人事労務の基礎知識

従業員への解雇予告とは? 解雇の基礎知識から解雇予告通知書の書き方まで社労士が解説

従業員への解雇予告とは? 解雇の基礎知識から解雇予告通知書の書き方まで社労士が解説

2020年6月現在、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、多くの企業が経済的ダメージを受けています。事業縮小を余儀なくされ、事業存続のための最終手段として、従業員の解雇を考える企業も一定数存在します。

しかし、解雇はリスクが高いとなかなか踏み切れない企業も多くあります。この記事では社会保険労務士事務所いいだの飯田 弘和様に、従業員を解雇する場合の基礎知識や労使トラブルを軽減するために企業がすべきこと等をわかりやすく解説していただきます。

目次

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解雇とは

解雇とは、事業主が一方的に雇用契約を解除することをいいます。
従業員の同意は必要か考えられますが、先述の通り「解雇とは、事業主が一方的に雇用契約を解除すること」であり、同意は必要ではありません。
従業員を解雇する場合、労働基準法では、労働者への30日前の通知または30日に不足する日数分の解雇予告手当の支払いが義務付けられています。

労働基準法では、解雇の手続きのみが定められていて、この手続きがきちんと行われていない解雇については労働基準法違反となりますが、解雇の理由等は問いません。しかし、労働基準法の問題とは別に、解雇の理由等が不当であるとして解雇の効力が民事的に争われることがあります。
すなわち、解雇無効の裁判等を起こされる可能性があるということです。
労働契約法では、解雇を行うためには「客観的に合理的な理由」と「社会的な相当性」が必要であるとされていて、それが備わっていない解雇は「解雇権の濫用」として、裁判で無効と判断されます。

労働基準法の解雇の「手続き」については解雇理由は問われませんが、この労働契約法では「解雇の理由」が重要となります。
この労働契約法という法律は、労働契約に関する民事的ルールを明らかにしたものであり、労働基準法とは違い罰則はなく、行政指導の対象ともなりません。

「いつ解雇された従業員から裁判を起こされるか」といった潜在的リスクを考えると、安易な解雇は行うべきではありません。

また、従業員としても生活において必要な「仕事」を失う為、人件費削減でなく、事業に支障が出にくいコスト削減や、役員報酬の自主返納といった、従業員の生活を守る事も考えましょう。その上で解雇を行う場合は、できる限り労使で話し合い、合意の元で退職をして頂く事が理想です。その際には、事業主の態度が威圧的であったり、威嚇や脅迫と取られないように、細心の注意を払いましょう。

また、従業員をだまして合意を取り付けるのも行ってはいけないことであり、解雇は、これらの努力を尽くした後の最後の手段とすべきです。

解雇の種類

解雇には、普通解雇のほかに、整理解雇や懲戒解雇等ありますが、法律上はこれらの区別はありません。
しかし、裁判で解雇無効が争われるときは、解雇の種類によってハードルの高さが変わります。

普通解雇

普通解雇とは、事業主と労働者の間で結ばれた雇用契約の内容に則った労務の提供等を労働者が行わない、あるいは行えないときに、その雇用契約の不履行あるいは不完全履行を理由に事業主から雇用契約を解除することをいいます。
あるいは、労働者の言動等により、労使の信頼関係が失われ、これ以上の雇用関係の継続が困難となったために行う解雇等をいいます。
普通解雇に当たる解雇理由をいくつか挙げます。

  • 私傷病での欠勤が続き、労務の提供ができない
  • 経験者ということで即戦力として雇入れたにもかかわらず、まったくそのような能力がなかった
  • 特定の資格を持っていることを要件に雇入れたにもかかわらず、その資格を持っていなかった
  • 上司の指示に理由もなく従わず、何度注意しても改善されない。等々

※解雇理由によっては、普通解雇とこの後お話する懲戒解雇のどちらにも当てはまることもあります。

整理解雇

整理解雇とは、経営の悪化による人員整理のために行う解雇をいいます。
この場合、従業員に何ら非がない解雇ですので、「客観的に合理的な理由」と「社会的な相当性」のハードルが上がります。
整理解雇の4要素といわれるものがあり、この4つの要素をどれだけ満たしているか総合考慮され、解雇の有効・無効が判断されます。
解雇の4要素とは、以下の4つをいいますが、それぞれの会社の置かれた状況等によって個別に判断されます。

  • 人員削減に伴う経営上の必要性
  • 使用者による十分な解雇回避努力
  • 被解雇者の選定基準およびその適用の合理性
  • 被解雇者や労働組合との間の十分な協議等の適正な手続き

懲戒解雇

懲戒解雇とは、従業員が会社内の規律や秩序を乱し、会社としてはこれ以上の雇用の継続が難しいときに、ペナルティ(懲罰)として行う解雇です。
懲戒解雇を行うためには、就業規則に懲戒について定められていることや、労働者に弁明の機会を与えるといったことも必要です。
過去の同様の事案と比較して処分内容が過度に重くないかといったことも、解雇が有効か無効かの判断には影響します。
懲戒解雇は、普通解雇と比べると、退職金が不支給や減額となったり、再就職の際に特に不利になる(懲戒解雇された労働者を雇入れたいという事業主はあまりいません)といった、労働者にとっては大変過酷な処分であるので、裁判ではそう簡単に懲戒解雇を有効とは認めてもらえません。

しかし、いずれの解雇も労働契約法の「客観的に合理的な理由」があるか、その解雇が「社会的に相当か」という視点から、有効・無効が判断されます。
そして、この判断を行うのは裁判官です。解雇された従業員が、会社に対して解雇無効の裁判を起こし、判決を得ることで無効が決定します。
解雇無効の判決が下った場合、解雇してからの賃金額が未払い賃金とされ、それに遅延損害金を合わせた金額を労働者に支払うことになります。

解雇予告

従業員を解雇しなければならないとき、事業主は労働基準法に定められた解雇予告を行わなければなりません。

労働基準法第20条では、
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。(以下略)

2.前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。」 出典:電子政府の総合窓口 e-gov 労働基準法第20条

と定められています。
要は、解雇をする30日以上前に労働者に通知するか、30日前に通知できないときは、その不足の日数分の解雇予告手当というお金を払ってくださいということです。

そして、不足の日数分の解雇予告手当は、解雇の日までに支払わなければなりません。
また、即日解雇の場合には、解雇と同時に30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。

解雇予告手当の計算方法

解雇予告手当の一日分の金額は、平均賃金の額となります。平均賃金とは、労働基準法で定めた特殊な計算方法によって算出されます。
解雇予告を行った日の直前の賃金締日から過去3か月分の賃金の総額を、その期間の暦日で割った金額が平均賃金となります。また、日給や時給、歩合給で働く労働者の場合、平均賃金の最低保障というものがあります。
上記同様、過去3か月の賃金の総額を計算の基礎とするのですが、暦の日数ではなく実際の労働日数で割って、そこで出てきた金額の60%の額と、初めに示した平均賃金の額を比べて、高い方の金額が平均賃金となります。
この平均賃金の最大30日分が解雇予告手当となります。これは、たとえ週1日しか労働日がないアルバイト等であっても、即日解雇を行うのであれば、30日分の解雇予告手当の支払いが必要になります。

ただ、労働者の重大なまたは悪質な背信行為等があって解雇する場合には、所轄の労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告なしに従業員を解雇することができます。
しかし、この解雇予告除外認定はそう簡単には下りませんし、下りるにしても、申請から2週間程度はかかります。

このような労働基準法に則った解雇予告を行ったとしても、あるいは解雇予告除外認定を受けたとしても、裁判になったときの解雇の有効・無効の判断にはあまり影響ありません。
裁判では、あくまで、その解雇について「客観的に合理的な理由」があるか、「社会的に相当」かで判断されます。

解雇理由証明書を交付する時の注意点

労働者に解雇を通知する方法については、口頭であっても、書面であっても構いませんが、事業主の解雇の意思を明確にするためにも、書面で行うべきでしょう。

労働者は、解雇が通知されてから実際の解雇日までの間であれば、事業主に対して、解雇理由証明書を請求することができます。(労働基準法22条第2項)

退職後であれば、退職時の証明書を請求することができます。(労働基準法22条第1項)

これらの証明書の請求があった場合、事業主はその交付をしなければなりませんが、その証明書に書かれた解雇理由等が、後々、裁判等で重要な争点になったりします。
これらの証明書は、後になって、その内容を訂正したり取り消しは不可能であり、いい加減な理由を記載することがないように気を付けなければなりません。

退職後の手続きについて

また、解雇したにもかかわらず、ハローワークへ提出の離職証明書には労働者の自己都合退職と記載したものを提出して、後々、労働者とトラブルになることもあります。
普通解雇や整理解雇と自己都合退職では、雇用保険の失業給付を受給する際に差がでます。
普通解雇や整理解雇の方が、自己都合退職よりも、給付日数で優遇されます。
また、自己都合退職の場合には3か月の給付制限期間が設けられるので、普通解雇や整理解雇に比べると、支給開始までに時間がかかることになります。

助成金等の受給の関係で「解雇」とは書きたくないなどという事業主もいますが、それは、労働者とのトラブルの問題だけでなく、助成金の不正受給にもなります。

不正受給があった場合、以下のような取り扱いがされます。

1 支給前の場合は不支給となります。
2 支給後に発覚した場合には、支給額の全額返還に加え、延滞金と不正受給額の20%相当額が請求されます。
3 不正受給から5年間は、雇用関係の助成金を受けられなくなります。
4 不正内容が悪質な場合には、刑事告発されます。
5 事業主名や事業所名、所在地や概要等が公表されます。

こういう時こそ、退職時の雇用保険や社会保険の手続きを速やかに行い、できる限り労働者の不利益にならないようにすべきです。

まとめ

解雇をする以上、事業主はいろいろなリスクを抱えることになり、そのリスクは、どんなに手を尽くしてもゼロにはなりません。それでも、解雇を行うという判断を下さなければならないときもあると思います。
ですから、解雇は絶対にすべきでないなどと言うつもりは全くありません。ここまで来たら、事業主は腹をくくってください。
しかし、そうはいっても、解雇する従業員に対して誠実であることが、その従業員とのトラブルのリスクを軽減すると共に、残った従業員へのネガティブな影響も最小限にすることができます。
解雇は、残った従業員の士気の低下や会社への忠誠心の低下を引き起こすことがあります。
そうならないためには、日ごろから、従業員一人ひとりを人として尊重する、人としての尊厳を傷つけない等の心遣いが大切ではないでしょうか。解雇を行う際にも、この心遣いを忘れてはなりません。

執筆者:社会保険労務士事務所いいだ 飯田 弘和

中小企業のための就業規則の作成や労務管理、従業員向けの各種セミナーを行っている社労士事務所です。 ハラスメント防止策や女性の活躍推進、仕事と介護の両立支援等についても、ご相談ください。

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