開業の基礎知識

一人親方とは? 個人事業主との違いや建設業での働き方、必要な手続きを解説

監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP

一人親方とは? 個人事業主との違いや建設業での働き方、必要な手続きを解説

一人親方とは建設業などで、個人で仕事を請け負って働く人の総称です。

一人親方は個人で業務を請け負うことから、企業などに雇用されて業務を行う法律上の「労働者」とは働き方や適用される公的制度などが異なります。また、一人親方は広義では個人事業主に含まれますが、対象となる業種の範囲や労災保険への加入可否など、一般的な個人事業主との違いがいくつかあります。

本記事では、一人親方の概要や個人事業主との違い、メリットやデメリットを解説します。

目次

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一人親方とは

一人親方とは、主に建設業で、施主や建設会社から個人で仕事を請け負い、他人を雇用せずに仕事を行う働き方を指します。

建設業では、慣例的に「親方」と呼ばれる事業主のもとで技術を磨きながら、「見習い工」「職人」「一人親方」のプロセスを経て、「有人雇用事業主」としての親方を目指します。

このうち「一人親方」は、親方のもとから独立して、職人として雇われたり、施主と直接請負契約をしたりする独立事業者です。

近年は、電動工具やプレハブ工法などの建築技術が発展し、比較的単純な手順で行える建築作業が増えてきました。以前の「見習い工」に該当する期間が短縮され、比較的早い段階で一人親方として事業を行う人も増えています。

一人親方は労災保険の特別加入制度の対象

労災保険は通常、労働者を対象に業務または通勤による災害に対して保険給付を実施します。特別加入制度は、労働者以外の「一人親方等」や特定作業従事者などを対象に、任意で労災保険に加入できる制度です。

特別加入制度では、労働者を使用しない「一人親方その他の自営業者およびその事業に従事する人(一人親方等)」が対象です。

一人親方等に含まれる主な業種は次のとおりです。

特別加入者の範囲

  • 旅客業や貨物運送業
  • 建設業
  • 漁業
  • 林業
  • 医薬品の配置販売事業
  • 再生利用を目的とする廃棄物の事業
  • 船員が行う事業
  • 柔道整復師が行う事業
  • 改正高年齢者雇用安定法に関する高年齢者が行う事業
  • あん摩マッサージ指圧師やはり師が行う事業
  • 歯科技工士が行う事業
  • 特定受託事業者

出典:厚生労働省「労災保険 特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>」

特別加入制度の「一人親方等」には、上記のさまざまな業種が含まれます。建設業で使われる「一人親方」とは意味合いが異なる点に注意しましょう。

上記の特別加入者の範囲は、内容を簡略化した形で記載しています。詳細は、厚生労働省が公開する「労災保険 特別加入制度のしおり」で確認してください。

個人事業主と一人親方の違い

建設業の一人親方の多くは請負契約で仕事を受注しているため、労働者には該当せず、広義では個人事業主に含まれます。

ただし、一般的に用いられる「個人事業主」と「一人親方」には、以下の点で違いがあります。

個人事業主と一人親方の違い

  • 対象となる業種の範囲
  • 労災保険への加入可否
  • 従業員の雇用状況

対象となる業種の範囲

「事業」の考え方は所得税法や消費税法などで異なりますが、たとえば消費税法では「事業」は「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行すること」とされています。この意味では、個人事業主は、個人で「継続かつ反復する事業」を行っている人です。

上記の考え方に基づくと、個人事業主の対象となる業種の範囲は限定されていません。飲食店を個人で経営している人も個人事業主に該当し、フリーランスで働く方も個人事業主です。

一方、「一人親方」は建設業など特定の業種で、個人で仕事を請け負う人に用いられます。個人事業主とは異なり、対象となる業種が限定されている点が違いのひとつです。

出典:国税庁「消費税における事業の定義」

労災保険への加入可否

個人事業主と一人親方は、労災保険へ加入できるか否かに違いがあります。

労災保険は、「労働者として雇用されている人」を対象にしています。個人事業主は労働者を雇用する立場にあるため、原則として労災保険の対象外です。

一人親方も独立した事業主ですが、被雇用者と同様に現場で業務に従事します。そのため、被雇用者に準じて保護することが適切とみなされ、特別加入制度を利用することで労災保険に加入できます。

出典:厚生労働省「労災補償」
出典:厚生労働省「特別加入制度とは何ですか。」

従業員の雇用状況

個人事業主は、従業員の雇用に制限はありません。一方で一人親方とは、従業員を雇用せず、個人で仕事を請け負う人を指す言葉です。個人事業主と一人親方には、従業員の雇用状況の面でも違いがあります。

なお、同じ「一人親方」を含む言葉でも、労災保険上の「一人親方等」の場合は取り扱いが異なります。

労災保険上の「一人親方等」は、基本的には労働者を使用せずに事業を行う人を指します。ただし、従業員を雇用していても、従業員を雇用する日数の合計が1年間で100日未満の場合は、労災保険の対象となります。

出典:厚生労働省「労災保険 特別加入制度のしおり<一人親方その他の自営業者用>」

建設業での一人親方の働き方

建設業における一人親方は、特定の企業や仲間の紹介などで仕事を受けることが多いです。なかには、専門的な技術や技能を持ち、複数の施工会社や建設業者などから仕事を請け負う一人親方も存在します。

以下のような、特定の資格が必要な業種や1日あたりの日当(常用単価)が一般的に高い業種で、一人親方が多い傾向にあるようです。

一人親方が多い業種

  • 大工
  • 電気工事業
  • 管工事業
  • 内装仕上工事業
  • 塗装工事業
  • 左官工事業 など

建設業の2024年問題の影響

「建設業の2024年問題」とは、時間外労働の上限規制の適用により、建設業界全体で従来のような長時間労働ができなくなり、業界各社が業務の進め方を抜本的に見直さなければならないなどの課題が生じることを指します。

2019年4月1日に施行された働き方改革関連法によって、原則として月45時間・年360時間の時間外労働の上限規制が定められましたが、建設業では、短期間での適用が難しい労働環境がある点を考慮し、5年間の猶予が設けられていました。

猶予期間の5年が経過し、2024年4月1日からは、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。建設業を取り巻く状況の変化を受け、人材不足解消の一手段として、時間外労働の上限規制の適用外である一人親方の増加が懸念されています。

建設業の2024年問題について詳しく知りたい方は、別記事「建設業の2024年問題とは?対応方法をわかりやすく解説」をご覧ください。

出典:厚生労働省「建設業 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

一人親方のメリットとデメリット

一人親方としての働き方にはいくつかのメリットがある反面、デメリットも存在します。企業に所属しているときとは働く環境や受けられる公的制度などに違いがあるため、メリットとデメリットの双方を把握したうえで、一人親方として独立するかを検討しましょう。

一人親方のメリット

一人親方として働く主なメリットは次のとおです。

一人親方のメリット

  • 組織に所属しない自由な働き方ができる
  • 個人の頑張り次第で収入が増える
  • 定年退職がない
  • 従業員に関する手間やコストがかからない

一人親方のメリットは、自身の裁量で仕事や労働時間を選択する部分が増える点です。自身の状況に応じて仕事の受注量を増やしたり、単価を交渉したりもでき、頑張り次第で高い収入が期待できます。

また、多くの企業は定年制を導入していますが、一人親方には定年がありません。近年、老後資金の確保が問題とされています。希望する年齢まで働くことができる一人親方は、老後の経済的な不安軽減につながるメリットがあります。

そのほか、一般的に一人親方は従業員を雇用しないことが多いため、勤怠管理や給与の支払いなどの業務が発生しません。事業主負担を始めとする社会保険料の費用がかからない点もメリットです。

一人親方のデメリット

一人親方として働くデメリットには、次の点が挙げられます。

一人親方のデメリット

  • 失業給付や雇用調整金の対象から外れてしまう
  • 収入が不安定になりやすい
  • 病気や仕事がなくなったときの保障がない
  • 建設業許可を取得しない場合は軽微な工事しか受注できない

一人親方は失業給付や雇用調整金など、労働法上の労働者向けの施策の対象から外れてしまう点がデメリットです。個人で仕事を請け負うことから、収入が不安定になりやすく、病気や仕事がなくなった場合も企業の休業制度などを活用できない側面があります。

一人親方として独立する際に建設業許可を取得しない場合、請負金額に上限がかかり、一定の金額以下の工事しかできない点もデメリットです。

一人親方になるための手続き

一人親方として開業するために税務署などに届出なければならない書類は、以下のとおりです。

一人親方として開業するための提出書類

  • 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)
  • 事業開始(廃止)等申告書
  • 所得税の青色申告承認申請書

一人親方になるためには、事業開始から1ヶ月以内に所轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出します。確定申告で青色申告を選択する場合は、「所得税の青色申告承認申請書」の提出もあわせて行いましょう。

また、開業にあたっては、都道府県の税事務所へ「事業開始(廃止)等申告書」も提出します。事業開始(廃止)等申告書は、個人で事業を始めたことを都道府県税事務所に申告する手続きです。

事業開始(廃止)等申告書の提出期限は都道府県によって異なるため、お住まいの自治体のウェブサイトや窓口で確認しましょう。

いずれも、一人親方に限らず、すべての個人事業主が開業にあたって提出する書類です。開業にあたって必要な手続きについて詳しく知りたい方は、別記事「個人事業主として開業するには何が必要? 独立・起業時の手続きの流れや注意点を解説」をご覧ください。

出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
出典:国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」
出典:東京都主税局「事業を始めたとき・廃止したとき」

退職して一人親方になる場合

退職して一人親方になるためには、上記の手続きのほか、国民年金や国民健康保険などの社会保険の手続きが必要です。それぞれに必要な手続きや期限は下記の通りです。

【国民年金の加入手続き】

提出期限退職日の翌日から14日以内
提出先居住する地域の市区町村の窓口
必要な書類基礎年金番号がわかる書類(基礎年金番号通知書や年金手帳など)
本人確認ができる書類(マイナンバーカードや免許証など)
退職日がわかる書類(雇用保険被保険者離職票や雇用保険受給資格者証など)
出典:日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」

【国民健康保険の加入手続き】

提出期限資格喪失日から14日以内
提出先居住する地域の市区町村の窓口
必要な書類資格喪失がわかる書類(健康保険資格喪失証明書や退職証明書など)
本人確認ができる(マイナンバーカードや免許証など)
個人番号がわかる書類(マイナンバーカードや通知カードなど)
出典:東京都江東区「職場の健康保険をやめたとき(社会保険等から国民健康保険へ切替)」

社会保険は、ケガや老後の備えとして大切な手続きです。忘れずに各窓口で手続きをしましょう。

まとめ

電気工事や内装仕上げ、塗装などさまざまな技術が必要な建設業では、技能者が一人親方として働くケースが多くあります。

一人親方になると、自身の裁量で仕事ができる部分が増え、場合によっては高収入が見込めます。一方で、労働者として受けられる保護の対象外になり、収入が不安定になりやすい点に注意が必要です。

一人親方として事業を始めるときには、所轄の税務署へ開業届を提出します。国民年金や国民健康保険などへの加入手続きが必要になることも忘れないようにしましょう。

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3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。

4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。

5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色申告をする場合に、家族に支払う給与を経費にするための手続です。青色申告をして家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。

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Step1:準備編

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準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。


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事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。

Step2:作成編

次に、作成編です。


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申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。


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給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。


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さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。

今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。

Step3:提出編

最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。


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入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。


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届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。

郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。

いかがでしょう。
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よくある質問

一人親方の意味とは?

建設業などの業種で、個人で仕事を請け負い、人を雇用せずに仕事を行う人を指しています。

一人親方を詳しく知りたい方は「一人親方とは」をご覧ください。

一人親方と個人事業主はどのような違いがある?

業種の範囲、労災保険への特別加入、雇用の状況などに違いがあります。

違いを詳しく知りたい方は「個人事業主と一人親方の違い」をご覧ください。

監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP

1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。

監修者 大柴良史

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