会社設立の基礎知識

法人成りするときの資産引継ぎはどうする?引き継げない資産や具体的な処理方法を解説

監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ

法人成りするときの資産引継ぎはどうする?引き継げない資産や具体的な処理方法を解説

個人事業主によって株式会社や合同会社などの法人が設立され、事業を個人事業主から法人へ引き継ぐことを「法人成り」といいます。その際に、個人が事業で使用していた資産は法人が引き続き使用する必要があるため、何らかの引き継ぎ処理が必要となります。とはいえ、あらゆる資産を引き継げるわけではないうえに、資産ごとに適切な方法で処理しなければなりません。

本記事では、個人から法人への資産引継ぎ方法の種類や引き継げない資産、引き継ぐ際の注意点などについて解説します。

目次

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法人成りによる個人から法人への資産引継ぎ方法

法人成りの際、個人から法人へと資産引継ぎをすることは可能です。ただし、引き継ぎ方法は複数あり、資産によって適切な方法が異なります。そのため、まずは資産引継ぎ方法の種類について把握しておく必要があります。

ここでは、「売買契約」「賃貸借契約」「現物出資」「贈与契約」という4つの引き継ぎ方法について解説します。

売買契約

資産引継ぎ方法として、特にシンプルでわかりやすいのが「売買契約」です。個人が所有している資産を法人へ売却する、という形式を取ります。手続きは個人事業主と法人との間で売買契約を交わすだけで済ませられます。

そうしたメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあることに注意が必要です。

売買契約のデメリット

  • 法人は個人事業主へ資産の買い取りに必要な金額を支払わなければならない
  • 個人は売却の際に支払いにおいて税金が発生する可能性もある

賃貸借契約

「賃貸借契約」も、先述の「売買契約」と並んでシンプルな資産引継ぎ方法です。不動産など、売却するほうがコストと手間がかかる資産に対して使われることが多い方法です。

個人事業主と法人の間で賃貸借契約を交わすことで、個人事業主から法人へ資産を貸すという形式を取ります。

この方法では、資産の所有権は個人にあり、法人は個人へ賃借料を支払うことになります。そのため、個人は賃貸料という所得に対して毎年確定申告を行い、納税が必要です。

現物出資

「現物出資」とは、個人事業主として保有している金銭以外の資産を会社(法人)に出資し、会社設立に必要な資本金にあてる引き継ぎ方法です。「現物出資」の対象となる資産の具体例には、車両やPC、不動産、有価証券などが挙げられます。

現在は1円以上の資本金で会社設立ができるとはいえ、資本金は創業時の原資となるものです。この「現物出資」であれば、会社(法人)の資本金を増やせます。

反面、現物であるがゆえに実際の金銭が増えるわけではない点、手続きに手間がかかる点などのデメリットもあります。

特に、価額総額が500万円を超える資産を現物出資する場合は、検査役(公認会計士や弁護士など)による調査が必要です。時間と手間がかかる可能性の高い引き継ぎ方法であるため、場合によっては法人成りの手続きにも遅れが生じる可能性があります。

贈与契約

「贈与契約」とは、個人事業主として保有している資産を、新たに設立する会社(法人)に無償で譲る引き継ぎ方法です。無償で資産を引き継ぐことになるので、会社(法人)側は購入資金を用意する必要がありません。

しかし、資産引継ぎの時点で実際の金銭の動きがなくても、税制上では「資産を時価で譲渡した」と考えます。これを「みなし譲渡」といいます。ちなみに、時価とは「現時点(譲渡する時点)における市場での価格」のことです。

この「みなし譲渡」では、資産を譲られた側の会社(法人)には受贈益(利益)が生じたことになるため、法人税の課税対象となります。譲った側の個人事業主には譲渡所得が生じたとみなされ、所得税が課税されることとなるのです。

「みなし譲渡」の詳細は、次項で解説します。

個人から法人への「みなし譲渡」とは

「みなし譲渡」とは、資産を無償あるいは著しく低額で譲渡したことを、「資産を時価で譲渡した」とみなして課税する税制上の規定です。

譲渡のパターンには「個人から個人へ」「個人から法人へ」「法人から個人へ」がありますが、ここでは前項にある「個人から法人へ」について解説します。

個人から法人へ資産を無償あるいは著しく低額で譲渡した場合は、「みなし譲渡」が適用されて、両者ともに課税されます。

本質的に考えれば、金銭の動きがなかったり、著しく少なかったりする贈与(無償譲渡)や低額譲渡(時価の2分の1未満)では、譲渡所得は発生しません。

しかし、資産の実際の時価が高いにもかかわらず、上記の考え方だけでの贈与(無償譲渡)や低額譲渡を行うと、値上がり益に課税される分の税負担を回避できることになってしまいます。さらに、個人から譲渡された資産を法人が保有し続ける限り、ずっと譲渡所得への課税が行われないことになってしまいます。

こうした課税回避を防ぐため、個人から法人への贈与(無償譲渡、あるいは低額譲渡)は、「みなし譲渡」として課税されるのです。

法人成りしたときに引き継げない資産

ここまで、個人から法人への資産引継ぎ方法を4つ紹介しましたが、法人成りの際にはどのような資産でも引継ぎできるわけではありません。たとえば、借りたり、リースしたりしているものは法人へ引き継ぐことはできません。

事業で使用する物件や自動車、機器などを個人事業主として借りたり、リースしたりしている場合は、法人として契約し直さなければなりません。なかには、個人から法人へと変わることで賃貸借契約の内容が変わるものもあるため、注意が必要です。

主な資産を引き継ぐ際の具体的な処理方法

資産引継ぎ方法の種類と、法人成りで引き継げない資産について確認したところで、次は資産引継ぎの具体的な処理方法を見ていきます。ここで紹介するのは、「棚卸資産」「減価償却資産」「不動産」「負債」という4つの項目での処理方法です。

棚卸資産

棚卸資産とは、販売や製造、消費などを目的に仕入れて保管している資産のことです。具体的には、これから販売する予定の商品や製造途中の仕掛品、商品製造で必要になる原材料、事務作業などで使う消耗品が該当します。

個人事業主として保有していた棚卸資産は、「通常の取引価格で譲渡する」という形で法人へ引き継ぐのが一般的です。ただし、劣化や破損などで資産価値の低下が見られる場合は、処分可能価格(時価)となります。

棚卸資産の引き継ぎを会計的に処理する際は、個人事業主は「売上高」、法人は「仕入高」として、資産を売買した形を取ります。

例:時価1万円の商品を譲渡する場合(個人事業主側)

借方金額貸方金額
現金10,000売上高10,000

例:時価1万円の商品を仕入する場合(法人側)

借方金額貸方金額
仕入高10,000現金10,000

なお、「通常の取引価格」の70%未満で譲渡してしまうと、低額譲渡とみなされて課税される可能性があります。

また、法人側が掛けで仕入する場合は、貸方を「買掛金」として処理します。

減価償却資産

減価償却資産とは、自動車やパソコン、オフィス機器などのように、時間の経過によって価値が下がっていく資産を指します。減価償却資産も「譲渡」という形で法人へ引き継ぐことが多いですが、価格は「時価」であることがポイントです。

ただし、自動車のように時価を確認しやすいものはともかく、そうでないものは「簿価(帳簿価額・帳簿価格)」で処理します。ちなみに、簿価とは「残りの減価償却期間を反映させた価格」のことです。

以下は、減価償却資産を個人から法人へ譲渡した場合の仕訳例です。

例:簿価10万円のパソコンを譲渡する場合(個人事業主側)

借方金額貸方金額
現預金100,000工具器具備品100,000

例:簿価10万円のパソコンを引き継いだ場合(法人側)

借方金額貸方金額
工具器具備品100,000現預金100,000

なお、建物も「減価償却資産」に含まれるものの、次項の「不動産」にて解説します。

不動産

建物や土地といった不動産を個人から法人へ引き継ぐ方法は、譲渡と賃貸の2つが考えられます。

譲渡の場合、個人事業主から法人へ不動産を売却する形を取るため、所有権が法人側に移り、売り手である個人事業主側には譲渡所得が発生します。買い手である法人側は、譲渡された不動産を固定資産として計上し、建物に対しては減価償却を行います。

賃貸は、所有権は個人事業主が保有したまま、法人へ不動産を貸し出す方法です。個人事業主と法人の間で賃貸借契約を結ぶだけで済み、譲渡のように、手間とコストがかかる所有権の変更手続き(所有権移転登記)をする必要がありません。一方で、貸し手となる個人事業主側には、法人から受け取る賃料についての確定申告が必要になります。

以下は、不動産を賃貸の形で個人から法人へ引き継いだ場合の仕訳例です。

例:毎月の賃料を15万円として土地を貸し出す場合(個人事業主側)

借方金額貸方金額
現預金150,000事業主借150,000

例:毎月の賃料を15万円として土地を借りる場合(法人側)

借方金額貸方金額
地代家賃150,000現預金150,000

負債(買掛金や借入金など)

個人から法人へ引き継げるのは、資産だけではありません。買掛金や借入金などの返済しなければならないもの(負債)も引き継ぎ可能です。

とはいえ、負債に対する対応は資産のときと異なるため、区別して覚えておく必要があります。法人成りする時点で負債がある場合の対応方法として挙げられるのは、法人成りする前に返済するか、法人成りしたあとに返済するかの2つです。

まず、負債に対する基本的な対応といえるのが、個人として作った負債は個人のうちに返済してしまう方法です。引き継ぐ手間がかからない点でもおすすめの方法といえます。

どうしても個人のうちで負債を返済するのが難しい場合は、法人成りで設立する会社の名義で金融機関などから融資を受け、返済のための資金を確保する方法を取りましょう。

また、借入をしている金融機関や公庫に相談をしながら個人事業主の借入金を新しく設立する会社に引継ぐ方法として、債務引受という手段もあります。債務引受には、「重畳的債務引受」と「免責的債務引受」の2つがあります。

一般的に行われるのは「重畳的債務引受」で、こちらでは個人事業主と会社ともに債務者となり、返済していく方法です。一方、「免責的債務引受」は会社が単独で債務を引き受ける方法です。後者のほうが、個人事業主の責任が多少軽くなります。

法人成りする際には、事前に借入をしている金融機関に相談し、債務引受についての同意を得るようにしましょう。

法人成りで資産を引き継ぐ際に注意すべきこと

個人から法人への資産引継ぎを検討している方は、ここで説明する注意点も覚えておいてください。

すべての資産を引き継ぐのではなく取捨選択をする

新たに設立する会社に必要な資産は引き継ぐべきですが、なかには「もう使うことがない」「劣化や破損がひどくて使えない」といった資産があるかもしれません。そういったものについては、個人事業のほうで廃棄処分するなどの方法も考えられます。

資産の譲渡に消費税がかかるケースがある

個人事業主が資産を譲渡する場合、消費税がかかるケースがあることにも注意が必要です。下記の条件に当てはまる個人事業主は課税事業者となるため、消費税の支払い義務が発生します。

個人事業主で消費税の支払い義務が発生するケース

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている
  • 特定期間の課税売上高(あるいは給与等支払額の合計)が1,000万円を超えている
  • インボイス登録をしている

資産引継ぎにおける「譲渡」により、消費税の課税売上となり、その分に消費税が課税されます。

「売買契約」「賃貸借契約」「現物出資」「贈与契約」のどの引き継ぎ方法を選ぶかによって、支払う消費税額も変わりますが、一方で、法人側も課税事業者で本則課税であれば仕入税額控除ができます。

負債を引き継ぐ場合は資産とのバランスをみる

先述のとおり、個人から法人へ、資産だけでなく負債も引き継げます。その際には、資産と負債のバランスを確認しましょう。

このとき、下表のように、引き継ぎを検討している資産の金額(100万円)より負債の金額(300万円)のほうが大きいこともあります。

資産:100万円負債:300万円
元入金:-200万円

まとめ

個人事業主から法人へ事業を引き継ぐ「法人成り」の際、事業に必要な資産、負債は法人へ引き継ぐこととなります。

しかし、資産引継ぎはさまざまな手続きが必要になるため、法人成りの手続きと合わせて事前に理解しておく必要があります。また、個人から法人へと引き継げない資産もあることや、引き継ぎにはいくつかの注意点があることも把握することが重要です。

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よくある質問

法人成り後の負債の引き継ぎ方は?

法人成り後の負債の引き継ぎ方は、「法人成りする前に返済」「法人成りしたあとに返済」の2つです。

詳しくは記事内「負債(買掛金や借入金など)」をご覧ください。

法人成りしたときに引き継げない資産は?

法人成りの際に引き継げない資産の代表的なものとして、「賃貸借契約しているもの」が挙げられます。

詳しくは記事内「法人成りしたときに引き継げない資産」をご覧ください。

監修 宮川 真一

岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。

税理士・CFP® 宮川真一

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