人事労務の基礎知識

社会保険の扶養から外れるとどうなる?事業主・従業員が必要になる手続きを解説

社会保険の扶養から外れるとどうなる?事業主・従業員が必要になる手続きまとめ

本記事では、社会保険の扶養から外れる条件や外れた場合の影響、事業主・従業員それぞれで必要になる手続きを解説します。

社会保険の扶養から外れると、社会保険料がかかって手取りが減る場合や公的保険による保障内容が変わって万が一への備え方が変わります。扶養から外れる前と後で何が変わるのか理解しておきましょう。

目次

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配偶者や子どもが社会保険の扶養から外れるタイミングとは

一定の条件に該当すると扶養から外れて社会保険の加入義務が生じます。

主なケースは「106万円の壁を超えた場合」と「130万円の壁を超えた場合」の2つです。扶養から外れる具体的な条件がそれぞれ法律で決まっています。

1.106万円の壁を超えて社会保険の加入義務が生じた場合

「週の所定労働時間・月の所定労働日数がフルタイム労働者の4分の3未満の労働者」でも、以下の条件を満たすと自分で社会保険に入らなければいけません。

社会保険の加入要件

● 週の所定労働時間が20時間以上
● 賃金が月額8.8万円以上
● 雇用期間の見込みが2ヶ月超
● 学生ではない
● 企業の従業員数が101人以上(2024年10月以降は51人以上)
条件のひとつである月額8.8万円は年収換算でおよそ106万円であり、「106万円の壁」と呼ばれます。

今まで家族の扶養に入っていた人でも、条件に該当すれば扶養から外れてしまいます。106万の壁についての詳細は、別記事「106万の壁を超えたらどうなる?対象者や130万の壁との違いを解説」もあわせてご確認ください。

2.130万円の壁を超えて扶養条件を満たさなくなった場合

年収130万円を超えた場合は、自分で社会保険に入ります。これを「130万円の壁」と呼びます。

年収が106万円を超えても、「週の所定労働時間が20時間以上」や「雇用期間の見込みが2ヶ月超」など上述の条件のうちひとつでも満たさなければ社会保険の加入義務は生じず家族の扶養に入り続けられます。

家族の扶養に入るための基本的な条件は以下の通りです。

家族の扶養に入る条件

【扶養の認定を受ける人が家族と同一世帯に属している場合】
年収が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である

【扶養の認定を受ける人が家族と同一世帯に属していない場合】
年収が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)、かつ被保険者からの援助による収入額より少ない
「130万円の壁」を超えた場合は、扶養に入るための条件が満たせず、扶養から外れるため、自分で社会保険に加入します。

家族の扶養から外れた従業員の社会保険はどうなる?

従業員が家族の扶養から外れると、一般的には「会社の健康保険・厚生年金保険」か「国民健康保険・国民年金」のいずれかに加入します。

どちらに該当するのかによって従業員や会社が行う手続きが変わります。

会社の健康保険・厚生年金保険に加入する場合

106万円の壁を超えて従業員が社会保険の加入条件を満たした場合、その従業員は会社の健康保険・厚生年金保険に加入します。

健康保険料・厚生年金保険料はいずれも半分を従業員が、もう半分を会社が負担する仕組みです。

厚生年金の保険料率は18.3%、健康保険の保険料率は加入する健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)の都道府県ごとに異なります。たとえば協会けんぽ加入者で東京勤務・35歳の方であれば、令和5年度の健康保険料率は10.0%です。

健康保険料・厚生年金保険料の計算例

・健康保険制度:協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入
・勤務地および年齢:東京都勤務・35歳
・月収:11万円(標準報酬月額:11万円)
・健康保険料(月額):11万円×10%=11,000円(労使で半額ずつ負担)
・厚生年金保険料(月額):11万円×18.3%=20,130円(同上)
家族の扶養から外れると健康保険料・厚生年金保険料が合計で31,130円かかります。従業員と会社がそれぞれ15,565円ずつ負担し、従業員負担分は毎月の給与から天引きされます。

国民健康保険・国民年金に加入する場合

家族の扶養から外れた場合で会社の健康保険・厚生年金保険の加入条件を満たさない場合、健康保険は従業員が居住する自治体が運営する国民健康保険に加入して年金は国民年金に加入します。

従業員本人が国民健康保険料や国民年金保険料を自分で払うので事業主に保険料負担は生じません。

国民健康保険料は従業員が居住する自治体によって異なり、国民年金の保険料は月額16,520円(令和5年度)です。ただし前納でまとめて払う場合は割引が適用されて負担が軽くなります。

社会保険の扶養から外れると従業員にどんな影響がある?

社会保険の扶養から外れると従業員にはさまざまな影響が生じます。以下では、扶養から外れるメリット・デメリットについて解説します。

社会保険料がかかって手取りが減る

106万円の壁や130万円の壁を超えて家族の扶養から外れると、社会保険料がかかって手取りが減る場合があります。

扶養から外れる前より年収(額面)が増えても、それ以上に社会保険料による負担が増えれば手取りが減ってしまいます。

収入を増やすために多く働いたにも関わらず、手取りが減って逆に生活が苦しくなる可能性があるため、扶養から外れると手取りがどのように変わるのか、あらかじめ確認しましょう。

健康保険による保障内容や将来の年金額が変わる

会社の健康保険・厚生年金保険に加入する場合、健康保険では傷病手当金や出産手当金の支給対象になり、厚生年金保険では平均標準報酬月額に応じて将来もらえる年金額が増えます。

家族の扶養から外れる前より保障内容が充実します。病気やケガ、出産で仕事を休む場合、傷病手当金や出産手当金の支給条件を満たせば、平均標準報酬月額÷30日×手当金ごとの規定日数分の3分の2相当額を受け取れます。

一方で国民健康保険・国民年金に加入する場合、国民健康保険では傷病手当金や出産手当金は基本的にありません(※)。

年金に関しては、原則として65歳以降に受け取れる国民年金の老齢基礎年金額は、加入可能期間の全期間保険料を納付した場合に満額で年78万円ほどであり、厚生年金保険に加入して老齢厚生年金も受給できる人に比べて年金額は少なくなります。

※新型コロナウイルス感染症の拡大により国民健康保険から傷病手当金の給付が行われていますが、5類感染症に位置付けられるため、多くの自治体で令和5年5月に終了する予定です

家族が払う税金が高くなる場合がある

自分の年収が増えると、社会保険の扶養から外れるだけでなく家族が払う税金が高くなる場合があります。注意したい年収額のひとつが150万円です。

一般的に「150万円の壁」と呼ばれ、自分の年収が150万円を超えると家族の税金を計算する際の配偶者特別控除額が少なくなり、税金が高くなるケースも考えられます。

自分の年収が106万円や130万円を超えて扶養から外れた後、年収がさらに増えて150万円を超えた場合は、家族の税金が高くなって世帯の手取りが思ったより増えない場合があります。

社会保険の扶養から外れた場合の手続きの種類と期限

社会保険の扶養から外れた場合、事業主・従業員それぞれで手続きがあります。手続き期限が決まっているので、忘れずに実施しなくてはなりません。

事業主側の手続き

事業主側の手続きは、下記の2点です。

事業主の手続き

1 扶養から外れる従業員が勤務する会社で行う手続き
2 その従業員が扶養に入っている家族が勤務する会社で行う手続き
まず①ですが、従業員が扶養から外れて会社の健康保険・厚生年金保険に加入する場合は勤務先で加入の手続きを行います。

「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を会社の所在地を管轄する年金事務所(または健康保険組合)に5日以内に提出します。

つづいて②の手続きですが、扶養から外す手続きと健康保険証の返却を行い、「健康保険被扶養者(異動)届」を会社の所在地を管轄する年金事務所(または健康保険組合)に5日以内に提出します。

扶養から外れる人の健康保険証は回収したうえで当届出をします。

従業員側の手続き

扶養から外れる人は、以下2つの手続きを行います。

事業主の手続き

1 家族の扶養から外れる手続き
2 自分が社会保険に加入する手続き
まずは家族の勤務先で扶養から外れる手続きを行うので、手続きで必要になる書類が何か、家族に勤務先で確認してもらいます。

これまで使っていた健康保険証はこの手続きをする際に返却します。

社会保険の加入手続きは、会社の社会保険に加入する場合には勤務先の指示に従って手続きを進め、国民健康保険・国民年金に加入する場合は居住する自治体の窓口等にて自分で手続きします。

会社の社会保険に加入する場合は、どのような手続きがあるのか勤務先に確認するようにしてください。国民健康保険・国民年金に加入する場合は14日以内に手続きを行います。

加入手続きで必要になる書類等を、あらかじめ居住する自治体の窓口で聞いて確認しておくことが大切です。

手続きの際、家族の扶養から外れた証明として「健康保険資格喪失証明書」を提出しますが、当証明書はこれまで扶養に入っていた家族の勤務先等で交付を受けられます。

社会保険について事業主側がすべきこと

従業員の所定労働時間や給与額など、勤務状況によって社会保険の加入有無が変わります。事業主は社会保険の加入条件を理解して、必要な手続きについて従業員に正しく伝えることが大切です。

加入義務があるにも関わらず手続きを忘れると、日本年金機構から指摘を受けたり過去分の社会保険料も遡ってまとめて払う事態になったりするため、負担が重くなる場合があります。

従業員が家族の扶養から外れる場合は、期限までに手続きを行います。

勤務時間の管理や社会保険料の計算では時間や手間がかかる場合が多いので、少しでも効率化して負担を減らす意識をもって取り組みましょう。

新たに従業員を採用して人事労務担当者を配置したり、専用のアプリやソフトを導入して勤務時間管理や給与計算を自動化したりすれば、業務を効率化できる場合があります。

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まとめ

年収が106万円や130万円を超えると、従業員が扶養から外れて社会保険への加入義務が生じる場合があります。従業員として働く側も事業主として従業員を雇う側も、社会保険の扶養から外れる条件を正しく理解しておくことが大切です。

扶養から外れると、一般的には会社の健康保険・厚生年金保険に加入するか国民健康保険・国民年金に加入します。

手続き期限は、お勤め先で社会保険の加入手続きを行う場合は5日以内、国民健康保険・国民年金に加入する場合は14日以内です。扶養から外れる場合は期限までに手続きをしてください。

よくある質問

従業員が社会保険の扶養から外れるとどうなる?

社会保険料がかかるため手取りが減る、健康保険の保障内容や年金額が変わる、家族が払う税金が高くなる可能性があります。

従業員が社会保険の扶養から外れるとどうなるのか、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

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