監修 中村 桂太 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
育児休業(育休)とは、1歳未満の子どもを養育している従業員が取得できる制度のことです。国が定める制度であり、勤務先の就業規則の内容に関係なく取得が可能です。
2022年には、育児・介護休業法の改正で出生時育児休業(産後パパ育休制度)が創設されました。会社側にも、育児休業制度に対する基本的な理解と、必要な手続き・サポートの徹底が求められます。
本記事では、育児休業とは、対象者・期間から、男性の育児休暇制度、育休の取得において会社がすべきことなどを解説します。
目次
育児休暇と育児休業の違いとは?
育児休暇と育児休業は、似た言葉ですが意味が異なります。育児休暇は会社が独自に設ける休暇制度である一方で、育児休業は法律によって定められている制度です。
それぞれ詳しく説明します。
①育児休暇とは
育児休暇(育児目的休暇)とは、各会社が独自に定める育児支援のための休暇制度です。具体的な制度内容については各会社に委ねられており、取得期間や方法などに法的な決まりはありません。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法のポイント」
②育児休業とは
育児休業とは、原則1歳未満の子どもを養育するための休暇制度です。
一般的に「育休」といえば、育児休業のことを指します。育児休業は法律が定めている制度であり、勤務先の就業規則に育児休業に関する定めがなくても取得可能です。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法のポイント」
③子の看護休暇制度とは
育児休暇(育児目的休暇)と近い制度として「子の看護休暇制度」があります。
子の看護休暇制度とは、小学校就学の始期に達するまでの子どもの病気やけがの看護を目的とした休暇を、1年に5日(子どもが2人以上の場合は10日)まで取れる制度です。子の看護休暇制度では、時間単位で休暇を取得できます。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法のポイント」
子の看護休暇については、別記事「子の看護休暇とは? 法律に定められる対象や要件、会社に求められる対応を解説」にて詳しく解説しています。
育児休業(育休)の対象者と期間
ここからは、育児休業(育休)の利用に際して、対象者と期間について解説します。
育児休業(育休)の対象者
育児休業の対象者は1歳未満の子どもを養育している労働者であり、パートタイマーであっても、期間の定めがない労働契約で働いている場合は育児休業制度の対象です。
なお、子どもの範囲は以下を指します。
・養子
・特別養子縁組のための試験的な養育期間にある子
・養子縁組里親に委託されている子
また労使協定で定められている場合、週の所定労働日数が2日以下の場合や雇用期間が1年未満の場合など、一定の労働者が取得できないこともあります。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」
育児休業(育休)の期間
育児休業の期間は原則として「子どもが1歳になるまで」であり、期間中であれば2回まで分割して取得できます。また、保育所に入所できないなどの事情があれば、1歳6ヶ月までと2歳までにそれぞれ1回ずつ取得可能です。
2022年に法改正された育児・介護休業法によって、分割取得や育休の開始日の対応が柔軟化されました。以前よりも、労働者は仕事と育児を両立しやすくなっているといえるでしょう。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」
男性も育休が取得しやすくなっている
男性の育児休業等の取得状況公表義務化や産後パパ育休(出生時育児休業)制度などが整備されたことにより、男性でも育休を取得しやすい環境になってきています。
男性の育児休業等の取得状況の公表が義務化とは
育児・介護休業法の改正に伴い、従業員が1,000人を超える会社は、2023年4月より男性労働者の育児休業取得率などの年1回の公表が義務となりました。
対象の会社は「育児休業等の取得割合」もしくは「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかを年に1回公表しなくてはいけません。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」
また「令和4年度雇用均等基本調査」において500人以上の事業所規模の男性の育休取得割合が25.36%であったことを鑑みると「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」は1,000人以上規模が対象であるため、大企業の方が整備が進んできていると考えられます。
出典:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」
出典:厚生労働省「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」
産後パパ育休(出生児育児休業)制度とは
産後パパ育休(出生時育児休業)制度は、産後8週間以内に4週間(28日)を限度として、2回に分けて休みを取得できる休業制度です。育児・介護休業法の改正により、2022年10月1日より創設されました。
取得率が低い男性の育休取得促進のために、取得ニーズが高い出産直後の時期での柔軟な休業の実現を目的として作られた制度です。
申込期限は原則休業の2週間前までですが、労使協定で定めている場合1ヶ月前までになっていることもあります。また、この制度は、育児休業とは別で取得できます。
産後パパ育休(出生時育児休業)の対象者は「産後休業を取得していない労働者」と定められています。制度名のとおり基本的には父親を対象とした制度ですが、養子縁組などをした女性なども取得可能です。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法改正 のポイント」
育児休業(育休)中の給与はどうなる
育児休業期間中は、基本的に給与が支払われません。その代わりに、育児休業給付金や出生時育児休業給付金、社会保険料の免除などの支援制度が用意されています。
育児休業給付金とは
育児休業給付金とは、育児休業を取得した場合に一定の用件を満たすことで支給される給付金です。育児休業給付金の支給額は、以下の計算方法で算出します。
育児休業給付金の支給額の計算方法
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67%(育休開始から181日目以降は50%)
また、2024年7月31日までの支給上限と支給下限は、以下のとおりです。
給付率 | 支給上限額 | 支給下限額 |
給付率67% | 310,143円 | 55,194円 |
給付率50% | 231,450円 | 41,190円 |
育児休業給付金の申請手続きは、当該従業員の雇用者である会社側で行います。
出典:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
申請手続きに関する詳細については、別記事「産前産後休業や育児休業を従業員が取得する際の手続き」もご参照ください。
出生時育児休業給付金とは
出生時育児休業給付金とは、産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した場合に、一定の用件を満たすことで支給される給付金です。出生時育児休業給付金の支給額は、以下の計算方法で算出します。
支給額 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数(28日が上限) × 67%
育児休業給付金の申請手続きについても、雇用者である会社側で行います。
出典:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」
出生時育児休業給付金に関しては、別記事「産休育休手当とは?支給される条件や申請手続き、受け取り金額の計算方法を解説」もご参照ください。
育休中の社会保険料の免除
従業員が育児休業やその他の育休制度を利用している間は、雇用主の申出によって育休中の本人負担分と会社負担分の社会保険料が免除されます。
育児休業等を開始した日の属する月から、その休業が終了する日の翌日が含まれる月の前月までが免除期間です。
出典:厚生労働省「育児休業中の保険料免除について」
育休の取得に関して会社がすべきこと
従業員が安心して育児休業制度を利用するためには、会社が必要な手続きやサポートを徹底することが大切です。
育児休業制度の利用にあたって会社側がすべきことを解説します。
各種給付金の申請
育児休業給付金の制度を従業員が利用するためには、会社が各種申請を行わなくてはなりません。育児休業給付金や出生時育児休業給付金については、必要書類をそろえて事業所を管轄するハローワークに提出します。
また社会保険料の免除については、必要書類をそろえて年金事務所や全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合に提出する必要があります。
出典:厚生労働省「育児休業、 産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」
育休制度の周知とサポート
育休制度の周知とサポートに関しても、従業員が利用しやすい体制を整える必要があります。
2022年に改正された育児・介護休業法では、以下のいずれか1つ以上の措置を講じることが会社に義務付けられました。
- 育休制度に関する研修の実施
- 育休制度に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- 育休制度の取得事例の収集・提供
- 育休制度に制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」
育休制度は法改正と共に変化し続けていることから、常に最新の情報を周知することが大切です。
不利益取扱いとハラスメント対策
育児休業の申出や取得を理由として、会社が不利益な取扱いをすることは育児介護休業法10条や男女雇用機会均等法第9条3項などで禁じられています。また会社には、上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講じることも義務付けられています。
たとえば、育児休業を取得中に就労を強要することは許されません。また、育児休業制度の利用を申し出た従業員に対して、上司や同僚が制度利用を控えるように伝えるまたは命じることもハラスメントにあたります。
取得率の向上を目的として、育児休業制度を利用していない従業員に利用を強制する行為も、ハラスメントだといえます。
現場でのコミュニケーションが正しく行われているか、会社側は注意しておかなくてはなりません。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」
まとめ
育児休業とは、法律によって定められている休暇制度のことを指します。1歳未満の子どもを養育する従業員であれば、勤務先に制度がなくても利用可能です。男性の育休取得推進を目的として、育児休業に加えて産後パパ育休(出生児育児休業)制度も用意されています。
育児・介護休業法が改正されたことで、近年では育休の取得率が低い男性も育児休業制度を利用しやすくなってきているといえます。
従業員が育児休業制度を円滑かつ安心して利用できるように、会社としては必要な手続きやサポートを徹底することが重要です。
よくある質問
育休の期間はどのくらい取得できますか?
育児休業は、原則として子どもが1歳になるまで取得できます。期間中であれば2回まで分割して取得でき、一定の事情があれば1歳6ヶ月までと2歳までにそれぞれ1回ずつの取得も可能です。
詳しくは記事内「育児休業(育休)の期間」をご覧ください。
男性でも育休は取得できますか?
育児休業は性別を問わず取得できます。さらに2022年10月1日からは、男性の育休取得促進を目的として「産後パパ育休(出生時育児休業)制度」の利用も可能になりました。
詳しくは記事内「産後パパ育休(出生児育児休業)制度とは」をご覧ください。
監修 中村 桂太
建設会社に長期在籍し法務、人事、労務を総括。特定社会保険労務士の資格を所持し、労務関連のコンサルタントを得意分野とする。 ISO9001及び内部統制等の企業内体制の構築に携わり、 仲介、任意売却、大規模開発等の不動産関連業務にも従事。1級土木施工管理技士として、土木建築全般のコンサルタント業務も行う。