監修 北 光太郎 きた社労士事務所

退職証明書とは、労働者が退職した事実や退職日、使用期間などを証明する書類です。転職先の企業や自治体から求められることがあり、労働者の請求があった場合に企業に交付が義務付けられています。
本記事では、退職証明書が必要なタイミングや取得方法、注意点について詳しく解説します。
目次
退職証明書とは
退職証明書とは、労働者が退職した事実や退職日、使用期間などを証明する書類です。主に転職先の企業や自治体から提出を求められることがあります。
退職証明書は、労働基準法第22条にもとづいて従業員が請求すれば会社は遅滞なく交付しなければなりません。なお、退職時に発行が義務付けられてはいないため、従業員から請求がない場合は発行の必要はありません。
労働基準法第22条(退職時等の証明)
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
記載内容については、退職者が求めた事項に限られます。特定の書式は定められていませんが、一般的には社名や代表者名、押印がある正式な書類として作成されます。
退職証明書と離職票との違い
退職証明書と離職票はどちらも退職に関連する書類ですが、その目的や役割に違いがあります。退職証明書は、退職した事実や使用期間を証明するための書類で、主に転職先の企業や自治体から求められることがあります。
一方、離職票は雇用保険の失業給付を受ける際に必要となる書類で、退職後にハローワークへ提出するためのものです。
また、発行の義務についても異なり、退職証明書は労働者からの請求があった場合にのみ交付されます。これに対して離職票は、雇用保険の被保険者であった従業員が退職した場合に、一定の要件を満たせば会社は発行しなければなりません。
記載内容についても、退職証明書は請求者が求める項目のみが記載されるのに対し、離職票には退職理由や賃金情報などが詳細に記載される点に違いがあります。
退職証明書 | 離職票 | |
---|---|---|
目的 | 退職の事実や使用期間の証明 | 失業給付の申請に必要 |
提出先 | 転職先企業、自治体など | ハローワーク |
発行義務 | 労働者の請求があれば発行義務あり | 退職者が59歳未満で離職票を希望しない場合を除いて発行義務あり(59歳以上の退職者は必ず発行) |
記載内容 | 退職日、使用期間、退職理由など (請求者が求めた範囲) | 退職理由、賃金、被保険者期間など |
法的根拠 | 労働基準法 | 雇用保険法 |
書式 | 法的な決まりはなく、企業ごとに異なる | 指定の書式 |
発行対象者 | 請求したすべての退職者 | 一定条件を満たす雇用保険の被保険者だった退職者 |
退職証明書の記載項目
退職証明書の記載項目は労働基準法第22条1項で定められています。
退職証明書に記載されるもの
- 使用期間
- 業務の種類や内容
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(解雇の場合は解雇理由)
なお、退職証明書に記載する項目については「労働者の請求しない事項を記入してはならない」と法律で定められているため、請求がない項目については記載する必要はありません(労働基準法第22条3項)。つまり、上記すべての項目を記載しなければならないというわけではないのです。
退職証明書が必要となるタイミング
退職証明書は、退職時に必ず会社から発行されるものではありません。従業員が退職証明書を必要とする場合に、従業員から会社に対して請求して発行されるものです。
ここでは、退職証明書が必要となるタイミングを紹介します。
退職後に国民健康保険・国民年金へ加入するとき
会社を退職後に社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の資格を喪失し、国民健康保険や国民年金へ加入する場合は、自治体の窓口で加入手続きを行う必要があります。その際に、会社を退職したことを証明するものとして退職証明書の提出を求められることがあります。
通常、健康保険や年金の切り替え手続きには、離職票や健康保険の資格喪失証明書が必要です。ただし、これらの書類が手元にない場合は代替書類として退職証明書が求められることがあります。特に離職票の発行に時間がかかる場合や、すぐに手続きを進めたい場合には退職証明書を活用するとスムーズに進められます。
自治体によって求められる書類が異なることがあるため、事前に窓口に確認しておくことが大切です。
出典:豊島区「国民健康保険に加入するとき・やめるとき・その他届出」
出典:豊島区「国民年金の加入について」
転職先企業から提出を求められたとき
退職者が転職先企業から退職している事実や、前職での使用期間・退職理由を確認するために退職証明書の提出を求める場合があります。
転職先企業は採用選考の際に職歴・業務内容について書類や面接で知ることもできますが、それらはあくまでも応募者自身の申告です。
前職の会社が発行する退職証明書によって事実確認ができるため、転職先から提出が求められる場合があります。
退職証明書の取得方法
退職証明書は、退職者が前職の会社に発行を依頼することで取得できます。退職した会社の人事や総務担当者に連絡し、退職証明書の発行を依頼しましょう。
申請方法は、電話やメールなど企業によって異なるため、事前に確認しておくとスムーズです。なお、退職証明書は原則として退職日以降に発行されます。
退職証明書の発行を依頼する際は、希望する記載内容を明確に伝えましょう。伝えなかった内容については、記載されない可能性があるので注意が必要です。
また、会社によって発行までにかかる時間が異なるため、早めに申請して必要なタイミングに間に合うように余裕をもって準備することが大切です。
退職証明書に関する注意点
退職証明書の取り扱いについては以下の3点に注意しましょう。
- 失業給付の手続き時には退職証明書は原則不要
- 退職後2年経過すると退職証明書は交付できない
- 従業員が希望する内容を記載する
失業給付の手続き時には退職証明書は原則不要
失業給付の申請には離職票が必要となるため、原則として退職証明書は必要ありません。
ただし、何らかの理由で離職票の発行が遅れている場合などに行う「仮手続き」の際にハローワークで退職証明書の提出を求められることがあります。退職証明書が必ずしも必要とならない場合があるため、仮手続きの必要書類は事前にハローワークへ確認することをおすすめします。
退職後2年経過すると退職証明書は交付できない
退職証明書を請求する権利は、時効により退職後2年が経過すると権利が消滅します(労働基準法第115条)。退職後2年経過すると、退職証明書の発行ができなくなる可能性があるので注意が必要です。
会社によっては、退職から2年経過したあとに申請しても発行してくれる場合もありますが、法的な義務がないため、2年以上経過すると断られる場合が一般的です。そのため、転職活動や公的手続きで退職証明書が必要になる場合は、退職後できるだけ早めに取得しておくことが大切です。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法」
従業員が希望する内容を記載する
退職証明書に記載される内容は、従業員が希望する項目のみを記載することが原則です。会社側が一方的に内容を決定するものではありません。
たとえば、従業員から「転職先企業から業務内容と在籍期間を確認したいと言われたので、退職証明書を発行してもらいたい」といわれた場合、会社側で退職理由や賃金など求められていない内容まで書く必要はありません。
会社都合退職か自己都合退職かを明記すると、従業員の転職活動や公的手続きに影響を与える可能性があるため、不要な情報は記載しないようにしましょう。
また、退職証明書と離職票は、退職日や退職理由など内容が重複するところがあります。離職票の記載内容と矛盾がないように、注意しましょう。
まとめ
退職証明書は、退職した事実や使用期間を証明する書類として、転職先企業や自治体に提出する場合があります。退職者の請求があった場合は会社は必ず交付しなければなりません。
退職証明書に記載される項目は、退職者が請求した内容に限られ、それ以外の情報は記載されないため、会社に必要な情報を明確に伝えて請求しましょう。
退職後の手続きで必要になりそうな場合は、早めに会社へ申請して準備を進めることが大切です。
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よくある質問
退職証明書はどのようにもらう?
退職証明書は、退職者が前職の会社に発行を依頼することで取得ができます。退職した会社の人事や総務担当者に連絡し、退職証明書の発行を依頼しましょう。
詳しくは記事内「退職証明書の取得方法」をご覧ください。
退職証明書は何に使う?
退職後に国民健康保険・国民年金へ加入する場合や転職先企業から提出を求められたときに使用します。
詳しくは記事内「退職証明書が必要となるタイミング」をご覧ください。
退職証明書はいつもらえる?
原則として退職日以降に発行されます。会社によっては発行までにかかる時間が異なるため、早めに申請して必要なタイミングに間に合うように余裕をもって準備することが大切です。
詳しくは記事内「退職証明書が必要となるタイミング」をご覧ください。
監修 北 光太郎
きた社労士事務所 代表
中小企業から上場企業まで様々な企業で労務に従事。計10年の労務経験を経て独立。独立後は労務コンサルのほか、Webメディアの記事執筆・監修を中心に人事労務に関する情報提供に注力。法人・個人問わず多くの記事執筆・監修をしながら、自身でも労務専門サイトを運営している。
