人事労務の基礎知識

賃金とは?最低賃金制度や支払いのルールなどを解説

監修 北 光太郎 きた社労士事務所

賃金とは?最低賃金制度や支払いのルールなどを解説

賃金とは、従業員の労働への対償として会社が支払うお金の総称です。会社は雇用契約を締結した際に、労働者が提供した労働に対して賃金を支払う義務が課されています。

本記事で解説する賃金の支払いに関するルールや注意点を理解したうえで、適切に従業員へ支払いができているか改めて確認しましょう。

目次

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賃金とは

賃金とは、会社が従業員に「労働の対価として支払う報酬」のことです。

労働基準法第11条では、賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています。

賃金の具体例は以下のとおりです。

賃金の具体例

  • 基本給
  • 賞与
  • 通勤手当
  • 扶養手当
  • 技能手当
  • 住宅手当

なお、恩恵的な給付である結婚祝金、死亡弔慰金などは基本的に賃金に該当しません。しかし労働協約・就業規則などに支給基準や支払条件が明確に定められている場合は、賃金に該当します。


出典:厚生労働省「賃金とは」

給与との違い

法律上、賃金と給与を明確に区別する定義はありません。

前述の労働基準法の定義では、給与は賃金に含まれており、賃金のほうが幅広い意味を持っていると考えられます。

一方で、所得税法では「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と定義されており、会社から支給される金銭や現物給与なども含むと考えることもできます。

なお、給与に似た言葉である「給料」は、基本給のことをいい、各種手当などを含めたすべての賃金を「給与」といいます。


出典:e-Gov法令検索「所得税法 第28条」

賃金の支払いに関するルール(5原則)

賃金の支払いに関するルールは、労働基準法第24条で「賃金の支払いの5原則」として定義されています。

賃金の支払いの5原則は以下のとおりです。

賃金の支払いの5原則

  • 通貨払い
  • 直接払い
  • 全額払い
  • 毎月払い
  • 一定期日払い

通貨払い

給与の支払いは通貨払い、つまり現金での手渡しが原則です。ただし、従業員の同意を得た場合のみ例外として銀行振込が認められています。

なお、現在では銀行振込が一般化しており、書面での同意までは求めていません。従業員が賃金の振込先として本人名義の銀行口座を指定すれば、労働者の「同意」が得られていると判断されます。

また、法令または労働協約によって別段の定めがあれば現物で支給することも可能です。

直接払い

給与は従業員に直接支払うのが原則です。

金融機関へ振り込む場合は、家族などの口座ではなく、本人の口座へ振り込みます。

全額払い

給与は全額払いが原則です。貸付金との相殺は認められていません。しかし、所得税や住民税、厚生年金や健康保険など社会保険料は法律で決められた控除を行ったうえで給与を支給できます。

また、労働組合あるいは労働者の過半数の代表者と書面で取り決めを行えば、社宅の費用や財形貯蓄を控除することも可能です。

遅刻や早退の取り扱い

前述のとおり、給与は全額払いを原則とする一方で、「ノーワーク・ノーペイ」の原則から、遅刻や早退で働いていない時間分の賃金の控除は可能です。

ただし就業規則において、遅刻や早退の際の賃金の計算方法を取り決める必要があります。

遅刻や早退の場合に控除できる賃金は、働いていない時間の分に限られます。そのため、遅刻や早退をした時間にかかわらず「遅刻3回で1日分の賃金を控除」といった形で規定することは労働基準法違反です。

たとえば、30分の遅刻を2回、2時間の遅刻を1回した場合に、1日の所定労働時間である7時間分をすべて控除してしまうのは違法となります。

しかし、遅刻したことのペナルティとして、従業員に減給の制裁を行うことは可能です。減給できる額の上限は、1回につき1日分の平均賃金の半額で、1回の賃金支払期の10分の1を総額で超えない範囲とされています。

毎月払い

労働者へ賃金は、毎月1回以上支払うことが決められています。年棒制の場合でも毎月払いになるように分割して支払う必要がありますが、毎週の支払い(週給)も認められます。

ただし、賞与や一定の期間の出勤成績をもとに支払われる精勤手当など、臨時に支払われる賃金については毎月払いの対象外です。

なお、通勤定期代を3ヶ月や6ヶ月分まとめて前払いすることは認められています。

一定期日払い

給与の支給日は「毎月20日」「毎月25日」といったように定め、一定期日に支払うことが義務づけられています。給与の支払日が休日にあたる場合は、支払日の繰り上げも繰り下げも可能です。

ただし「毎月第3何曜日」という決め方は認められません。この場合は、月によって支払日が一週間の範囲で変動するためです。

賃金の支払いにおける注意点

賃金の支払いにおいては前述の5原則を踏まえたうえで、特に以下の3点に注意しましょう。

賃金の支払いにおける注意点

  • 最低賃金が定められている
  • 時間外や休日の労働には賃金を割増する
  • 会社都合による休業には手当の支給が必要

それぞれについて詳しく説明します。

最低賃金が定められている

賃金の支払いにおいては「最低賃金制度」というルールが存在します。

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、会社側がその最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければならないとする制度のことです。

最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象に定められた「特定最低賃金」の2種類があります。

地域別最低賃金は、正社員やパートタイマーなど、職種や雇用形態に関係なく都道府県内で働くすべての従業員に対して適用されます。最新の金額は、厚生労働省が公表している「地域別最低賃金の全国一覧」から確認が可能です。

一方の特定最低賃金は、特定産業に従事している従業員に適用されるもので、都道府県によっても金額が異なります。たとえば、北海道なら乳製品や糖類製造業の産業に従事した場合に特定最低賃金が適用されるというものです。

なお、地域別と特定(産業別)の両方の最低賃金が同時に適用される従業員は、高いほうの最低賃金額が適用されます。


出典:厚生労働省「最低賃金制度」

時間外や休日の労働には賃金を割増する

従業員に時間外労働、深夜労働(午後10時〜午前5時)、または休日労働をさせる場合は、会社は割増賃金を支払う必要があります。


法定時間外の労働・深夜労働の場合2割5分以上の割増
法定休日の労働3割5分以上の割増

なお、企業規模問わず時間外労働が60時間を超えた場合は、その時間に対して5割の割増賃金を支払う必要があります。

たとえば、時間外労働時間が60時間を超えて深夜労働をした場合は、7割5分の割増賃金を支払う必要があるということです。

会社都合による休業には手当の支給が必要

会社の都合により従業員を休業させた場合、休業させた日については平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません。

会社都合には「経営不振による休業」や「資材不足による休業」などが該当し、台風などの自然災害によるものは該当しません。

また、平均賃金は原則として事由の発生した日以前3ヶ月間に従業員へ支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額です。

たとえば、3ヶ月間の総額が91万円だった場合は、以下のように算出します。

休業手当の計算方法

  • 平均賃金 = 91万円 ÷ 91日(暦日数)=1万円
  • 休業手当 = 1万円×60% = 6,000円

ただし、賃金が時間額や日額、出来高給で決められており、労働日数が少ない場合などは、総額を労働日数で割った金額の6割と比べて高いほうを適用します。

まとめ

賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています。

賃金は、「賃金の支払いの5原則」として、「毎月一定期日に通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」と定められており、原則本人以外に支給することは認められていません。

また、賃金には最低賃金が定められており、会社側は最低賃金以上の賃金を従業員に支払う必要があります。

最低賃金は、時給のパートタイマーだけではなく、正社員にも適用されるため、更新された際には月給で支給している従業員の賃金が最低賃金を下回っていないかも確認しましょう。

よくある質問

賃金とは?給与との違いは?

法律上、賃金と給与を明確に区別する定義はありません。労働基準法の定義では、給与は賃金に含まれており、賃金のほうが幅広い意味を持っていると考えられます。

詳しくは、記事内「賃金とは」をご覧ください。

最低賃金制度とは?

最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、会社側がその最低賃金額以上の賃金を従業員に支払わなければならないとする制度のことです。

最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象に定められた「特定最低賃金」の2種類があります。

詳しくは、記事内「最低賃金が定められている」で解説しています。

監修 北 光太郎

きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。

北 光太郎

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