監修 前田 昂平(まえだ こうへい) 公認会計士・税理士
起業する際には、個人事業主となるか、法人を設立するかの2つの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自身のビジネスプランに合った事業形態を選択することが大切です。
そこで本記事では、個人事業主と法人の違いやそれぞれのメリット・デメリットを比較するとともに、法人化が向いているケース・向いていないケース、個人事業主が法人化を選択する目安となるポイントも解説します。
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- 個人事業主・法人とは
- 個人事業主と法人の違い
- 1.事業開始までの手続き
- 2.事業開始までにかかる費用
- 3.税金
- 4.社会保険負担の有無(従業員分含む)
- 5.事業維持にかかる費用(税金以外)
- 6.経費の範囲
- 7.社会的信用度
- 8.資金調達
- 9.事業の廃止
- 10.事業承継のしやすさ
- 11.赤字の繰越
- 12.責任範囲
- 13.会計・経理
- 個人事業主のメリット・デメリット
- 法人のメリット・デメリット
- 法人化が向いている5つのケース
- 法人向けの事業を行いたい
- 大規模な資金調達をしたい
- 従業員を雇って事業を拡大したい
- 前年以前から年間課税売上高が1,000万円を超えている
- 年間利益が800万円を超えそう
- 法人化が向いていない2つのケース
- 事業拡大を予定していない
- 利益が伸びていない
- 個人事業主が法人化を選択するポイント
- 見込み取引先の条件で決める
- 資金調達の方法で決める
- 従業員を雇用するかどうかで決める
- まとめ
- 自分でかんたん・あんしんに会社設立する方法
- よくある質問
個人事業主・法人とは
個人事業主とは、個人で事業を営んでいる人のことです。税務署に「開業届」を提出して事業開始を申請すれば、個人事業主として独立したとみなされます。
似た言葉に「フリーランス」がありますが、開業届の提出有無にかかわらず、独立して自らのスキルで働く人をフリーランスと呼びます。
一方、法人とは「法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織」のことをいいます。
会社をはじめとするビジネスで得た利益について、特定の構成員(社員や株主等)へ分配することを目的とした法人は営利団体と呼ばれ、株式会社や合同会社がこれにあたります。
個人事業主および法人についてより詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
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法人とは?法人の種類や例、個人事業主との違いを簡単に解説
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起業形態の無料診断はこちら個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人の違いを下表にまとめました。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
1.事業開始までの手続き | 開業届を税務署に提出 青色申告を希望する人は「青色申告承認申請書」も提出 | 法務局での法人登記 会社設立に必要な書類や会社印の用意が必要 |
2.事業開始までにかかる費用 | 0円 | 法定費用+資本金 【法定費用】 株式会社:約25万円~ 合同会社:約10万円~ |
3.税金 | 所得税 個人住民税 個人事業税 消費税 所得税は所得が多くなるほど税率が高くなり、控除が少なくなる | 法人税 法人住民税 法人事業税 消費税 など 法人税は所得税よりも税率の推移が穏やか |
4.社会保険負担の有無 (従業員分含む) | なし (従業員5人未満の場合) | あり |
5.事業維持にかかる費用 (税金以外) | なし | 社会保険料の企業負担あり |
6.経費の範囲 | 事業にかかる費用は基本的に計上できる 自分への給与や生命保険料は経費にできない(後述) | 個人事業主よりも経費の範囲が広い 個人事業主では経費にできない以下のものも経費計上できる可能性がある 社宅の家賃 出張時の日当 生命保険料(法人契約) 役員報酬(自分・家族) |
7.社会的信頼度 | 法人に比べて低い 事業を行ううえでの支障は特にない | 高い 新規の契約や融資にも有利 |
8.資金調達 | 小規模な資金調達方法がほとんど | 大規模な方法での資金調達が可能 |
9.事業の廃止 | 廃業届を税務署へ提出 | 法務局や税務署などへの解散登記・公告などが必要 (少なくとも8万円程度はかかる) |
10.事業承継のしやすさ | しにくい | しやすい |
11.赤字の繰越 | 3年 (青色申告の場合) | 10年 |
12.責任範囲 | 無限責任 | 有限責任 |
13.会計・経理 | 個人の確定申告 | 法人決算書・申告 (税理士が必要になることが多い) |
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起業形態の無料診断はこちら1.事業開始までの手続き
個人事業主になるための手続きは、税務署に開業届を提出するだけで完了します。個人事業主の場合、法定費用は発生しないため、事業にかかる費用のみで開業が可能です。
確定申告を青色申告にしたい場合は、このときに青色申告承認申請書も一緒に提出します。青色申告承認申請書を提出しないと自動的に白色申告となり、青色申告特別控除などは受けられません。
2.事業開始までにかかる費用
法人の場合は、設立する会社形態に応じて登記にかかる費用(法定費用)が異なり、最低でも株式会社は約25万円、合同会社は約10万円が必要となります。また、会社印の購入や社会保険への加入も必須です。
ほかにも、法人では資本金が必要です。2006年の新会社法施行以降、法律上は1円以上で会社設立が可能ですが、資本金は「会社の体力」とも呼ばれ、会社の信用度にも関わるため、ある程度のまとまった金額を用意することが推奨されます。金額の目安としては、「会社設立から3ヶ月間利益がまったくなくても事業が続けられる金額」が一般的です。
また、費用以外にも会社設立をするためには提出しなければいけない書類が多くあり、提出先も複数にわたるため煩雑です。以上を踏まえて、会社設立に向けて動き出してから設立が完了するまでには、早くとも2週間前後かかる見込みとなります。
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freee会社設立をはじめ、会社設立に役立つ会計ソフトはさまざまあるため、手続きをラクに終えたい方は会計ソフトの利用を検討してみましょう。
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3.税金
上述のとおり、個人事業主と法人では課せられる税金が異なります。
個人事業主に課せられる税金
- 所得税
- 個人住民税
- 消費税
- 個人事業税
法人に課せられる税金
- 法人税
- 法人住民税
- 消費税
- 法人事業税
所得税の課税対象は、1月1日から12月31日までの売上の合計額(総収入金額)から、必要経費や所得控除を引いた金額です(法人の決算月は任意ですが、所得の計算はおおむね個人と同様)。
所得税には累進課税が適用されており、所得が多くなるほど税率も高くなります。反対に、所得が一定水準以上高くなると適用できる控除の種類が少なくなります。必要経費も、個人理由の支出と明確に区別する観点などから、法人に比べて認められる幅が狭くなっています。高収入の方は、所得の約半分が税金として徴収されてしまう場合もあり、かかる税率の計算には注意が必要です。
一方で法人税は、資本金や所得によって税率が異なり、最大税率は23.2%となります。
個人事業主であれば、赤字経営となってしまった場合は所得税や住民税の負担はありません。しかし法人に課される法人住民税は、資本金などをもとにした均等割部分がたとえ赤字であっても発生します。
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4.社会保険負担の有無(従業員分含む)
個人事業主の場合は、従業員が5人未満であれば社会保険への加入義務はありません。一方、法人は役員報酬が0円である場合を除き、自分ひとりだけの会社であっても社会保険への加入義務が生じます。
社会保険に加入すると、法人は従業員の社会保険料の半分を負担しなければならないため、金銭的な負担が増えます。社会保険に加入する書類の提出といった事務作業が増えることもデメリットです。
5.事業維持にかかる費用(税金以外)
事業を維持することに対して、個人事業主は特に費用がかかることはありません。しかし、法人は事業維持にあたって以下のような費用がかかります。
法人が毎月負担する費用例
- 社会保険料:従業員の給与の約15%
- オフィス賃料:売上総利益(粗利益)に対して10~20%の範囲が理想
- 税理士顧問料:月額1~6万円 ※訪問回数や法人の年間売上などによって異なる
なお、このうちオフィス賃料や税理士顧問料は、個人事業主であってもかかる場合があります。いずれにしても、個人事業主と比べて法人のほうが、事業の維持に費用がかかります。
6.経費の範囲
個人事業主も法人も、事業にかかった費用は基本すべて経費として計上できます。
個人事業主で自宅を事務所と兼用している場合、家賃や水道光熱費などはプライベートで使用した分と事業で使用した分の線引きが曖昧になるため、「家事按分(かじあんぶん)」をして事業にかかった費用を算出する必要があります。
家事按分する経費の具体例
- 地代・家賃
- 水道光熱費
- 通信費
- 自動車関連の費用
- 自動車本体代
- ガソリン代
- 駐車場代
- 保険代 など
※按分の仕方は項目によって異なります。
打ち合わせ時の飲食代や会食代なども経費に計上することが認められています。仕事での取引先関係者の冠婚葬祭で支払った、慶弔費も同様です。また、法人と違って経費として認められる交際費の限度額はありませんが、プライベートとの線引きが難しい経費のため、額が極端に大きいと税務調査の対象になることがあります。
法人では、個人事業主が計上できる経費に加え、自身への給与(役員報酬)や賞与などにかかった費用も経費として計上できます。
個人事業主は売上から経費を差し引いた分が事業所得となり、「給与」という概念がないため、自身に入る収入を経費として計上することはできません。
法人の場合は給与所得となるため、自身に支払った給与も経費として計上可能です。そのほか、賞与や退職金も経費として計上できる場合があるため、かなりの節税になりえます。
7.社会的信用度
個人事業主として事業を行ううえで大きな問題はありませんが、法人に比べると社会的信用度が低いといえます。なかには、個人事業主との取引を避ける企業もあるようです。
法人は、会社法などの法律に基づいてより厳格に運営されるので、社会的信用が高いとされています。そのため、銀行でのプロパー融資においても、財務面の透明性の観点から審査に通りやすい傾向にあります。
人材採用においても、法人の方が社会保険や福利厚生、就業規則におけるメリットを提示でき、より優秀な人材が集まりやすいといえます。
8.資金調達
資金調達の方法として、主に以下の5つが挙げられます。
資金調達の5つの方法
- 金融機関などの融資
- 補助金や助成金
- クラウドファンディング
- 株式の発行
- 社債の発行
上記5つの方法について、「株式会社」であればすべて利用可能です。株式会社以外の形態の法人は「株式の発行」を除く4つの方法を利用できます。
個人事業主は前半3つの方法を利用できますが、法人と比べて審査が厳しかったり、調達できる資金が少額であったりするのが一般的です。そのため、資金調達の面から見ると、法人のほうが有利といえます。
9.事業の廃止
個人事業主が事業を廃止する際は、開業したときと同じように、廃業届を税務署へ提出するだけで手続きは完了です。
一方の法人は、法務局や税務署などさまざまな役所に対して廃業を伝えなければならないため、以下のような手続きが必要となります。
例:雇用者ありの株式会社の場合
- 法務局へ「解散登記」「清算人選任登記」「清算結了登記」を行う(約4万円)
- 税務署等へ「廃業届」などを提出
- 年金事務所へ「健康保険厚生年金保険適用事業所全喪届」を提出
- ハローワークへ「雇用保険適用事業所廃止届」などを提出
- 労働基準監督署へ「確定保険料申告書」や「労働保険料還付請求書」を提出
- 官報で解散の事実を公告する(約4万円)
事業の廃止に関しては、1つの書類の提出で済む個人事業主よりも、法人のほうが圧倒的に手続きが煩雑であることがわかります。
10.事業承継のしやすさ
事業承継のしやすさという点で有利なのは法人です。法人は「会社」という形態で事業を行っており、仮に社長や従業員の誰かが亡くなっても「会社」はそのまま残り続けます。事業承継のための特別な手続きは必要ありません。
しかし、個人事業主は「人」が事業を行っている形態なので、その「人」が交代する場合には、事業承継を証明するための手続きが必要になります。事業を承継する側と承継される側が行う手続きは以下のとおりです。
事業承継の際の手続き
- 事業を承継する側:税務署へ「事業廃止届出書」などを提出する、事業用資産を承継される側へ渡す
- 事業を承継される側:税務署へ「事業開始届出書」などを提出する、事業用資産を承継する側から受け取る
上記の手続きをすることで、「人」の交代と事業用資産の移動が正式に認められ、事業承継が完了します。
11.赤字の繰越
青色申告をしていれば、個人事業主も法人も赤字を繰り越せます。ただし、繰り越せる期間は個人事業主が3年で法人が10年であるため、法人のほうが有利です。なお、2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年となります。
たとえば、「今年の利益が500万円で、その前の10年間は毎年50万円の赤字が続いていた」という状況だったとします。
法人であれば10年まで繰り越せるので、今年の黒字「500万円」から10年分の赤字「500万円」を差し引いた結果、今年の課税対象額は「0円」です。
一方、個人事業主の場合は、繰り越せるのが3年だけなので、今年の黒字「500万円」から3年分の赤字「150万円」を差し引いた「350万円」が、今年の課税対象額となります。
以上のように、個人事業主では赤字を繰り越せるのが3年であるため、事業を安定させるのに長期間必要な場合には、10年まで赤字を繰り越せる法人のほうがおすすめです。
12.責任範囲
責任範囲については、個人事業主が「無限責任」、法人が「有限責任」という大きな違いがあります。
無限責任とは、たとえば事業に失敗して借金を背負う羽目になった場合、その返済処理のすべてを自身で行わなければなりません。有限責任では、会社が倒産して借金ができたとしても、個人が責任を負うのは出資額の範囲までとなります。
事業で万が一のことが起こった場合に個人が背負うリスクが、法人のほうが小さくて済むと言われるのはそのためです。
13.会計・経理
個人事業主も法人も、日々の経理作業は必須です。そうして作られた経理内容を取りまとめて、個人事業主は毎年2月16日~3月15日までの間に確定申告を、法人は自社で決めた決算日までに法人決算を行います。
確定申告は「所得税額の計算と納税」が、法人決算は「税額の計算」「株主などへの財政状態及び経営成績の開示」が目的です。
会計や経理作業は法人のほうが複雑で、扱う書類の数も増えます。そのなかで作業のすべてを人力で行うのは限界があるため、会計ソフトなどを活用してミスを防止しながら進めていくのがよいでしょう。
個人事業主のメリット・デメリット
個人事業主と法人の違いを項目ごとに押さえたところで、個人事業主のままでいることのメリット・デメリットを改めて整理します。
個人事業主のメリット
- 開業手続きが簡単
- 初期費用がかからず、すぐに事業を開始できる
- 一定の所得までは、個人事業主の方が税額が低い
個人事業主のデメリット
- 社会的信頼度は法人に比べると低い
- 経費にできる範囲が狭い
- 所得が増えるほど、所得税の税率が上がる
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起業形態の無料診断はこちら法人のメリット・デメリット
個人事業主のメリット・デメリットの次は、法人化することによるメリット・デメリットについても整理して解説します。
法人化のメリット
- 社会的信頼度が高い
- 経費にできる範囲が広い
- 一定の所得を超えたら、所得税よりも節税になる
法人化のデメリット
- 事業開始までの手続きが多く、費用もかかる
- 赤字でも税金の支払いがある
- 経理・人事管理が煩雑
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起業形態の無料診断はこちら法人化が向いている5つのケース
前項のとおり、法人化には優れたメリットがありますが、誰もが法人化によってメリットを享受できるわけではありません。なかには、個人事業主のままでいたほうが有利なケースもあるため、自身が個人事業主・法人のどちらに向いているのかを確認する必要があります。
まず、法人化すべきといえる個人事業主の特徴を5つ紹介します。なお、個人事業主の法人化についてさらに詳しく知りたい方は下記の記事も参考にしてください。
【関連記事】
個人事業主が法人化する最適なタイミングとは?メリット・デメリットからインボイス制度の対策について解説
法人向けの事業を行いたい
企業間取引を意味する「BtoB」や、企業と消費者の間に別の企業が入る「BtoBtoC」のように、法人相手の事業を行いたいと考えているのであれば、個人事業主ではなく法人として起業するのがおすすめです。
個人事業主でも法人相手の事業を行えますが、企業によっては「個人事業主とは取引しない」としているところもあるため、せっかくのビジネスチャンスを逃すことになる可能性が出てきます。
法人向けの事業を行いたい
先述のとおり、法人のほうが個人事業主よりも大規模な方法での資金調達が可能です。特に株式会社であれば、以下の5つの資金調達方法をすべて利用できるので、数億~数百億円規模での調達も十分できます。
法人で可能な資金調達の5つの方法
- 金融機関などの融資
- 補助金・助成金
- クラウドファンディング
- 株式発行
- 社債発行
個人事業主でも、「金融機関などの融資」「補助金や助成金」「クラウドファンディング」を利用すれば資金調達は可能です。しかし、金額は数十万円~300万円ほどと小規模で、用途を限定されるなどの制限が付くこともあります。
多額かつ使い勝手の良い資金を確保するには、法人のほうが都合よいでしょう。
従業員を雇って事業を拡大したい
積極的に事業の拡大を図りたい場合も、個人事業主より法人のほうが適しています。事業を拡大するには、従業員を雇ってこなせる仕事の量や幅を増やすのが近道であるからです。
もちろん、個人事業主でも従業員を雇うことは可能ですが、法人より低い社会的信用度がここでも響きます。個人事業主は不安定なイメージが強いため、法人が従業員募集をかけた場合と比べて人材の確保が難しくなります。
できるだけ多くの人が従業員募集に関心をもつようにするためにも、法人化して社会的信用度を高めるのがおすすめです。
前年以前から年間課税売上高が1,000万円を超えている
個人事業主でも法人でも、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者となります。ただし、実際に消費税の納税義務が発生するのは、課税売上高が1,000万円を超えてから2年後です。
たとえば、「2年前から課税売上高が1,000万円を超えている」という個人事業主は、今年から消費税を納めなければなりません。このタイミングで個人事業主から法人化すれば、以下の図のように、さらに2年間は消費税の納税が免除されます。なお、この免除規定が適用されるのは資本金1,000万円未満の法人のみです。
消費税の負担をできるだけ抑えたい人は、タイミングを見計らって、消費税が免除される仕組みを最大限活用しましょう。
なお、2023年10月より始まったインボイス制度に付随して、インボイス制度に登録するようであれば課税売上高の金額にかかわらず課税事業者となり、ここで解説した消費税の免除は受けられません。インボイス制度への対応も加味して、法人化を検討することをおすすめします。
年間利益が800万円を超えそう
年間利益が800万円を超えそうになっている個人事業主も、法人化を前向きに検討すべき段階といえます。なぜなら年間利益、つまり課税所得が800万円というのは、所得税の税率が1段階上がる直前であるためです。
所得税には所得が多くなるほど税率が上がる累進課税が採用されており、具体的な税率は以下の表のようになっています。この表を見ると、課税所得800万円での税率は23%ですが、課税所得900万円からは33%に跳ね上がります。
所得税率の速算表
課税対象の所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
一方、法人税の税率は最大でも23.2%です。今後も利益が上がる見込みがある場合は、年間利益が900万円以上になる前に法人化してしまえば、税負担を抑えられます。
個人事業主が納めることになる税金について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
個人事業主が払う税金はいくら?計算方法と節税のポイントを解説
法人化が向いていない2つのケース
ここでは、法人化せず個人事業主のままでいたほうがよいケースを2つ紹介します。
事業拡大を予定していない
法人化が向いているケースに挙げたとおり、事業拡大を大きな目的としているのであれば、法人化は有効な手段です。しかし、事業を拡大する予定もないのに法人化しても、「社会的信頼度の高さ」「経費範囲の広さ」といったメリットを活かすことはできません。
また、BtoBやBtoBtoCなどの法人向けではなく、一般消費者向けをターゲットとしている以下のようなBtoCの事業であれば、個人事業主のままでも特に問題はありません。
BtoC事業の例
- 美容院
- エステサロン
- マッサージ店
- 飲食店
- コンサルタント など
利益が伸びていない
先述のとおり、「年間利益800万円」が法人化を検討し始めるひとつのタイミングです。そのため、利益がそこまで出ていない状態であるなら、法人化のことを考える必要はありません。
実際に法人化するにあたっては、時間や手間がかかるうえ、以下のようにある程度まとまった費用もかかります。
法人化にあたり必要な費用例
- 法人設立までにかかる費用(創立費):定款認証印紙代、定款認証手数料、登録免許税など
- 法人設立後から営業開始までにかかる費用(開業費):法人税、社会保険料、オフィス賃料、税理士顧問料など
事業の利益がそれほど伸びていない状態で上記の費用を負担することは、かえって事業の足かせになりかねません。ひとまずは個人事業主のまま事業に集中したほうがよいでしょう。
個人事業主が法人化を選択するポイント
起業時は個人事業主であった方も、事業が軌道に乗ってくると法人化を考えるものです。とはいえ、これまで述べたとおり法人化にはメリット・デメリットの両方があるため、どちらの立場のほうが得なのかを慎重に見極める必要があります。
ここでは、個人事業主が法人化に踏み切る目安となるポイントを3つ紹介します。
利益が伸びていない
見込み取引先がある場合、取引や契約条件を確認してから、個人事業主のままでいるか法人化するか決めるのをおすすめします。
取引先によっては法人としか契約を結べないという恐れもあるため、取引先には事前に確認をしておきましょう。
取引先の条件で決める際のポイント
- 個人事業主との取引可→個人事業主・会社設立どちらでもOK
- 法人取引のみ→会社設立
資金調達の方法で決める
資金の調達方法による検討も重要です。金融機関から融資を受けようとする場合、個人事業主でも融資可能かを確認しておきましょう。日本政策金融公庫の一般貸付は、個人でも法人でも融資限度額は同じです。
また、事業に協力してくれる人がいる場合は、出資のかたちがとれる会社設立を検討すべきかもしれません。
資金調達の方法で決める際のポイント
- 個人で金融機関から融資可能→個人事業主
- 出資で資金調達→会社設立
従業員を雇用するかどうかで決める
事業内容によっては、スタート時から従業員を雇用する場合があります。給与を経費に計上することを念頭に、どちらの方が利益が高くなるかを考えましょう。
従業員を雇用するかどうかで決める際のポイント
- 事業開始直後は家族が従業員として在籍→個人事業で青色事業専従者給与を活用
- 事業開始直後から複数従業員を雇用→会社設立し、給与を経費計上
取引先の見込みがある方や自己資金の心配が少ない方には、早期のビジネス拡大を目指して、会社を設立し法人として事業をスタートさせることをおすすめします。
逆に、資金に不安が多いのであれば、小規模スタートして徐々に事業拡大をするなど、自分自身の適性も考慮に入れて多角的な判断しましょう。
個人事業主と法人、どちらで事業を始めるかを考えるとき、手続きや税金、控除といった手間や数字だけではなく、どのように事業を運営していくかも重要です。
個人事業主から法人化を検討している方はこちら
個人事業主が法人化する最適なタイミングとは?メリット・デメリットからインボイス制度の対策について解説
まとめ
起業する際の選択肢である個人事業主と法人は、どちらにもメリット・デメリットがあります。それぞれの違いを把握したうえで、個人事業主のままでいるか、法人化するかを選びましょう。
個人事業主としてある程度の利益を出せるようになると、「そろそろ法人化しようかな」と考え出すときも出てきます。そのような場合には、本記事で紹介した法人化が向いているケース・向いていないケースを参考にして、自身の状況がどちらに当てはまるのかをできるだけ客観的に判断し、適切な事業形態を選んでください。
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よくある質問
個人事業主と法人の違いは?
個人事業主とは法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人で、法人とは法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織のことです。
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個人事業主が法人化を選択するポイント
個人事業主が法人化を選択するポイントとして、以下のようなものが挙げられます。
- ・見込み取引先の条件
- ・資金調達の方法
- ・従業員を雇用するかどうか
詳しくは記事内「個人事業主が法人化を選択するポイント」をご覧ください。
監修 前田 昂平(まえだ こうへい)
2013年公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人に入所し、法定監査やIPO支援業務に従事。2018年より会計事務所で法人・個人への税務顧問業務に従事。2020年9月より非営利法人専門の監査法人で公益法人・一般法人の会計監査、コンサルティング業務に従事。2022年9月に独立開業し現在に至る。