監修 北田 悠策 公認会計士・税理士

個人事業主が法人化する際、定款費用や登記費用、資本金などさまざまな設立時の費用がかかります。会社設立後には税金や社会保険料といった維持費や運営費の支払も必要です。
会社の設立や維持にはどのような費用がいくらかかるのか、事前に確認して資金を準備しておきましょう。
本記事では、個人事業主が法人化する際や法人化して会社を維持する際にかかる費用の種類と金額、法人化に伴う費用負担を軽くするための節約方法を解説します。
法人化を検討している個人事業主の方は、別記事「法人化(法人成り)とは?メリットやデメリット、最適なタイミングについて徹底解説」も参考にしてください。
目次
法人化に必要な費用
個人事業主が法人化する際にかかる主な費用は以下の3つです。
法人化に必要な費用
- 定款費用
- 登記費用
- 資本金
定款費用
定款(ていかん)とは、会社の発起人全員による同意で定められた企業の根本原則が記載されているもので、会社を設立する際、必ず作成しなければなりません。
さらに設立する法人形態が株式会社・一般社団法人・一般財団法人などの場合には、定款の正当性を公証人に証明してもらう定款認証を受ける必要があります。
合同会社などの持分会社は定款認証を受ける必要がないので、認証代がかかりません。
定款の作成費用 | 行政書士に依頼する場合:2万~5万円前後 司法書士に依頼する場合:10万~15万円前後 |
---|---|
認証の手数料 | 1万5,000〜5万円 *資本金額や条件によって異なる |
定款の謄本代 | 1ページにつき250円 電子定款の場合は記録保存300円、基本料700円、1ページごと20円が別途発生 |
収入印紙代 | 4万円 社団法人・信用金庫の定款の場合は不要 |
印鑑証明書の取得費用 | 300円 |
登記費用(登録免許税)
個人事業主から法人化するためには法務局で登記をする必要があります。登録免許税とは登記に対してかかる国税で、会社形態ごとの税額は以下の通りです。
登録免許税の税額 | |
---|---|
株式会社 | 資本金額 × 0.7% または 15万円 どちらか高い額 |
合同会社 | 資本金額 × 0.7% または 6万円 どちらか高い額 |
合名会社・合資会社 | 申請件数 × 6万円 |
会社実印の作成費用
会社実印とは、新規で設立する会社で使用する実印です。会社で使用する印鑑には実印・銀行印・角印の3種類あり、作成にはおよそ2万~6万円ほどかかります。
また、作成した印鑑は法務局に印鑑届書を提出しなければなりません。印鑑届書自体に費用はかかりませんが、印鑑証明書を発行する際には以下の費用がかかります。
- 書面での請求:450円
- オンライン請求での郵送:410円
- オンライン請求での窓口交付:390円
法人の登記の流れについて詳しく知りたい方は、別記事「商業・法人登記とは?会社設立登記の必要書類や流れをわかりやすく解説」をご覧ください。
資本金
資本金とは、会社設立もしくは増資により出資者から払い込まれた金銭を指し、事業を円滑に進めるために会社に出資した金額のことです。
旧商法では、株式会社の設立では最低1,000万円、有限会社の設立では300万円の資本金が必要でした。しかし、2006年に会社法改定により最低資本金が撤廃され、現在では資本金額が1円以上であれば法人化が可能です。
ただし、資本金は会社の運転資金であり、会社の社会的信用度にも関わる重要な事項のひとつです。法人化して軌道に乗るまでの運転資金や、取引先からの見え方も考慮して金額を設定しましょう。
【関連記事】
資本金とは?基本情報から会社設立時に必要な金額の設定方法までわかりやすく解説
法人の維持・運営にかかる費用
法人化においては、会社設立時の費用だけでなく、法人を維持・運営するためにかかる費用を把握することも大切です。資金不足によって維持費や運営費の支払に困ることがないように、法人化後の維持・運営にかかる費用の種類や金額を確認しておく必要があります。
ここでは、法人の維持・運営にかかる費用について解説します。
税金
法人化すると、たとえ経営が赤字だったとしても一定の税金を納めなければなりません。法人を対象とした税金には、以下5つが挙げられます。
概要 | |
---|---|
法人税 | 法人の所得に対して課せられる国税 |
法人住民税 | 会社を登記している都道府県・市町村に対して納める税金 |
法人事業税 | 事業所等を有する都道府県で事業を営んでいることに対する地方税 |
特別法人事業税 | 法人事業税の一部 |
消費税 および 地方消費税 | 商品の販売やサービスの提供に対してかかる税金 |
法人住民税には法人税割と均等割の2種類あり、このうち均等割は資本金額や従業員数などに応じて課税されるため赤字でも原則課税されます。一方で、法人住民税の法人税割や法人税は所得を基準に税額を計算するので、赤字であれば税額はゼロになり納税義務は生じません。
法人事業税は、資本金額が1億円以下の普通法人では所得をもとに課税され、赤字であれば税額はゼロであり納付は不要です。資本金額が1億円超の普通法人の場合は、所得だけでなく資本金額や付加価値額をもとに課税されるので赤字でも課税されます。
消費税は、仕入時に取引先に支払った消費税額よりも売上時に取引先から受け取った消費税額が多ければ原則として納税が必要です。ただし、課税売上高が1,000万円以下であるなど一定の要件に該当すれば納税義務が免除されます。
出典:総務省「法人住民税」
出典:総務省「法人事業税」
出典:国税庁「消費税のしくみ」
【関連記事】
法人にかかる税金の種類は?税率や計算方法を個人事業主と比較
社会保険料
社会保険料は、国や地方公共団体が主体となって運営・管理する社会保障制度に対してかかる費用のことです。健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険などの公的保険が社会保険に該当します。
社会保険料の金額は、役員・従業員の人数や給与・役員報酬によって変動します。公的保険ごとの計算方法は以下の通りです。
健康保険料 | 健康保険料 = 標準報酬月額 × 健康保険料率 従業員が負担する健康保険料 = 健康保険料 ÷ 2 |
---|---|
介護保険料 | 介護保険料 = 標準報酬月額 × 介護保険料率 従業員が負担する介護保険料 = 介護保険料 ÷ 2 |
厚生年金保険料 | 厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 18.300% 従業員が負担する厚生年金保険料 = 厚生年金保険料 ÷ 2 |
雇用保険料 | 雇用保険料 = 賃金総額 × 保険料率 |
労災保険料 | 労災保険料 = 賃金総額 × 保険料率 |
健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料は、事業主と従業員で半分ずつ負担します。標準報酬月額とは給与額をもとに決まる金額です。健康保険・介護保険では、加入している制度や事業所の所在地などによって保険料率が異なります。
雇用保険の保険料率は業種によって異なり、一般的な業種における2024年度の保険料率は事業主負担分が0.95%、従業員負担分が0.6%です。労災保険は全額事業主負担で、保険料率は業種によって異なります。
出典:厚生労働省「雇用保険料率について」
出典:厚生労働省「令和6年度の労災保険率について」
【関連記事】
社会保険料まとめ!算出方法や賞与についてもわかりやすく解説
合同会社でも社会保険の加入は必要? 社会保険の加入手続きの流れについて解説
決算公告費用(株式会社のみ)
株式会社では、株主総会で承認された決算内容を遅滞なく公告することが会社法で義務付けられています。決算公告の方法は「官報に掲載する」「日刊新聞紙に掲載する」「電子公告」の3つです。
官報に掲載する場合は少なくとも7万円程度の費用がかかり、日刊新聞紙に掲載する場合は数十万円程度の費用がかかります。一方で電子公告では、自社HPに決算内容を掲載するのであれば掲載費用はかかりません。
【関連記事】
公告とは?公告方法の種類やメリット・デメリットをわかりやすく解説
その他維持費
上記のほかにも、法人を維持するには事務所の光熱費や賃借料などがかかるうえ、税理士などの士業を雇った場合にはその報酬も発生します。
たとえば、会社は事業年度が終了するタイミングで決算書を税務署に提出する必要があります。しかし、決算書は会計・税務に関する専門知識を有していなければ作成が困難です。したがって、多くの場合は専門家である税理士に決算作業を依頼します。
会社の決算書作成を専門家に委託した場合の費用は月額でおよそ3万〜5万円ほどです。
また、在庫を管理するための費用や従業員への給与・福利厚生、その他士業の顧問を対象にした報酬など、法人の維持にはさまざまな費用が必要になります。
法人化の費用を節約するには?
ここでは、法人化の費用を節約する方法として以下3つについて解説します。
法人化の費用を節約する方法
- 定款を電子定款で作成する
- 会社名義で契約する
- 資本金額を1,000万円以下にする
定款を電子定款で作成する
法人設立で必要な定款を電子データで作成することで、公証役場で定款認証してもらう際にかかる印紙代4万円を節約できます。
ただし、電子定款を作成する機器やソフトの準備費用がかかる点や、申請後はデータを修正できない側面があるため、注意が必要です。
電子定款の作成についての詳細は別記事「電子定款とは?作成方法や認証手続きについてわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
会社名義で契約する
会社名義で事務所兼自宅として賃貸物件を契約することで、家賃を経費として計上することができ、法人化の費用節約になります。
同じ物件に住む家族が仕事に携わる場合は、家族を役員にすることで報酬を経費にすることができます。家族を役員にすると法人税を抑えられ、かつ役員になる家族も給与所得控除の対象となります。
資本金額を1,000万円以下にする
資本金が1,000万円以下の法人は、2年間消費税が免除されます。
住民税均等割も7万円に抑えられるため、資本金額を調整して法人化の費用を抑えることが可能です。
設立費用が安く抑えられるのは合同会社
合同会社とは、出資者と経営者が同一な会社形態です。
合同会社は、株式会社に比べて設立費用やランニングコストが安く、設立費用は約10万円~と株式会社の設立費用の半分以下で済みます。
具体的な設立費用は以下の通りです。
項目 | 合同会社 | 株式会社 |
---|---|---|
定款用収入印紙代 | 4万円 ※電子定款では不要 | 4万円 ※電子定款では不要 |
定款の謄本手数料 | 0円 | 約2,000円 (250円 / 1ページ) |
定款の認証料 (公証人に支払う手数料) | なし | 1万5,000〜5万円 *資本金額や条件によって異なる |
登録免許税 | 6万円 | 15万円 |
合計 | 約10万円〜 | 約22万2,000円〜 |
株式会社・合同会社それぞれの設立にかかる費用について詳細を知りたい方は、別記事「会社設立費用はいくら?株式会社と合同会社の維持費もわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
株式会社を設立した方がよいケース
会社で行う事業が法人向けで、上場を目指したり、資金調達を増やしたりと会社の認知度や社会的信用度を高めたいと考える場合、社会的信用度の高い株式会社の方が有利といえます。
株式会社のメリット・デメリットは以下の通りです。
<株式会社のメリット>
- 社会的信用度が高い
- 資金調達がしやすい
- 万が一のときにも有限責任が適用される
- 法人の節税メリットを受けられる
<株式会社のデメリット>
- 設立費用が高い
- 決算公告の義務がある
- 役員任期がある
株式会社の設立について詳細を知りたい方は、別記事「株式会社とは?仕組みや設立するメリット・デメリットをわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
合同会社を設立した方がよいケース
設立費用やランニングコストをできるだけ抑えたい人や、経営の自由度の高さを優先する人は合同会社で設立しましょう。
上述したように合同会社は設立費用が株式会社の半分以下で済みます。ほかにも、迅速な意思決定や利益分配などが自由に行えることからスタートアップに適している形態です。
知名度の低さが欠点になりますが、顧客が会社形態を考慮していないことが多いBtoCのビジネスであれば、合同会社であることはデメリットになりにくいでしょう。
合同会社のメリット・デメリットは以下の通りです。
<合同会社のメリット>
- 設立費用・ランニングコストが安い
- 法人の節税メリットが受けられる
- 経営の自由度が高く、素早い判断ができる
- 利益の配分を自由に決められる
<合同会社のデメリット>
- 株式会社に比べて社会的信用度が劣る
- 資金調達の方法に限りがある
- 株式市場への上場ができない
- 出資者同士の意見が対立した際の影響が大きい
合同会社の設立について詳細を知りたい方は、別記事「合同会社とは?特徴や設立するメリット・デメリットについて解説」をあわせてご確認ください。
まとめ
法人化には必要な費用が多いことに加え、運営・維持にも費用がかかります。個人事業主が会社を設立する場合は、設立の手続きや設立後の事業運営でかかる費用の種類・金額が準備できるかどうか、あらかじめ確認するようにしてください。
法人化や法人の運営・維持にかかる費用は、会社の形態や資本金額、従業員数などによって変わります。定款を紙ではなく電子で作成するなど、会社設立時に工夫すれば法人化の費用を抑えられる場合があるので、法人化を検討する際は費用面も考慮しましょう。
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監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。
