人事労務の基礎知識

助成金申請に必要な書類と労務管理

助成金申請に必要な書類と労務管理

厚生労働省所管の助成金および奨励金は、申請をする際、様々な社内書類を提出しなければなりません。いざ申請しようとした時に困らないよう、必要書類と日頃から企業がやっておくべき労務管理についてまとめました。

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助成金とは

助成金とは、厚生労働省が雇用の維持や労働者の処遇改善を推進する企業に対し、金銭的な支援を行う制度です。

経済産業省や中小企業庁の行う融資・補助金等とは違い、プレゼンや書類選考などの企業選定はなく、予算が無くならない限り、要件を満たした企業すべてに支給されます。

助成金の対象

厚生労働省の助成金および奨励金は、種類がとても多く全て把握することは難しいですが、下記の場合に対象となることが多いので、一度確認しておくことをおすすめします。

  1. 人を雇い入れるとき
  2. 雇用を維持するとき
  3. 処遇や職場環境を改善するとき
  4. 仕事と家庭の両立、女性の活躍推進を行うとき
  5. 職業能力の向上を図るとき(従業員の教育を行う等)

助成金の対象にならないケース

助成金を申請しても不支給となる場合があります。代表的なケースは下記の通りです。

  1. 普通解雇を行った時(普通解雇があっても支給される助成金もあります)
  2. 労働法違反があった時
  3. 適切に雇用保険・社会保険に加入していなかった時
  4. 労働保険料を滞納している時
  5. 不正受給が発覚した時

2.の「労働法違反があった時」の具体例としては、労働時間を適切に記録・把握しているか、給与計算で時間外労働や休日労働の割増賃金を正しく計算し支給しているかなどが問われます。したがって、上記の理由で不支給にならないよう、日々の労務管理が重要になってくるのです。

なお、上記 1.〜5.は代表的な例であり、各種助成金・奨励金にはその他細かい要件がありますので、申請を検討する際は十分に確認をする必要があります。

助成金申請の際に必要な労務管理

では実際にキャリアアップ助成金(正社員化コース)を申請するケースについて、必要な書類を見ていきましょう。
これらの書類のほとんどは、企業に必要な労務管理が行われることによるアウトプットであり、行なうべき労務管理を正しく行っているかを確認する指標にもなります。

キャリアップ助成金(正社員化コース)とは

キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは、有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換、または直接雇用した場合に申請できる助成金です。
パートタイマーを正社員へ転換したり、派遣労働者を直接雇用する場合に活用でき、数年前より申請する企業が多くなっています。

キャリアップ助成金(正社員化コース)申請時に必要な書類と注意点

キャリアアップ助成金(正社員化コース)を申請する際に提出する社内書類と、注意点は下記の通りです。

1.就業規則の写し(労働協約でも可)

就業規則とは、労働者が働く上で遵守しなければいけない規律や労働条件に関する具体的な事項を定めたもので、労働者と会社との間のルールブックのようなものです。

<就業規則の注意点>
  • キャリアアップ助成金への申請時には、就業規則に転換制度または直接雇用制度について明記されている必要があります。
  • 法に定められた、必ず記載しなければならない事項と、各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項を明記する必要があります。

必ず記載しなければならない事項

  1. 労働時間関係
    始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  2. 賃金関係
    賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締め切り及び支払い時期並びに昇給に関する事項
  3. 退職関係
    退職に関する事項(解雇の事由を含みます。)

各事業場内でルールを定める場合には記載しなければならない事項

  1. 退職手当関係
    適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  2. 臨時の賃金・最低賃金額関係
    臨時の賃金等(退職手当を除きます)及び最低賃金額に関する事項
  3. 費用負担関係
    労働者に食費、作業用品その他の負担をさせることに関する事項
  4. 安全衛生関係
    安全及び衛生に関する事項
  5. 職業訓練関係
    職業訓練に関する事項
  6. 災害補償・業務外の傷病扶助関係
    災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰・制裁関係
    表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
  8. その他
    事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項
  • 常時使用する労働者が10人以上の事業場ごとに「意見書」(*1)を添付し、事業場の管轄の労働基準監督署長に届け出を行っている必要があります。
  • *1 意見書とは: 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を記入し、その者の署名又は記名押印のある書面のこと。

  • 就業規則を事業場ごとに備え付け、内容を全従業員に周知している必要があります

2.労働条件通知書(雇用契約書)の写し

労働条件通知書とは、労働条件について記載した書面のことです。必ず入社時に会社から労働者へ通知する義務があり、会社と労働者の間で労働条件を明確にする役割があります。

<労働条件通知書(雇用契約書)の注意点>
  • 入社時に労働者へ労働条件通知書を渡し、労働条件について説明している必要があります。もし、今まで作成していなければ、直ちに作成し、労働者へ通知してください。厚生労働省HPでもサンプル様式が出ていますので参考に作成できます。
  • 労働条件通知書(雇用契約書)には、法に定められた、必ず記載しなければならない事項を明記している必要があります。

書面の交付による明示事項

  1. 労働契約の期間
  2. 有期労働契約を更新する場合の基準(有期契約労働者の場合)
  3. 就業の場所・従事する業務の内容
  4. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇等
  5. 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  7. 昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口(パートタイマーの場合)

口頭の明示でもよい事項

  • 8. 昇給に関する事項
  • 9. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
  • 10. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
  • 11 .労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
  • 12. 安全・衛生に関する事項
  • 13. 業訓練に関する事項
  • 14. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 15. 表彰、制裁に関する事項
  • 16. 休職に関する事項

1.~8.は必ず明示しなければならない事項で、
9.~16.は制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。
8.の昇給に関する事項は、必ず明示しなければならない事項であるものの、書面ではなく口頭での明示でも問題ありません。

3.賃金台帳の写し

賃金台帳とは、次の事項を記載した帳簿のことです。賃金を支払う都度、毎月作成しなければなりません。正しく賃金が計算され、支払われているかが確認されます。

  1. 氏名
  2. 性別
  3. 賃金の計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外労働、休日労働、深夜労働を行った時間数
  7. 基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
  8. 賃金の一部を控除した場合はその額
<賃金台帳の注意点>

賃金台帳については、以下の事項が守られているかを確認しましょう。

  • 出勤簿またはタイムカードに記載してある労働時間分の給与を支給している。
  • 時間外労働や休日労働、深夜労働の割増賃金を正しく計算し支給している。
  • 最低賃金を下回っていない
  • 労働条件通知書(雇用契約書)に記載している通りの賃金を支給している
    (基本給、手当の額など)

4.出勤簿またはタイムカードの写し

出勤簿(タイムカード)とは、労働者の労働時間を把握するための帳簿です。
始業時間、終業時間、休憩時間などを日々記録します。

<出勤簿(タイムカード)の注意点>

出勤簿またはタイムカードについては、以下の事項が守られているかを確認しましょう。

  1. 始業、終業、休憩時間が明記してあり、1日の労働時間を把握できている。
  2. 時間外労働や休日労働、深夜労働がある場合、明記している。
  3. 法定通り休憩時間を取れている
  4. 日々記録している

賃金台帳や出勤簿(タイムカード)は、労働基準法によって会社に作成が義務づけられています。もし作成していない場合は、保管義務のある過去3年分は遡り作成しておくことをおすすめします。

キャリアアップ助成金(正社員化コース)を申請する場合は、最低でも添付が必要な期間である「正規雇用労働者等へ転換する前6か月分及び転換した後6か月分」について遡り作成しておかないと申請できません。

5.その他必要なもの

以上の書類以外にも、助成金申請時に必要な書類があります。

  • 登記事項証明書
  • 各種申請書(キャリアアップ助成金支給申請書、正社員化コース内訳、正社員化コース対象労働者詳細、事業所確認票、支給要件確認申立書、支払方法・受取人住所届、労働局長の確認を受けたキャリアアップ計画書、生産性要件算定シートなど)

まとめ

以上、キャリアアップ助成金(正社員化コース)を例にして、助成金・奨励金を申請する際、企業がやっておかなければならない労務管理についてまとめました。

助成金・奨励金は厚生労働省所管ですから、労働法及び社会保険法を遵守して労務管理がなされていないと受給することは困難です。本記事が今後の助成金・奨励金の申請業務にお役立ていただければ幸いです。

masushige-sama

執筆:舛重 浩子(社会保険労務士)

こんにちは。社会保険労務士法人サトーの舛重です。

昭和60年に創業した当事務所では、行政対応、給与計算といった基本業務だけでなく、幅広い業種・企業規模へのコンサルティング経験と実績により、採用・教育から就業規則・社内規程の整備、人事制度設計まで一貫した課題解決のご提案を行っています。

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