建設業の一人親方などの自営業者は、労働者ではないため、労災保険の対象にはなりません。しかし、特別加入団体を通じて特別加入することが可能です。労災に加入すれば、業務上の災害に遭っても治療費の負担がなく、休業補償も受けられます。この記事では、労災保険の特別加入についてや手続き方法、保険料について詳しくご紹介していきます。
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目次
労災保険の特別加入とは
労災保険は、企業に雇用される労働者を対象としています。業務上あるいは通勤に起因して、負傷や疾病、障害、死亡が起きたときに保険給付を行う、保険制度です。
労災保険は企業に雇用される労働者を対象としています。そのため、建設業に多い一人親方など、労働者ではなく独立して仕事を請け負う自営業者は対象となりません。
そこで、特定の事業に従事し労働者を使用しない自営業者は、労災保険に特別加入することが可能となっています。
個人事業主が労災保険に特別加入するメリット
個人事業主が労災保険に特別加入するメリットは、仕事上で心身に支障をきたしたとき、労働者並みの保護を受けられるという点です。業務上の負傷などの治療が、自己負担なしで受けられます。
また、労働ができない場合の休業補償給付や、障害が残った場合の障害補償給付、万が一死亡した場合には、遺族に対して遺族補償給付などを受けることができます。
労災保険に特別加入できる個人事業主
労災保険特別加入の対象となるのは、仕事の性質上、体を負傷しやすいと考えられる、以下の個人事業主です。
- 個人タクシー業者や個人貨物運送業者などの、自動車を使用して行う旅客または貨物の運送の事業
- 大工、左官、とび職など、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊もしくは、解体またはその準備の事業(除染を目的として行う洗浄や堆積物の除去などの原状回復の事業も含む)
- 漁船による水産動植物の採捕事業
- 林業の事業
- 医薬品の設置販売の事業
- 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
- 船員法第1条に規定する船員が行う事業
労災保険に特別加入するときに必要な手続き
続いて、労災保険の特別加入の手続き方法や、労災保険料などについて説明します。 まず、特別加入の申請は個人で直接行うことができないことに注意してください。必ず、団体を通じて行わなければなりません。
労災保険の特別加入の手続き方法とは
労災保険の特別加入においては、都道府県労働局長から承認を受けた一人親方などの団体を、特別加入団体として、事業主とみなします。この特別加入団体を通じて、労災保険への特別加入の手続きを行います。
労災保険に特別加入するための手続き方法は、2種類あります。
1.新たに特別加入団体を立ち上げて申請する
新たに特別加入団体を立ち上げて、都道府県労働局長に申請し、承認を得ます。
特別加入団体として認められるには、「相当数の一人親方等で構成される単一の団体である」「団体の運営方法が整備されている」「労働保険事務を処理できる事務体制や財務体制が整えられている」といった要件があります。
2.特別加入団体として認められている組合を通じて申請
2つ目は、すでに特別加入団体として都道府県労働局長に認められている組合を通じて、加入申請する方法です。組合が「特別加入に関する変更届」を都道府県労働局長に提出することで加入できます。
なお、労災保険の特別給付の申請書(一人親方等)のサンプルはこちらです。
労災保険の特別加入での保険料
労災保険に特別加入する場合は、希望する給付基礎日額と事業による保険料率によって、労災保険料が異なります。
特別加入の年間の労災保険料=給付基礎日額×365×保険料率
特別加入で健康診断が必要なケースとは
労災保険への特別加入を希望する人のうち、特定の業務に一定期間以上携わっている人は、加入申請時に健康診断を受ける必要があります。
健康診断に行くための交通費は加入希望者負担となりますが、健康診断に関する費用は国が負担しています。対象となる業務と従事していた期間は以下のとおりです。
<加入時に健康診断が必要な業務の種類>
業務の種類 | 業務に従事した期間 (通算期間) | 必要な健康診断 |
粉塵(ふんじん)作業を行う業務 | 3年以上 | 塵肺(じんぱい)健康診断 |
振動工具を使用する業務 | 1年以上 | 振動障害健康診断 |
鉛業務 | 6ヵ月以上 | 鉛中毒健康診断 |
有機溶剤業務 | 6ヵ月以上 | 有機溶剤中毒健康診断 |
参考:厚生労働省「労災保険特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>」
健康診断の結果によっては、すでに疾病にかかっている場合、療養に専念することが必要とされるケースや、特定業務からの転換を求められるケースもあります。
また、特別加入前にかかっている疾病が原因で発症した場合には、保険給付を受けられないこともあります。
労災の休業補償
特別加入で労災保険の補償となる範囲や休業補償についてご紹介します。
特別加入で労災の補償の対象となる業務
特別加入の場合、業務上の災害で、労災保険の適用対象となる範囲は事業ごとに決められ、主たる業務に直接関連することに限られています。
例えば、建設業の一人親方の場合は、請負契約に直接必要な行為や、請け負った工事現場での作業及び附帯業務、請け負った工事の機械や製品の運搬業務及び附帯業務、請負業務に関わる自家内作業場での作業等が挙げられます。また、台風などの突発事故による緊急出動も含まれます。
通勤災害による保険給付は、個人タクシー業者と個人貨物運送業者、漁船による漁業者は適用されません。
労災の休業補償とは
業務上や通勤上の災害によって負傷や疾病を生じたときには、治療費は療養補償給付として支給されるため、医療費の負担なく治療を受けることができます。
4日以上続けて療養のために仕事ができない場合には、4日目以降は、給付基礎日額の6割の休業補償給付と2割の休業特別支給金が支給されます。
つまり、給付基礎日額の8割の休業補償が受けられるのです。必要な補償が受けられるように、負担する労災保険料とのバランスも考慮し、給付基礎日額を決めておくことが大切です。
まとめ
一人親方などの自営業者は、労災保険に特別加入することで、万が一業務中にケガをしたときに、治療費や生活費を心配する必要がなくなります。また、建設業の場合、元請会社のリスク回避のため、労災保険に特別加入をしていないと、建設現場に入れないこともあります。仕事の受注にも影響しますので、検討してみることをおすすめします。
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