「コンピテンシー」とは、個人の価値観や思考パターンなどの「行動特性」のことです。
本記事では、コンピテンシーの定義や評価方法、人事や採用活動における具体的な活用シーンについて詳しく解説します。
最後まで読めば、人事初心者でもすぐに理解し業務に活かすことができるでしょう。
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目次
- コンピテンシーとは
- コンピテンシーが重要視される理由
- コンピテンシーに関連する用語との違い
- コンピテンシーを活用する4つのシーン
- 採用活動
- 人事評価
- 社員のキャリア開発
- 組織全体のマネジメント
- コンピテンシーモデル作成の3つのパターン
- コンピテンシー評価導入までの6ステップ
- STEP1:優秀な社員にインタビューする
- STEP2:コンピテンシーを洗い出す
- STEP3:企業理念と擦り合わせる
- STEP4:評価に組み込むべきコンピテンシーを選ぶ
- STEP5:コンピテンシー項目ごとにレベルを設定する
- STEP6:導入後に評価と改善を繰り返す
- コンピテンシー評価基準となる5つのレベル
- レベル1:受動行動
- レベル2:通常行動
- レベル3:能動・主体行動
- レベル4:創造・課題解決行動
- レベル5:パラダイム変換行動
- コンピテンシー評価を実施する4つのメリット
- 優秀な人材の確保や育成につながる
- 社員のパフォーマンスが向上する
- 公平な評価ができる
- 人事評価の運用コストが下がる
- コンピテンシー評価実施時の注意点
- コンピテンシー項目の設定に時間がかかる
- 状況に応じて見直す必要がある
- 部署や職種によって必要なコンピテンシーモデルが異なる
- コンピテンシーを上手に運用するポイント
- まとめ
- よくある質問
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、仕事で成果を出す人の価値観や思考パターンなどの、行動特性のことです。
従来の人事や採用ではスキルや能力、学歴などが注目されていましたが、近年性格や価値観、思考パターンなどのコンピテンシーが重視されています。
成果を上げている人はどのような行動を取っているのか、どのような行動で成果を上げられるのかに注目し分析することで、より効果的な人材育成が可能になります。
なお、コンピテンシーを活用する際は導入目的を明確にし、分野ごとに具体的な項目を設定しなければなりません。コンピテンシーの研究者であるスペンサーらは、6つの領域と20の項目に分類した「コンピテンシー・ディクショナリー」を公表しています。
コンピテンシー | コンピテンシーの項目 |
達成・行動 |
・達成思考 ・秩序・品質・正確性への関心 ・イニシアチブ ・情報収集 |
援助・対人支援 |
・対人理解 ・顧客支援志向 |
インパクト・対人影響力 |
・インパクト・影響力 ・組織感覚 ・関係構築 |
管理領域 |
・他者育成 ・指導 ・チームワークと協力 ・チームリーダーシップ |
知的領域 | ・分析的志向 ・概念的志向 ・技術的・専門職的・管理的専門性 |
個人の効果性 |
・自己管理 ・自信 ・柔軟性 ・組織コミットメント |
コンピテンシーが重要視される理由
もともと、コンピテンシーという考え方は1980年代のアメリカで誕生しました。
アメリカの心理学者のデイヴィッド・C・マクレランド氏が、米国文化情報局からの依頼で業績と従業員の相関関係を調べたところ、業績と深くつながっているのは学歴ではなく性格や考え方・価値観だと判明したのです。
この調査結果によって、1990年代初頭から成果を上げる従業員の行動特性をモデル化したコンピテンシーが、人事の評価基準や人材育成に組み込まれていきました。
日本でも商品がヒットし続けたバブル期から、消費者の移り変わりが早い時代へと移行したため、従来よりも従業員一人ひとりの成果を高めることが重要視されています。
そこで注目されるようになったのが、高いパフォーマンスを出し続ける従業員の確保と、育成を目的としたコンピテンシーなのです。
コンピテンシーに関連する用語との違い
「スキル」「アビリティ」など、コンピテンシーに関連する用語との違いを把握しておくことも大切です。用語の違いを以下の表にまとめたので、ぜひ参考にしてください。
項目 | 概要 |
コンピテンシー | 特定の業務や役割を効果的に遂行するために必要な行動特性 |
スキル | 学習や実践を通して得た高度な能力・技能 |
アビリティ | 仕事へ取り組む姿勢など、総合的な能力・技能・力量 |
コア・コンピタンス | 技術開発のスキルやブランド力など、企業が競合相手よりも優れた価値を提供できる独自かつ戦略的な能力 |
ケイパビリティ | ある目標や課題を達成するために組織が備えている能力や資源 |
コンピテンシーを活用する4つのシーン
コンピテンシーを活用する主なシーンとして、以下の4つがあります。
コンピテンシーを活用する4つのシーン
- 採用活動
- 人事評価
- 社員のキャリア開発
- 組織全体のマネジメント
それぞれの活用シーンについて詳しく説明します。
採用活動
コンピテンシーは、面接などの採用活動でよく活用されています。
たとえば、「直近で成果を上げたエピソードはありますか?」「実際にどのような行動を起こしましたか?」など、具体的な行動について質問をします。その回答と自社で求めている行動特性を照らし合わせることで、効率的に採用が行えるでしょう。
また、採用活動でコンピテンシーを活用すれば、担当者ごとに評価のバラつきが少なくなり、面接・採用担当者の負担が軽減できるメリットもあります。
人事評価
コンピテンシーの活用によって、人事評価のバラつきが少なくなります。成果を上げる従業員の行動特性をモデル化したものがコンピテンシーなので、その評価基準に基づけば平等に従業員の評価が行えるでしょう。
さらに、評価基準にはハイパフォーマー(生産性の高い人材)のノウハウやコツが反映されています。そのため、評価基準を事前に共有しておくことで、生産性の高い行動や思考をもった従業員が増えやすいです。
社員のキャリア開発
コンピテンシーは、社員のキャリア開発においても活用されています。
コンピテンシーによって、理想的な思考や行動特性が明示・共有されることで、従業員は個々の目標をより明確に設定でき、スキル向上の促進につながります。
また、企業が求める人材要件を定義すれば、組織全体での能力向上や人材開発に取り組めるようになるでしょう。
組織全体のマネジメント
組織全体をマネジメントする際にも、コンピテンシーが活用できます。
組織内で求められるコンピテンシーがはっきりと示され、その内容が共有されることで、メンバーの適性評価・業務分担・適切な配置・チーム構築など、より効率的で有効な組織マネジメントが可能になります。
コンピテンシーに焦点を当てた組織的な行動によって、組織全体の成果向上や目標達成につながるでしょう。
コンピテンシーモデル作成の3つのパターン
コンピテンシーを実務に導入するために、まずはコンピテンシーモデルを作成しましょう。
コンピテンシーモデルとは、組織が成功するために必要なスキルや行動に焦点を当て、これらを階層的かつ体系的に整理したものです。
「実在型モデル」「理想型モデル」「ハイブリッド型モデル」の3つの型があり、それぞれ作成方法が異なります。
型 | 作成方法 |
実在型モデル | 実際に存在する優秀な社員を基にモデルを作成 |
理想型モデル | 企業にとっての理想の人物像を基にモデルを作成 |
ハイブリッド型モデル | 実在型と理想型を合わせてモデルを作成 |
実在型モデルは、一般的に使用されているコンピテンシーモデルです。
「まだモデルになりそうな優秀な人材がいない」「企業のビジョンや理念を入れたい」などの場合は、理想型モデルかハイブリッド型モデルを用います。ただし従業員が納得できるモデルを作成する必要があります。
続いての「コンピテンシー評価導入までの6ステップ」では、実在型モデルを使用した導入の流れを解説します。
コンピテンシー評価導入までの6ステップ
実在型モデルを使用したコンピテンシー評価の導入ステップは、以下のとおりです。
コンピテンシー評価導入までの6ステップ
- STEP1:優秀な社員にインタビューする
- STEP2:コンピテンシーを洗い出す
- STEP3:企業理念と擦り合わせる
- STEP4:評価に組み込むべきコンピテンシーを選ぶ
- STEP5:コンピテンシー項目ごとにレベルを設定する
- STEP6:導入後に評価と改善を繰り返す
それぞれの内容について具体的に説明します。
STEP1:優秀な社員にインタビューする
最初に、優秀な社員(ハイパフォーマー)にインタビューを行います。どのような行動で成果を上げているのか、成果につながる行動特性を明確にする必要があるためです。
また、同僚や上司にもインタビューしたり、ハイパフォーマーの仕事の様子を観察し自身でも気づけていないような行動特性にも注目したりするといいでしょう。
STEP2:コンピテンシーを洗い出す
ハイパフォーマーのインタビューで行動特性を明確にした後は、その行動特性からコンピテンシーを洗い出します。
コンピテンシーの候補を選定する際は、本記事の「コンピテンシーとは」で紹介したコンピテンシー・ディクショナリーの評価項目と照らし合わせてください。
コンピテンシー・ディクショナリーの評価項目に当てはまらない場合は、必要に応じて自社特有の行動特性として残すか判断しましょう。
STEP3:企業理念と擦り合わせる
続いて、洗い出したコンピテンシーを企業理念やビジョンと擦り合わせます。これは、より自社が目標とする理念やビジョンに合ったコンピテンシーを選定するためです。
企業理念やビジョンに合わないコンピテンシーは排除し、理想と現実のバランスを整えましょう。
STEP4:評価に組み込むべきコンピテンシーを選ぶ
すべてのコンピテンシーを評価に組み込むと運用に負担がかかってしまうため、評価に採り入れるコンピテンシーを選びます。
コンピテンシーを選ぶ際は、成果への影響が強く、従業員の育成において継続的に使用できる要素かどうかが大切なポイントです。
STEP5:コンピテンシー項目ごとにレベルを設定する
選定したコンピテンシーの達成度を項目ごとに確認ができるよう、詳細なレベル設定を行います。
項目ごとにレベル設定しておくことで、社員が今どれだけ評価されているかが客観的にわかりやすく、運用がスムーズです。
なお、レベルの段階については、後述の「コンピテンシー評価基準となる5つのレベル」で詳しく解説します。
STEP6:導入後に評価と改善を繰り返す
コンピテンシーは導入したら終わりではありません。実務に導入したコンピテンシーモデルの評価と改善を繰り返す必要があります。
たとえば、以前よりも人材の定着率が向上している場合、作成したモデルは適切であると評価できますが、期待した定着率に届かない場合はコンピテンシーモデルの改善が必要です。
また、コンピテンシーはビジネスモデルの変更や環境の変化によって変わる可能性があるため、定期的にモデルを見直しましょう。
コンピテンシー評価基準となる5つのレベル
コンピテンシー評価基準となるレベルは1から始まり、レベルが高くなるほど自ら積極的に行動する人物だと評価されます。
コンピテンシーを用いた評価基準は、以下の5段階に分けられます。
コンピテンシー評価基準となる5つのレベル
- レベル1:受動行動
- レベル2:通常行動
- レベル3:能動・主体行動
- レベル4:創造・主体行動
- レベル5:パラダイム変換行動
各レベルについて詳しく解説します。
レベル1:受動行動
レベル1の受動行動は、指示待ちの状態です。
上司や先輩からの指示がないと動くことができず、言われたことだけを実行する=具体的な指示なしでは行動できない従業員が該当します。ビジネスにおいては、主体性がないと評価されるでしょう。
レベル2:通常行動
レベル2の通常行動は、必要な行動を適切なタイミングで実行する状態です。
上司から指示された業務に対して責任をもって取り組む姿勢は評価されますが、決められたこと以外はできない場合が多く、基本的なレベルの評価となります。
レベル3:能動・主体行動
レベル3の能動・主体行動は、明確な根拠や理由をもって主体的に行動する状態です。
決められた行動だけでなく、より良い成果をもたらすために自分で情報収集したり、スキルアップのための学びに意欲的な姿勢を見せたりします。
能動的な行動と創意工夫ができる従業員が該当します。
レベル4:創造・課題解決行動
レベル4の創造・課題解決行動は、自らの意思や判断で実際に行動を起こし、現状をより良いものにしようとする状態です。
たとえば、新しいプロジェクトがスタートする際、自分からより良いアイデアを提案するなど成果向上を目指した行動が取れる従業員が当てはまります。
レベル5:パラダイム変換行動
レベル5のパラダイム変換行動は、新たなアイデアや発想によってより良い状況にするための行動ができる状態です。
ただアイデアを提案するだけでなく、自らリーダーシップを執り、周囲に良い影響を与えられるかどうかがポイントです。
このレベルにある人は、自らの行動で他者や組織全体に良い影響をもたらすことができます。
コンピテンシー評価を実施する4つのメリット
コンピテンシー評価を実施する主なメリットとして、以下の4つがあります。
コンピテンシー評価を実施する4つのメリット
- 優秀な人材の確保や育成につながる
- 社員のパフォーマンスが向上する
- 公平な評価ができる
- 人事評価の運用コストが下がる
各メリットについて詳しく説明します。
優秀な人材の確保や育成につながる
企業理念や自社の特性を反映しているコンピテンシーを採用活動や人事評価に用いることで、優秀な人材の確保や育成につながります。より自社の特性にマッチした人材が確保できれば、継続的な生産性向上が期待できるでしょう。
またスキルが足りていなくても、自社が求めるコンピテンシーをもっている場合は育成後の活躍が期待できます。
社員のパフォーマンスが向上する
人材育成や人事評価にコンピテンシーを活用することで、社員のパフォーマンスが向上するのも大きなメリットです。
従業員にとってコンピテンシーは、自分を客観的に評価する判断基準となり、自身がもつスキルや能力をどのように活かすかが明確になります。また、より高いパフォーマンスを出すための方法を、社員一人ひとりが理解する手助けにもなります。
公平な評価ができる
コンピテンシーを人事評価に採り入れると、成果を出すまでの過程・行動を踏まえた評価ができるようになるため、感覚や印象に基づいた評価が減るでしょう。
また、定量的な評価指標のKGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)と異なり、目標や業績を達成するまでの過程にも意識が向けられるため、従業員の努力に寄り添った評価も行えます。
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人事評価の運用コストが下がる
コンピテンシーを導入すれば、人事評価の運用コストも低減できます。定性的な要素にる評価は、人事担当者の負担が大きいだけでなく、従業員にも不満が出かねません。
コンピテンシーによって定量的にレベルで評価できると、人事担当者の負担も減り従業員も評価に納得しやすいです。
コンピテンシー評価実施時の注意点
コンピテンシーを実務に活用する際に注意すべき項目は、主に以下のとおりです。
コンピテンシー評価実施時の注意点
- コンピテンシー項目の設定に時間がかかる
- 状況に応じて見直す必要がある
- 部署や職種によって必要なコンピテンシーモデルが異なる
それぞれの注意点について解説します。
コンピテンシー項目の設定に時間がかかる
コンピテンシーの項目は、ハイパフォーマーへのインタビューから職種・役割別に定める必要があるため、設定に時間を要します。
いち早くコンピテンシーを取り入れるために、とりあえず項目を決めておくケースもありますが、中途半端に決めたコンピテンシーでは長期間運用しても成果は得られないでしょう。また、時代の変化に対応できなくなる恐れもあります。
コンピテンシー項目を定める際は、どのように活用していきたいか、どうすれば無理なく導入できるのかを考えることが大切です。
状況に応じて見直す必要がある
前述したように、コンピテンシーを長期間活用する際は、定期的に見直す必要があります。
最初に決めたコンピテンシーを活用し続けていると、時代の変化に対応できなくなるかもしれません。
状況に応じてコンピテンシーモデルを見直すのはもちろんのこと、1年や四半期など期間を決めて見直すといいでしょう。
部署や職種によって必要なコンピテンシーモデルが異なる
コンピテンシーモデルは、部署や職種によって異なるという特徴があります。そのため、コンピテンシー項目の設定に時間がかかるだけでなく、策定が困難で多くの時間と労力が必要になるのも注意すべき点です。
コンピテンシーを導入する前に、部署や職種ごとに設定し現実的に運用できるか、十分に検討しましょう。
コンピテンシーを上手に運用するポイント
コンピテンシーを上手に運用するには、仕組み化が重要なポイントです。仕組み化できなかったために「導入したものの、うまく活用できなかった」というケースも存在します。
策定したコンピテンシー項目を基にモデル化・仕組み化し、コンピテンシーに基づいた行動や思考を当たり前のものにしていかなければなりません。
社内研修・採用面接などで使用している既存システムやフォーマットに組み込むなど、コンピテンシーに基づいた行動が必然的になる環境づくりを行いましょう。
まとめ
仕事において優秀な成果を発揮する行動特性を示すコンピテンシーは、採用活動や人事評価、社員のキャリア開発など、さまざまなシーンで活用されています。
継続的に運用し環境の変化に対応する柔軟性をもつためにも、職種や部署別に適したコンピテンシー項目を定め、定期的に見直すことが大切です。
会社で導入する際には適切なステップを踏み、コンピテンシーの効果が最大になるような仕組み化を検討しましょう。
よくある質問
「コンピテンス」とはどういう意味?
コンピテンス(competence)とは、特定の目標や任務を達成するために必要な能力やスキルのことです。
組織や個人が特定の仕事や役割に効果的に対応するには、適切なコンピテンスが求められます。
コンピテンシーが高いとはどういうこと?
個人や組織が、特定の仕事や役割に必要な能力・スキルを備え、その能力・スキルを効果的かつ効率的に発揮できる状態を指します。
コンピテンシーが高い人物はプロジェクトの中でリーダーシップを発揮し、複雑な状況や課題に対しても効果的な解決策を導き出せるでしょう。
コンピテンシーはなぜ必要?
自社に適した優秀な人材の確保と育成ができるのはもちろんのこと、優れた手本を従業員に示し、高いプロ意識を持たせることができるためです。
コンピテンシーは優秀な人材の行動パターンや思考をモデル化しているものなので、従業員の人格を高め、高いプロ意識の醸成に貢献します。