監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
起業する際は、ビジネスモデルに合った会社形態を選ぶことが重要です。「会社」と聞くと株式会社を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、設立できる会社の種類は株式会社だけでなく、他に合同会社、合資会社、合名会社があります。
この記事では、4種類の会社形態のうち「合同会社」の設立を考えている人に向けて、基礎知識や役員報酬の決め方・相場などについて解説します。
目次
合同会社とは
合同会社とは、2006年5月1日に改正会社法が施行されたことによって新たに導入された会社形態です。現在設立できる会社は株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つですが、合同会社は会社法上、合資会社や合名会社と同じ「持分会社」に分類されます。
持分会社の出資者(社員)になると、その出 資額(持分)に応じて重要事項の決定に加わることができます。持分会社の「社員」は出資者を意味し、「会社の従業員」ではない点には注意が必要です。
合同会社は「出資者=会社の経営者」であるのが特徴で、出資者であるすべての社員に会社の代表権と業務執行権が与えられます。しかし、すべての社員に代表権がある状態だと経営に混乱をもたらしかねません。
そのため合同会社では、社員の中から代表権を行使できる「代表社員」を選任することが認められています。株式会社における「代表取締役」のような立場です。
合同会社は、公証人による定款の認証が不要なため株式会社と比べて設立費用が安い、決算公告が不要、役員の任期がないなど、多くのメリットがあります。以下の記事で詳しく解説しているため、参考にしてみてください。
【関連記事】
合同会社とは?特徴や設立するメリット・デメリットについて解説
合同会社における給与と役員報酬の違い
合同会社を設立する準備を進めるなかで、決定すべき重要な項目のひとつが「役員報酬」です。
役員報酬は、従業員が受け取る給与とは決定プロセスや仕組み、経理上の位置付けなど、さまざまな点で異なります。
給与とは、会社と雇用関係にある従業員が、労働の対価として受け取る毎月の給料や賞与(ボーナス)のことです。一方の役員報酬は、経営の委任を受けた「役員」に支給される報酬のことで、経営者として責任を負っていること、役目を果たしていることに対する対価として支払われます。
出典:国税庁「No.1400 給与所得」
国税庁では、役員の基本的な範囲を以下の通りに定めています。
- 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人
- 1以外の者で次のいずれかに当たるもの
合同会社では一般的に使われる「役員」という役職はなく、会社に対して出資している「社員」が役員として扱われます。「出資者=会社の経営者=役員」を意味し、上記の定義に当てはめると「2」に該当するため、出資している社員は給与ではなく役員報酬を受け取るのです。
それに対し、出資せずに業務のみを行う場合は「社員」ではなく一般の従業員として扱われます。そのため、受け取るのは役員報酬ではなく給与です。
なお、マイクロ法人として1人で合同会社を設立した場合は、代表社員である自身に対して、設立後3ヶ月以内に設定した役員報酬を会社から支払うことになります。
このように、給与と役員報酬は支払う対象が異なるため、その金額を設定するプロセスにも違いがあります。
従業員の給与額は、役職やスキル、勤続年数などを加味したうえで経営判断や職務規定に基づいて決定します。労働契約法では「労働者の同意なしに労働条件を変えることはできない」と定められているため、会社側がむやみに給与額を変更することはできません。
出典:e-Gov法令検索「労働契約法 第九条」
役員報酬の金額やその増減を決めるのは、原則として毎年開かれる株主総会や社員総会です。合同会社の場合は社員総会が開かれ、そこで決定した報酬額は特別な事情がない限り、1年間は変更できません。「安易に変更できないこと」を念頭に置き、決定する際は慎重に検討する必要があります。
そのほか、給与には残業代や各種手当を上乗せできますが、役員報酬にはそれらがほぼ適用されません。そもそも、役員報酬は「額を定め、基本的に1年間はその固定の額を支払う」という点で従業員の雇用契約とは考え方が異なります。
そのため、住宅手当や通勤手当といった「額が一定になる手当」を別途支給するのではなく、あらかじめそれを含めて報酬を決めておくのです。
給与と役員報酬の違いはほかにもあります。給与からは雇用保険料や労災保険料が差し引かれますが、役員は基本的に雇用保険や労災保険の対象外なので引かれることはありません。
税務上では、従業員の給与は全額を損金にできる一方で、役員報酬が損金として認められるためには条件があるという違いがあります。
役員報酬の取り扱い
税務上、法人の役員報酬は原則的に損金として認められていません。役員報酬を無条件で損金として認めてしまうと、報酬額や会社の利益を恣意的に操作して、税金を減らすことができてしまうためです。
そのため、役員報酬を損金とすることは、税務上一定の規定に基づいた場合にのみ認められています。税務上、損金として認められる役員報酬の支払い方法は以下の3つです。
役員報酬が損金と認められる支払い方法
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績利益連動給与
役員報酬は上記のうち、「定期同額給与」とするのが原則です。役員報酬についてより詳しく知りたい場合は、以下の関連記事を参考にしてください。
【関連記事】
役員報酬とは? 会社設立前に知っておくべきルールや金額の決め方を解説
役員報酬の決め方まとめ〜役員報酬は自由に変更できない?~
定期同額給与
定期同額給与は、「毎月支払われる給与」として役員報酬を支払う方法です。この形式の場合、役員報酬は「毎月同額」でなければなりません。設立あるいは事業年度の開始から3ヶ月以内に役員報酬を決定する必要があります。
毎事業年度の開始3ヶ月を過ぎてしまったら、原則変更できません。毎月支払う金額を超えて支払った場合は、その増額分は損金として認められず、税金の負担が発生します。また、理由なく減額した場合も減額分は損金として認められなくなります。
定期同額給与として認められるための詳しい条件については、以下の記事を参考にしてください。
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、「賞与」として役員報酬を支払う方法です。
役員に関しては、賞与も原則として損金算入が認められません。事前に支給する金額を決定し税務署に届け出てその通りに支払うことで、賞与も損金として認められます。
業績連動給与
業績連動給与とは、業績に応じて役員報酬を支払うケースです。
ただしこの方法は、有価証券報告書などで業績指標や計算根拠を開示する必要があるため、基本的に大会社や上場企業にしか認められていません。
合同会社の役員報酬はどうやって決める?
合同会社の役員報酬は、法律上の手続きに沿って決める必要があります。役員報酬の金額を定める方法と変更方法について確認しておきましょう。ここでは、原則として使われることが多い「定期同額給与」の決め方をもとに解説します。
金額を定める方法
合同会社の役員報酬の金額を定める方法は、「定款で定める」「過半数の社員の同意(もしくは社員総会)で決定する」のいずれかです。このうち、自社に合う方法を選びましょう。
定款で定める
会社設立時に作成する定款の中で、役員報酬の金額を定めておく方法です。具体的な金額の決定方法は、以下の2つから自社に合うほうを選びます。
定款で役員報酬を定める際の金額決定方法
- 役員報酬の総額を定めて、それを各社員で分配する
- 個々の役員報酬額を定める
ただし定款で定めた場合、報酬額を変更するには「定款自体の変更」をしなければなりません。
定款は会社における重要事項にあたり、簡単に変えられるものではありません。重要事項を変更する場合、合同会社であれば総社員の同意を得た上で変更を決定し、そこから作業することになります。役員報酬を定款で定める場合、変更の際に手続きが増えて面倒になるのがデメリットです。
過半数の社員の同意(もしくは社員総会)で決定する
社員から同意を得て、役員報酬の額を決定する方法です。この方法において全社員の同意を得る必要はなく、過半数の同意が集まれば問題ありません。また、同意を得るにあたっては社員を一斉に集める機会を設ける必要もなく、何らかの形で同意が集まればよいとされています。
社員の同意を得て報酬額を決める方法には、「定款に比べて手続きに手間がかからず、金額の変更がしやすい」といったメリットがあります。年1回は必ず役員報酬に関する社員への確認があるため、この方法を選択するデメリットは特にありません。
なお、定款で社員総会の設置を定めている場合は、社員総会で役員報酬の決議を行います。
役員報酬を変更するには?
税務上、役員報酬の取り扱いは厳しく規定されており、毎月の役員報酬(定期同額給与)を変更して損金算入が認められるタイミングは、主に以下のようなケースに限られます。
定期同額給与を変更して損金算入が認められるケース
- 事業年度終了から3ヶ月以内に開催された総会
- 取締役から代表取締役になったなど、職制上の地位に変更があったとき
- 経営状況が著しく悪化し、第三者である利害関係者に影響を及ぼしたとき
出典:国税庁「役員給与に関するQ&A」
合同会社における役員報酬の相場と金額の考え方
役員報酬の金額は毎月のように変更できるようなものではないため、会社の経営を圧迫することのない金額を検討して決めましょう。
役員報酬の具体的な金額は企業ごとに異なるため、一概に「いくらくらいが相場として妥当」ということはできません。以下で紹介する、役員報酬の金額を決めるうえで必要な3つの考え方を参考に検討してみてください。
同業種や同規模の会社と合わせる
役員報酬の金額を決める指針として、同業種や同規模の会社の報酬額を参考にするという手があります。
合同会社の相場感に関するデータ収集が難しければ、国税庁の「民間給与実態統計調査」を参考にしてみましょう。この資料には、株式会社の役員報酬の年間平均額が記載されています。合同会社と株式会社、会社の形態は異なりますが、規模が一致するようであれば株式会社の役員報酬額が参考になることもあります。
社内の事情だけで報酬額を決めた結果、同業種・同規模の会社の相場よりも大幅に高いと経営の負担になりかねず、一方で低すぎると役員の不満にもつながりかねません。
出典:国税庁「民間給与実態統計調査」
年間計画に合わせて決める
役員報酬の金額は、会社の年間計画を考慮したうえで決めることが重要です。年間計画と照らし合わせたうえで役員報酬の金額を決めておけば、年度の途中で報酬額を変更するような事態には陥りにくいでしょう。
具体的には、年間の売上や役員報酬以外の出費を予測して利益の目標値を定め、その目標値が達成できるように逆算して報酬額を算出します。売上が想定よりも低いと役員報酬が会社の予算を圧迫し、目標の達成が難しくなります。そうならないためにも、役員報酬の額は年間計画の目標に対して無理のない範囲で決めなければなりません。
社会保険料や税金とのバランスを考慮する
合同会社の役員報酬を節税に活用したい場合は、社会保険料や税金とのバランスを考慮して報酬額を決めるとよいでしょう。
合同会社が支払う法人税などの納税額は、会社の利益(法人所得)に応じて決まります。売上から差し引かれる「経費」や「損金算入する役員報酬」が多くなればその分だけ利益が少なくなり、法人税などの納税額も少なくなるという流れです。
一方、役員報酬の金額を高く設定することは、社会保険料の負担増につながります。特に節税目的で1人会社の合同会社を設立する場合は、負担する税金と社会保険料の総額を見定めたうえで役員報酬の金額を決めるとよいでしょう。
役員報酬を決める際の注意点
役員報酬の金額を決める際は、会社の年間計画や相場、保険料、税金との兼ね合い以外にも注意すべき点があります。
役員報酬をゼロにするデメリットもある
会社に利益を残すこと、あるいは個人の税金や社会保険料の負担減を目的に、役員報酬をゼロ(無報酬)にすることも可能ですが、デメリットもあります。
売上から差し引かれる役員報酬がゼロなので、利益は出やすくなります。しかし、会社の売上・利益に応じて法人税などの納税額が決まるため、場合によっては税負担が大きくなってしまいます。
また、役員報酬をゼロにすると「社会保険に加入できない」という問題も起こります。会社役員が社会保険に加入する条件に、「法人から、労務の対償として報酬を受けている者」とあるからです。
出典:厚生労働省「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」
社会保険に加入できない役員は国民健康保険に加入することになりますが、国民健康保険の場合は社会保険のような「扶養」という仕組みがなく、扶養親族がいる場合はその親族の保険料負担が増えるといったデメリットもあります。
このように、役員報酬をゼロにすることにはデメリットもあるため、その目的と影響をよく理解したうえで判断すべきです。
「過大報酬」の場合は損金の額に算入されない
前述の通り、役員報酬は支払い方法に留意すれば損金扱いにできます。ただし、それはあくまでも事業規模や役員の業務内容などとのバランスが取れていることが前提です。
たとえば税負担を抑えることを目的に、事業規模を考慮しないで多額の役員報酬を支給してしまうと、「過大報酬」と見なされてしまう恐れがあります。税務調査の結果、役員に対する報酬や一定の従業員に対する給与が過大であると判断された場合、支払った役員報酬は損金として認められません。
出典:国税庁「役員賞与・役員報酬を巡る問題」
とはいえ、「どこからが過大報酬なのか」を判断する明確な基準は存在しません。そのため、この記事でも紹介した役員報酬の決め方を参考にして、会社の状況に応じた適切な報酬額を設定するよう努める必要があります。
まとめ
株式会社よりも設立のハードルが低く、費用を安く抑えられるため、合同会社は選ばれやすい会社形態のひとつです。
設立の準備を進めるなかで悩みやすい項目のひとつが、「役員報酬」です。会社の利益をはじめ、支払う税金や社会保険料とも深く関係している項目のため、金額は慎重に決める必要があります。
この記事で解説した合同会社における役員報酬の決め方や相場などを参考に、ビジネスモデルや会社設立の目的などに合った金額を模索してください。
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監修 税理士・CFP® 宮川真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。