監修 北 光太郎 きた社労士事務所
就業規則とは、会社が従業員に示す、事業場の労働条件や職場内の規律を定めたものです。
就業規則は従業員を常時10人以上雇用する会社(事業場)には作成が義務付けられており、記載する項目も法律で定められています。
本記事では、就業規則の作り方や記載項目についてわかりやすく解説します。
目次
就業規則とは
就業規則とは、会社が従業員に向けて示す、労働条件や職場内の規律を定めたものです。雇用形態や勤務時間などに関係なく、常時10 人以上の従業員を雇用する場合は就業規則の作成が義務付けられています。
労働基準法第89条により、就業規則には必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、会社で規定をする場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。
就業規則は、勤務時間や賃金の決定、権利、義務などを明文化し、従業員がこれを遵守することで、円滑に業務を遂行できる環境を整える役割を果たしています。
また、明確なルールによって従業員とのトラブルを未然に防ぐことにもつながります。
作成した就業規則は、従業員の過半数代表者もしくは過半数労働組合の意見書を添付したうえで、管轄の労働基準監督署に届け出ます。
届出後は、就業規則を従業員に書面で交付したり、事業場内の見えやすい位置に備えつけたりし、従業員にその内容を周知しなければなりません。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第八十九条」
出典:厚生労働省「就業規則作成の9つのポイント」
就業規則の作成義務がある事業場
就業規則作成の義務は、すべての事業場において適用されるわけではありません。作成義務が適用されるのは、常に従業員10人以上を雇用している事業場です。
事業場とは、オフィスや工場など一定の場所で、同一の事業に関連する業務を行っている場所のことです。
ただし、オフィスに食堂がある場合など、働き方が著しく異なる場所がある場合は、別の事業場として扱われます。
なお、「従業員」とは正社員に限りません。アルバイトといったパートタイム労働者、契約社員など、雇用形態にかかわらず常に10人以上の従業員がいる場合は、就業規則作成・届出の対象となります。
もし、従業員が常に10人以上いるにもかかわらず就業規則を作成していない場合は、労働基準法違反により、30万円以下の罰金が科されます。
10人未満の事業場には就業規則の作成義務はありませんが、従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも作成した方が望ましいでしょう。
出典:厚生労働省「労働安全衛生法の施行について(事業場の範囲)」
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第百二十条一号」
就業規則の作り方
就業規則の作成は、以下の手順で進めます。
就業規則の作り方
- 原案の作成
- 過半数労働組合または過半数代表者への意見聴取
- 過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見書の届出
- 就業規則の周知
それぞれの手順を詳しく解説します。
1.原案の作成
まずは厚生労働省の「モデル就業規則」を参考に、自社の実情にあわせて就業規則の原案を作成します。
モデル就業規則とは、関係法令等の規定を踏まえて厚生労働省が作成している就業規則の一例のことです。
就業規則に記載する事項には、前述のとおり、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。
絶対的必要記載事項が抜けている場合は、法律上の不備になり30万円以下の罰金が科せられますので、まずは項目をすべて記載することが大切です。記載の抜け漏れ対策として、就業規則の作成支援ツールなどを有効活用しましょう。
絶対的必要記載事項とは、以下の事項を指します。
絶対的必要記載事項
- 始業及び終業の時刻
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算方法
- 賃金の支払方法
- 賃金の締切り時期と支払の時期
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項、解雇の事由
始業および終業の時刻・休憩時間
就業規則上、時刻を明確に規定する必要があるため、「1日8時間、週40時間勤務」と記載するだけでは要件を満たさず、たとえば以下のように詳細に記載します。
- 始業時刻:午前10時00分
- 終業時刻:午後7時00分
- 休憩時間:午後12時30分~午後1時30分
休日・休暇
労基法上、一週間のうち何曜日を休日とするかは定められておらず、また就業規則に曜日を明記する必要もありません。しかし、休日とする曜日まで明確に記載するのが一般的です。
また、年次有給休暇をはじめ、産前産後休暇や生理休暇、育児・介護休暇、慶弔休暇など、会社で定めている休暇については、すべて取得可能日数や条件、必要な手続きについて就業規則に規定する必要があります。
交替制の場合には就業時転換に関する事項
シフト制の勤務形態を取っている場合は、シフトごとの始業および終業時刻、休憩時間を定めて就業規則に規定します。
賃金の決定、計算方法
毎月支払われる賃金を構成する基本給と諸手当について、それぞれの金額の決定・計算方法を就業規則に規定します。
基本給は業務内容や職能、勤続年数など、金額の決定に影響する要因を記載するのが一般的です。また諸手当については、たとえば家族手当の場合なら「扶養している18歳未満の子1人につき月額2万円」といったように記載します。
賃金の支払い方法・締切り時期・支払いの時期
賃金の支払いについて、指定の金融機関口座に振り込むなどの方法を就業規則に規定します。また、締め日や支払日についても具体的に記載する必要があります。
昇給に関する事項
昇給の時期も、「毎年4月・10月」といったように具体的に就業規則に規定します。「会社の業績によっては昇給が行われない」「従業員の成績によっては規定の時期に関係なく昇給が行われる」といった補足事項があれば、あわせて記載をします。
退職に関する事項、解雇の事由
退職には自己都合の退職や契約満了、死亡などの複数のケースが想定されるため、ケースごとに必要な手続きや条件などを就業規則に規定します。
また、解雇については、労働契約法第16条に定められているとおり、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められなければ、権利を濫用しているとして無効となります。
よって、解雇に該当する基準については、明確に規定する必要があります。解雇の予告などの手続きまで明確に定めておくことで、労使間のトラブル防止につながります。
一方、相対的必要記載事項としては、以下のような項目が挙げられます。
相対的必要記載事項
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
なお、上記の項目以外に業務中の服装や人事に関わることなど、事業場で独自にルールを設けたい場合は任意で記載できます。法的な規制はありませんが、社会的信用に関わるような公序良俗に反する内容は避けましょう。
出典:厚生労働省「就業規則を作成しましょう」
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第八十九条」
出典:e-Gov法令検索「労働契約法 第十六条」
2.過半数労働組合または過半数代表者への意見聴取
就業規則の原案を作成したら、「過半数労働組合または過半数代表者」に意見聴取を行います。
過半数労働組合とは、労働者の過半数で組織している労働組合のことです。ここでいう労働者とは、事業場で雇用関係にあるすべての従業員のことをいいます。
一方、過半数代表者とは、労働組合がない場合に投票や挙手などによって過半数の代表者として従業員から選出された人のことです。
就業規則を作成・変更した際は、事業場ごとにどちらかの意見を聴取する必要があります。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第九十条」
出典:厚生労働省「就業規則作成の9つのポイント」
3.過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見書の届出
過半数組合または労働者の過半数代表者から意見聴取したあとは、就業規則作成の担当者が意見書としてまとめます。
意見の内容は必ずしも同意するものである必要はなく、反対意見でも問題ありません。意見書をまとめたら、作成した就業規則とともに管轄の労働基準監督署に届出をします。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第九十条」
出典:厚生労働省「就業規則作成・見直しのポイント」
4.就業規則の周知
労働基準監督署で就業規則が受理されたあとは、従業員に周知します。
労働基準法により、就業規則は見やすい場所への掲示・備え付けや書面を交付などによって周知しなければならないと義務付けられています。
なお、ネットワーク環境がある事業場の場合は、社内のポータルサイトや共有フォルダなどに就業規則を保存し、従業員が内容を常時確認できるようになっていれば周知の義務を果たします。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第百六条」
就業規則によって防げるトラブル
就業規則があることで、企業と従業員の間に起こり得るトラブルを防ぐことができます。具体的に、就業規則がどのようなトラブルの防止に役立つのかを説明します。
有給休暇の取得に関するトラブル
2019年4月から、年10日以上の有給休暇を付与される従業員に対して、会社は年5日以上有給休暇を取得させる義務が課されています。
有給休暇に関する事項は「絶対的必要記載事項」に該当するため、時季指定を行う場合には指定方法を就業規則に記載しなければいけません。
指定方法の例としては、「有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重したうえで、あらかじめ時季を指定して取得させる」などが挙げられます。
また労使協定によって、5日を超える分の有給取得日をあらかじめ決める「計画的付与制度」により年5日を取得させることも可能です。
これらの方法を就業規則に明示することによって、有給休暇の取得をめぐる従業員とのトラブル防止につながります。就業規則に指定方法を記載せず、強制的に年5日を取得させる運用は違法とみなされるため注意しましょう。
出典:厚生労働省「年次有給休暇の時季指定について就業規則に記載しましょう。」
従業員の欠勤に関するトラブル
賃金は、従業員が働いた分を支給する原則(ノーワーク・ノーペイの原則)があり、会社には欠勤した従業員に対して賃金を控除できる権利があります。
しかし、労働基準法では欠勤控除について定められていません。そのため、月給を支払っている従業員の欠勤や遅刻、早退に対して賃金を控除する場合は、就業規則に記載する必要があります。
もし就業規則に欠勤控除の規定がない場合は、欠勤している従業員にも賃金を支払わなければならず、出勤している従業員との間に不公平が生まれます。
トラブルを防止するためにも、欠勤や遅刻、早退に対してどのように処置をするのかを就業規則に記載することが大切です。
出典:e-Gov法令検索「労働契約法 第六条」
従業員の退職に関するトラブル
法律上では、従業員は退職を申し出て2週間後には会社を辞めることができます。しかし、後任への業務引き継ぎなどの期間を考慮すると、申し出から2週間での退職は難しいとする会社も少なくないのが現実です。
そのため就業規則で、会社のルールとして退職についての取り決めをすることができます。
たとえば、引き継ぎに必要な期間を考慮して、退職の申告時期を退職予定日の1ヶ月前として就業規則に記載することも可能です。
会社のルールとして就業規則に記載することで、従業員同士の引き継ぎが円滑に行われ、トラブルを防止する役割を果たすことができます。
ただし、就業規則に記載があった場合でも、法律が優先されます。よって、就業規則では1ヶ月前までに退職の申告を規定していても、従業員が退職希望日から2週間前に申告をし、希望日通りに退職しても違法ではありません。
出典:e-Gov法令検索「民法 第六百二十七条一項」
懲戒処分に関するトラブル
一般的に、業務上の怠慢や不誠実な勤務など、従業員を雇用することでなんらかの不都合が生じた場合、会社は該当従業員に対し解雇や減給などの懲戒処分を行います。
会社が従業員を懲戒処分するためには、原則として就業規則で懲戒にあたる内容を記載しなければなりません。たとえば、「正当な理由なく欠勤、遅刻、早退を繰り返したとき」「故意または重大な過失により、会社に重大な損害を与えたとき」など、具体的に記載する必要があります。
就業規則に記載がない行為に対して懲戒処分をした場合、その処分は無効になる可能性があります。懲戒にあたる行為は必ず記載することで、従業員とのトラブル回避につながります。
ただし、就業規則に記載すればすべての行為が懲戒処分になるわけではありません。記載した内容には、一定の合理性が必要です。合理的な理由がなく、一般的な常識から考えて不適切な懲戒処分は懲戒権の濫用に当たるため無効になります。
出典:厚生労働省「就業規則作成・見直しのポイント」
出典:e-Gov法令検索「労働基準法 第八十九条第九号」
就業規則がないと助成金を申請できない可能性も
会社が申請できる雇用関係助成金として、非正規社員を正社員に転換したときに支給される「キャリアアップ助成金」や、新たに有給休暇の制度を導入したときに支給される「働き方改革推進支援助成金」などがあります。
これらの助成金を申請するための要件として、就業規則の作成と備え付けが含まれている場合があります。助成金申請を検討している会社は就業規則の作成とともに助成金の要件にあった就業規則の整備が必要です。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金」
出典:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」
まとめ
就業規則とは、会社が従業員に示す、事業場の労働条件や職場内の規律を定めたものです。従業員を常時10人以上雇用する事業場ごとに作成が義務付けられています。
厚生労働省のモデル就業規則を参考に作成することも可能です。しかし、モデル就業規則をもとにすべてを手作業で作成すると時間と手間がかかり、抜け漏れも発生しやすくなります。
効率的に就業規則を作るためには、オンラインツールが有用です。ツールによっては簡単な情報入力のみで関係法令等の規定を踏襲した就業規則が作成できるため、時間や手間の削減、記載項目の抜け漏れ防止ができます。
よくある質問
従業員10人未満の会社でも就業規則の作成は必要?
従業員が10人未満の事業場には就業規則の作成義務はありませんが、従業員とのトラブルを未然に防ぐためにも作成した方が望ましいといえます。
事業場とは、オフィスや工場など一定の場所で、同一の事業に関連する業務を行っている場所のことです。
詳しくは記事内「就業規則の作成義務がある事業場」をご覧ください。
就業規則の作り方は?
就業規則は、以下の手順で作成します。
- 原案の作成
- 過半数労働組合または過半数代表者への意見聴取
- 過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見書の届出
- 就業規則の周知
詳しくは記事内「就業規則の作り方」をご覧ください。
監修 北 光太郎
きた社労士事務所 代表 中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。