タレントマネジメントとは、従業員が持つスキルや経験などのタレント(才能)を最大限に引き出し、戦略的な人員配置や育成を行う人事管理手法です。
労働力不足が深刻化し、人的資本経営への注目が集まる現代において、単なる労務管理から、経営戦略に直結する人事への転換が求められています。しかし、適切な手順を踏まずに導入すると、現場の負担増を招き逆効果になる恐れもあるのです。
本記事では、タレントマネジメントの基礎知識から注目される背景、導入のメリット・デメリット、具体的な進め方までを網羅的に解説します。
目次
- タレントマネジメントとは
- タレントマネジメントが注目された背景
- 労働力不足と人材の流動化
- 人的資本経営の普及
- 働き方の多様化とジョブ型雇用の普及
- VUCA時代の到来
- タレントマネジメントと従来の人事管理の違い
- タレントマネジメントの4つの中間目的
- 人材調達
- 人材育成
- 人材配置
- 人材定着
- タレントマネジメントを行う5つのメリット
- 人材配置を最適化し、生産性向上につながる
- 次世代リーダーを計画的に育成できる
- 採用コストを削減しミスマッチを防止できる
- 公平性が高い人事評価制度を構築できる
- 社員のエンゲージメントを強化できる
- タレントマネジメント導入の6ステップ
- 1. 実施目的を明確化する
- 2. タレントの現状を把握する
- 3. タレントの発掘・採用を行う
- 4. タレントの戦略的に配置する
- 5. 人事評価を行う
- 6. 運用を見直す
- タレントマネジメントを導入するときの注意点
- 導入前に全社員に方針を浸透させる
- システム導入がゴールではないことを常に意識する
- タレントマネジメントシステムとは
- タレントマネジメントシステムでできること
- タレントマネジメントシステムの注意点
- タレントマネジメントシステムの選定方法
- まとめ
- よくある質問
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、従業員が持つスキルや経験などのタレント(才能)を最大限に引き出し、戦略的な人員配置や育成を行う人事管理手法です。
ここでいう「タレント」とは、一部の優秀な層だけを指すのではありません。全従業員が持つ固有の強みやスキル、経験、志向性といったすべてが管理の対象となります。
この概念は1990年代後半、アメリカのコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「War for Talent(人材をめぐる戦争)」という言葉から広まりました。グローバル競争が激化する中で、優秀な人材の確保と維持が企業の死活問題となったことが背景にあります。
タレントマネジメントが注目された背景
日本でタレントマネジメントの重要性が急速に高まっている背景には、以下の4つの要因があります。
労働力不足と人材の流動化
少子高齢化による生産年齢人口の減少により、外部からの採用難易度が上がっています。限られた人材をいかに効率よく活用し、離職を防ぐかが企業の最優先課題です。
人的資本経営の普及
2023年度より、上場企業を対象に人的資本の情報開示が義務化されました。人材をコストではなく資本と捉え、その価値を最大化させるプロセスを社内外に示すため、データに基づいた人材管理が不可欠となっているのです。
働き方の多様化とジョブ型雇用の普及
従来のメンバーシップ型雇用(新卒一括採用・年功序列型)から、職務内容を明確にするジョブ型雇用へのシフトが進んでいます。個人のスキルを可視化し、職務に適した人材をマッチングさせるタレントマネジメントは、ジョブ型雇用と非常に相性が良い手法です。
VUCA時代の到来
変化が激しく予測困難な現代(VUCA)では、従来の画一的な人材育成では対応できません。個々の専門性を活かし、柔軟に組織を組み替える機動力が必要です。
タレントマネジメントと従来の人事管理の違い
タレントマネジメントと人事管理は、人材戦略や労務管理などどちらも人材と関わりがあるため混同されやすい用語です。しかし、両者は以下のように目的と視点に明確な違いがあります。
| タレントマネジメント | 従来の人事管理 | |
|---|---|---|
| 主な目的 | 経営戦略の達成・競争力の強化 | 事務作業の効率化・法令遵守 |
| 焦点 | 個人の才能・将来のポテンシャル | 勤怠・給与・過去の実績 |
| 視点 | 未来志向(どう活かし、育てるか) | 過去志向(どう処理し、記録するか) |
| 対象データ | スキル、経験、志向、適性検査結果 | 住所、氏名、職歴、評価履歴 |
人事管理は、従業員の基本情報や労務情報などを包括的に管理し、主に人事業務の効率化が目的でおこなわれます。一方、タレントマネジメントは従業員がもつ能力や才能などの意味をもつ「タレント」を重視し、これらを一元管理して人材配置や開発、採用に活用する方法です。
タレントマネジメントは組織と従業員のパフォーマンス最大化や経営戦略の成功が目的であり、単に実務負担を軽減することだけを目的としていません。
タレントマネジメントの4つの中間目的
タレントマネジメントの目標は企業の経営目標の達成ですが、それだけでは具体的な役割がわかりにくいかもしれません。
人事戦略の視点から経営目標の達成を実現するためにも、タレントマネジメントを使い、以下4つの中間目的を達成すると実施しやすいでしょう。
ここではそれぞれの中間目的の意味と、タレントマネジメントを活用して目的を達成する方法を具体的に解説します。
人材調達
経営目標を達成するうえで、組織が必要とする適切な人材を見つけ出すことを人材調達と呼びます。
タレントマネジメントを用いて目的を達成するには、外部からの新規採用だけでなく、組織内部に潜在する人材の発掘なども効果的です。
人材育成
人材育成で最初に行うのは、現状と組織が求める人材像の違いの洗い出しです。現状の洗い出しは、定期的に実施しましょう。
そのギャップを埋めるために従業員に業務経験を積ませたり、その能力や才能などにあわせて教育研修や体験セミナーなどのプログラムを提供したりします。
人材配置
従業員のポテンシャルを最大限に引き出すために、スキルと適性に合ったポジションへの人材配置が重要です。
具体的には、タレントマネジメントシステムを通して個々の能力やスキルをデータ化し、一元管理します。データに基づいてスキルや経験を活かせる人材配置を行えば、パフォーマンスを最大化できます。
人材定着
労働人材の確保が難しい現状では、育成した人材の離職を防ぐ人材定着も、タレントマネジメントを実施する目的となります。従業員のモチベーションやエンゲージメントを向上させ離職を減らすことは、企業内の人材を保持し、スキル向上やキャリア支援などの土台となります。
具体的には従業員のキャリア志向と組織の方向性の調整や、能力に見合ったポジションの提供、そして適性な報酬の提供などの方法が挙げられます。
タレントマネジメントを行う5つのメリット
タレントマネジメントにより、人事分野や組織全体に以下のメリットが期待できます。
タレントマネジメントを行うメリット
それぞれのメリットについて確認しておきましょう。
人材配置を最適化し、生産性向上につながる
従業員のスキルや経験、ノウハウが可視化できれば、人材配置の最適化が可能です。これにより、従業員は自分の能力に適したポジションに就けるため、個々の生産性も向上しやすくなります。
人材配置の最適化を実施できれば組織全体の成果につながるだけでなく、従業員のモチベーション維持にも良い影響が期待できます。
次世代リーダーを計画的に育成できる
自社の人材の現状を正確に把握すれば、個々の従業員の課題解決に向けた育成や教育が可能です。これにより将来の経営層候補を早期に選抜し、長期的なスパンで必要な経験を積ませることが可能になります。
また、将来の方向性を明確にしたうえで目標にあった教育や研修などに取り組めば、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
採用コストを削減しミスマッチを防止できる
必要な人材像を明確化すれば、社内の異動によって人材を補充しやすくなります。むやみに外部から人材を採用する必要がなくなり、コスト削減の効果が見込めます。
さらに離職した従業員の特性や傾向を分析すれば、外部採用時に求める人材像が明確になり、ミスマッチ防止も期待できるでしょう。
公平性が高い人事評価制度を構築できる
人事評価で業務内容や評価者によりばらつきが生じると、組織に対する不公平感や不信感につながります。タレントマネジメントを使えば、社員の能力やスキルなどを一括でスコアリングできるため、公平性が高い人事評価制度の構築が可能です。
適切な能力評価や具体的なキャリアパスの提示などを行えば、従業員からの信頼感を高められやすくなります。
社員のエンゲージメントを強化できる
従業員の能力に合った部署への配置や、多面的な評価ができれば、社員のポテンシャルを最大限に活かすことが可能です。
従業員は自らの能力が認められれば、仕事に対するモチベーションや熱意が高まると同時に、企業に対する貢献を感じやすくなります。その結果、企業に対するエンゲージメント強化も期待できます。
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タレントマネジメント導入の6ステップ
タレントマネジメントを導入するためには以下のステップを理解しておきましょう。
タレントマネジメント導入の6ステップ
それぞれの導入ステップを順を追って解説します。
1. 実施目的を明確化する
タレントマネジメントを導入するためには、経営戦略や長期的なビジョンに基づいて明確な実施目的を定めることが重要です。
どのようなタレントをどの程度増やすのか、企業が目指す人材像とは何かなどを具体的に洗い出し、どのような目的を成し遂げたいかを明確にします。経営戦略と人事戦略をリンクさせ、人材の育成や配置についてもビジョンを統一するのがいいでしょう。
2. タレントの現状を把握する
従業員の人数・スキル・目標・評価などの情報を、数字やデータとして可視化し、明確に現状を把握します。タレントに関する情報は適切に管理し、関係部署間でも情報共有できるようにして、常に最新の情報にアクセス可能な環境を整えます。
また、企業目標の達成に不足しているタレントも分析し、必要な人材の特定に役立てましょう。
3. タレントの発掘・採用を行う
データを活用してタレントの発掘・採用を行います。現状の人材のみで行えれば理想的ですが、社内に人材が不足している場合は、今いる人材の教育や新たな人材の採用などを検討する必要があります。
4. タレントの戦略的に配置する
発掘・採用したタレントを、適切なポジションに配置していきます。タレントは単に現在の能力だけで判断せず、これまでの経歴や保有資格など整理されたデータに基づき、個々の志向やキャリアパスも考慮し適材適所に配置しましょう。
なお、企業の人事戦略にのっとって人材配置を進めることが重要です。
5. 人事評価を行う
運用結果をモニタリングし、企業業績と個々の貢献度を照らし合わせます。また、1on1面談などを通じて得られた、キャリア志向や仕事上の意欲なども評価対象とします。
この過程で計画や教育体制の見直しを行い、従業員の成長や組織の目標達成に向けた支援を行いましょう。
6. 運用を見直す
もしも、タレントマネジメントを実施した結果能力不足や業績向上の見込みが低いと判明した場合は、適切な対策が必要になります。
能力の向上を図るためにトレーニングやフォローアップを行い、異動など新たな挑戦の提供も検討しましょう。適切な異動は、従業員の成長とモチベーション向上につながり、新たな挑戦の機会を提供できます。
タレントマネジメントを導入するときの注意点
タレントマネジメントを導入する段階では、システムの検討や導入に多大な労力を費やします。
ここでは、失敗を回避し成功するため、タレントマネジメント導入前に注意すべき点を解説します。
導入前に全社員に方針を浸透させる
経営層だけが導入目的を理解していても、社員全体へ目的が浸透していなければ運用がスムーズに行えない可能性があります。広報活動や研修の実施、運用マニュアルの準備などを検討し、全社員に方針を十分に浸透させて理解を深めたうえで導入しましょう。
システム導入がゴールではないことを常に意識する
目的を明確に定めず導入すると、うまく機能せず成果を上げられなくなります。単に「タレントマネジメントを導入したい」というだけでなく、タレントマネジメントの導入は、経営目標の達成が目的であることをはっきりさせるのも大切です。
タレントマネジメントシステムとは
独自でシステムを組み実行するのは、膨大な時間や労力が必要です。より効率的にタレントマネジメントを実現するための支援システムツールとして、「タレントマネジメントシステム」が提供されています。
ここでは、タレントマネジメントシステムが具体的にどのようなシステムなのかを解説します。
タレントマネジメントシステムでできること
タレントマネジメントシステムは、従業員の一般情報に加え、スキルや経験をデータ化し組織全体で一元管理できるシステムです。このシステムによって、人材の効率的な活用が可能となります。
代表的な機能として、以下のようなものが搭載されています。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 人材管理 | スキル・キャリア・実績など基本プロフィール登録および検索 |
| コンピテンシー情報の管理機能 | ・コンピテンシーモデルの作成 コンピテンシー項目の洗い出し |
| 配属管理、組織図の作成 | ・従業員情報をもとに組織図を生成 ・配置転換のシミュレーション |
| 育成計画の管理 | 評価や資格といった特定の項目で絞り込んだ社員情報リストの作成など |
| 目標管理 | ・年次や四半期、月単位で目標を管理 ・全社目標や部門目標など組織やチーム単位での目標管理 |
| データ分析、スコアリング | ・データを分析 ・タレントマネジメントをビジュアル化 |
システムの活用によって個々の能力や成長を追跡し可視化することで、組織のニーズに合わせた人材戦略の構築が容易になります。タレントマネジメントシステムはさまざまな種類があるため、自社のニーズや目的に適した機能が搭載されているかを確認しましょう。
タレントマネジメントシステムの注意点
タレントマネジメントシステムは支援ツールであり、導入だけでタレントマネジメントができるわけではありません。使い方によっては効果を得られず、逆に作業量が増える可能性もあります。
たとえば、既存の業務フローと導入したシステムの連携がうまくいかなければ、データが重複し作業量が増えるかもしれません。このようなリスクを回避するためには、適切なシステム選定と従業員とのコミュニケーションに加え、既存の業務フローとの連携にも配慮しながら進めることが大切です。
タレントマネジメントシステムの選定方法
タレントマネジメントシステムの選定にあたって、確認が必要なポイントを以下にまとめました。
| 選定ポイント | 内容 |
|---|---|
| 目的に合った機能があるか | 自社のニーズや目的に合った機能が備わっているかどうか |
| コストパフォーマンスがよいか | 組織の予算やニーズに合った、導入・運用費用になっているか |
| 既存システムとの連携できるか | アプリケーション同士を連携できる製品もあるため、API連携機能の有無も調査しておくとよい |
| セキュリティは十分か | 情報漏洩や不正アクセス防止への配慮が十分であるか |
| サポート体制が整っているか | 電話・メール・チャットといった連絡手段や、サポートの有償・無償など、サポート体制が整備されているか |
効果的に活用できるシステムを導入するためにも、これらのポイントを確認して自社の目的に合ったシステムを選びましょう。
まとめ
タレントマネジメントは、従業員の能力やスキル、経験などの情報を一元管理することで、採用や育成、配置に活用する人材マネジメント方法です。採用コストの削減や人材配置の最適化など多くのメリットがある一方で、明確な目的を設定できなければ効果は薄れてしまうでしょう。
タレントマネジメントでは支援システムツールも開発されており、人材管理の効率化も可能です。企業と個人がともに取り組み、システム導入前に十分な準備を整え、効率的なタレントマネジメントを実現しましょう。
よくある質問
タレントマネジメントとは?
タレントマネジメントとは、従業員が持つスキルや経験などのタレント(才能)を最大限に引き出し、戦略的な人員配置や育成を行う人事管理手法です。組織内の人材データを一元管理し、優れた人材の発掘や適切なポジションへの配置に役立てるために実施されます。
詳しくは、記事内の「タレントマネジメントとは」をご覧ください。
タレントマネジメントを導入するメリットは?
組織の生産性向上と、優秀な人材の定着というメリットがあります。
個々のスキルや志向をデータで可視化することで、経験や勘に頼らない適材適所のアサインが可能です。明確なキャリアパスの提示や公平な評価が行えるようになるため、社員のエンゲージメントが高まり、離職防止や採用コストの削減といった効果も期待できます。
詳しくは、記事内の「タレントマネジメントを行う5つのメリット」をご覧ください。
タレントマネジメントが失敗する主な原因は?
データの鮮度が落ちること、および現場の負担増です。情報が更新されなければ使い物になりません。入力の負荷を減らす工夫や、データ活用によって現場の課題が解決される成功体験を作ることが鍵となります。
詳しくは、記事内の「タレントマネジメントを導入するときの注意点」をご覧ください。
