確定申告の基礎知識

FXで損失があっても確定申告は必要?確定申告する条件やメリットを解説

監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ

FXで損失があっても確定申告は必要?確定申告する条件やメリットを解説

FX(外国為替証拠金取引)で利益を得ている場合には、原則として確定申告が必要です。

(国内)FXで得た利益は、給与などの所得とは別に、税額を計算して納税する「申告分離課税」として確定申告の対象となります。また仮にFXで損失を出しても、確定申告によって、節税効果が期待できるのも確定申告のメリットです。

本記事では、FXで確定申告が必要になるケースや損失が出た場合の対処法について解説します。

確定申告のやり方について知りたい方は、別記事「確定申告のやり方(方法)は? 必要書類や流れについて解説」をあわせてご確認ください。

なお、FXは国内の場合と海外の場合で扱いが異なります。国内FXは申告分離課税扱いですが、海外FXは総合課税となり申告方法にも違いがあります。本記事では、「国内の会社におけるFX」について取り扱います。

目次

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FXで得た利益にかかる税金と税率とは

国内FXで得た利益は「先物取引に係る雑所得等」に区分され、所得税15%と地方税5%の一律20%で課税されます。これは、給与などほかの所得とは別に税額を計算して納税する申告分離課税となり、原則として確定申告が必要です。

また、2013年1月1日から2037年12月31日までの期間は「東日本大震災からの復興の為の施策を実施する為に必要な財源の確保に関する特別措置法」に基づき、所得税額に対して2.1%の復興特別所得税が課せられます。この期間の税率は、20.315%となります。

出典:国税庁「No,1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」

FXにおいて課税対象となる利益とは

FXにおける利益とは、為替レートの変動で生じる「為替差益」と「スワップポイント」です。この利益から必要経費を差し引くとFX取引の所得となり、課税対象になります。

課税対象となる所得の計算式

為替差益+スワップポイント-必要経費=所得(課税対象)

FXで利益が出た際の納税額の計算例

  1. FXで得た利益と必要経費を算出する
    ・為替差益:60万円
    ・スワップポイント:2万円
    ・必要経費:16万円
  2. 課税対象となる所得を算出する
    計算式:為替差益+スワップポイント-必要経費=課税所得
    ・600,000(円)+20,000(円) - 160,000(円) = 460,000(円)
  3. 課税対象である所得に税率を乗算する
    ・460,000(円)(所得) × 20.315%(税率) = 93,400(円)(納税額)

FX運用に関わる支出は経費として計上できる

確定申告では、FXで得た利益から必要経費を差し引くことができます。必要経費を差し引くことは節税対策にもなり、確定申告が不要となるケースも出てくるので、きちんと整理して申告するようにしましょう。

確定申告で経費に計上できるものとして、以下が挙げられます。


種類内容
通信費FX取引に利用した、インターネットプロバイダーの利用料金や電話料金など
セミナー受講費FX取引に関わるセミナーに参加した際の受講費や、コンサルタントの依頼費など
交通費FX専門家や同業者との打ち合わせ、セミナーなどに行くときにかかった移動・交通費、宿泊費など
新聞、書籍費FX取引のために使用した新聞、書籍の購入費用など
(為替に関連するもののみ)
各種消耗品費FX取引に利用した、筆記用具やプリンターに使用するインク購入費用など
手数料FXのトレード時に発生する手数料や銀行振込時にかかる振込手数料など

ほかにも、パソコンやスマホ購入費・家賃・光熱費なども経費として計上できますが、FX取引とプライベートで兼用している場合は「家事按分(かじあんぶん)」をする必要があります。家事按分は、業務での使用を合理的に説明できる場合にのみ認められます。

たとえば家賃なら以下の状況に当てはまる場合に、家賃としてかかっている費用全体からFX取引に使用した分を計上する方法が考えられます。

  • 住居の一室や一部を、FXのための専用スペースとして使用している(面積による按分)
  • 専用スペースを設けてはいないが、自宅で過ごしているうちの6時間はFX取引をしている(時間による按分)
    など

経費として申告できるものは、原則として「FXの取引において必要なものであること」が条件です。なお、経費として計上を認めるかどうかは、最終的に税務調査の際に税務署が判断します。

家事按分の方法や経費として計上できるもの・できないものについて詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご確認ください。

【関連記事】
個人事業主が確定申告時に経費にできるものは?判断基準や経費できるものを勘定科目別に解説

FXで確定申告が必要な場合とは

FXにおいて発生する税金は、翌年に確定申告したうえで納税します。以下の条件に該当する場合は、原則として確定申告しなければなりません。

確定申告が必要なケース

  • 給与所得があり年収が2,000万円を超えている場合
  • 給与所得とは別でFXにおいて年間20万円を超える所得を得ている場合
  • 給与所得とFXによる所得の合計が年間20万円を超える場合
  • 扶養に入っておりFXを含めた所得が年間48万円を超える場合

出典:国税庁「確定申告が必要な方」
出典:国税庁「No.1180 扶養控除」

給与所得があり年収が2,000万円を超えている場合

FXで利益を出した・出していないにかかわらず、年収が2,000万円を超える場合は個人で確定申告しなければなりません。

給与所得とは別でFXにおいて年間20万円を超える所得を得ている場合

会社が年末調整していたとしても、FXでの所得が1年間で20万円を超える場合には、自身で確定申告を行う必要があります。

この所得とは、FXで得た利益から必要経費を差し引いた額です。たとえば、FXで得た利益が50万円で必要経費が35万円の場合は、所得額が15万円となるため確定申告は不要です。

給与所得とFXによる所得の合計が年間20万円を超える場合

たとえば給与を受け取っている本業があり、その給与所得とFXによる所得の合計が20万円を超えている場合にも確定申告する必要があります。

たとえば、本業で10万円の給与があり、FXで得た所得が11万円あった場合、所得額は合計21万円になるので確定申告の対象となります。

ただし、給与所得とFXによる所得の合計が20万円を超えていたとしても、以下の条件にすべて当てはまる場合は確定申告を行う必要はありません。

  • 給与所得の収入金額から、雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除以外の各所得控除の合計額を差し引いた額が150万円以下
  • 給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下

出典:国税庁「確定申告が必要な方」

扶養に入っておりFXを含めた所得が年間48万円を超える場合

自身が配偶者であったり一定の条件を満たしていたりして、扶養親族に該当する(扶養に入っている)場合、FXの所得を含め自身の所得が年間で48万円を超えると確定申告が必要となります。

48万円の基準は、「扶養親族に該当するかしないか」です。FXを含む各所得が年間で合計48万円を超える場合は、「扶養親族の該当基準を満たしていない」として扶養から外れ、自分で確定申告しなければなりません。

気を付けるべきは、「FXを含む各所得が年間で48万円を超えるか超えないか」という点です。たとえば自身が扶養に入っておりFXをしていて、FXでは年間で10万円の所得しかなかったとしても、アルバイトで年間に40万円の所得があったとしたら、年間の合計所得は50万円となり扶養から外れます。

【関連記事】
扶養とは? 所得税の扶養と社会保険(健康保険と厚生年金保険)の扶養の違い

FXで確定申告が不要な場合とは

FXで所得を得た場合は、原則として確定申告が必要です。しかし、以下の条件に該当する場合は確定申告が不要になります。

確定申告が不要なケース

  • FXによる所得が年間20万円以下の場合
  • 扶養に入っていてFXを含む各所得の合計が年間48万円以下の場合
  • 年金受給者

会社員ならFXによる所得が年間20万円以下、被扶養者ならFXを含む各所得の合計が年間48万円以下であれば確定申告は不要です。

また、年金受給者は「確定申告不要制度」により、以下に当てはまれば確定申告の必要はありません。

  • 公的年金等における収入が400万円以下
  • 公的年金等にかかる雑所得以外の所得が20万円以下

出典:国税庁「確定申告が必要な方」

FXで損失が出た場合に確定申告するメリット

FXにおいて一定以上の利益が出れば、確定申告を行わなければなりません。しかし、損失があった場合にも確定申告したほうが良い場合があります。これは、利益が出るとは限らない、FXならではの特徴です。

損失が発生した年こそ、確定申告することによって節税につながるケースがあるので覚えておきましょう。

繰越控除で最大3年まで損失を繰り越せる

通常、一定額以上の利益が出ていない場合は確定申告の必要はありません。

しかし、繰越控除を受けることでその年に発生した損失を、店頭FXや取引所の先物取引などの利益と翌年以降の3年間で相殺できます。これにより、利益が出た年の課税対象額が本来よりも少なくなり、納税額も減額できるのです。

繰越控除


繰越控除を受けたい場合、損失を出した年に確定申告を行うとともに、翌年以降も継続して確定申告しなければなりません。また、損失を繰り越す期間中は取引があってもなくても、毎年確定申告する必要があります。

出典:国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」

損益通算で複数のFX会社での取引を合算できる

複数の会社でFXの取引をする場合、各社における損益の合算が可能です。

たとえば、A社で50万円の利益があり、B社で30万円の損失があった場合、損益通算すれば利益は20万円になり、さらにそこから必要経費を引いた金額が所得となります。損益通算をせずにA社で得た50万円の利益を申告すると、その分税額も高くなってしまいます。

このように、損益通算することで納税額を減額できる場合があることがポイントです。

ただし、「先物取引に係る雑所得など」の対象になるもの同士は損益通算が可能ですが、「先物取引に係る雑所得など」に分類されない所得との損益通算はできません。

損益通算の対象となるもの・ならないものの例

  • 損益通算の対象となる他の先物取引=「先物取引に係る雑所得など」に分類されるもの
    ・現物先物取引
    ・現金決済型先物取引
    ・商品指数先物取引
    ・商品オプション取引
    ・商品の実物取引のオプション取引 など
  • 損益通算の対象とならない取引「先物取引に係る雑所得など」に分類されないもの
    ・暗号取引(仮想通貨)
    ・海外FX業者での損益 など

FXで確定申告する際に必要な書類

FXの損益における確定申告の場合は、通常の確定申告時の書類に加えて添付が必要な書類があるため、漏れのないように準備することが大切です。

なお、各書類は税務署や市区町村の担当窓口などで配布されており、インターネット上では、国税庁の「確定申告書等の様式・手引き等(令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)」ページから取得できます。書類ごとに記載例もあるので、ぜひ参考にしてください。

確定申告について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

【関連記事】
【2024年最新】確定申告の必要書類・添付書類、準備するものをケース別にわかりやすく解説
確定申告書は郵送できる?郵送方法や封筒の書き方・注意点について解説

申告書第一表・第二表(所得税及び復興特別所得税の申告書)

給与所得者である会社員も、給与が2,000万円を超える場合や副業などの収入が20万円を超える場合は、個人事業主やフリーランスの人と同様の申告書を使用します。

確定申告においてメインとなる申告書の構成は、第一表と第二表の2つです。第一表・第二表は、確定申告する人全員が提出しなければならない書類であるため、必ず両方用意しましょう。

申告書第三表(分離課税用)

FXの所得は申告分離課税の対象となるため、分離課税用の第三表も使用します。

先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書

先物取引にかかる、事業所得・譲渡所得・雑所得の確定申告時に使用します。FXの確定申告を行う場合には必須です。

所得税及び復興特別所得税の申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)

FXで損失があり、繰越控除を受ける際に提出します。損失が無い場合・繰越控除を受けない場合は用意する必要はありません。

源泉徴収票

会社員は給与所得の源泉徴収票が必要です。

年間損益報告書

FXによる取引の履歴が記載されたものです。取引会社によっては名称が異なる場合もあります。

FXの確定申告のやり方(書類の記載方法)

給与所得者のFXの確定申告のやり方は、シンプルです。

ここでは、FXの確定申告において必要となる以下書類の記載方法を、実際の書類のサンプル付きで解説します。

FXの確定申告において必要となる書類

  • 申告書第一表
  • 申告書第二表
  • 先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書
  • 申告書第三表

なお、本記事では「FXを行っている人の確定申告を想定した記載方法」をメインとして解説しています。確定申告書自体の書き方を詳しく知りたい方は、以下記事をご覧ください。

【関連記事】
【2024年最新】確定申告書の書き方を記入項目別にわかりやすく解説

「申告書第一表」の記載方法

申告書第一表の記載方法


給与の源泉徴収票


申告書第一表は、収入や所得(収入から控除額が差し引かれた、調整後の額)、社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除などの金額を記入します。

勤務先から発行された給与の源泉徴収票に沿って、各番号に対応する箇所の金額を書類に転記します。

「申告書第二表」の記載方法

申告書第二表の記載方法


与所得の源泉徴収票その2(第二表)


「申告書第二表」のそれぞれの欄には、以下の情報を記載します。


記入欄記入内容
所得の内訳所得の種類「給与」と記入
種目「給与」と記入
給与などの支払者の「名称」及び「法人番号又は所在地」等以下内容を記入
・勤務先(給与の支払者)の名称
・勤務先の法人番号(13桁の番号)もしくは所在地(住所)
収入金額源泉徴収票の「支払金額」の内容を転記
源泉徴収税額源泉徴収票の「源泉徴収税額」の内容を転記

「社会保険料控除等に関する事項」の欄には、社会保険、生命保険、地震保険などの支払額を記入します。

社会保険料は、源泉徴収票に記載されている支払額を転記してください。生命保険料と地震保険料は、源泉徴収票に記載されている額ではなく、各保険会社や機関から提供される保険料払込証明書(保険料控除証明書)に記載のある支払額を記入します。源泉徴収票に記載されている生命保険料と地震保険料は控除額であり、支払額ではないためです。

「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」の記載方法

先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」の記載方法


「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」は、FX会社のサイトなどでダウンロードした年間損益報告書を見ながら記入しましょう。

まずは所得の種類の「雑所得用」を丸で囲み、氏名を記入します。次に「取引の内容」の「種類」に「外国為替取引」、「決済の方法」に「仕切」と記入します。「決済年月日」と「数量」は年間の取引をまとめて記載することが認められているため、未記入で問題ありません。

ⒶからⒸ欄は「差金決済取引」または「譲渡」ごとに記入します。差金決済とは、有価証券のやりとりをしない取引のことをいい、FXも差金取引のひとつです。

「総収入金額」の「差金等決済に係る利益又は損失の額①」には、FX会社のサイトなどでダウンロードした損益報告書に記載されている、為替差益による損益の合計金額を記入します。

「その他の収入③」にはスワップポイントによる利益の金額を記入し、「計④」の欄に合計金額を記入します。

経費がある場合は、「必要経費等」の「その他の経費⑦~⑨」に記入して、「小計⑩」と「計⑪」にも記入してください。

最後に、「所得金額⑫」に「総収入金額」の合計額から「必要経費等」の合計額を差し引いた額を記入します。

「申告書第三表」の記載方法

所得税申告書第三表


「申告書第三表」は、「先物取引に係る雑所得等の金額の計算明細書」(以下「明細書」)から転記します。

「収入金額」の「分離課税」、「先物取引㋤」の欄に、明細書の「総収入金額」の「計④」を記入し、「所得金額」の「先物取引(72)」に明細書の「所得金額⑫」を記入します。

書類左側下部の「税金の計算」に記入するのは、「総合課税の合計額⑫」に申告書第一表の「所得金額等」の合計額、「所得から差し引かれる金額㉙」に記入するのは、申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」の合計額です。

また、「⑫ 対応分(75)」に、「総合課税の合計額⑫」から「所得から差し引かれる金額㉙」を差し引いた金額を記入し、「(72) 対応分(80)」に、「所得金額」の「先物取引(72)」に記入した金額をそのまま記入します。

書類右側上部の「税金の計算」において、「(75) 対応分(83)」に記入するのは、給与所得に対する税額です。給与所得に対する税額の計算は、左側の「⑫ 対応分(75)」に記入した課税所得の金額をもとに、国税庁の「所得税の税率」のページを見ながら行います。

また、FXの所得に対する税額を計算した金額を「(80) 対応分(88)」に記入します。FXの所得に対する税額の計算方法は、FXの所得税率は15%なので、FXの所得(「所得金額」の「先物取引(72)」に記入した金額)に15%をかけたものです。

最後に、「(83)から(90)までの合計」に「(75) 対応分(83)」と「(80) 対応分(88)」の合計を記入します。

まとめ

FXにおける確定申告では、通常の確定申告と異なる書類を用意しなければならず、準備に手間がかかります。しかし、損失を挽回できる控除などの節税メリットをうまく活用するためにも、確定申告の準備は怠らないようにしましょう。

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確定申告を簡単に終わらせる方法

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FXで得た利益は、給与などほかの所得とは別に税額を計算して納税する「申告分離課税」となるため、原則として確定申告が必要です。

詳しくは記事内「FXで得た利益にかかる税金と税率とは」をご覧ください。

FXで確定申告がいらないケースは?

会社員ならFXによる所得が年間20万円以下、被扶養者ならFXを含む各所得の合計が年間48万円以下であれば確定申告は不要です。

詳しくは記事内「FXで確定申告が不要な場合とは」をご覧ください。

監修 宮川 真一

岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業後、税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上となる。現在は「100年先の“みらい”を創る。」税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティングを行う。

税理士・CFP® 宮川真一

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