人事労務の基礎知識

住民税の特別徴収とは?手続き方法や普通徴収との違いを解説

監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ

住民税の特別徴収とは?手続き方法や普通徴収との違いを解説

住民税の特別徴収とは、会社が従業員の給料から毎月住民税を天引きし、従業員が住む市区町村へ納入する制度のことです。

住民税の特別徴収は会社にとって義務であり、手続きの流れを理解したうえで確実な実施が求められます。一方、従業員にとってはメリットが複数ある制度のため、正しく理解しておくことが大切です。

本記事では、住民税の特別徴収の対象者や労務担当者が行う手続き、特別徴収と普通徴収の違いなどを解説します。

目次

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住民税の特別徴収とは

住民税の特別徴収とは、会社が毎月の給料を支払う際に住民税を差し引いて徴収し、従業員の代わりに市区町村へ納入する制度のことです。

住民税は、1月末までに会社が提出した前年の給与支払報告書などに基づいて、各市区町村が税額を算出して通知します。そのため、給与から差し引く住民税を会社が計算する必要はありません。

なお、住民税の納付方法には、「特別徴収」と「普通徴収」の2種類があります。普通徴収とは、従業員が自分で住民税を納付する方法のことです。


出典:e-Gov法令検索「地方税 第41条」
出典:e-Gov法令検索「地方税 第321条」
出典:神奈川県庁「個人住民税の特別徴収について」

住民税とは

住民税とは、地域の行政サービスの運営に必要な費用をその地域に住む人々が分担して負担する、地方税の一種です。

住民税には、「道府県民税(東京都の場合「都民税」」と「市町村民税(東京23区の場合「特別区民税」」の2種類があります。前年の所得に応じて算出された「道府県民税」と「市町村民税」を合わせて、その年の1月1日時点に住所がある区市町村に納付します。

住民税の税額は、所得に関係なく定額を負担する「均等割」と、前年の所得に応じて算出される「所得割」の合計額です。

均等割は通常、5,000円(市町村民税が3,500円、道府県民税が1,500円)と定められています。ただし2014年度から2023年度までの10年間は、東日本大震災を踏まえた防災費用の確保を目的とし、道府県民税と市町村民税ともに500円ずつ引き上げられています。

所得割としては、前年の所得額に応じて10%(市町村民税が6%、道府県民税が4%)が課されます。ただし政令指定都市においては、市民税8%、道府県民税が2%で合計10%です。

また上記以外にも、預貯金の利子や株式の配当などがある場合は課税対象です。住民税の計算方法は、以下のとおりです。

住民税の計算方法

住民税 = 所得割+均等割(+利子割+配当割+株式譲渡所得割)

住民税の計算方法に関してさらに詳しく知りたい方は、別記事「従業員の住民税の計算方法は?社員の入退社で会社が行う対応まとめ」をご覧ください。

事業者の住民税の特別徴収は義務

法人・個人を問わず、事業者には「特別徴収義務者」としてすべての従業員の給料から住民税を特別徴収する義務があります。

住民税の特別徴収は納付忘れを防いで確実な徴収を可能にするため、会社員の場合は特別徴収が原則となっています。従業員が会社に希望しても、普通徴収の選択はできません。

また、特別徴収義務者が徴収した住民税はすべて納入する必要があり、違反した場合は10年以下の懲役か200万円以下の罰金(ケースによっては両方)を受ける可能性があります。

出典:e-Gov法令検索「地方税法 第321条の4」
出典:e-Gov法令検索「地方税法 第324条の3」
出典:東京都主税局「特別徴収Q&A」

特別徴収の対象者

特別徴収の対象者は、正社員をはじめ、短期雇用者やアルバイト・パート、役員などを含むすべての従業員です。

前年中に給与の支払いを受けていて、当該年度の4月1日時点で給与の支払を受けている従業員であれば、必ず特別徴収をしなくてはなりません。

出典:東京都主税局「特別徴収Q&A」
出典:神奈川県「個人住民税の特別徴収について」

特別徴収の流れと事業所の労務担当者が行う手続き

特別徴収は、以下の流れで行います。特別徴収は「地方税法 第321条の4」及び、各自治体の条例によって決められています。ここでは、「神奈川県」を例に確認します。

1. 翌年1月31日まで
「事業者」が「従業員が居住する区市町村」へ給与支払報告書を提出

2. 5月31日まで
「従業員が居住する区市町村」より「事業者」へ特別徴収税額決定通知書を送付
「事業所」が「従業員」へ特別徴収税額を通知

3. 6月から翌年5月まで
「事業者」が「従業員」の給料より特別徴収を実施

4. 翌月10日まで
「事業者」が「従業員が居住する区市町村」へ特別徴収した税を納入

出典:e-Gov法令検索「地方税法 第321条の4」
出典:神奈川県「個人住民税の特別徴収について」

特別徴収の「納期の特例とは」

毎月の特別徴収をした税金は、原則として翌月の10日までに区市町村へ納入しなくてはなりません。ただし「納期の特例」もあります。

納期の特例とは、従業員が常時10人未満である場合に、市町村長(東京23区では区長)の承認を受けることで特別徴収税額の納入を年2回にできる制度のことです。

特例が適用されると、6~11月分の納入は12月10日まで、12~翌年5月分の納入は翌年6月10日までになります。ただし特例を適用する場合でも、従業員の給料から徴収は毎月行います。

出典:東京都中央区「納期の特例の申請と納入について」
出典:神奈川県横浜市「納期の特例の申請と納入について」

特別徴収で確認したいケース

事業所が従業員の特別徴収を行うにあたり、普通徴収から特別徴収へ切り替えるなど、通常とは別途対応が必要なケースはたびたび発生します。

ここでは、よくある対応について解説します。

入社等で普通徴収から特別徴収に切り替える場合

新たに従業員が入社した場合や求職者が復職した場合には、普通徴収から特別徴収に切り替える必要があります。特別徴収への切り替えには、特別徴収への切替申請書の提出が必要です。申請書の名称は、市区町村によって異なることもあります。

ただし、申請時点で既に普通徴収の納期限が過ぎている分に関しては、特別徴収に切り替えられません。

また、従業員がすでに納付している普通徴収分の領収書については、従業員本人が保管すべきものです。事業者に提出したり申請書に貼付したりしないように、注意しましょう。

出典:横浜市「Q&Aよくある質問集」
出典:豊島区「こんなときはどうしたら」

税額に変更が生じた場

特別徴収税額に変更が生じた場合は、従業員が居住する市区町村より「特別徴収税額通知書」が会社へ送付されます。

必ず通知書の内容を確認し、特別徴収する税額を変更しましょう。

4月退職の従業員で特別徴収税額決定通知書に記載がある場合

従業員に退職や休職などの異動があった場合、異動が生じた月の翌月10日までに「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を市区町村に提出する必要があります。

提出先は、特別徴収額決定通知書の送付元の市区町村です。

4月1日現在は在籍はなく途中入社した従業員がいる場合

4月1日時点では在席しておらず途中入社した従業員がいる場合、当該従業員が事業所を通じて特別徴収への切替申請書を提出することで切り替えできます。

提出先は、1月1日時点で従業員が居住している市区町村です。

普通徴収とは

特別徴収に対して、普通徴収は納税者が自ら住民税を納付する方法のことです。市区町村より自宅へ送られてくる納税通知書に従い、同封の納付書を使用して納付します。

納付方法は、コンビニエンスストアや役所の窓口などで行うのが一般的です。ただし市区町村によっては、クレジットカード払いやスマホアプリ決済などでの納付もできます。

出典:総務省「個人住民税」

クレジットカード払いで納付するとポイントが貯まりますが、決済手数料が発生するケースがあります。また、クレジットカード払いでは領収書が発行されない場合もあるので注意しましょう。

普通徴収の場合、以下の4回の納期限に分けての納付が可能です。

  • 6月末
  • 8月末
  • 10月末
  • 翌年1月末

普通徴収の対象者は、自営業者をはじめとする給与所得のない方です。また現在無職であっても、前年に一定以上の所得があった方は、普通徴収で住民税を納める必要があります。

さらに以下のケースでは、特別徴収から普通徴収への切り替えが認められます。

特別徴収から普通徴収への切り替えが認められる例

  • 総従業員が2名以下の事業所
  • 常時2名以下の家事使用人のみに対して給与を支払う事業所
  • 他の会社で支払われる給料にて特別徴収されている従業員
  • 5月31日までに退職予定の従業員
  • 給与が毎月支払われていない従業員
  • 給与が少なく特別徴収ができない従業員
  • 専従者給与が支給されている従業員(個人事業主のみ)

上記の事情がある場合、1月31日までに普通徴収の切替理由書を給与支払報告書と一緒に区市町村へ提出することで切り替えが可能です。

特別徴収と普通徴収の違い

特別徴収と普通徴収の違いを簡単に整理すると、以下のとおりです。


特別徴収普通徴収
対象者・正社員をはじめ、短期雇用者やアルバイト・パート、役員などを含むすべての従業員 ・前年中に給与の支払いを受けていて、当該年度の4月1日時点で給与の支払を受けている従業員・自営業者をはじめとする給与所得のない方 ・現在無職であっても、前年に一定以上の所得があった方 ・一定条件により、特別徴収から普通徴収への切り替えが認められた方
徴収回数年12回年4回
納税方法事業者が従業員の毎月の給料から天引きして各市区町村へ納入納税者が納付通知書を使用して自分で納付
メリット・1回の税負担が少ない
・会社が代わりに納めてくれる
・納付忘れが起きない
・クレジットカード払いでポイントがつく市区町村もある
デメリット・(事業者)事務負担が発生する
・徴収される側は税負担をしている自覚がなく知識が身につきにくい
・1回の税負担が大きい
・自分で納付しなくてはいけない
・住民税の滞納リスクがある

ここからは、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。

特別徴収のメリット・デメリット

特別徴収のメリットは、主に以下のとおりです。

  • 12回に分けて納めることから1回あたりの負担が小さい
  • 会社が納入してくれることから従業員に納付の手間が発生しない
  • 納付忘れが発生しない

デメリットとしては、事業者の事務負担が発生することが挙げられます。従業員にとっては、特段のデメリットはないと考えられるでしょう。

普通徴収のメリット・デメリット

普通徴収のメリットとしては、クレジットカード払いによってポイントを得られる可能性が挙げられます。ただし、クレジットカード払いの可否は市区町村によって異なります。

また、クレジットカード払いの場合は決済手数料が発生する場合がある点にも注意が必要です。

デメリットとしては以下が挙げられます。

  • 4分割であることから1回の税負担が大きい
  • 従業員が自ら納付しなくてはいけない
  • 住民税を滞納するリスクがある

まとめ

特別徴収とは、事業者が従業員の給料から住民税を天引きして納入する制度のことです。特別徴収は事業者の義務であり、従業員が希望しても普通徴収に切り替えられるわけではありません。

特別徴収を行うことで事業者としては事務負担が発生しますが、従業員としては1回あたりの税負担を抑えられる、自分で納付しに行く必要がないなど複数のメリットがあります。

地域の行政サービスの運営に必要な費用を確保するためには、特別徴収による住民税の確実な納税が重要だといえるでしょう。

よくある質問

住民税の特別徴収とは?

住民税の特別徴収とは、事業者が従業員の毎月の給料より住民税を天引きし、市区町村へ納入する制度のことです。

詳しくは記事内「住民税の特別徴収とは」で解説しています。

事業者が行う住民税の特別徴収の手続きとは?

事業者は、従業員へ給料を支払った翌年の1月31日までに、従業員が居住する市区町村へ給与支払報告書を提出します。

その後「特別徴収税額決定通知書」が市区町村より会社へ送付されるので、従業員へ特別徴収税額を通知したうえで毎月の給料より特別徴収を実施し、翌月の10日までに市区町村へ納入します。

詳しくは記事内「特別徴収の流れと事業所の労務担当者が行う手続き」で解説しています。

普通徴収とは?

普通徴収とは、納付納税義務者が自分で住民税を納付する方法のことです。市区町村より自宅へ送られてくる納税通知書に記載の金額を、納付書を使用して納付します。

詳しくは記事内「普通徴収とは」で解説しています。

監修 宮川 真一

岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。

税理士・CFP® 宮川真一

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