起業をするためには、法人設立費用や開業費用、起業後にかかるランニングコストなど、多くの費用が発生します。
法人設立自体は資本金が1円でも行えるため自己資金がなくても可能です。しかし、実際は自己資金なしでの起業は現実的ではありません。本記事では、起業したいけどお金がないという方に向けて、起業時に利用することができる融資制度について詳しく解説します。
目次
自己資金なしでも起業できる?
現在は資本金1円から会社設立が行えるため、理論上は自己資金なしでも起業ができます。起業するにあたって仕入れや事業所の賃貸を行う必要のない業種であれば、比較的起業にかかる費用は抑えられるでしょう。
また、法人の会社設立ではなく、個人事業主として起業する方法もあります。会社設立の場合は比較的低コストで設立できる合同会社であっても10万円ほどの費用が発生しますが、個人事業主の開業であれば開業届の提出にかかる費用は発生しません。
ただし、少ない自己資金では起業後のランニングに大きなリスクが生じるため、なるべく余裕を持った資金を用意しておくことがおすすめです。
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自己資金に該当するもの
自己資金は、前提としてお金の出所や流れがわかるものでなければいけません。具体的に自己資金に含まれるお金と含まれないお金の違いは、以下のとおりです。
<自己資金に含まれるお金>
お金 | 内容 |
---|---|
預貯金 | 元来より自分で貯めているお金 |
退職金 | 起業に際して退職した場合に支払われたお金 |
相続で得た資金 | 遺産相続等によって得たお金 |
売却による資金 | 不動産・貴金属などを売却することによって得たお金 |
生命保険解約による資金 | 生命保険を解約することによって支払われたお金 |
みなし自己資金 | 起業に際して既に支払っているお金 |
第三者割当増資 | 株式の有償買取によって得たお金 ※株式会社の企業の場合のみ |
自己資金に含まれないお金
- タンス預金等(通帳に記載されていないお金)
- 第三者から一時的に借り入れたお金(審査のためだけに用意したもの)
このように、自己資金として認められるには条件があるため、事前に覚えておきましょう。
自己資金なしで起業する際に受けられる融資制度
自己資金が無いことが理由で起業ができないという場合は、融資制度を受けることも選択肢の一つです。融資は公的機関から民間の機関までさまざまなところから受けられますが、会社としての実績がない場合には民間の金融機関の審査に通りにくい傾向があります。
以下では、主に利用できる5種類の融資制度を解説するので、ぜひ参考にしてください。
日本政策金融公庫の制度
日本政策金融公庫とは、国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫を前身とする政府系列の金融機関です。特に中小企業や小規模事業者への融資を行っていることが特徴で、自己資金や実績の少ない状態で起業したい場合に向いています。日本政策金融公庫が取り扱っている起業のための融資制度は、主に以下3種類です。
日本政策金融公庫の制度
- 新創業融資制度
- 中小企業経営力強化資金
- 調整支援資本強化特貸付(資本性ローン)
政府は、起業する人をバックアップするために創業時の融資を積極的に行っており、これらの融資制度は比較的利用しやすいといえるでしょう。以下でそれぞれの対象者や融資を受けられる金額などについて解説していきます。
新創業融資制度
新創業融資制度は、無担保・無保証人で利用できる融資制度で、創業時に利用する融資制度としては特に利用しやすいとされています。対象者や融資金額の概要については、以下にまとめました。
条件1:対象者の要件 | 新たに事業を始める人 事業開始後税務申告を2期終えていない人 ※どちらか一方を満たせば可 |
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条件2:自己資金の要件 | 創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる人 ※「務めている企業と同業種の事業を始める人」「創業塾や創業セミナー等を受けて事業を始める人」のいずれかに該当する場合は条件を満たすとする |
資金の使い道の条件 | 新しい事業の創業資金または運転資金であること |
融資限度額 | 3,000万円(うち1,500万円は運転資金) |
返済期間 | 各融資制度によって異なる |
利率 | 1.82〜3.10% 出典:日本政策金融公庫「国民生活事業(主要利率一覧表)」 |
担保・保証人 | 原則不要 ※法人の場合、代表者が連帯保証人となることも可能。その場合は利率が0.1%低減される。 |
出典:日本政策金融公庫「新創業融資制度」
新創業融資制度では、3,000万円(うち1,500万円は運転資金)を限度額として融資が受けられます。審査には事業計画の内容確認があるため、融資を受ける際には事前に事業計画を綿密に策定しましょう。
融資の相談は、日本政策金融公庫の各支店への問い合わせから行えます。また、事業相談ダイヤルから電話での相談も可能であるため、気になる方は日本政策金融公庫ホームページをご覧ください。
中小企業経営力強化資金
中小企業経営力強化資金は、融資を受ける企業の対象にこそ限定的な条件がありますが、最大で7億2,000万円の直接貸付が受けられる融資制度です。主な融資対象や条件について、以下にまとめました。
対象となる条件1 | 以下の全てに該当すること ・経営革新や異分野の中小企業と連携し、市場の創出・開拓を目的にしている ・認定経営革新等支援機関による指導や助言を受けている |
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対象となる条件2 | 以下の全てに該当すること ・「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」を適用している ・事業計画書の策定をする |
資金の使い道の条件 | 条件に該当し、事業計画の実施のために必要な設備資金および長期運転資金であること |
融資限度額 | 直接貸付 7億2,000万円 |
返済期間 | 設備資金20年以内 運転資金 7年以内 ※2年間の据置期間あり |
利率 | 出典:日本政策金融公庫「中小企業事業(主要利率一覧表)」 |
担保・保証人 | ご相談 |
出典:日本政策金融公庫「中小企業経営力強化資金」
中小企業経営力強化資金は、対象となる条件の1または2のいずれかを満たすことで融資の対象となります。融資の申し込みは、日本公庫各支店の中小企業事業の窓口から行ってください。
挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)
挑戦支援資本強化特別貸付は、スタートアップに挑戦する場合の財務体制強化やVC・各金融機関からの資金調達の円滑化を支援するための融資制度です。別名として、資本性ローンとも呼ばれています。融資の対象となる条件等は、以下にまとめました。
対象となる条件 | 以下の1、2の条件を満たす場合 1. 次の融資制度のいずれかの対象となること ・新規開業資金 ・新事業活動促進資金 ・海外展開・事業再編資金 ・事業承継・集約・活性化支援資金 ・企業再建資金 2. 次の全ての要件を満たすこと ・地域経済活性化に関連する事業を行うこと ・税務申告を1期以上行っている場合は、原則として所得税等を完納していること。 |
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資金の使い道の条件 | 該当する融資制度に定められた設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 7,200万円 |
返済期間 | 5年1ヶ月以上20年以内 |
利率 | 融資後1年ごとの業績に応じて利率が変化する仕組み 出典:日本政策金融公庫 |
担保・保証人 | 無担保・無保証人 |
出典:日本政策金融公庫「挑戦支援資本強化特別貸与(資本性ローン)」
挑戦支援資本強化特別貸与は、融資を受ける条件こそ厳しいものの、この融資制度による負債は自己資本とみなすことができます。また、申し込みの際には事業計画書の提出が必要で、融資が確定した後も完済まで四半期ごとの経営状況等の報告が必要です。
信用保証協会を利用する
信用保証協会は47都道府県と4市にある認可法人で、中小企業の資金繰りの円滑化を目的として活動しています。金融機関から創業融資などを受ける際に連帯保証人となり、万が一借主が返済できなくなった場合に代わって返済を行うのが主な活動内容です。
信用保証協会を利用するメリットは、無担保で利用できることなどの融資を受けるハードルの低さです。また、最大で3,500万円の補償が受けられます。
その一方で、信用保証料がかかることや金融機関からの借入が確実になるわけではないこと、返済できなかった場合は信用保証協会へ返済が必要だというデメリットがあります。
融資を受ける方法や利用できる融資制度は各信用保証協会によって異なりますので、まずはお近くの機関にて相談してみてください。
出典:東京信用保証協会連合会「保証制度のご案内」
地方自治体の制度融資
起業に際して融資を受けたい場合、地方自治体の制度融資を活用することもおすすめです。これは住んでいる自治体や事業を行なっている自治体など、管轄のところによって融資制度は異なります。以下では、東京都にて金融機関・信用保証協会・地方自治体の3機関が連携して行なっている「制度融資」を紹介します。
前提条件 | 都内に事業所(個人事業者は事業所又は住所)があり、東京信用保証協会の保証対象業種を営む中小企業者であること |
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対象となる条件 | 以下3つのいずれかに該当すること。 1. 現在事業を営んでいない個人で、創業しようとする具体的な計画を行なっている 2. 創業した日から5年未満である中小企業車である 3. 分社化しようとする会社または、分社化により設立された日から5年未満の会社である |
融資限度額 | 3,500万円 |
返済期限 | 設備資金10年以内 運転資金7年以内 ※1年以内の据置期間あり |
出典:東京都産業労働局「東京都中小企業制度融資『創業』」
このように、比較的ハードルも低く融資が受けやすいメリットがあるので、融資を受ける先を探す際には、地方自治体の制度融資も検討してみてください。
銀行・信用金庫の創業融資
銀行や信用金庫などにも、自己資金なしで受けられる創業融資があります。ただし、先述したとおり銀行や信用金庫は審査の難易度が高く、信用保証協会の保証がついていることが条件であるため、誰でも簡単に融資を受けられるわけではありません。
そのため、妥当性があり将来性も見込める綿密な事業計画書の作成が必要です。地域の銀行や信用金庫などによって融資額や条件などは異なるため、お近くの金融機関の融資制度について確認してください。
自己資金なしで融資を受けるためのポイント
自己資金なしでは当然融資を受けるための審査を通過するハードルは上がりますが、その上でも融資を受けやすくするためのコツやポイントがあります。
自己資金なしで融資を受けるためのポイント
- 現在働いている会社と同業で独立開業する
- 事業計画書を緻密に作成する
- 認定支援機関に相談する
上記を抑えることで、起業に伴う融資がより受けやすくなるでしょう。以下でそれぞれについて詳しく解説します。
現在働いている会社と同業で独立開業する
日本政策金融公庫の新創業融資を有利に受けるための条件の一つに、務めている企業と同業種の事業を始める人であることというものがあります。異業種での企業であっても新創業融資に申し込みはできますが、資本金なしの場合には審査が少し厳しくなるでしょう。
事業計画書を緻密に作成する
融資の申し込みの際には事業計画書を提出しますが、審査の際に重視される大きなポイントです。そのため、実現性が高く説得力のある計画を緻密に練っておく必要があります。
市場調査などエビデンスとなるデータをなるべくたくさん集め、資金繰りの計画を具体的に試算し、それを踏まえた返済計画も立てて融資元の機関にアピールしましょう。
認定支援機関に相談する
認定支援機関に相談しそのあっせんで融資を申し込むことで、日本政策金融公庫の融資審査に通りやすくなると言われています。そこでまず、認定支援機関に相談してみることがおすすめです。
事業計画書作成のサポートも受けられるため、より審査に有利な申請ができるでしょう。
自己資金なしで融資を受けて起業する際の注意点
自己資金なしで融資を受けて起業する場合には、主に3つの注意点があることを覚えておきましょう。
1つ目は、審査に通りにくいという点です。銀行や民間の金融機関は特に審査が厳しく、自己資金なしでは返済能力が低いと判断されるため、審査に通りにくいでしょう。
2つ目は、融資額が少額になるという点です。融資額は自己資金の額にしたがって変動するため、本来希望している金額分の融資が受けられないことがあります。
最後の3つ目は、金利が高くなるという点です。金利は返済期間や融資額など様々な観点から決定されるため、自己資金が少ない場合は金利が上限の最大値で設定されることも留意しておかなければいけません。
融資以外の資金調達方法
融資以外にも、自己資金なしで起業するための資金を調達する方法は以下のような方法があります。
融資以外の資金調達方法
- クラウドファンディング
- 助成金・補助金
- 家族や親族からの贈与
- 副業で資金を貯める
上記を活用して少しでも資金を増やしておくことで融資を受けやすくなることがあるため、今すぐに融資を受けることが厳しい場合には非常におすすめです。
クラウドファンディング
クラウドファンディングはインターネット上で利用できる資金調達のサービスで、不特定多数の人から資金を募ることが可能です。クラウドファンディングサイトに事業内容や目的等を掲載することで簡単に資金調達ができ、比較的始めやすい資金調達の方法とされています。
ただし、出資するメリットを明確に提示することや事業内容が魅力的であることが重要なので、十分に綿密な計画や資料を用意した上で掲載を行いましょう。
助成金・補助金
助成金や補助金は、国や地方自治体が交付している返済のない資金の給付制度です。公的資金のため、誰でも給付を受けることができるというわけではなく、厳しい要件や資格、審査を通過する必要があります。
助成金や補助金は主催する団体によって種類が非常に多く、それぞれ細かい要件が設けられています。中小企業でよく使われる補助金・助成金の代表例は以下のとおりです。
中小企業でよく使われる補助金・助成金の例
- 中小企業・小規模事業者対象のものづくり補助金
- IT導入補助金
- 事業再構築補助金
- キャリアアップ助成金
- 人材確保等支援助成金 など
さらに、自己資金なしの起業におすすめな創業補助金というものも存在し、毎年中小企業庁が実施しています。詳しくは以下の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
【関連記事】
創業補助金とは?起業時に活用できる種類と利用方法について解説
家族や親族からの贈与
家族や親族からの贈与を受けた場合は、起業時の自己資金にできます。もし、援助が受けられる場合には、相談してみても良いかもしれません。
ただし、年間110万円を超える贈与には贈与税が課せられるため、もし課税を気にしている場合は注意が必要です。また、贈与ではなく資金を借り入れる場合は借入金として自己資金とはみなせないため、あわせて注意しておきましょう。
副業で資金を貯める
起業を急いでいない場合には、まずは副業等で資金を十分に貯めることを優先しても良いでしょう。ある程度の資金を貯めて仕事も安定している段階で起業すると、リスクを抑えられます。
まとめ
起業の際に融資を受ける方法は、自己資金なしの場合でも多くあります。日本政策金融公庫や銀行等の金融機関を利用するのが一般的ですが、助成金や補助金のような返済のない給付型の資金調達方法の利用もおすすめです。
どの制度を利用するにしても、再現性があり第三者が納得できる事業計画を立てておくことが重要で、厳しい審査を通過しなければいけません。もし一人で融資を受けることに高いハードルを感じている場合には、認定支援機関に相談することもおすすめなので、ぜひあわせて利用を検討してみてください。
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よくある質問
いくらあれば起業できる?
結論、起業は自己資金なしでも行えます。法人設立の場合には資本金1円さえあれば理論上の起業は可能ですし、個人事業主での起業の場合には開業にかかる費用はかかりません。
しかし、実際に事業を運営していくには、業種にもよりますがある程度の資金を用意しておくことが重要です。万が一の場合にも備えて、資金繰りには常に余裕を持っておけるように意識しましょう。詳しくは記事内「自己資金なしでも起業できる?」をご覧ください。
自己資金がなくても融資は受けられる?
自己資金がない場合でも、融資を受けることは可能です。ただし、各融資制度には適用となる条件があるため、その制度の対象であるかどうかについて事前に確認しましょう。
また、対象となる場合であっても融資を受けるのに審査を通らなければいけません。そのため、融資元の機関に認められるような事業計画を策定し、適切にプレゼンできるように準備することが大切です。詳しくは記事内「自己資金なしで融資を受けるためのポイント」をご覧ください。