きく影響します。公共工事等で下請けでの請負契約が締結できなかったり、現場入場を拒まれたりする事態とならないように、保険に加入しましょう。
社会保険の加入手続きに必要な書類を自動で作成する方法
従業員が入社した際には、社会保険の加入手続きを行う必要があります。
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健康保険・厚生年金保険の加入手続きや給与計算に必要な情報を、オンラインでまとめて収集できます。
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入社時の資格取得届の作成が可能
加入義務の事実が発生してから5日以内に、該当従業員の健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。被扶養者がいるときは、健康保険被扶養者(異動) 届・国民年金第3号被保険者にかかる届出書も作成します。
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