人事労務の基礎知識

休業補償とは?休業手当との違いや計算方法、手続きの流れを解説

労災の休業補償とは?計算方法や手続きについてわかりやすく解説

休業補償とは、労働者が業務中のケガや病気によって働くことができなくなった場合に、その休業期間中の賃金を補填するために会社が支給する災害補償のことです。

休業補償は休業手当とは異なり賃金ではないため、支給する際は所得税の計算にも注意しなければなりません。

本記事では、休業補償の概要や休業手当との違い、労災保険の休業補償給付の手続きなどを解説します。

目次

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休業補償とは

休業補償とは、労働者が業務中のケガや病気によって働くことができず休業し、賃金を受けられなくなった場合に会社が支払わなければならない災害補償です。

労働災害により労働者が休業している間は、会社が平均賃金の60%を支給する義務があります。

(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。


出典:e-Gov法令検索「労働基準法」

また、休業補償は所得税法の規定により非課税となります。そのため、「賃金」と「休業補償」を合算して所得税の計算をしないよう注意しましょう。

労災保険との関係性

労災保険とは、正式名称を「労働者災害補償保険」といい、労働者が業務中や通勤中の事故等によりケガや病気をしたときに、保険給付を行う社会保険制度のことです。

原則として労働者を一人以上雇用する会社には労災保険への加入が義務付けられており、保険料は会社が全額負担しなければなりません。

労災保険の中には、「休業補償給付」という休業開始から4日目以降に賃金(給付基礎日額)の60%相当額が国から支給される給付金があります。これは労働基準法の休業補償を補填する保険給付であり、休業から4日目以降は労災保険の休業補償給付で労働者の賃金を補填するのが一般的です。

ただし、休業1日目から3日目は労災保険から給付されないため、労働者が有給休暇の取得を希望しない限り、会社が平均賃金の60%の休業補償を支払う必要があります。なお、通勤中の災害は労働基準法上の休業補償の対象外であるため、休業3日目までの補償義務は会社にはありません。

なお、労災保険は休業補償給付のほか、以下のような給付があります。

種類内容
療養補償給付治療費や通院にかかる交通費などの補償
障害補償給付病気や怪我の治療後に障害が残った場合の補償
傷病補償年金1年6ヶ月が経過したのち病気や怪我が治癒しない場合の補償
介護補償給付病気や怪我により要介護の状態になった場合の補償
遺族補償給付労働者が死亡した場合の遺族に対する補償
葬祭料・葬祭給付労働者が死亡した場合の葬儀費用への補償

休業手当との違い

休業補償と休業手当は、いずれも労働基準法で平均賃金の60%の支払いが義務付けられていますが、支給条件が異なります。

休業補償は、労働災害によって労働者がケガや病気にかかり、働けなくなった場合に支給される補償です。

一方、休業手当は会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)で従業員を休業させざるを得ない場合に支払われる手当です。また、休業補償とは異なり賃金として支払われるため、所得税の課税対象となります。

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。


出典:e-Gov法令検索「労働基準法」

「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、経営不振による休業や資材不足による休業、工場の機械不備等による休業などが挙げられます。

使用者の責に帰すべき事由によって労働者が休業した場合は、会社は労働者に対し、休業手当として平均賃金の60%を支払わなければなりません。

休業補償給付の支給要件

労働災害によって休業する場合は、労災保険により休業補償給付が支給されるのが一般的です。具体的には、休業補償給付は以下の3つの要件を満たす場合に支給されます。

  • 勤務中または通勤中に起きたケガや病気による療養が必要
  • 療養によって労働することができない
  • 療養中に賃金を受けていない

支給要件を正しく把握することで、休業補償を適切に受給することが可能です。

勤務中または通勤中に起きた負傷や病気による療養が必要

休業補償給付は、業務中または通勤中のケガや病気に対して給付される労災保険の給付金です。労働基準法の休業補償は業務災害のみが対象ですが、労災保険は通勤災害も対象となります。

ただし、業務外の出来事も関係して発症した病気や、通勤経路とは異なる場所で起きた事故などは労災保険の対象外となる可能性が高くなります。

たとえば、職場のパワハラと家庭内の問題が重なってうつ病で休業した場合に、家庭内の問題の方が強く影響していると判断されれば、労災として認定されない可能性があります。

また、仕事帰りに居酒屋に立ち寄ってから帰りに転んでケガをした場合は、通勤災害にならず休業補償給付は支給されない可能性が高くなるでしょう。

なお、通勤中の事故で休業した場合の給付は「休業給付」という名称となります。

療養によって労働することができない

「療養によって労働することができない」とは、業務中または通勤中のケガや病気によって働くことができない状態を意味します。

ただし、必ずしも労働者がケガや病気にかかる直前に従事していた業務に就くことが条件ではなく、本人の合意のうえで業務を軽減したり、配置を転換したりして復帰できる状態であれば、労働ができると判断されることもあります。

療養中に賃金を受けていない

休業補償給付は、労働者が療養中で賃金が支払われていない場合に支給されます。有給休暇を取得したり、欠勤したりしても給与が支払われている場合は会社から賃金の補償がされるため、基本的には休業補償給付が支給されません。

ただし、1日あたりの支給額が平均賃金の6割未満である場合は、その日は賃金を受けていない日に該当します。

休業補償給付を受けられる期間

休業補償給付は、休業開始から4日目以降に支給が開始されます。休業開始日を含めて3日間は「待期期間」といい、待期期間中は給付の対象外となります。

なお、休業補償給付の待期期間は連続である必要はなく、実際に休業した日が通算して3日間あれば成立します。一方、業務外の傷病による休業で給付される健康保険の傷病手当金は連続した3日間の休業が必要です。

また、業務災害の場合は休業初日から3日目までの待期期間は会社が労働基準法に基づき1日につき平均賃金の60%を休業補償として支払う必要があります。

ただし、2つ以上の会社で働いていた労働者が業務を要因として発症した複数業務要因災害や通勤災害の場合には、会社側の補償責任に関する法令上の規定がないため、労働基準法の休業補償は対象となりません。


出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「休業(補償)等給付・傷病(補償)等年金の請求手続」

なお、休業補償給付の請求権は療養のために労働できず賃金を得られない日ごとに発生します。退職後もその権利は継続しますが、発生日の翌日から2年が経過すると時効となり請求権が消滅するため、注意が必要です。


出典:厚生労働省「3-1 休業(補償)給付はいつまでもらえるのですか。」

休業補償給付の打ち切り

休業補償給付は、原則としてケガや病気が治るまで支給されます。そのため、ケガや病気が治り、休業の必要がなくなった場合は休業補償給付が打ち切られることになります。

しかし、完治していない場合でも給付が打ち切られるケースがあります。たとえば、痛みが残っている状態であったとしても、これ以上治療しても効果が期待できない(症状固定)と判断された場合などです。

なお、療養を開始してから1年6ヶ月が経過した時点で、傷病等級1級~3級に該当する程度の傷病が残存している場合には、休業補償給付に代わって労災保険からの傷病補償年金が支給されることになります。

休業補償給付の計算方法

休業補償給付の計算方法は、以下のとおりです。

休業補償給付 = 給付基礎日額(1日あたりの平均賃金) × 休業日数 × 60%
休業特別支給金=給付基礎日額(1日あたりの平均賃金) × 休業日数 × 20%

休業補償給付は、給付基礎日額(1日あたりの平均賃金)の60%に加え、休業特別支給金として給付基礎日額(1日あたりの平均賃金)20%が上乗せして支給されます。つまり、休業1日につき給付基礎日額の80%が支給されるということです。

なお、1日のうち一部だけ労働した場合は、給付基礎日額から働いた分の賃金を差し引いた金額の80%が受けられます。

具体的な計算方法は以下のとおりです。

例)
・月給:25万円
・締日:月末締め
・12月に事故に遭った

①給付基礎日額を計算

給付基礎日額は以下の計算式で算出します。
「直前3ヶ月間(9月1日~11月30日)に支払われた賃金の総額 ÷ 賃金計算期間の暦日数」

75(万円) ÷ 91(日) = 8,242(円)
給付基礎日額 = 8,242円


②給付基礎日額を元に給付額を計算

休業補償給付: 8,242(円) × 60(%) = 4,945(円)
休業特別支援金: 8,242(円) × 20(%) = 1,648(円)

1日あたりの給付額 = 6,593円

休業補償給付の申請書類と手続き

休業補償給付を申請するには、会社が休業補償給付支給の請求書を作成する必要があります。

申請手続きの流れは以下のとおりです。

申請手続きの流れ

  1. 休業補償給付支給請求書の作成
  2. 労働基準監督署への申請
  3. 労働基準監督署からの通知書の受け取り
  4. 労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出する

1.休業補償給付支給請求書の作成

休業補償給付の支給申請は、業務災害の場合は「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(8号様式第)」を、通勤災害の場合は「休業給付支給申請書(様式第16号の6)」を使用します。労働基準監督署や厚生労働省のホームページから入手可能です。

書類には、労働者の氏名や住所、口座情報、休業期間などを記入します。また、「どのような場所で、どのような作業をしているときに、災害が発生したか」や初診日、災害発生日など事故の詳細を記載する必要があります。

加えて、ケガや病気を診断した医師の証明や、事業主の証明も必要です。また、初回申請時は、給付基礎日額を計算するため、平均賃金算定内訳の提出が必要となります。2回目以降の請求の際は、平均賃金算定内訳は記載する必要はありません。


出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー (労災保険給付関係主要様式)」

2.労働基準監督署への申請

休業補償給付支給請求書は、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。提出は原則として労働者本人が行うとされていますが、療養で働けない状況にあるため、会社が代わりに提出するのが一般的です。

申請のタイミングに決まりがありませんが、労働者の賃金に関わるため、休業が長期にわたる場合は1ヶ月ごとに申請を行うのが望ましいでしょう。

3.労働基準監督署からの通知書の受け取り

申請内容に基づき労働基準監督署が審査を行い、労災と認定された場合は支給決定通知が届きます。ただし、労災が発生した経緯やケガ・病気の内容によっては審査に時間がかかることがあるため、その旨は労働者に伝えておきましょう。

労働基準監督署から支給決定通知が届けば、後日給付金が労働者本人の指定口座に振り込まれます。

4.労働基準監督署に労働者死傷病報告書を提出する

労災による休業が発生した場合は、会社は「労働者死傷病報告書」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。

休業が4日以上の場合は、遅滞なく提出する必要があり、休業が4日未満の場合は3ヶ月分をまとめて提出する必要があります。

まとめ

休業補償とは、労働者が業務中によるケガや病気によって働くことができなくなった場合に、その休業期間中の賃金を補填するために会社が支給する災害補償です。一方、労災保険の休業補償給付は、労働者が業務中または通勤中のケガや病気で労働することができない場合に支給される給付金です。

労災保険の休業補償給付が給付された場合は、会社は労働基準法の休業補償の責務を果たしたことになるため、休業4日目からは休業補償給付で災害補償を行うのが一般的です。

労災保険の休業補償給付は、支給要件が定められており、労働基準監督署の審査を経たうえで支給が決定されます。会社側は、休業補償の仕組みや休業補償給付の要件を理解し、適切な手続きを進めることが大切です。

よくある質問

休業補償と休業手当の違いは?

休業補償は労働者が業務災害によって休業した場合に支給されるのに対し、休業手当は会社側の責任により労働者を休業させた場合に支給される手当です。また、休業補償は非課税である一方、休業手当は課税対象になります。

詳しくは記事内の「休業手当との違い」で解説しています。

休業補償給付を受け取るには?

休業補償給付は、以下の3つの条件を満たした場合に支給されます。

  • 業務中または通勤中に起きたケガや病気による療養が必要
  • 療養によって労働することができない
  • 療養中に賃金を受けていない

詳しくは記事内の「休業補償給付の支給要件」をご覧ください。

休業補償給付の支給額は?

休業補償給付(給付基礎日額× 60%)と休業特別支給金(給付基礎日額 × 20%)の合わせて給付基礎日額の80%が療養によって賃金を受けていない日の日数分支給されます。

詳しい計算方法などは「休業補償給付の計算方法」をご覧ください。

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