監修 大柴良史 社会保険労務士・CFP
個人で事業を始めるにあたっては、「開業届」を税務署に提出する必要があります。
原則、開業届は事業を始めてから1ヶ月以内に提出しなければなりません。事業を始めて間もない時期は、さまざまな手続きや業務に追われて忙しいことが想定されます。スムーズな開業の手続きのためにも、記入する内容や提出方法を把握しておきましょう。
本記事では、開業届の書き方や提出方法、提出時のポイントや注意点などを詳しく解説します。
目次
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開業届とは
開業届とは、個人が新たに事業を開始した旨を税務署に知らせるための書類であり、個人事業主として開業する場合に税務署に提出します。正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
開業届の様式は、税務署で受け取るか、国税庁のWebサイトからダウンロードすることが可能です。事業を始めるときだけでなく、事業用の事務所などを新設・増設・移転・廃止したときや事業を廃止するときにも使用します。
原則、開業届は事業の開始等の事実があった日から1ヶ月以内に提出しなければなりません。
開業届の提出が必要かどうかの判断軸は、「事業的規模」、「継続性」などです。一時的にフリマアプリで不用品を売って得るなど、「雑所得」に該当するような収入ではなく、継続的に所得が得られる「事業」となり得るかどうかで判断しましょう。
事業に該当すると判断できれば、副業であっても、開業届の提出が必要です。
出典:国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
開業届の書き方
開業届は、以下の書式に必要事項を記入し、税務署に提出します。
新しく事業を開始する場合、下記の項目を記入します。
開業届の記載項目
- 提出先・提出日
- 納税地・上記以外の住所地・事業所等
- 氏名・生年月日・個人番号
- 職業・屋号
- 届出の区分・所得の種類
- 事務所等を新設した日
- 開業に伴う届出書の提出の有無
- 事業の概要
- 給与等の支払いの状況
なお、開業届には個人番号(マイナンバー)を記入する欄があるため、作成する際はマイナンバーカードを手元に用意しましょう。
本記事では、以下のケースを例に具体的な書き方を解説します。
- 職業:Webデザイナー
- 住所:東京都品川区〇〇0-0-0
- 開業日:2024年8月20日
- 青色申告承認申請書の提出:有
- 課税事業者選択届出書の提出:無
①提出先・提出日
まず、開業届の提出先と提出日を記入します。
開業届の提出先は、納税地を所轄する税務署です。納税地を所轄する税務署は、国税庁のWebサイトで確認できます。
開業届は、事業を開始した日から1ヶ月以内が提出期限です。提出期限が土・日曜、祝日の場合、その翌日が期限日です。
今回は、提出先に「品川」税務署長、提出日に「令和6年9月1日」と記入します。
②納税地・上記以外の住所地・事業所等
納税地の欄には、住所を記入します。ただし、国内に住所がなく「居所(一時的に住んでいる場所)」がある場合、その居所地を納税地として扱います。
納税地と住所地が同一であれば、「上記以外の住所地・事業所等」の欄は空欄のままで問題ありません。
なお、事業所の所在地を納税地とするには「納税地の特例」を受けなければならず、本来の納税地を所轄する税務署長へ「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」を提出する必要があります。
今回は、住所として「東京都品川区〇〇0-0-0」および郵便番号、連絡先を記入します。
出典:国税庁「No.2029 確定申告書の提出先(納税地)」
③氏名・生年月日・個人番号
氏名・生年月日・個人番号の欄には、事業者の氏名(フリガナ)・生年月日・個人番号(マイナンバー)を記入してください。
今回は、氏名「つばめ太郎」、生年月日「平成3年8月31日」、そして個人番号を記入します。
④職業・屋号
職業の欄には、どのような仕事内容かわかるように「デザイナー」、「カウンセラー」などの職業名を記入します。
また、屋号が決まっていれば、屋号の欄に記入しましょう。屋号とは、個人事業主が提供するサービスや事業の呼び名です。
たとえば「〇〇商店」や「フォトスタジオ〇〇」など、事業やサービスの内容が伝わりやすい名前をつけるとよいでしょう。屋号がない場合は空欄のままで提出します。
今回は、職業欄に「Webデザイナー」、屋号は「デザインオフィスツバメ」と記入します。
【関連記事】
屋号とは?個人事業主の屋号の意味について徹底解説
⑤届出の区分・所得の種類
届出の区分は、「開業」を選びます。
所得の種類は、以下の不動産所得・山林所得・事業(農業)所得から、該当するものを選択します。
不動産所得 | アパートやマンションなどの不動産を貸して得た所得 |
---|---|
山林所得 | 山林を伐採して譲渡したり立木のままで譲渡したりすることで得た所得 |
事業(農業)所得 | 農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業などを営んで得た所得 |
今回はWebデザイナーとして事業を営むため、「事業所得」を選びます。
⑥開業・廃業等日
開業した日を記入します。開業日に関して明確な定めはないため、「事業所を構えた日」や「広告宣伝活動を始めた日」など、自分で自由に設定して問題ありません。
ただし、所得税法では「事業を開始した日」から1ヶ月以内に開業届を提出しなければなりません。
たとえば、カフェをオープンさせた日から3年後の日付を開業日として設定するのは不自然でしょう。社会通念上、妥当な範囲内で開業日を設定する必要はあります。
今回は、「令和6年8月20日」とします。
⑦開業に伴う届出書の提出の有無
開業届とともに提出する書類の有無を記入します。
青色申告を希望するのであれば、「青色申告承認申請書」の欄の「有」を選びます。提出時、消費税の課税事業者であれば、「課税事業者選択届出書」の欄を「有」で提出しましょう。「有」とした書類は、開業届の提出とあわせて作成・提出します。
今回は、青色申告承認申請書を同時に提出すると仮定して「有」を選び、課税売上高が1,000万円以下の免税事業者であると仮定して課税事業者選択届出書は「無」を選びます。
⑧事業の概要
「事業の概要」には、第三者が見てもどのような仕事なのかイメージできるよう、事業の内容を具体的に書きます。
たとえば、今回は職業がWebデザイナーであるため、「Webサイトおよびロゴなどのデザイン、制作」と記入します。
⑨給与等の支払いの状況
「給与等の支払いの状況」の欄は、給与を支給する従業員がいる場合に記入します。
従業員が青色事業専従者であれば「専従者」、それ以外の従業員は「使用人」に該当人数を記入します。「給与の定め方」には、日給・月給等の区分を記載します。
また、法人や個人が人を雇って給与を支払う場合、支払金額に応じた所得税および復興特別所得税を差し引かなければなりません。「税額の有無」の欄は、給与から源泉徴収する必要がある場合は「有」、必要がない場合は「無」を選びます。
なお、以下に該当する場合、源泉徴収する義務はありません。
源泉徴収する義務がない場合
- 源泉徴収義務者でない個人が弁護士などに報酬を支払う場合
- 常時2人以下の家事使用人に給与を支払う場合
今回は、配偶者が業務を手伝っているケースを仮定し、専従者の従事員数を「1人」、給与の定め方は「月給」、税額の有無は「有」を選びます。
また、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無」は「無」を選択し、「給与支払を開始する年月日」は配偶者に最初の給与を支払う年月日として「令和6年9月25日」と記入します。
出典:国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
開業届の提出方法
開業届の提出方法は、以下から選択できます。
開業届の提出方法
- 税務署の窓口へ持参・郵送する
- e-Taxで提出する
それぞれ詳しく解説します。
税務署の窓口へ持参・郵送する
開業届を書面で作成する場合、提出方法は税務署の窓口に持参または郵送のいずれかで提出します。
届出時には、「番号確認書類」と「身元確認書類」の本人確認書類を提示または添付します。マイナンバーカードであれば、番号・身元の確認をまとめてマイナンバーカードで行えます。
マイナンバーカードを持っていなければ、以下のとおり、番号確認書類と身元確認書類をそれぞれ提示または添付する必要があります。
番号確認書類(いずれかひとつ) | 通知カード※1 住民票の写しまたは住民票記載事項証明書 |
---|---|
身元確認書類(いずれかひとつ) | 運転免許証 パスポート 公的医療保険の被保険者証 |
※通知カードは2020年5月25日に廃止されたが、通知カードに記載された氏名・住所などが住民票と一致している場合は番号確認書類として有効
郵送で開業届を提出する際は、控えを返送してもらうために切手を貼った返信用封筒を同封しましょう。
e-Taxで提出する
パソコンからe-Taxで開業届を作成して提出する場合は、本人確認書類の提示や添付は不要です。
e-Taxとは、国税に関する手続きをインターネットなどによってオンラインで行えるシステムです。税務署まで足を運ばなくても、場所や時間を選ばずに手続きを完了できます。
ただし、e-Taxを利用するにはマイナンバーカードおよび、マイナンバーカードを読み取るICカードリーダーまたは読み取り対応のスマートフォンが必要です。また、電子申告等開始届出書を提出して利用者識別番号を取得するなど、事前に準備しなければなりません。
e-Taxの利用開始の準備などについて詳しく知りたい方は、別記事「電子申告とは?e-Taxでできることや確定申告の手順をわかりやすく解説」をご覧ください。
開業届を提出する際のポイント・注意点
開業届を提出する際のポイント・注意点は次のとおりです。
開業届を提出する際のポイント・注意点
- 開業届の控えは大切に保管する
- 開業届以外の必要書類を把握しておく
税務署へ開業届を提出した後も、開業届が必要になる場面があります。また、開業届と同時に手続きしておくべき書類もあるため、事前に確認しましょう。
開業届の控えは大切に保管する
開業届を提出すると、税務署の受付印を押した「控え」が返却されます。
開業届の控えは、補助金の申請やビジネス用の銀行口座を開設するときなどに必要なことがあるため、大切に保管しましょう。
なお、郵送で開業届を提出する際、切手を貼った返信用封筒を同封しないと返却されない場合があるため注意が必要です。返送には1週間程度かかると見込んでおきましょう。
e-Taxや会計ソフトを利用するオンライン提出であれば、返信用封筒は不要ですが、受領印が押された控えはありません。開業届の控えの代わりとして、開業届を提出した際の「受信通知」や「申請データ」を、紙に印刷するなどして手元に残しておきましょう。
開業届以外の必要書類を把握しておく
開業届以外に、所得税・源泉所得税・消費税に関する手続きに必要な書類があります。自身の状況に応じて必要な書類は異なるため、開業届の作成・提出とともに必要書類を確認しておきましょう。
書類名 | 概要 | 提出先 |
---|---|---|
所得税の青色申告承認申請書 | 青色申告の承認を受けるための書類 | 納税地を所轄する税務署長 |
青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色事業専従者給与額を必要経費に算入するための書類 | 納税地を所轄する税務署長 |
所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書 | 以下に該当する場合に提出する書類 ・転居等により納税地が異動した場合 ・住所を有している人が、居所地を納税地とする場合 住所または居所地に代えて、事業所等の所在地を納税地とする場合 | 異動・変更後の納税地を所轄する税務署長 |
所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書 | 棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法を選定するための書類 | 納税地を所轄する税務署長 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 給与等を支払うための事務所等を開設した場合に提出する書類(個人事業の開廃業等届出書を提出する場合を除く) | 給与支払事務所等の所在地の所轄税務署 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者が、源泉所得税の納期の特例を受けるための書類 | 給与支払事務所等の所在地の所轄税務署 |
消費税課税事業者選択届出書 | 免税事業者が課税事業者になるために提出する書類 | 納税地を所轄する税務署長 |
消費税課税期間特例選択届出書 | 消費税の課税期間の短縮を選択する場合に提出する書類 | 納税地を所轄する税務署長 |
消費税簡易課税制度選択届出書 | 中小事業者の事務負担を軽減するための「簡易課税制度」を選択する場合に提出する書類 | 納税地を所轄する税務署長 |
適格請求書発行事業者の登録申請書(国内事業者用) | 適格請求書(インボイス)発行事業者として登録を受けるための書類 | 納税地を管轄するインボイス登録センター |
たとえば、個人事業主として開業し、青色申告特別控除の適用を受けたいなら、開業届と合わせて「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。事業内容などを考慮し、事前に提出する必要の有無を確認しましょう。
まとめ
開業届は、個人が新たに事業を始めるときに税務署に提出する書類です。個人事業主として開業するのであれば、会社員が副業として事業を開始する場合でも提出が必要です。
開業届を出すことで、青色申告の申請が可能になったり、ビジネス用の銀行口座を開設できたりといったメリットがあります。
開業届の提出方法には、税務署に直接持参または郵送するほか、e-Taxを利用してオンラインで提出する方法があります。
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1. 個人事業の開業・廃業等届出書
開業届のことです。
2. 所得税の青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は事業開始日から2ヶ月以内、もしくは1月1日から3月15日までに提出する必要があります。期限を過ぎた場合、青色申告できるのは翌年からになるため注意が必要です。
3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。
4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。
5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色申告をする場合に、家族に支払う給与を経費にするための手続です。青色申告をして家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。
freee開業の使い方を徹底解説
freee開業を使った開業届の書き方は、準備→作成→提出の3ステップに沿って必要事項を記入していくだけです。
Step1:準備編
準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。
事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。
Step2:作成編
次に、作成編です。
申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。
給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。
さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。
今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。
Step3:提出編
最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。
入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。
届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。
郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。
いかがでしょう。
事業をスタートする際や、青色申告にしたい場合、切り替えたい場合など、届出の作成は意外と煩雑なものです。
しかし、freee開業を活用すれば、無料ですぐに届け出の作成が完了。
また、確定申告書の作成もfreee会計を使えば、ステップに沿ってすぐに完了します。
freee開業とfreee会計を使って、効率良く届出を作成しましょう。
よくある質問
開業届とは?
開業届とは、個人が新たに事業を開始した旨を税務署に知らせるための書類であり、個人事業主として開業する場合に税務署に提出します。正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
詳しくは記事内、「開業届とは」をご覧ください。
開業届の書き方は?
新たに事業を始める場合、提出先・納税地・氏名・生年月日・個人番号などの必要事項を記入します。なお、書面で提出する場合は、本人確認書類の提示または写しの添付が必要です。
詳しくは記事内、「開業届の書き方」をご覧ください。
監修 大柴 良史(おおしば よしふみ) 社会保険労務士・CFP
1980年生まれ、東京都出身。IT大手・ベンチャー人事部での経験を活かし、2021年独立。年間1000件余りの労務コンサルティングを中心に、給与計算、就業規則作成、助成金申請等の通常業務からセミナー、記事監修まで幅広く対応。ITを活用した無駄がない先回りのコミュニケーションと、人事目線でのコーチングが得意。趣味はドライブと温泉。