給与明細は、基本給・各種手当・控除される社会保険料・税金の内訳などを記載した書類です。給与明細を作成する際は、記載する項目を確認して、流れに沿って計算することで作成できます。
本記事では、自分で給与明細を作成するために必要な項目・作成の流れについて、わかりやすく解説します。
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目次
給与明細の作成に必要な項目
給与明細を作成するにあたって、記載する項目は下記のとおりです。
給与明細に記載する項目
- 月の労働時間:出勤・欠勤日数や労働時間数
- 支給額:基本給と各種手当
- 控除額:健康保険料・厚生年金保険料・(介護保険料)・雇用保険料の控除額
- 口座振込額:支給額から控除額を差し引いた額
月の労働時間については、特別に法律や通達で明記されている項目ではありませんが、記載しておくのがよいでしょう。
基本給や残業手当の計算に使用される月の労働時間を記載することで、従業員が支給額が正しく計算されたか確認できるようにしておくためです。
給与明細で見られる「総支給額」は「額面」、「差引総支払額」は「手取り」などと一般的に呼ばれるものです。
また、口座振込などの場合には、以下の項目を記載した計算書を従業員に交付する必要があります(平成10年9月10日基発第130号通達)。
口座振込時に通知する内容
- 基本給や各種手当ての金額(種類別に)
- 源泉所得税や社会保険料の控除額(種類別に)
- 口座振込みされた金額(最終的な支給額)
給与明細の作成方法と流れ
給与明細は、以下の流れで作成します。
給与明細を作成する流れ
- 勤怠と控除に関連する書類を用意する
- 勤務時間の集計を行う
- 残業時間を集計し残業代を計算する
- 各種手当の計算をする
- 総支給額を計算する
- 各種控除額を計算をする
- 差引支給額を計算する
1.勤怠と控除に関連する書類を用意する
給与明細の各項目について計算する前に、それぞれの根拠となる書類を揃えます。必要な書類は以下のとおりです。
- 従業員の勤怠情報がわかるもの
- 健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
- 住民税課税決定通知書
- 健康保険と厚生年金保険の保険額表
- 雇用保険料率表
- 給与所得の源泉徴収税額表
従業員の勤怠情報がわかるもの
クラウド式勤怠管理システムといったツールを利用したデータなど、従業員の勤怠記録がわかるものを用意します。これらの勤怠情報に基づき、給与明細に出勤・欠勤日数や労働時間などを記載します。
健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書
健康保険料や厚生年金保険料を計算する際に必要な書類です。
なお、健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書は、期日通りに年金事務所へ算定基礎届を提出すると、日本年金機構から7月中旬より順次送付されます。
住民税課税決定通知書
従業員ごとに毎月の住民税納付額が記載されてた書類です。毎年1月31日までに各従業員が居住する(1月1日現在)地方自治体へ給与支払報告書を提出することで、5月31日までに住民税課税決定通知書が送付されます。
健康保険と厚生年金保険の保険額表
標準報酬月額を当てはめ、健康保険や厚生年金保険の保険料を求めるために必要な表です。社会保険料率の改定に対応するため、確認する際は必ず最新のものを使用しましょう。
健康保険料率は、事業所の所在地や健康保険組合によって異なるので注意してください。
雇用保険料率表
月の給与総額に雇用保険料率を掛けて雇用保険料を算出します。雇用保険料率は毎年4月に見直しが行われており、料率が変わる場合もありますので、必ず、最新の雇用保険料率表を使用しましょう。
給与所得の源泉徴収税額表
所得税および復興特別所得税を源泉徴収する際に必要となります。税額が変わる場合もありますので、常に最新情報を確認するようにしてください。
2.勤務時間の集計を行う
勤怠記録の情報をもとに、実際の労働時間や残業時間を集計します。休日出勤した日数や深夜残業などの時間、有給休暇の残日数も集計しておきましょう。
なお、2019年4月より適用された「働き方改革関連法」により、自己申告型の記録による把握は禁止となっています。勤務時間の集計は、ICカードやパソコンの使用時間など、客観的な記録をもとに明確な把握を行ってください。
3.残業時間を集計し残業代を計算する
普通残業時間、深夜残業時間、休日残業時間をもとに、残業代を計算します。
時間外労働がある場合は、通常の給与に割増率を加えた割増賃金を支払う必要があります。時間外労働とは、労働基準法で定められた労働時間を超えて行われた残業を指します。
退勤管理、残業の割増賃金に関しては、こちらの記事もご覧ください。
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出勤簿とは? 保存期間や書き方まで分かりやすく解説
4.各種手当の計算をする
通勤手当や役職手当、家族手当、資格手当など、会社によって設定した各種手当を計算します。
通勤手当に関しては 公共交通機関を利用する場合、月に15万円までは非課税とすることができます。
自動車や自転車などの交通用具を使用している人への通勤手当については、以下にてご確認ください。
出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
5.総支給額を計算する
基本給に残業手当と通勤手当、各種の手当を加算し、支給総額を算出します。欠勤、遅刻、早退などがあった場合には、その時間分の賃金を減算します。
6.各種控除額を計算をする
次に、以下のように各種控除額を計算します。
社会保険料の計算をする
給与から控除する健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料をそれぞれ計算します。
なお、標準報酬月額とは、社会保険料を算出する元となる金額のことで、 従業員の4月、5月、6月の「総支給額」の平均を指します。
健康保険料の計算式
標準報酬月額 × 健康保険料率 ÷ 2
健康保険料は企業と従業員の折半になるため「 ÷ 2」となります。
また、健康保険料率は、加入している健康保険組合(協会けんぽ、組合健保)や居住地域によって異なるため、注意が必要です。
厚生年金保険料の計算式
標準報酬月額 × 18.300% ÷ 2
2017年9月(10月納付分)以降の厚生年金保険料率は、18.300%で固定されました。
厚生年金保険料も健康保険と同じく、企業と従業員の折半となるため「 ÷ 2」となります。
介護保険料の計算式
標準報酬月額 × 介護保険料率 ÷ 2
介護保険は、労働者の怪我や病気、加齢などによる介護サービスについて保険給付を行う制度で、40歳以上の従業員に適応します。
健康保険、厚生年金保険と同じく、企業と従業員の折半となるため「 ÷ 2」となります。
雇用保険料の計算式
給与総額 × 雇用保険料率
標準報酬月額ではなく、給与総額(いわゆる「額面」)を元に雇用保険料率を掛けて算出します。
また、ほかの社会保険とは異なり、事業主と労働者の折半ではなく、事業の種類で雇用保険料率が異なるので注意が必要です。
雇用保険料率に関しては、厚生労働省のウェブサイトにて最新の情報を確認するようにしましょう。
出典:厚生労働省「雇用保険料率について」
社会保険料の計算についての詳細は、こちらの記事をご参照ください。
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社会保険料まとめ!計算方法から社会保険料控除まで徹底解説
課税支給額の計算をする
課税支給額とは所得税などの対象となる支払金額を指し、基本給、残業代、諸手当などが該当します。非課税に該当するものは、通勤手当、転勤・出張などです。「課税支給額」は「総支給額−非課税支給額」により算出できます。
源泉所得税の計算をする
源泉所得税とは、企業が従業員や報酬の受取人から徴収し、本人に代わって納める所得税のことです。源泉所得税額は、国税庁の「令和5年分 源泉徴収税額表」から確認ができます。
「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」の欄から、該当する範囲を確認します。そして「扶養親族等の数」で自身が当てはまる人数の欄に記載されている金額が、その月の給与から天引きされる源泉所得税額です。
このとき、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を事業所に提出していない場合は「乙」の欄の税額となります。
例として、社会保険料控除後の給与が20万円の場合、扶養者が0人であれば4,770円、扶養者が1人であれば3,140円となります。
なお、毎月の源泉所得税額はあくまで概算となり、12月の年末調整または確定申告で確定した年収を基に所得税を計算しなおし、差額が還付または追徴されます。
住民税の計算をする
自治体から送られてくる「住民税課税決定通知書」を確認し、住民税を給与明細の控除の項目に記載します。 特別な計算式はなく、通知書に記載された額をそのままを使用します。
7.差引支給額を計算する
「総支給額 − 控除額」で差し引き支給額が決定します。社会保険料や税金以外にも、組合費や財形貯蓄など会社独自の控除項目がある場合は、それらの控除額も計算します。
給与明細の作成例
上記の流れで作成した給与明細の例です。大きく①差引支給額②支給③控除④勤怠の4つの構成で成り立っていることが分かります。
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給与明細を作成する理由
給与明細は賃金台帳などの法定三帳簿とは違い、記載事項や保存期間が法律で明確に定められていません。しかし、所得税や社会保険料、雇用保険料などを給与から控除(天引き)した場合、その控除額を「社員に通知する」ことが、所得税法により義務づけられています。
そのため、各控除額を従業員に対して通知するべく給与明細を発行する必要があるのです。
出典:e-Gov法令検索「所得税法」
また、給与明細は従業員やその家族が収入証明書類として使用することも多くあります。たとえば、住宅や車のローンを契約する際や医療費控除申請時の収入証明書類として、控除額を確認したい際など給与明細が必要となるシーンは多数想定できます。
会社は賃金の支給に加え、その支給の根拠となる数字の通知までを義務と捉え、給与明細の発行と支給を行いましょう。
給与明細の電子化については次の記事でご覧いただけます。
【関連記事】
給与明細の電子化 デメリット・メリット
給与計算や給与明細発行をカンタンに行う方法
毎月の給与の計算と給与明細の作成をラクに
まとめ
給与明細は、賃金台帳などの法定三帳簿とは違い、記載事項や保存期間などを明確に定める法律が存在しないものの、従業員に支給額の根拠を明示するという意味で重要な書類といえるでしょう。
従業員の人数分を毎月継続して作成する業務となるため、なるべく工数を減らし、ミスが発生しないようにしたいものです。労務担当者の負担軽減とヒューマンエラーの解消を実現するならば、勤怠管理と一体化した会計システムなどの導入もおすすめです。
よくある質問
給与明細に必要な項目は何ですか?
「月の労働時間」「支給額」「控除額」「口座振込額」に加え、「種類別の基本給や各種手当ての金額」「種類別の源泉所得税や社会保険料の控除額」を記載します。
詳しくは、記事内「給与明細の作成に必要な項目」をご覧ください。
給与明細を作成する上で必要な書類やデータは何ですか?
「従業員の勤怠情報がわかるもの」「健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書」「住民税課税決定通知書」が必要となります。「健康保険と厚生年金保険の保険額表」「雇用保険料率表」「給与所得の源泉徴収税額表」は必須ではありませんが、作成がスムーズになりますので準備しておくことをおすすめします。
詳しくは、記事内「勤怠と控除に関連する書類を用意する」をご覧ください。
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