創業して間もなかったり、従業員が少数の場合には、毎月の給与計算時にエクセルを使用して計算をしている事業主の方が少なくありません。エクセルは安価で便利に計算できますが、注意して計算をしないと給与を多く払いすぎてしまったり、給与や保険料・税金の未払いが毎月発生する可能性があります。
今回は、エクセルで給与計算をするにあたって、気をつけるポイントをまとめました。
目次
1. 各種保険料率・税率の改正を反映する
給与計算時に従業員から控除する項目として、所得税、住民税、雇用保険料、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)があります。
これらの控除金額の算出に用いる料率は、改正時期がそれぞれ異なります。たとえば、健康保険料は3月、雇用保険料は4月、厚生年金保険料は9月が改正時期です。
変更の度にエクセルファイルを編集すればいいのですが、日々の業務に追われているとつい忘れたまま計算してしまいがちです。また、料率の変更をそもそも知らなかったというケースも散見されます。
保険料率や税率を間違えて計算してしまうと、給与額の間違いで給与未払い・過払いにつながるほか、保険料や税金の未払い・過払いも発生します。修正コストも大きくなってしまいますので、保険料率・税率の改正情報をしっかりキャッチし計算に反映するようにしましょう。
2. 残業代の計算を正しく行なう
残業代の計算は、従業員の給与形態により難易度が変わります。
パートやアルバイト等の時給制の場合、時給単価に割増率を掛けるだけですので、比較的容易に計算が可能です。(ただし時間外労働が深夜労働に及ぶ場合などは注意が必要となります)
一方で正社員等の月給制の場合、計算方法が少しだけ複雑になります。具体的には、次の式のように1時間あたりの賃金を算出してから割増率を掛けて計算します。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
月給制の場合の1時間あたりの賃金の計算方法や含めなくてよい手当があることを知らずに給与計算をしていると、残業代を毎月余分に支払うなど、本来よりも人件費が膨らんでしまいます。また正しい残業代の算出方法を知らないで計算を行っていると、残業代の未払いが発生し、訴訟リスクも潜んでいます。
3. 標準報酬月額の変更を反映する
社会保険料の計算
社会保険料は、「標準報酬月額」という給与の平均額に保険料率を掛け合わせて計算します。保険料は会社と従業員が折半で負担するため、給与計算の際には、保険料額の半分を控除する形で計算します。
標準報酬月額の決定
標準報酬月額の決定方法は大きく分けて次の2パターンがあります。
- 4月~6月までの3ヶ月間の給与額に応じて、その年の9月分の保険料から変更
- 固定的賃金(基本給、交通費等の毎月一定額が決まって支払われるもの)に大幅な増減があった場合に、給与の変更があった4ヶ月目の保険料から変更
標準報酬月額の変更をする場合に届出を行なう
標準報酬月額の変更があった場合、日本年金機構への届出をする必要があるものの、そもそも届出をするのを失念するケースも多々見受けられます。
変更の届け出を行わない場合、日本年金機構の調査時に指摘され、過去2年間遡って保険料を計算し直し納付する必要があります。本来なら会社と従業員の折半で負担する社会保険料ですが、過去の未払い保険料額を従業員から徴収するのは難しく、会社が全額負担し納めるのが現実です。
届出後に標準報酬月額を計算に反映
一方で届出を行ったものの、エクセルファイルの標準報酬月額を変更するのを失念するパターンも多々見受けられます。標準報酬月額の変更は、届出とエクセルファイルの変更をセットで行なうようにしましょう。
4. 算定基礎届・労働保険の年度更新・年末調整の
エクセルファイル外の作業も正確に
エクセルで給与計算を行っていると、算定基礎届の作成や労働保険の年度更新、年末調整業務などの年一回の業務をする際に、書類に手書きで手続きを行なうケースも多く見られます。
手書きでの書類記入によって時間がかかることはもちろん、年に一度の慣れない作業のためエクセルにある情報の転記ミスも起こりやすくなります。年に一度の業務では、エクセルファイル外への作業を正確に行なえるようにしましょう。
5. 履歴の管理やファイル破損時のバックアップをとる
エクセルで給与計算を行なう場合、過去の給与を見ている際に誤ってデータを書き替えて保存してしまうケースもあります。また、突然のPC故障やファイル破損によって、データを見られなるリスクも潜んでいます。
ファイル履歴の管理をしっかりと行うほか、毎月の業務でバックアップをとっておく習慣をつけるようにしましょう。
まとめ
エクセルを使った給与計算は低コストで便利ですが、上記の気をつけるべきポイントに留意して行なうことが大切です。
またエクセルでの給与計算は、社会保険への加入人数や従業員数の増加に比例して、不便な点が出てきます。その際には、まず給与計算ソフトの利用を検討することをおすすめします。たとえば 人事労務freeeには、上述の注意すべきポイントすべてをカバーする機能が備わっていますので、給与計算ソフトを検討する際には一度候補に入れてみてはいかがでしょうか。
執筆: 山本 雅美(社会保険労務士)
こんにちは、ASK社会保険労務士法人の山本です。
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