
控除とは、収入から一定の金額を差し引くことで、税負担を軽減する制度です。控除には扶養控除や生命保険料控除などいくつか種類があり、利用条件が設けられています。
本記事では、控除の目的や種類、申告の方法について詳しく解説します。
目次
控除とは
控除とは、「一定の金額を差し引く」という意味で、収入などから一定額を差し引くことで税金の負担を軽減する制度を指します。税制上の控除には、所得控除と税額控除の2種類があり、所得控除は扶養控除や生命保険料控除など、税額控除には住宅ローン控除などがあります。また、給与から差し引かれる社会保険料も控除の一種です。
年末調整や確定申告で自身に適用される控除を適切に申告することで、課税される所得を抑えることができ、節税効果につながります。
還付との違い
控除と還付との違いは、控除が税金の計算時にあらかじめ差し引かれるものであるのに対し、還付はすでに納めた税金の一部が後から返還される点です。
たとえば、年末調整や確定申告によって源泉徴収された所得税が実際の納税額を上回っていた場合、その差額が還付されます。控除は納税額を減らすための制度であり、還付は納めすぎた税金を精算する仕組みであるという違いがあります。
出典:国税庁「年末調整の過不足額の精算」
控除制度の目的
税制の根幹には、「公平・中立・簡素」という3つの原則があります。控除制度は、このうち「公平」を保つために設けられており、納税者の経済的負担を軽減して公平な課税を実現することを目的としています。たとえば、扶養控除は家族を養う人の負担を軽減し、医療費控除は医療費の負担を考慮するなど、条件を満たせば誰もが平等に控除が受けられます。
また控除制度は、納税者本人の所得金額をはじめ、家族構成といった個人の状況を加味した納税額になるよう多くの種類が設けられており、それぞれに適用条件が設けられています。
出典:内閣府「「わが国税制の現状と課題 -21世紀に向けた国民の参加と選択-」要約」
控除の種類
控除の種類には、大きく分けて「所得控除」と「税額控除」の2つがあります。
「所得控除」は、所得から一定額を差し引くことで課税対象額を減らし、結果として納税額を軽減する制度です。一方、「税額控除」は、算出された税額から直接差し引くことで納税額を軽減する制度です。
ここでは、控除の種類を「所得控除」と「税額控除」に分けて解説します。
【関連記事】
税金の控除制度とは? 所得控除・税額控除の種類や違いを解説
所得控除
所得控除は、所得から一定額を差し引くことで課税対象額を減らす制度です。会社員の場合は、多くの所得控除が年末調整で申告が可能です。
年末調整で申告できる所得控除
控除名 | 概要 | 控除対象 |
---|---|---|
基礎控除 |
納税者本人の控除 合計所得金額により控除額が異なる 2,400万円以下:48万円 2,400万円超2,450万円以下:32万円 2,450万円超2,500万円以下:16万円 | 全ての納税者に適用 |
扶養控除 |
扶養している家族がいる場合に受けられる控除 19歳以上23歳未満:63万円 70歳以上で同居:58万円 70歳以上で別居:48万円 上記以外:38万円 | 扶養親族がいる場合 |
配偶者控除 |
配偶者の所得が一定範囲内である場合に受けられる控除 納税者本人の合計所得900万円以下:38万円(48万円) 納税者本人の合計所得900万円超950万円以下:26万円(32万円) 950万円超1,000万円以下:13万(16万円) ※括弧は配偶者が70歳以上の場合 | 配偶者の合計所得金額が48万円以下 |
配偶者特別控除 |
配偶者の所得が一定範囲内である場合に受けられる控除 控除額:1~38万円 ※本人と配偶者の所得により異なる | 配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下 |
ひとり親控除 |
未婚のひとり親を支援するための控除 控除額:35万円 | 合計所得金額が500万円以下のひとり親 |
寡婦控除 |
夫が亡くなったり離婚した場合に、経済的負担を軽減するための控除 控除額:27万円 | 合計所得金額が500万円以下の寡婦(ひとり親控除の対象者を除く) |
勤労学生控除 |
勤労しながら学生である場合に受けられる控除 控除額:27万円 | 給与収入が130万円以下(合計所得金額が75万円以下)で勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下 |
障害者控除 |
障害を持つ本人や家族を扶養している場合に受けられる控除 障害者:27万円 特別障害者:40万円 同居特別障害者:75万円 | 本人や扶養親族が障害者の場合 |
社会保険料控除 | 支払った社会保険料(健康保険、年金保険料など)を控除 | 納税者が支払った社会保険料 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済や確定拠出年金などの掛金等を支払った金額を控除 | 小規模企業共済やiDeCoなどの掛金を支払った場合 |
生命保険料控除 | 支払った生命保険料を一定の計算式に当てはめて計算して算出した額を控除(上限12万円) | 納税者が生命保険料を支払った場合 |
地震保険料控除 | 支払った地震保険料を一定の計算式に当てはめて計算して算出した額を控除(上限5万円) | 納税者が地震保険料を支払った場合 |
年末調整で申告できない主な所得控除
控除名 | 概要 | 控除対象 |
---|---|---|
医療費控除 | 医療費が一定額を超えた場合、その超過分を控除 | 自身や生計を一にしている家族の医療費 |
寄附金控除 | 寄附金(ふるさと納税など)を支払った場合に受けられる控除 | 国や地方自治体、NPO団体など特定の寄附先に寄附をした場合 |
雑損控除 | 自然災害や事故による損失を補償するための控除 | 被災した場合など、一定の損失が発生した場合 |
【関連記事】
所得控除とは?種類や対象者、計算方法などを解説
基礎控除とは何か?「所得」と「控除」の関係について
令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書の書き方まとめ!基礎控除の概要や注意点を解説
税額控除
税額控除は、算出された税額から直接差し引くことで納税額を軽減する制度です。会社員の場合は、年末調整時に住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の申告が可能です。
年末調整で申告できる税額控除
控除名 | 概要 | 控除対象 |
---|---|---|
住宅借入金等特別控除 |
住宅ローン等を利用してマイホームを購入した場合に受けられる控除
住宅ローン残高を一定の計算式に当てはめて計算した金額が控除される | 住宅ローンを利用して住宅を購入または増改築した場合 (1年目は確定申告のみ。2年目から年末調整で申告可能) |
年末調整で申告できない主な税額控除
控除名 | 概要 | 控除対象 |
---|---|---|
配当控除 | 株式などの配当金に対して課税される所得税を軽減する控除 | 株式などから配当を受け取った人 |
政党等寄附金特別控除 | 政党や一定の公益団体への寄附金に対して適用される税額控除 | 政党等に寄附を行った人 |
控除を受けるための手続き
会社員が控除を受けるためには、年末調整を通じて手続きする必要があります。年末調整は、会社が従業員の所得税額を計算し、過不足分を精算する手続きです。
基本的には年末調整を通じて控除を適用できますが、年末調整で適用できない控除や追加の控除を受けたい場合は、確定申告を行う必要があります。逆にいえば、年末調整で申告した控除以外に適用を受けないのであれば、確定申告を行う必要はありません。
年末調整
年末調整では、給与所得者が1年間に支払った税金を正確に算出し、過不足を精算する手続きが行われます。
年末調整で適用する控除の申告をする際は、会社から配布される申告書に必要事項を記入し、生命保険料など控除証明書類の添付が求められるものについては、証明書の原本を会社に提出することで適用されます。
会社から配布される申告書ごとに適用できる控除は以下のとおりです。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
・扶養控除・ひとり親控除・障害者控除などを申告する書類 - 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
・基礎控除・配偶者控除などを申告する書類 - 給与所得者の保険料控除申告書
・生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除などを申告する書類
医療費控除やふるさと納税などの寄附金控除、雑損控除などは年末調整で申告することができません。これらの控除を受けるためには、年末調整を終えたあとに、自身で確定申告を行う必要があります。
【関連記事】
年末調整とは?概要・目的・手順から必要書類までわかりやすく解説
確定申告
確定申告は、個人事業主などの自営業者をはじめ、年末調整で申告できない控除がある場合に必要な手続きです。年末調整で適用できない医療費控除やふるさと納税による寄附金控除、雑損控除などを申告するために確定申告を行います。
なお、ふるさと納税に関しては、確定申告が不要なワンストップ特例制度を利用することで確定申告を省略することができます。ただし、医療費控除など別の控除を申告する場合は、ワンストップ特例制度を利用していても確定申告を別途行う必要があるので注意が必要です。
【関連記事】
確定申告とは?全くわからない人向けに申告の流れ・対象者について解説!
まとめ
控除制度を活用することで、課税される所得を抑えることができ、節税につなげることができます。会社員の場合は年末調整で多くの控除が適用されますが、医療費控除やふるさと納税の寄附金控除など、一部の控除は確定申告が必要です。
控除を正しく申告しないと適用されるはずの税金の軽減が受けられないため、制度の仕組みを理解し、必要な手続きを適切に行うことが大切です。年末調整や確定申告の際には、対象となる控除を確認し、必要書類を準備して申告をしましょう。
入退社管理や給与計算などをカンタンに行う方法
入退社時に必要な書類の作成がラクに
よくある質問
控除とは?
「一定の金額を差し引く」という意味で、収入などから一定額を差し引くことで税金の負担を軽減する制度のことです。
詳しくは記事内「控除とは」をご覧ください。
控除は節税になる?
年末調整や確定申告で自身に適用される控除を適切に申告することで、課税される所得を抑えることができ、節税につながります。
詳しくは記事内「控除とは」をご覧ください。
控除と還付の違いは?
控除は「税金の計算時にあらかじめ差し引かれる」ものであるのに対し、還付は「すでに納めた税金の一部が後から返還される」点に違いがあります。
詳しくは記事内「還付との違い」をご覧ください。