人事労務の基礎知識

随時改定で新しい保険料率はいつから反映される?改定条件や変更届の書き方などをわかりやすく解説

随時改定(月額変更届)とは? 標準報酬月額の随時改定の条件や月額変更届の書き方・提出方法

随時改定とは、被保険者の基本給や手当など毎月固定で支払われる報酬額に大きな変動があった際、社会保険料の見直しを行うために標準報酬月額を変更する手続きを指します。随時改定は月額変更ともいい、略して「月変」と呼ばれることもあります。

随時改定の手続きは、会社が月額変更届を作成し管轄する年金事務所または事務センターへ届け出ることで行われます。

本記事では、随時改定の条件や月額変更届の書き方についてわかりやすく解説します。

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目次

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随時改定(月変)とは

随時改定とは月額変更のことを指し、略して「月変」とも呼ばれます。随時改定(月変)とは、一年に一度行われる標準報酬月額の定時決定を待たずに、保険料の算出の基準となる標準報酬月額を改定(変更)することを指します。

標準報酬月額とは、被保険者のひと月の給与を金額ごとに1〜32等級に区分けしたものです(厚生年金保険の場合)。社会保険料は、標準報酬月額の等級ごとに決められています。標準報酬月額の等級が2等級以上変動した場合、これに加えて条件を満たすと随時改定が実施されます。

そもそも定時決定とは、毎年4〜6月までの給与額をもとに行う、標準報酬月額の定期的な見直しのことです。一方の随時改定は、主に昇給や雇用契約の変更などの要因で、毎月支給される給与に変更があった際に行います。

随時改定の手続きを行うことで、報酬の変動があった月から数えて4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用されるのです。新しい保険料の反映時期については、後述します。

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月額変更届とは

月額変更届は健康保険と厚生年金保険に関する書類のことで、「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」の略称です。

被保険者(従業員)の昇給や雇用契約の変更による給与の変動などによって、報酬額が変わる際に提出する書類となります。

随時改定に該当する3つの条件

随時改定は、以下3つの条件すべてに該当した場合に適用されます。


随時改定に該当する3つの条件
出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

1. 固定的賃金が変動した

固定的賃金とは、月給や時給および家族手当を含めた各種手当など、支給額や支給率が固定で決まっているものを指します。

個人の稼働や実績に応じて変動する残業代やインセンティブなどの賃金は、非固定的賃金のため対象外となります。

固定的賃金の変動例としてあげられるものは、以下のとおりです。

固定的賃金の変動例

  • 昇給または降給による基本給の変更
  • 日給や時給など、給与の基礎となる単価の変更
  • 歩合給や請負給などの支給単価または支給率の変更
  • 家族手当や役職手当、通勤手当など支給額が固定されている手当の追加や変更、廃止

2. 変動月以降も引き続き3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上ある

変動月とは、給与変動後の給与が支払われた月を指します。

たとえば、月末締め翌25日払いの会社で1月に昇給した場合で考えます。このケースでは1月勤務分の支払いが2月25日なので、昇給分の給与が支払われる2月が変動月です。

昇給後、変動月の2月からの3ヶ月間(2〜4月)の支払基礎日数が17日以上であるかを確認します。支払基礎日数とは、給与の支払い対象となる日数のことです。

特定適用事業所に勤務する短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上となるパート・アルバイトなど)の場合は、支払基礎日数が11日以上であれば随時改定の要件を満たします。

支払基礎日数の数え方

支払基礎日数の数え方は、給与形態によって以下の3つがあげられます。

【日給月給制】
日給月給制とは、月の給与が決まっており、欠勤・遅刻・早退をした場合はその分が差し引かれる給与形態です。
日給月給制の場合は、一般的に以下のように算出します。

  • 支払基礎日数 ⁼ 事業所が定めた日数 - 欠勤日数
    ※事業所が定めた日数は就業規則、給与規定等に基づく

【完全月給制】
完全月給制では毎月の給与が固定され、欠勤しても減額されません。
完全月給制の場合は休日や欠勤日も含め、対象期間の暦日数がそのまま支払基礎日数となります。

【時給制・日給制】
時給制・日給制は、1時間または1日あたりの給与の単価が定められている給与形態です。
時給制や日給制の場合は、出勤した日数がそのまま支払基礎日数となります。なお、有給休暇も支払基礎日数に含まれます。

3. 変動により標準報酬月額に2等級以上の差が生じたとき

変動前の標準報酬月額と、変動月から3ヶ月間の給与総額の平均による標準報酬月額の等級との間に2等級以上の差が生じた場合は、随時改定の対象となります。

等級は全国健康保険協会が公開している保険料額表から確認できます。

標準報酬月額等級表の上限・下限に当てはまると、2等級以上増減していなくても随時改定の対象となることに注意が必要です。

厚生年金保険の場合

ケース従前の標準報酬月額報酬の平均月額改定後の標準報酬月額
昇給の場合31等級・620千円625千円以上32等級・650千円
1等級・88千円で
報酬月額83千円未満
93千円以上2等級・98千円
降給の場合32等級・650千円で
報酬月額665千円以上
635未満31等級・620千円
2等級・98千円83千円未満1等級・88千円
出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

健康保険の場合

ケース従前の標準報酬月額報酬の平均月額改定後の標準報酬月額
昇給の場合49等級・1,330千円1,415千円以上50等級・1,390千円
1等級・58千円で
報酬月額53千円未満
63千円以上2等級・68千円
降給の場合50等級・1,390千円で
報酬月額1,415千円以上
1,355未満49等級・1,330千円
2等級・68千円53千円未満1等級・58千円
出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

随時改定の対象にならない被保険者

前述の3つの条件に該当する場合であっても、以下に当てはまる被保険者は随時改定の対象になりません。

随時改定の対象にならない人

  • 休職しており、休職給を受けている人
  • 固定的賃金は増加したが、残業手当等の非固定的賃金が減少したことで、2等級以上の差が生じている人
  • 固定的賃金は減少したが、非固定的賃金が増加したことで、2等級以上の差が生じている人

出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」

月額変更届の手続きの方法

随時改定の手続きには、以下の2つの方法があります。

  • 月額変更届の用紙に必要事項を記入し、管轄する年金事務所または事務センターへ提出(窓口提出・郵送)
  • 電子申請

ここでは、月額変更届の記入方法と提出方法について解説します。

月額変更届の書き方

月額変更届は、年金機構のホームページからダウンロードできます。1枚あたり5名分までの随時改定について届出が可能です。原則、添付書類は不要となります。


被保険者報酬月額変更届
出典:日本年金機構「被保険者報酬月額変更届」

月額変更届の主な記入項目は以下のとおりです。

提出者記入欄

事業所整理番号は、初めて社会保険に加入する手続きを行った際に付与されます。

適用通知書または保険料納入告知額・領収済額通知書に記載されている、原則「数字-カタカナ」で構成された番号を記載します。

① 被保険者整理番号

被保険者の資格取得時に付与された番号です。健康保険・厚生年金保険資格取得確認および標準報酬決定通知書に記載されています。

② 被保険者の氏名

被保険者の氏名を漢字で記載します。

③ 生年月日

月額変更届の裏面に記載されている記入例をもとに、被保険者の生年月日に該当する元号の番号と年月日を記入します。

④ 改定年月

標準報酬月額変動後の給与を支払った月から4ヶ月目を記入します。

たとえば、月末締め翌25日払いの会社で1月に昇給した場合は、1月勤務分の支払いが2月25日となるため、昇給分の給与が支払われる2月から4ヶ月目の6月を記入します。

⑤ 従前の標準報酬月額

変動前の標準報酬月額を千円単位で記入します。

⑥ 従前改定年月

変動前の標準報酬月額が適用となった年月を記入します。

⑦ 昇(降)給

昇給や降給が生じた月の支払月を記入し、昇給または降給の区分を選択します。

⑧ 遡及支払額

遡及分の支払いがあった月と、支払われた遡及の差額を記入します。

⑨ 給与支給月

固定的賃金の変動が発生した月から3ヶ月分の給与支払月を記入します。

⑩ 給与計算の基礎日数

前述の支払基礎日数の数え方を参考に、給与計算の基礎日数を算出し、記入します。


出典:日本年金機構「被保険者報酬月額変更届」

月額変更届の提出時期と提出方法

月額変更届は、随時改定の対象となったら速やかに提出する必要があります。提出先は所轄の日本年金機構または社会保険事務センターです。

なお、会社が加入している健康保険が協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合、協会けんぽへの提出は不要です。協会けんぽ以外の組合健保、共済組合に加入している場合は組合にも月額変更届を提出しなければなりません。

提出方法は窓口へ直接提出・郵送・電子申請のいずれかを選択できます。

コスト削減や電子申請の利用促進の目的から、資本金などの額が1億円を超える法人や相互会社、投資法人など一部の法人では電子申請が義務化されています。


出典:日本年金機構「電子申請の義務化」

月額変更届を出さなかったらどうなるか

月額変更届の提出漏れが発覚した場合は、該当月から遡及して差額の支払いが発生します。 従業員の等級が上がった場合は保険料も上がっているため不足分を追徴し、等級が下がった場合は過払いが生じているため翌月以降の給与で清算するなどの対応が必要です。

ただし、長期にわたって未提出のままだと年金事務所から催告状が届き、応じない場合は6か月以下の懲役または50万円の罰金を科される可能性があります。

また、長期間の未提出や虚偽の届出があった場合、年金事務所が立ち入り調査を行う可能性もあります。事業所だけでなく被保険者である従業員の負担にもなるため注意が必要です。

提出の漏れや遅れが起きないよう、従業員の固定賃金や契約内容の変更があった場合は、その都度に随時改定に該当するか確認の上、必要に応じて速やかに届け出ましょう。


出典:e-Gov法令検索「厚生年金保険法」
出典:e-Gov法令検索「健康保険法」

随時改定で新しい保険料率はいつから反映される?

随時改定の対象となり新しい保険料率が適用されるのは、報酬の変動があった月から数えて4ヶ月目からです。

給与から社会保険料を控除するタイミングは「翌月」としている会社が一般的ですが、「当月」給与から控除する会社もあります。また、退職などが理由で支払い方法が特殊になる場合、当月給与から社会保険料が控除されるケースもあります。

社会保険料が納付対象月の翌月に控除される場合、標準報酬月額改定月の翌月(報酬の変動月から5ヶ月目)に支払われた給与から改定後の保険料を納付するのです。

給与からの社会保険料控除を「当月」としている事業所の場合は、報酬の変動月から4ヶ月目に支払われる給与から、改定後の保険料が控除されます。

社会保険料が変更となる場合、事業主は対象となる被保険者(従業員)に対して、社会保険料が変更になる旨を通知します。

随時改定によって変更となった標準報酬月額の適用時期は、改定月が1〜6月の場合はその年の8月まで、改定月が7月〜12月の場合は翌年8月までです。

次の表をもとに「当月分給与が翌月払いで、社会保険料は翌月に支払われる給与から徴収する会社で、6月に給与改定があった場合」を考えてみましょう。

新しい保険料率が適用


4月に給与改定があると、その4ヶ月後にあたる8月分の給与から社会保険料が変更になります。

給与の支払日で考えると、8月給与の支払いは翌月9月のため、実際は改定があった4月から5ヶ月後に新しい保険料率が適用されることになります。


出典:日本年金機構「随時改定に該当するとき」

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まとめ

随時改定(月変)とは、標準報酬月額の定時決定を待たずに不定期に発生するため、従業員が多い会社であるほど確認対象が多く見落としやすくなります。

従業員の給与の変動を把握し、固定給や手当などの変更があった場合は随時改定の対象となる場合には忘れずに届け出ましょう。

よくある質問

随時改定(月変)とは?

随時改定(月変)とは、一年に一度行われる標準報酬月額の定時決定を待たずに、保険料の算出の基準となる標準報酬月額を改定(変更)することを指します。

詳しくは、記事内の「随時改定(月変)とは」をご覧ください。

月額変更届の提出方法は?

月額変更届は、随時改定の対象となったら速やかに提出する必要があります。提出先は所轄の日本年金機構または社会保険事務センターです。提出方法は、窓口へ直接提出・郵送・電子申請のいずれかを選択できます。

詳しくは、記事内の「月額変更届の提出時期と提出方法」をご覧ください。

随時改定で新しい保険料率はいつから反映される?

随時改定の対象となり新しい保険料率が適用されるのは、報酬の変動があった月から数えて4ヶ月目からです。

給与の支払日を基準に考えるときは、給与からの社会保険料控除を「当月」にしているか「翌月」にしているかで異なります。

詳しくは、記事内の「随時改定で新しい保険料率はいつから反映される?」で詳しく解説しています。

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