退職証明書とは、企業が従業員に対して発行する、従業員が退職したことを証明する書類です。また離職票とは、失業給付の手続きの際に必要な公的書類です。
本記事では、退職証明書や離職票がどんな書類なのか、その発行方法や使用場面についてわかりやすく解説します。
目次
離職票・離職証明書・退職証明書の違い
離職票・離職証明書・退職証明書は、発行元や提出先が異なります。まずは各書類の違いをおさえておきましょう。
名称 | 離職票 | 離職証明書 | 退職証明書 |
---|---|---|---|
正式名称 | 雇用保険被保険者 離職票 | 雇用保険被保険者 離職証明書 | ー |
概要・用途 | 退職者が失業給付の受給手続きに必要な書類 | 離職票を発行するための書類 | 従業員が確かに退職したことを証明する書類 |
発行元 | ハローワーク | 会社 | 会社 |
提出先 | 会社がハローワークから受け取り退職者へ | ハローワーク | 退職者 |
公文書 | ○ | ○ | × |
離職票は、退職者が失業給付の受給手続きを行うために必要な書類であり、ハローワークから会社に発行され、会社から退職者に渡されます。その離職票の発行を依頼するために、会社がハローワークに提出する申請書が、離職証明書です。
なお、退職証明書は公的な書類ではありません。退職者が確かにその会社を退職したことを証明するために、会社が発行する書類です。
それぞれの書類の詳細は後述します。
帳簿の種類とつけ方の詳細について知りたい方は、別記事「【個人事業主向け】帳簿の種類とつけ方は? 単式・複式簿記や現金・発生主義について徹底解説!」をご覧ください。
従業員の退職時に会社側が行う主な手続き
従業員の退職時に会社側が行う手続きは複数あり、申請先や書類の発行方法も、以下のとおり異なっています。
手続きの種類 | 手続きの期限 | 提出書類と提出先 |
---|---|---|
雇用保険 | 退職日の翌々日から 10日以内 | 「雇用保険被保険者資格喪失届」 「雇用保険被保険者離職証明書」 を ハローワークに提出後、発行された「離職票」を退職者に渡す |
健康保険と厚生年金保険 (健康保険が協会けんぽの場合(*)) | 退職日から5日以内 | 「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」「健康保険証」を所轄の年金事務所に郵送で提出 |
住民税 | 退職日の翌月10日まで | 「給与支払報告書」「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職者の居住地の市町村に提出または本人に渡す(**) |
所得税 | 退職日から1ヶ月以内 | 「源泉徴収票」を発行し退職者に渡す |
(*)加入している健康保険が共済や健康保険組合の場合、健康保険の資格喪失手続きは厚生年金保険とは別に行う。各健康保険の資格喪失手続きの方法や期限は、加入している健康保険事業のホームページなどで確認できる。
(**)退職者の再就職先が決まっている場合には、退職者に渡す。
従業員の退職時に会社が行う各種手続きについては、別記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせて参考にしてください。
退職手続きについて詳しく知りたい方は、別記事「退職手続きはいつまでに何をやるべき?従業員側・会社側それぞれの作業を解説」をご覧ください。
会社から退職者に渡す書類
会社から退職する従業員に渡す書類は以下のとおりです。
会社から退職者に渡す書類
- 雇用保険関連
- 雇用保険被保険者証
- 離職票
- 健康保険関連
- 健康保険資格喪失証明書
- 住民税関連
- 給与支払報告書
- 特別徴収に係る給与所得者異動届出書
- 所得税関連
- 源泉徴収票
- その他
- 退職証明書
雇用保険被保険者証は、従業員が雇用保険に加入した際に発行されます。会社が保管している場合は従業員が退職する際に返却します。
健康保険資格喪失証明書は、退職者が国民健康保険へ加入する際に使用します。
退職者が国民健康保険に加入することなく再就職をして新たに雇用先の健康保険に加入する場合や現在加入している健康保険の任意継続を行う場合には、健康保険資格喪失証明書の発行は不要です。
給与支払報告書、特別徴収に係る給与所得者異動届出書は、退職者の再就職先が決まっている場合にのみ退職者に渡します。
源泉徴収票は、所得税にかかわる書類です。退職者の再就職先での年末調整や確定申告を行う際に必要であり、従業員の退職日から1ヶ月以内に発行しなければなりません。
離職票、退職証明書については後述します。
離職票とは
離職票の正式名称は「雇用保険被保険者離職票」といい、雇用保険に加入している従業員が退職してから再就職や起業するまでの間、ハローワークから失業給付の受給手続きを行うために必要な書類です。
離職票は、会社ではなくハローワークが発行します。会社は退職者から離職票の発行希望有無に応じて、ハローワークに離職票の発行申請をします。すでに再就職先や退職後の起業が決まっている場合には失業している状態ではなく失業給付の支給対象ではないため離職票は不要です。
退職する従業員から離職票が不要である旨の申し出があれば、離職票を発行する必要はありません。ただし、従業員の退職時の年齢が59歳以上の場合は、本人の希望の有無に関わらず離職票を発行しなければなりません。
出典:厚生労働省「被保険者についての諸手続き」
また、退職者からの申し出により離職票を発行しなかった場合でも、後日、改めて退職者から離職票発行の依頼があった場合には離職票を発行しなければなりません。
雇用保険については、別記事で詳しく解説していますので、そちらも合わせて参考にしてください。
雇用保険について詳しく知りたい方は、別記事「雇用保険料とは?雇用保険料の計算方法や対象について解説」をご覧ください。
離職票と離職証明書の違い
離職票と離職証明書はどちらも雇用保険および失業給付に関する書類ですが、以下のような違いがあります。
離職票と離職証明書の違い
- 離職票:
退職者が失業給付の受給手続きを行うためにハローワークが発行する書類 - 離職証明書:
離職票の発行申請のために会社が発行しハローワークに提出する書類
離職票の発行申請には、会社からハローワークへ離職証明書を提出する必要があります。
離職票の発行方法
離職票の発行手順は以下のとおりです。
離職票の発行申請は、e-Gov電子申請からも行えます。e-Gov電子申請は、離職証明書・雇用保険被保険者資格喪失届の手続きと同時に離職票の発行手続きができます。
e-Gov電子申請の利用には電子署名が必須なので、あらかじめ認証局から電子証明書を入手しておく必要があります。
出典:厚生労働省「雇用保険関係手続き 電子申請のご案内」
1.退職者に離職票の要否を確認する
退職者が離職票の発行を希望する場合、会社はこれに応じなければなりません。退職後の再就職先が決まっている場合などは失業給付の要件には該当せず離職票が不要なため、従業員に離職票が必要か退職前に確認しましょう。
ただし、前述のとおり退職者が59歳以上の場合は、本人の意思に関係なく離職票を発行しなければなりません。
離職票を発行する場合は、会社が離職証明書に必要事項を記入し、退職する従業員に署名・捺印をしてもらいます。
離職証明書は所轄のハローワークで入手できます。郵送で取り寄せできる場合もあるので所轄のハローワークへ確認してください。具体的な記載項目については後述します。
2.ハローワークに離職証明書・雇用保険被保険者資格喪失届を提出する
離職証明書の記載が完了したら、雇用保険被保険者資格喪届と合わせてハローワークに提出します。提出期限は退職日の翌々日から10日以内です。
雇用保険被保険者資格喪失届とは、退職者が雇用保険から脱退(資格喪失)した際に提出する書類です。
なお、離職票を発行しない場合には離職証明書を提出する必要はありませんが、雇用保険被保険者資格喪失届は離職票発行の有無にかかわらず提出しなければなりません。
3.ハローワークから離職票を受け取る
離職証明書と雇用保険被保険者資格喪失届を提出するとハローワークから「離職票ー1」と「離職票ー2」が発行されます。離職票ー1はハローワークが作成する書類で、失業給付が支給される際の退職者の情報が印字されています。
離職票ー2は、複写式の離職証明書のうちの1枚で、退職理由や賃金について記載されています。
あわせて「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書」と「離職証明書(事業主控)」が会社側の確認・保管用として発行されます。退職者に渡す書類と混同しないように注意しましょう。
4.退職者に離職票を送付する
ハローワークから離職票を受け取ったら、速やかに郵送などで退職者に送付しましょう。 退職者へ送付する書類は「離職票ー1」と「離職票ー2」です。
離職票の再発行
離職票発行後、退職者が離職票を紛失してしまった場合は以下の方法で再発行が可能です。
離職票の再発行の方法
- 退職者が働いていた会社へ再発行の依頼をする
- 退職者本人がハローワークで再発行の申請をする
退職者が働いていた会社へ離職票の再発行を希望した場合は、会社が再発行申請を行う必要があります。会社が再発行の申請を行う場合は、「雇用保険被保険者離職票再交付申請書」をハローワークに提出するのみで手続きが完了します。雇用保険被保険者離職票再交付申請書は、ハローワークのホームページから入手できます。
一度離職票が発行されていればハローワークで履歴が確認できるため、退職者は会社に依頼せず直接ハローワークへ離職票の再発行申請が可能です。退職者がハローワークで申請を行う場合、最短で当日中に離職票を受け取ることができます。
退職者がハローワークで離職票の再発行を依頼する際、必要なものは以下の4点です。
離職票の再発行に必要な書類
- 雇用保険被保険者離職票再交付申請書
- 写真付き身分証明書
- 雇用保険被保険者証
- 印鑑
離職票を発行しない場合の罰則
離職票の発行および交付は、雇用保険法第76条3項で定められている会社の義務です。退職者が59歳未満、かつ離職票の発行を希望しない場合を除いて全ての退職者に発行しなければなりません。
正当な理由がないのに離職票の発行手続きをしない、または発行された離職票を退職者に渡さないことは、雇用保険法第83条4項の違反となり6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が罰則として課せらます。
なお、退職者が離職票の交付を希望していても会社から離職票が送付されない場合、退職者は離職日の翌日から12日目以降であれば、離職票が届く前にハローワークで失業給付の仮受付ができます。仮受付にはマイナンバーカードや退職証明書など退職日がわかるもの、通帳、証明写真が必要です。
出典:e-Gov法令検索「雇用保険法」
出典:ハローワーク福岡西「雇用保険を受給する方へ」
離職証明書の記載項目
離職証明書は、退職者に渡す「離職票ー2」の複写元です。
実際の記載項目と記載内容は以下のとおりです。
① 雇用保険被保険者番号
退職する従業員の雇用保険被保険者証に記載された番号
② 雇用保険事業所番号
雇用保険適用事業所設置届事業主控に記載された番号
③ 従業員の氏名
④ 離職年月日
⑤ 事業所名・住所・電話番号・事業主氏名
⑥ 離職者の住所・電話番号
⑦ 離職理由
・当てはまる項目にチェック
・離職理由についても合わせて記載(*)
(*)退職理由によって失業給付の給付日数が変化するため、必ず事実を記載する
⑧ 被保険者期間算定対象期間
・退職日から遡って1ヶ月ずつ記入する
・原則24ヶ月分記載するが、⑨の日数が11日以上の月が12ヶ月以上あればそれ以前は省略可能
⑨ 賃金支払基礎日数
・⑧のそれぞれの期間の賃金支払の基礎になった日数を記載
・給休暇や休業手当の対象日を含む
⑩ 賃金支払対象期間
・退職日直前の賃金の締め日の翌日から退職日までを記載
・その前の期間についても遡って記載
・原則24ヶ月分記載するが、⑪欄の基数が11日以上の月が6ヶ月以上あればそれ以前は省略可能
⑪ 基礎日数
・⑩の賃金のそれぞれの期間の賃金支払の基礎になった日数を記載
・有給休暇や休業手当の対象日を含む
⑫ 賃金
・月給はA欄に、日給はB欄に記載
・毎月固定で支払われる役職手当や家族手当などはA欄に記載
・A欄B欄両方に記載がある場合は合計金額を計欄に記載
・記載がない欄は斜線を引く
⑬ 備考
未払い賃金や休業手当、雇用調整助成金などがある場合に記載(原則退職日以前6ヶ月分)
⑯ 離職者本人の判断
事業主が記載した離職理由への異議の有無に退職者がチェック
⑰ 離職者の署名
離職者に確認・署名してもらう
出典:厚生労働省「離職証明書の書き方 (基礎日数・賃金額)」
また、離職票はe-Govからの申請も可能です。e-Govのホームページの手続き検索ページの検索窓から離職票に関する手続きを検索し、「雇用保険被保険者資格喪失届(連記式)(離職票交付あり)(2022年6月以降手続き)」から申請書入力が行えます。
申請書に必要事項を入力することで雇用保険被保険者資格喪失届の申請と離職票の発行申請を同時に進められます。
前述のとおり、e-Govの電子申請を利用する場合には電子署名が必要です。
退職証明書とは
退職証明書とは、退職者が働いていた会社を確かに退職したことを証明する書類を指します。会社は積極的に発行する必要はありませんが、退職者からの請求があればすぐに発行しなければなりません。
退職証明書は公的な書類ではありませんが、退職者の再就職先が退職の証明を求めた際の提出書類として利用します。
また、離職票の発行が遅れている、失業給付の手続きに使用しているなどの理由で離職票が手元になく、国民健康保険や国民年金への加入手続きができない場合の代替書類として退職証明書が使用できます。
退職証明書と離職証明書の違い
退職証明書は離職証明書と名称が似ていますが、離職証明書が離職票の発行のための公的な書類であるのに対し、退職証明書は公文書ではありません。
退職証明書は前述したように、離職票などの公的な書類の紛失時や発行が遅れるなどした際に代替書類として認められる場合があります。ただし、失業給付を受け取るためには離職票が必須であり、退職証明書だけでは仮受付までしかできません。
退職証明書の再発行
発行した退職証明書を退職者が破損または紛失した場合、退職者は働いていた会社に再発行を依頼できます。会社は従業員の退職から2年間、退職者から退職証明書の再発行依頼に応じなければなりません。最低でも2年間はコピーを保管しておきましょう。
退職証明書を発行しない場合の罰則
退職証明書の発行は、労働基準法第22条で定められている会社の義務です。
正当な理由なく退職証明書を交付しない場合は、労働基準法第120条1項の違反となり、30万円以下の罰金が課せられます。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
退職証明書の記載項目と書き方
退職証明書は公文書でないため決まったフォーマットはなく、各会社で作成します。記載内容は労働基準法によって定められています。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
退職証明書に記載する主な項目は以下のとおりです。
退職証明書に記載する主な項目
- 雇用期間
- 業務内容や種類
- 役職
- 賃金
- 退職理由
退職証明書を作成する際には、上記の項目のうち、退職者が希望する項目のみを記載します。
労働基準法第22条3項で、退職者が希望しない項目は退職証明書に記載してはならないと定められています。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
入退社時に必要な書類の作成がラクに
まとめ
離職票は退職者が失業給付を受け取るために必要な公文書です。退職証明書は公文書ではありませんが、退職者が再就職先に提出するためや、国民健康保険の手続きなどで離職票の代わりとして使用することがあります。
離職票も退職証明書も、必要に応じて会社が必ず発行しなければならない書類です。スムーズに発行できるように、発行方法や注意点を適切に把握しておきましょう。
よくある質問
離職票と離職証明書の違いは?
離職票と離職証明書はどちらも雇用保険および失業給付に関する書類ですが、離職票の発行申請には、会社からハローワークへ離職証明書を提出する必要があります。
詳しくは記事内「離職票と離職証明書の違い」をご覧ください。
離職票はいつ届く?
離職票は申請してから、早くて2週間ほどで手元に届きます。なぜなら、離職票の発行手順に会社とハローワークのやり取りが発生するためです。
詳しくは記事内「離職票の発行方法」をご覧ください。
退職証明書とは?
退職証明書とは、退職者が働いていた会社を確かに退職したことを証明する書類を指します。会社は積極的に発行する必要はありませんが、退職者からの請求があればすぐに発行しなければなりません。
詳しくは記事内「退職証明書とは」をご覧ください。