監修 米澤 潤平 税理士・社会保険労務士・中小企業診断士
学生起業とは、高校生や大学生が学校に在籍しながら事業を始めることです。近年、若い経営者が注目を集めたり成功を収めたりするなかで、学生起業を志す人も増えています。
本記事では、学生起業のやり方やメリット・デメリットのほか、学生起業を成功させるうえでのポイントについて解説します。
目次
学生起業の現状
経済産業省が公開している2023年度の調査結果によると「大学発ベンチャー数」は4,288社であり、前年度(2022年度)と比較して506社増加しています。この数値は過去最高で、特にここ9年ほどはずっと右肩上がりであり、学生起業の数は年々増加しているといえるでしょう。この数値には「教職員等のベンチャー」も含まれているものの、学生起業の数も相当数含まれていると考えられます。
出典:経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました(速報)」
学生起業が増えている一因として、大学の起業支援が活発化していることが挙げられます。支援内容は大学によって異なりますが、大学内の起業関連コミュニティを通じて、経験者に相談したり、出資を受けたりできます。たとえば東京大学では、起業を志す学生らを対象に法務や経営について専門家に相談できる支援窓口の設置や、アントレプレナーシップ講座が実施されています。
出典:東京大学 産学協創推進本部「起業・大学発ベンチャー支援」
「スタートアップ育成5か年計画」とは
このように国内の学生起業が活発化しつつある一方で、欧米諸国に比べると、日本は起業する人の割合が低い水準にあるのも事実です。その要因のひとつに、起業する際の資金調達の難しさがあります。そこで政府が2022年に策定したのが、資金面での起業支援策などを盛り込んだ「スタートアップ育成5か年計画」です。
この計画では、2027年度にスタートアップ投資額を10兆円規模に拡大し、ユニコーン(時価総額1,000億円超の未上場企業)を100社、スタートアップを10万社創出することを目標に掲げています。起業家を志す人が挑戦しやすく、スタートアップとして成長できる環境を整備するために、以下の3つの柱のもと多様な施策に取り組んでいます。
「スタートアップ育成5か年計画」の3つの柱
- スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
- スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
- オープンイノベーションの推進
出典:経済産業省「スタートアップ育成5か年計画」
学生起業のやり方
日本経済の持続的な成長を見据えて、政府や大学などの教育機関が若い人材の起業を後押しする動きは今後ますます強まると考えられます。学生起業を検討している人はチャンスを逃さないように、実現に向けて着実に準備を進めていきましょう。
学生起業の実現までには、以下のような順番で進めます。
学生起業のステップ
- ステップ1 起業する目的や事業内容を決める
- ステップ2 資金調達をする
- ステップ3 起業に必要な手続きや費用の準備をする
ここでは、各ステップについて解説します。
ステップ1 起業する目的や事業内容を決定する
学生起業を始めるには、まず「どのような目的をもち、どのような事業で起業するか」を明確にしなければなりません。学生にかかわらず、すべての起業に共通することですが、方針が決まらないうちに起業だけしても、事業がうまくいくことはまずありません。
社会に必要な良いサービスであっても実現可能性が低かったり、実現しても会社を維持・拡大できる利益が出なかったりするケースを想定し、「事業として成り立つかどうか」を意識して事業構想を立てましょう。
そのためには、市場調査や競合調査を行い、自分が考えている事業内容が市場のニーズに合っているか、ビジネスとして成立するのかをきちんと検討する必要があります。国内外の政治や経済、競合他社の状況などの外部環境、自社が保有する人材や技術などの内部環境についてSWOT分析や5F分析、PEST分析などのフレームワークを用いて、事業の強みと弱みを正しく認識しておくことが大切です。
固めた事業目的および事業内容は、事業計画書にまとめていきます。事業計画書について詳しくは、別記事「【項目別】事業計画書の書き方とは?作成前にすべきことや入手先も解説」をご覧ください。
同時に、集客方法や販路といったマーケティング戦略と資金計画についても検討しましょう。マーケティング戦略では、WebサイトやSNS、広告媒体、知人のネットワークなどを活用しながら、「誰に」「どんな手段」で商品・サービスを届けるべきかを考えます。
また、資金計画では起業にあたっての初期費用がどれくらいかかるかを算出します。初期費用の一例は以下のとおりです。
考えるべき初期費用の例
- 事務所や店舗の取得にかかる費用
- 設備の導入にかかる費用
- 商品や材料の仕入れにかかる費用
- 広告宣伝にかかる費用 など
ステップ2 資金調達をする
ステップ1でまとめた事業計画書や資金計画をもとに必要に応じて資金調達を行います。
しかし、ビジネスの実績が乏しい学生の場合は、金融機関などの融資審査では信用を得づらく、融資を受けることは難しいでしょう。一般的に学生起業の場合は、スタート段階では手持ちの資金でまかなえる事業規模に抑え、軌道に乗ってから資金調達をして少しずつ事業を拡大します。
資金調達は金融機関からの融資以外に、国や地方公共団体の助成金や補助金の制度を利用したりといった方法もあります。金融機関からの融資が難しい傾向にある学生としては、検討したい選択肢です。ぜひ視野に入れておいてください。
ステップ3 起業に必要な手続きや費用の準備をする
起業するにあたって個人事業主としてビジネスを始めるのか、会社(法人)を設立するのかによって、必要な公的手続きは異なります。
個人事業主となる場合は、税務署に「開業届」を、各自治体の税事務所に「事業開始等申告書」の提出が必要です。具体的な手続きの内容や流れについては、別記事「開業届とは? 個人事業主のための開業届の基礎知識」をご確認ください。
一方、起業にあたって会社設立をするには、複数の手続きが必要です。
会社を設立する場合は、法人形態を株式会社と合同会社のどちらにするかを決定し、設立手続きを進めていきます。株式会社と合同会社の主な違いは以下のとおりです。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
会社設立費用 | 約25万円 | 約10万円 |
決算公告義務 | あり | なし |
経営の自由度 | 株主による決定が不可欠なため自由度は相対的に低い | 経営者に委ねられているため自由度は高い |
社会的な信用 | 高い | 低い |
積極的に事業の拡大を図りたい場合は株式会社が適していますが、初期費用をおさえてスモールビジネスで起業をしたい場合は合同会社のほうがよいでしょう。通常、経営の自由度は合同会社の方が高いものの、大学生が1人で起業するのであればそれほど大差はないといえます。
起業時の具体的な手続きや費用について詳しく知りたい人は、別記事「起業するにはどうしたらいい?会社を起業する方法や手続きについてわかりやすく解説」を参考にしてください。
学生起業のメリット
学生起業には、社会人による起業と比べて以下のメリットがあります。
学生起業のメリット
- 学生向けの起業支援を受けられる
- 失敗したときのリスクが少ない
- 時間と体力がある
- 将来の選択肢が広がる
それぞれのメリットについて解説します。
学生向けの起業支援を受けられる
前述のとおり、大学によっては学生の起業に対してさまざまな支援を行っています。
たとえば、学生向けに相談窓口を開いて起業や経営のアドバイスを行う大学もありますし、大学の施設をインキュベーション施設(起業や事業拡大を支援する目的で、安い賃料で事業所スペースを提供したり専門家のサポートを提供したりする施設)を運営する大学もあります。また、起業関連のスクールでは学割を適用できるケースもあるでしょう。
さらに大学の施設や人脈をフル活用できる点も、学生起業のメリットです。図書館の書籍を借りて事業の知識を得たり、大学の教授やOB・OGに相談したりすることができます。学生起業で成功した方や、学生起業を応援している経営者のサポートが受けられる可能性もあります。
失敗したときのリスクが少ない
社会人が起業する場合、自分の事業で生計を立てていこうとする方が多いでしょう。そのため、起業が失敗したり、思うように収入を得られなかったりすると、とたんに生活が苦しくなってしまうリスクがあります。
しかし、学生のうちに起業するのであれば、生活に関しては親元をある程度頼ることができます。そのため、事業がうまくいかなくてもダメージは少なく済むでしょう。むしろ、失敗を恐れずにチャレンジしたという姿勢そのものが、今後仮に就職する場合に企業に評価されることもあります。
時間と体力がある
事業の立ち上げ期は時間と体力が求められるため、若い学生であることは大きなメリットになります。学生であれば事業に充てる時間も取りやすく、トライアンドエラーを繰り返しながら挑戦できます。
体力もあることから、積極的に営業活動ができたり、商品やサービスの開発に多くの時間とエネルギーを注げたりと、事業拡大に有利でしょう。
将来の選択肢が広がる
学生起業を通してビジネスに関する知識や経験を得ることで、卒業後の選択肢は大きく広がるはずです。
たとえば、卒業時まで事業がうまくいっているのであれば、就職後も副業として続ける、あるいは就職はせず事業に専念するといった選択肢がうまれます。
また、たとえ学生起業した事業をたたむことになったとしても、自分で事業を立ち上げたという経験や事業を通じて培った人脈は、就職後もきっと役に立つでしょう。
学生起業のデメリット
学生企業にはさまざまなメリットがありますが、以下のデメリットもあります。
学生起業のデメリット
- 資金調達が難しい
- 経験や知識が少ない
- 学業との両立が難しい
デメリットも理解したうえで、学生起業に挑戦するか否かを判断しましょう。
資金調達が難しい
ここまでに何度か触れているように、学生起業における困難のひとつが、起業時に必要な資金を用意することです。
自身が用意できる資金だけで、会社設立にかかる費用や事業の初期費用を賄えない場合は、資金調達をする必要があります。しかし、ビジネスに関する実績がない学生では、金融機関などから融資を受けるのは難しいのが現実です。
近年ではクラウドファンディングを利用して資金調達するケースもありますが、確実に集まるとは限らない点に注意しなければなりません。
経験や知識が少ない
学生は基本的に社会人経験がないため、実際に働くことで得られる知識や経験がどうしても少なくなります。そのため、事業計画を立てる際の見通しが甘かったり、事業に関する具体的な説明が不足したりといった未熟さがデメリットとなるケースがあります。
また、事業拡大において社会的信用を得るのは非常に重要ですが、社会人経験がないことから信用をなかなか得られない場合もあります。
学業との両立が難しい
学生の本分は学業です。起業するからといって学業をおろそかにするわけにはいきません。進級や卒業に必要な単位を取得しつつ、起業に関する取り組みを進めていく必要があります。
とはいえ、起業時だけでなく、起業後も継続して事業に取り組む時間を確保しなければならないため、学業と両立するには、友人などと過ごすプライベートの時間をある程度犠牲にすることになるでしょう。
また、卒業後の進路についても検討しなくてはいけません。学生起業により卒業後の選択肢が広がっているため、「就職活動をするのか、事業に集中するのか」という、時間の使い方の選択が必要です。
学生起業を成功させるには?
学生起業をすると決めたのであれば、成功する確率を少しでも上げたいものです。ここでは、学生起業を成功させるうえでのポイントについて解説します。
スモールビジネスから開始する
基本的にビジネスは、規模が大きくなるほど「ハイリスク・ハイリターン」です。そのため、学生のうちは自分で負える程度のリスクのビジネスを選択すべきといえます。
規模を抑えたスモールビジネスであれば、失敗した際のダメージが小さくて済むので、その後の生活に与える影響も小さくなります。
また、学生起業をする際、複数の友人と一緒に起業するというケースもあります。しかし、人数が増えるほど意見のすり合わせに時間がかかったり、メンバー間で衝突したりといったトラブルが起こりやすくなるので注意が必要です。
会社設立にこだわらないのであれば、個人事業主として1人で事業を開始したほうが、トラブルが起こっても軌道修正がしやすくスムーズに事業を進められるでしょう。
事業計画をきちんと立てる
事業の根幹をなす事業計画は、時間をかけてでもきっちり立てるようにしましょう。その際、自分のイメージだけが先行した主観的なものではなく、客観的な根拠を交えた説得力があるものにしてから事業計画書にまとめる必要があります。
というのも、事業計画書は補助金や金融機関からの融資、投資家等からの出資を受ける際などに必要になるからです。そのためにも、SWOT分析や5F分析、PEST分析などのフレームワークを使い事業の分析をしたり、市場や競合調査を行ったりして、事業内容が適切かどうかを判断しなければなりません。
事業計画書が実現不可能な内容であれば、資金調達はできません。事業を継続・拡大させていくためにも、事業計画書は誰もが納得できる内容に仕上げましょう。
まとめ
近年、費用を抑えて事業を始められる業種が増えたこともあり、学生でも起業しやすい環境が生まれつつあります。社会人の起業と比べてリスクが小さいことが多いことや、学校によっては学生起業を対象とした支援をしているなどのメリットも多く、学生起業は今後ますます増えていくと考えられます。
しかし一方で、学業との両立が大変だったり、学生という立場ゆえに資金調達が難しかったりというデメリットも忘れてはいけません。まずは自身の環境や起業を検討している業種をよく確認・研究し、学生起業が現実的かどうかを考えたうえで、学生起業をするかどうか決定しましょう。
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よくある質問
学生起業のやり方は?
学生起業は、「起業する目的や事業内容を決める」「資金調達をする」「.起業に必要な手続きや費用の準備をする」という3つのステップで進めていきます。
詳しくは記事内「学生起業のやり方」をご覧ください。
学生起業のメリットは?
学生起業のメリットとして、「学生向けの起業支援を受けられる」「失敗したときのリスクが少ない」などが挙げられます。
詳しくは記事内「学生起業のメリット」をご覧ください。
学生起業のデメリットは?
学生起業のデメリットには、「資金調達が難しい」「経験や知識が少ない」といったものがあります。
詳しくは記事内「学生起業のデメリット」をご覧ください。
監修 米澤 潤平
26歳のときに中小企業診断士、29歳のときに社会保険労務士、39歳のときに税理士資格を取得。コンサルティング会社に勤務する傍らで、税理士事務所を開業し、主に法人・個人からの税務相談や経営相談、決算・申告などのセミナー講師、会計や税務に関する執筆活動を中心に活動している。