株式会社を設立する際には、役員の設置が必要です。役員の人数は設立する会社の種類によって異なり、またどのくらいの人数が適切かは会社の状況によっても大きく変わります。
本記事では、株式会社における適正な役員数や具体的な選任方法、手続きの流れについて解説します。役員の選任について理解を深め、最適な役員数を検討しましょう。
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目次
株式会社の役員とは?
株式会社の役員には「取締役」「監査役」「会計監査役」「会計参与」の4つが挙げられます。
各役員の役割と設置義務は、以下の表をご覧ください。
役員名 | 役割 | 設置義務 |
---|---|---|
取締役 | 業務を円滑に進めるために意思決定を行う | 必ず設置する |
監査役 | 取締役が職務を遂行しているかどうか監査する | 大会社および公開会社(監査役設置会社)の場合に設置する |
会計監査役 | 会社の計算書類について監査する | 大会社*および公開会社(会計監査役設置会社)の場合に設置する |
会計参与 | 取締役とともに計算書類を作成する | 取締役会を設置する非公開会社で監査役がいない場合に設置する |
*大会社とは、資本金が5億円以上または負債額が200億円以上の会社をいいます。
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株式会社の種類ごとの役員の最低設置人数
株式会社は、役員の設置人数が1人だけであっても設立可能です。
しかし、株式会社には株式譲渡制限会社や取締役設置会社などの種類があり、その種類や規模によって役員設置人数が変わります。たとえば、公開会社や監査役会設置会社など一定の要件に当てはまる株式会社であれば、4人以上の役員を設置しなくてはなりません。
株式譲渡制限会社
株式譲渡制限会社は最低1人以上の取締役がいれば設置可能です。
第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
株式譲渡制限会社(非公開会社)とは、会社が保有する株式のすべてに対して、他人への譲渡を制限する決まりを設けている会社です。
定款に株式の譲渡に関する制限がある旨を記載していれば、株式譲渡制限会社であると認められます。なお、記載していないと公開会社の扱いとなり、取締役会設置会社として役員の設置を行わなくてはなりません。
株式会社を設立する際に必要となる以下の3役についても、取締役1人で兼任して差し支えありません。
株式会社設立時に1人で兼任できる役割
- 発起人:資本金を出資し、会社を設立する人
- 株主:会社に出資し、株式を受け取る人
- 取締役:業務遂行に伴い、意思決定を行う人
取締役会設置会社
会社法331条によって、取締役会設置会社では3人以上の取締役設置が義務づけられています。
第三百三十一条
5 取締役会設置会社においては、取締役は、三人以上でなければならない。
取締役会を設置するかどうかは基本的に任意ではあるものの、以下に当てはまる会社は取締役会の設置が必須です。
取締役会の設置が必要な会社
- 公開会社(株式譲渡について制限規定を設けない会社)
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
出典:e-Gov法令検索「会社法(平成十七年法律第八十六号)第三百二十七条」
取締役会設置会社では、監査役(あるいは会計参与)の設置も必要とされているため、取締役3名を含めると、最低限設置すべき役員の人数は4名です。
取締役会について詳しく知りたい方は、別記事「取締役会とは?設置義務や会社法における規定・役割について解説」をあわせてご確認ください。
株式会社設立時の役員選任方法
株式会社において役員を選任する際には、原則として株主総会による決議が求められます。
なお、株式会社の設立時は、その会社の種類によって以下のような方法で役員を選任することが認められています。
- 定款で定める
- 創立総会・株主総会にて定める(定款にその旨を記載)
- 発起人による選任(発起人が複数人いる場合は過半数を占める決議にて選任)
ただし、株式会社の種類によって選択できる役員選任方法が異なるため、設置予定の株式会社の種類と合わせて利用可能な選任方法を確認しましょう。
株式譲渡制限会社の場合
取締役会を置いていない株式譲渡制限会社では、以下の方法から代表取締役を選任します。
選任方法 | 概要 |
---|---|
定款にて直接定める | 定款に代表取締役の名前を記載 |
発起人によって定める |
・発起人が1人:発起人の決定書を添付
・発起人が複数人:過半数の一致がわかる書類を添付 |
設立時取締役の互選によって定める |
定款に選任方法を記載 互選書を定款に添付 |
株主総会の決議によって定める | 定款に選任方法を記載 |
なお代表取締役の選任を定めない場合は、設立時取締役の全員が代表取締役となります。
取締役会設置会社の場合
一方で取締役会を設置している会社では、次の方法で代表取締役を選任します。
選任方法 | 概要 |
---|---|
定款で定める | 定款に代表取締役の名前を記載 |
設立時取締役による選任決議 |
・設立時取締役の過半数によって決定
・設立時代表取締役の選定決議書を添付 |
株主総会の決議によって定める | 定款に選任方法を記載 |
役員数を変動させる場合の手続き
会社設立後に役員数を変更したい場合には、株主総会での決議や変更登記が求められます。
役員を減らして1人にする場合の手続きと、増員する際の手続きは異なるため、注意しましょう。
役員を1人にする場合
もともとあった取締役会の設置をやめ、取締役を1人のみにするときは以下の手続きが必要です。
役員を1人にする手順
-
定款の変更
株式譲渡制限会社へ変更する規定を設ける。「取締役会の承認」を「株主総会の承認」に変更 -
「取締役会設置会社」の記載を削除
定款内の「取締役会会社である記載」を削除 -
取締役の人数についての変更を記載
定款内の取締役人数について規定を変更 -
取締役の変更を記載
取締役の辞任や解任について記載
解任の場合、株主総会または臨時総会において普通決議を行う
取締役を1人にする場合の手続きは、上記の通り定款の変更登記がメインです。
株式会社の定款を変更する方法は、別記事「株式会社の定款を変更するときに必要な手続きとは?」をご覧ください。
役員を増やす場合
取締役会を設置している会社で役員を増やす際は、以下の手順で手続きを進めます。
取締役会設置会社が役員を増員する手順
-
取締役会にて株主総会の開催を決める
役員の増員の決定は取締役会ではなく株主総会で決議するため、株主総会の準備および株主への招集を通知 -
株主総会を開催し決議を実施する
議決権の過半数を保有する株主による普通決議を実施
過半数の賛成により可決し、選任させた人の承認により役員の追加が成立 -
代表取締役の変更時には取締役会を実施する
新たに就任した取締役が代表取締役となる際には、取締役会にて選定決議を行う -
役員が追加されたことについて変更登記を行う
就任から2週間以内に必要書類を準備し、役員変更登記を申請
会社役員を新任した時の手続きは、別記事「役員就任(新任)したらどうする?役員変更登記の流れや必要書類についてわかりやすく解説」をご覧ください。
一方、取締役会を設置していない会社で役員が追加された場合の手続きは、以下のとおりです。
株式譲渡制限会社が役員を増員する手順
-
取締役が株主総会を開催決定する
取締会社設置会社と同様に株主総会の準備および株主への招集通知の送付 -
株主総会にて決議を実施する
取締役会設置会社と同様に、普通決議を実施 -
互選で代表取締役を決定する(定めない場合もあり)
定款で互選により代表取締役を定めるとしている場合は、互選にて選定
特に定めがない場合は、取締役全員が代表取締役となる -
役員が追加されたことについて変更登記を行う
就任から2週間以内に必要書類を作成し、役員変更登記の実施
役員選任後の手続き
役員が選任されたあとの手続きは、以下の手順に沿って進めます。
- 選任
- 就任承諾
- 登録申請
選任は役員増員時の手続きと同様に株主総会を開催し、出席株主の過半数の賛成にて決める普通決議を行います。なお、会社設立時の役員選任は、定款にて定めることも可能です。
ただし、定款で定めがあれば定足数を過半数より少なくしたり、累積投票にしたりしてもかまいません。
選任後は、選任された人が就任承諾をすれば選任が成立します。
役員が選任されると登記事項にも変更が発生するため、変更登記の申請が必要です。登記申請に必要な書類は以下のとおりです。
役員選任時の変更登記の必要書類
- 役員変更の登記申請書
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 就任承諾書
- 印鑑証明書(取締役会を設置している会社は、役員の本人確認書類の場合もあり)
- 委任状(司法書士が代理申請する場合のみ)
役員が1人の場合のメリット・デメリット
株式会社を設立する際は役員1人であっても可能ですが、その場合のメリット・デメリットについてもよく把握したうえで判断しましょう。
メリット
役員が1人の場合の主なメリットは以下のとおりです。
- 経営の意思決定が早くなる
- 株主総会にかかる業務が簡略化できる
- 費用負担を抑えられる
経営の意思決定が早くなる
役員が1人のみの場合は、経営や事業に関する意思決定を1人だけで行うため、スピーディーな対応が可能です。他の役員がいないため、時間・労力などの配分のすべてを自分の裁量で決められます。
株主総会にかかる業務が簡略化できる
取締役会を設置していない株式会社が株主総会を実施する際、取締役会を設置している株式会社よりも各種手続きや書類を簡略化できます。
取締役会非設置会社 | 取締役会設置会社 (非公開会社) | |
---|---|---|
株主総会の招集期限
(出席しない株主の議決権行使がない場合) |
1週間前
(定款に記載すれば短縮可能) | 1週間前 |
招集方法
(出席しない株主の議決権行使がない場合) |
書面
メールなどの電磁的方法 口頭・電話 |
書面
メールなどの電磁的方法 |
招集時の書類 | 添付しなくてもよい |
取締役会による承認後の以下の書類の添付
・計算書類 ・事業報告書 |
取締役会非設置会社が株主総会をする場合、上記のように各種手続きを省くことができます。ただし、これらはあくまで株主総会を欠席する株主がオンラインや書類で議決権行使を使わない場合に限ります。
なお、招集時の書類は議決権行使の有無に関係なく省略可能です。
費用負担を抑えられる
従業員が少ない、もしくはいない場合、1人会社は資金面においても大きなメリットがあります。
たとえば設備投資も役員1人分だけで済みますし、広い事業所を用意する必要もありません。人件費も抑えられ、少ない初期投資で会社を設立できます。
デメリット
役員が1人であることの主なデメリットは以下のとおりです。
- 責任や業務負担が大きくなる
- 役員を複数設置するときと比べて信用度が下がる
- 事業規模を大きくしにくい
責任や業務負担が大きくなる
役員を1人だけにするデメリットとしては、損害賠償責任や業務負担を1人だけで負う点が挙げられます。
1人会社ではすべてが個人の能力や判断に左右されるため、事業が突然傾く可能性もあります。そのようなときに、プレッシャーや事業存続のリスクを1人で常に背負い続けるのは苦しいと感じるかもしれません。
役員を複数設置するときと比べて信用度が下がる
役員が複数名いる会社と比べると、社会的信用度は下がってしまうでしょう。役員も多い事業規模が大きい株式会社と比べると、1人会社では融資や法人口座開設時の審査など不利になってしまう場合があります。
事業規模を大きくしにくい
事業規模を拡大したいと思っても一馬力では限界があり、なかなか発展させられないこともあるでしょう。1人会社では普段の業務に加え、経営に関する業務も発生するため、売上を増やしたいと思っても手が回らない可能性も考えられます。
まとめ
株式会社は原則、役員が1人であっても設立できます。ただし、その種類によっては、4人以上の役員の設置が必要です。
役員1人だけの設置が適しているかは、今後の展望や現在の会社状況に応じて異なります。役員を複数置いた場合と比較して、どちらが自社にとってメリットが多いかを検討しながら、役員数を決めましょう。
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