起業準備は、特定の受給要件を満たせば失業保険・再就職手当をもらいながらでも行えます。失業保険や再就職手当とは、会社を退職して再就職に向けて求職活動をしている人の中で、特定の条件を満たした人が申請できる雇用保険の一種です。
そのため、起業準備のために会社を退職した場合で雇用保険を受けるには、前提として求職活動をしていなければなりません。
本記事では、失業保険と再就職手当を受給できる人の条件や受給期間、金額などについてわかりやすく解説します。
目次
失業保険は起業準備段階であれば受給できる
会社を退職して将来起業を目指している人でも、求職活動と並行していれば失業保険の受給対象です。ただし、退職した後確実に起業する人は、失業保険の受給はできません。
また、失業保険を受給するには細かい要件があるため、起業の準備段階でもそれらを満たす必要があります。
前提として求職活動をしている必要がある
前提として、失業保険は再就職に向けた求職活動を行っている人のための雇用保険です。そのため、退職後すぐに起業する人や求職活動を行っていない人は、失業保険の対象外となります。
起業を視野に入れながらも失業保険の受給対象になり得る状況の例として、以下があります。
失業保険の受給対象例
- 起業資金を準備するために再就職する予定がある
- 起業に向けた知識やノウハウを蓄積するために再就職する予定がある
- ビジネスパートナーの従業員として再就職する予定がある
失業保険とは
失業保険とは、離職してから再就職するまでの期間に安定した求職活動が行えるよう、失業手当と職業紹介で求職者を支援する雇用保険制度の一つです。
起業準備に伴う自己都合退職や失業の場合でも、失業手当と呼ばれる基本手当が受け取れます。ただし、失業保険をもらうには受給要件を満たす必要があり、退職した人が必ず受け取れるものではありません。
失業保険について詳しく知りたい方は、別記事「失業保険(失業手当)のもらい方とは?条件や期間・金額を解説」をご覧ください。
出典:ハローワークインターネットサービス「雇用保険制度の概要」
失業保険の受給要件を満たすケース
失業保険の受給要件には、「一般保険者」「特定受給資格者」「特定理由離職者」の3カテゴリが設けられており、それぞれのカテゴリ内で条件をすべて満たした場合に失業保険を受給できます。各カテゴリの受給要件は、以下表のとおりです。
カテゴリ | 受給要件 |
---|---|
一般保険者 | ・離職前2年間に雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上ある(被保険者期間) ・求職する能力と意思はあるが、仕事が見つからない状態 |
特定受給資格者 | ・倒産※1や解雇等※2の理由で離職した ・離職前1年間に雇用保険の被保険者期間が6ヶ月以上ある |
特定理由離職者 | ・希望したにも関わらず労働契約が更新されなかったか、正当な理由※3で離職した ・離職前1年間に雇用保険の被保険者期間が6ヶ月以上ある |
※1倒産に該当するもの
- 破産
- 大量リストラ(1ヶ月で30人以上)
- 事業所の廃止
- 事業所の移転
※2解雇等の条件に該当するもの
- 契約内容と職場の現状があまりに乖離しているため離職した
- 賃金の1/3以上の金額が給料日までに支払われなかったため離職した
- 離職の直前6ヶ月間において、連続3ヶ月で毎月45時間以上、いずれか1ヶ月で100時間以上、いずれか連続2ヶ月で毎月80時間以上の残業があったため離職した など
※3正当な理由に該当するもの
- 心身の障害や病気、体力不足などで離職した
- 妊娠や出産、育児などの理由で受給期間延長措置を受けた
- 両親の病気や負傷、死亡などのやむを得ない理由で離職した
- 配偶者、または扶養すべき親族と別居生活を続けるのが困難になって離職した など
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
失業保険の受給手続きはハローワークにて行えるので、もし受給要件を満たしているかわからない場合はハローワークの窓口にて確認してください。受給対象となれば、「雇用保険受給資格者証」が受け取れます。
失業保険の受給対象外となるケース
失業保険を受ける被保険者期間の基準を満たしていても、以下に当てはまる場合は受給対象外です。
失業保険の受給対象外となる例
- 求職活動をせず家事に専念している人
- 勉学に専念していて求職活動をしていない学生
- 再就職先が決まっている人
- 自営業を営み始めた人
- 自営業の準備に専念している人 など
出典:ハローワークインターネットサービス「よくあるご質問(雇用保険について)」
なお、失業保険の受給対象かどうかを認定するのはあくまでもハローワークとなるので、失業保険を受け取りたい人はまずハローワークの窓口に相談してみてださい。
失業保険を受給できる期間
雇用保険の受給期間は、離職日の翌日から換算して原則最大1年間です。失業保険は、受給期間中における失業状態の間で、所定給付日数を限度として受給できます。たとえば、勤続年数が15年の自己都合退職者の所定給付日数は120日であるため、受給期間中の120日分の基本手当が受給できる仕組みです。
また、失業保険には待機期間というルールがあり、離職票の提出と求職の申込みを行った日から7日間は手当金が支給されません。待機期間の長さは会社都合退職なら7日後、自己都合退職なら7日と1ヶ月後です。そのため、待機期間を経てハローワークから認定を受けてから、はじめて失業保険を受給できます。
出典:厚生労働省「雇用保険受給中のみなさまへ」
出典:ハローワークインターネットサービス「よくあるご質問(雇用保険について)」
なお、失業保険の給付日数は、申請者の年齢や状況、勤続年数によって異なり、それぞれ以下のとおりです。
【一般の離職者】
被保険者であった期間 | 給付日数 |
---|---|
1年〜9年 | 90日 |
10年〜19年 | 120日 |
20年〜 | 150日 |
【倒産・解雇による離職者】
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1〜4年 | 5〜9年 | 10〜19年 | 20年〜 | ||
離職時の年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30〜34歳 | 90日 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35〜44歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45〜59歳 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60〜64歳 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
失業保険の受給金額
失業保険で一日あたりに受け取れる手当は「基本手当日額」といいます。基本手当日額は、退職する直前の6ヶ月間に支払われた毎月の賃金や年齢区分によって、以下のように支給金額が異なる仕組みです。
離職時の年齢 | 賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|---|
〜29歳 | 2,746円〜5,109円 | 80% | 2,196円〜4,087円 |
5,110円〜12,580円 | 50〜80% | 4,088円〜6,290円 | |
12,580円〜13,890円 | 50% | 6,290円〜6,945円 | |
13,890円〜 | 一律 | 6,945円 | |
30〜44歳 | 2,746円〜5,109円 | 80% | 2,196円〜4,087円 |
5,110円〜12,580円 | 50〜80% | 4,088円〜6,290円 | |
12,580円〜15,430円 | 50% | 6,290円〜7,715円 | |
15,430円〜 | 一律 | 7,715円 | |
45〜49歳 | 2,746円〜5,109円 | 80% | 2,196円〜4,087円 |
5,110円〜12,580円 | 50〜80% | 4,088円〜6,290円 | |
12,580円〜16,980円 | 50% | 6,290円〜8,490円 | |
16,980円〜 | 一律 | 8,490円 | |
60〜64歳 | 2,746円〜5,109円 | 80% | 2,196円〜4,087円 |
5,110円〜11,300円 | 45〜80% | 4,088円〜5,085円 | |
11,300円〜16,210円 | 45% | 5,085円〜7,294円 | |
16,210円〜 | 一律 | 7,294円 |
再就職手当とは
再就職手当とは、失業手当の基本手当を受け取っていて、受給期間が1/3以上残っている段階で再就職、もしくは起業した人がもらえる手当です。
失業保健の手当金額は離職時の年齢や勤続年数によって決まるので、受給期間内で早めに再就職してしまうともらえる金額が少なくなってしまいます。
そこで生まれたのが、基本手当を満額受給するまで就職しない人を減らし、より早い再就職を促す再就職手当制度です。
出典:厚生労働省「再就職手当のご案内」
再就職手当の受給要件を満たすケース
再就職手当を受給するためには、以下すべての要件を満たす必要があります。
再就職手当の受給要件
- 待機期間の満了後に就職、あるいは起業する
- 再就職前日まで失業状態で、基本手当の支給期間が所定給付期間の1/3以上ある
- 離職前と同じ、もしくは資金や人事面などで密接な関係のある会社に就職しない
- 離職理由によって給付制限を受けているなら、待機満了後の1ヶ月間についてはハローワーク等、または許可・届出のある職業紹介事業者等の紹介で就職
- 就職前3年間において、再就職手当、または常用就職支度手当を受け取っていない
- 求職申し込み前から採用が内定していた事業主に雇用されてはいない
- 原則として、雇用保険の被保険者であること
1番目の要件にあるように、起業しても失業手当の認定を受けた待機期間後であれば、再就職手当は受給可能です。
つまり、会社都合退職であれば7日後以降、自己都合退職であれば1ヶ月と7日後以降に起業をすれば、失業認定され再就職手当を受給する権利が得られます。
出典:厚生労働省「再就職手当について」
再就職手当の受給対象外となるケース
起業準備をしている人で再就職手当の受給対象外となるケースは、失業保険が認定されていないタイミングで起業するときです。会社都合退職なら待機期間明けの7日以降、自己都合退職なら待機期間の7日間と1ヶ月後以降に開業届を出さないと受給対象外になってしまいます。
再就職手当をもらって開業したいなら、失業認定されるタイミングの確認が重要です。
再就職手当を受給できる期間
再就職手当には受給期間はなく、再就職の申請が受理された時点で一括まとめて支給されます。また、再就職手当は、再就職手当受給申請書をハローワークに提出し審査が通った後に支給される仕組みです。
審査には一定の時間がかかり、提出してからすぐに受理されるわけではないので注意します。なお、審査状況が気になる場合は申請手続きをしたハローワークに来所すれば、確認できます。確認の際には、本人確認書類が必要です。
出典:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
再就職手当の受給金額
再就職手当の受給金額は、失業保険の基本手当日額×残日数×60%(あるいは70%)の計算式で算出されます。支給率の割合は、所定給付日数に対する残日数によって異なり、残日数1/3以上が60%、残日数2/3以上が70%です。
所定給付日数に対する残日数と割合については、以下の表を参考にしてください。
所定給付日数 | 支給残日数 | 再就職手当の金額 | |
---|---|---|---|
支給率60% | 支給率70% | ||
90日 | 30日以上 | 60日以上 | 基本手当日額×残日数×60%or70% |
120日 | 40日以上 | 80日以上 | |
150日 | 50日以上 | 100日以上 | |
180日 | 60日以上 | 120日以上 | |
210日 | 70日以上 | 140日以上 | |
240日 | 80日以上 | 160日以上 | |
270日 | 90日以上 | 180日以上 | |
300日 | 100日以上 | 200日以上 | |
330日 | 110日以上 | 220日以上 | |
360日 | 120日以上 | 240日以上 |
たとえば、所定給付日数が120日で再就職した段階での残日数が62日ある場合、基本手当日額を6,945円とすると再就職手当は以下になります。
6,945円×62日×0.7%=301,413円
なお、所定給付日数や基本手当日額については、上述した「失業保険を受給できる期間」と「失業保険の受給金額」をご確認ください。
まとめ
起業準備は、求職活動をしていることを前提に、失業保険をもらいながらでも行えます。失業保険を受給するには要件を満たす必要があるため、事前にハローワークのホームページなどを確認してください。
また、退職後すぐに起業して失業保険の手当を受けられない場合でも、再就職手当をもらえる可能性があります。ただし、失業保険・再就職手当のいずれも待機期間中に起業してしまうと受給できなくなるので、注意しましょう。
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