監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
開業費とは、事業を開始する前に支出した費用で、繰延資産の一種です。任意償却が可能であり、節税に役立つため、内容を正確に理解しておきましょう。
開業前に開業準備のため支払った「開業費」は、まずは全額を勘定科目「繰延資産」として計上します。繰延資産として計上した開業費は、税法上、任意償却が可能です。
本記事では、開業費の仕訳方法や勘定科目などに関して詳しく解説します。開業を検討中の人は、ぜひ参考にしてください。
目次
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開業費は繰延資産として計上する
開業前の準備活動に要した費用は開業費で処理しますが、開業費は経費ではありません。「繰延資産」という資産の科目です。資産の科目で一度処理し、その後、毎年少しずつ経費に割りあてます。この処理は、「償却」と呼ばれます。
償却処理を実施する背景には、「開業年度以降の年度にも影響する費用であるため、開業年度だけの経費として計上するべきではない」という考え方があります。
繰延資産の基本と法人・個人事業主の開業費
繰延資産とは、「すでに代金を支払済みか、支払う義務が確定しており、サービスや物品の提供を受けているものの、当年だけではなく翌年以降にも影響を与えるもの」を指します。
資産の科目でいったん処理し、その後、毎年少しずつ経費に割りあてます。繰延資産には会計基準上のものと税法上のものがあり、会計基準上の繰延資産は次の5種類です。
会計基準上の繰延資産
- 創立費
- 開業費
- 開発費
- 株式交付費
- 社債発行費および新株予約券発行費
個人事業主で関係があるのは、開業費と開発費です。実務では会計基準上の繰延資産だけでは足りないため、税法上の繰延資産も使用されます。税法上の繰延資産は多種多様ですが、個人事業で頻出する繰延資産は、建物を借りるときの礼金などの「権利金」や、同業者団体への「加盟金」などです。
法人が開業費として計上できる費用の例
法人(会社)を設立してから事業を開始するまでの期間にかかった「開業準備のために特別に支出する費用」は、開業費として計上できます。以下は、開業費として計上できる費用の例です。
法人が開業費として計上できる費用の例
- 研修費
- 広告宣伝費
- 市場調査費
- 印鑑作成費
- 名刺作成費
以下に示す費用は開業費として計上できないため、ご注意ください。
- 経常的に(一定の間隔・頻度で)発生する費用(事務所の家賃・水道光熱費など)
- 商品の仕入代金
- 後日返還される敷金
- 10万円以上の固定資産を購入した費用
また、後述するように、法人設立までにかかった費用は「創立費」として計上しなければいけません。
設立までにかかった費用は「創立費」として計上
法人の設立までにかかった費用は、開業費として計上するのではなく、「創立費」として計上しましょう。以下は、創立費として計上できる費用の例です。
創立費として計上できる費用の例
- 定款などの作成費用
- 株主を募集するための広告費
- 発起人への報酬
- 司法書士への報酬
- 定款の認証料
- 設立登記の登録免許税
- 法人設立のミーティングで使用した会場(貸会議室・カフェなど)の利用料
- ミーティング会場に出向くための交通費
計上できるかどうか判断に悩む場合は、税務署や税理士にご相談ください。
個人事業主が開業費として計上できる費用の例
個人事業主の場合、開業までに支払った費用は、原則として繰延資産の「開業費」として計上できます。以下は、開業費として計上可能な費用の例です。
個人事業主が開業費として計上できる費用の例
- 開業に向けて実施した調査にかかった費用
- 打ち合わせ費用(貸会議室のレンタル料など)
- 旅費
- 通信費
- 広告宣伝費
- パソコン購入費(10万円未満)
なお、10万円以上の固定資産や、商品の仕入代金、敷金などは、開業費として計上できません。
個人事業の開業費に「できる」「できない」支出に関して詳しく知りたい場合は、関連記事を参照してください。
【関連記事】
開業費とは?開業費にできる範囲と節税方法について解説
開業費は会計基準上では5年で均等償却・税法上では任意償却
開業費を何年で償却するのかは、会計基準上の考え方と税法上の考え方があります。
会計基準上・・・5年で均等償却
税法上・・・任意償却
会計基準上は5年間で均等に償却されますが、税法上では任意償却とされます。
任意償却とは、その年に経費にする金額を0円から開業費の全額(2年目以降は期首の帳簿価額
)までの範囲で納税者が自由に決められる償却方法です。そのため、「今年は赤字になりそうだから、償却を0円にしよう」「黒字が多いため、開業初年度で全額経費に割りあてよう」など、対応を自由に選択できます。実務上は税法に基づいて処理する場合が多いです。
開業費の帳簿付け
開業前に支出する費用は数多くあります。帳簿付けの基本として望ましい姿は、明細ごとにひとつひとつ入力することです。
開業費の詳細を別途エクセルなどにまとめて集計している場合は、まとめて入力しても差し支えないでしょう。ただし、必ず別途まとめたエクセルなどの資料とともに、開業費として計上した費用の領収書を保管してください。
開業前の書類や領収書と、開業後の資料や領収書は分けて保管しておきましょう。固定資産に関しては、通常、一括で登録して問題ありません。
エクセルで開業費の詳細を集計する場合の仕訳(勘定科目の例)
エクセルで開業費の詳細をまとめている場合、償却費の仕訳も明細ごとではなく一括で処理します。
<開業費の仕訳例>
例)開業前に事務用品を10,000円分、および、机(20,000円)、合計で30,000円分の物品を購入した。
開業費の事務用品と机購入の場合
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 30,000円 | 元入金 | 30,000円 | 文房具・机購入 |
別途エクセルなどでまとめている場合は、仕訳もまとめて開業費で処理します。開業前は、そもそも事業がまだ始まっていないため、事業用の資金がありません。そのため、「現金」ではなく、「元入金」という科目を使って仕訳する必要があります。
<開業費の決算時の仕訳例>
例)決算で開業費を全額、経費として計上(償却)した。
決算時に開業費を全額償却した場合
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
繰延資産償却 | 30,000円 | 開業費 | 30,000円 | 償却額 |
借方勘定科目は一例です。普段使っている償却科目で問題ありません。開業費は任意償却なので、初年度に全額を経費にすることも可能です。
まとめ
開業費とは、開業までにかかった費用で、法人でも個人事業主でも計上可能です。
法人の場合は、法人(会社)を設立してから事業を開始するまでの期間にかかった「開業準備のために特別に支出する費用」を開業費として計上できます。設立までにかかった費用は、「創立費」として計上しなければいけません。
事業を始めるために支出した開業費は、複式簿記で記帳する際には、いったん「繰延資産」として資産の部に全額計上します。その際、10万円を超える資産(パソコンなど)は繰延資産として計上できない点に注意が必要です。
開業費は毎年期末に償却しますが、償却で赤字が出れば節税効果を得られます。青色申告の場合は、赤字を3年間繰り越すことが可能です。
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よくある質問
どのような費用であれば開業費として計上できる?
法人の場合は、以下に示すように、法人を設立してから開業するまでの期間にかかった費用を開業費として計上できます。なお、設立までにかかった費用は、創立費として計上しましょう。
- 研修費
- 広告宣伝費
- 市場調査費
- 印鑑作成費
- 名刺作成費
個人の場合は、開業までにかかった費用を開業費として計上可能です。以下に、具体例を示します。
- 開業予定者向けセミナーへの参加費用
- 開業に向けて実施した調査にかかった費用
- 打ち合わせ費用(貸会議室のレンタル料など)
- 旅費
- 通信費
- 広告宣伝費
- パソコン購入費
法人の場合も個人の場合も、以下に示すように、開業費として計上できない費用もあることにご注意ください。
- 後日返還される敷金
- 10万円以上の固定資産を購入した費用
- 商品の仕入代金
ご自身で判断できない場合は、税務署や税理士などに相談しましょう。
開業費として計上できる費用に関して詳しく知りたい場合は、「繰延資産の基本と法人・個人事業主の開業費」をご覧ください。
繰延資産を任意償却できる期間は最大で何年間?
繰延資産を任意償却できる期間に関して、制限はありません。未償却残高がある限り、いつでも償却費として必要経費に算入可能です。
必要経費として計上すれば、その分、利益が圧縮され、節税効果を得られます。節税対策として有効なタイミングで(黒字が発生した年度に)償却し、必要経費として計上しましょう。
繰延資産を任意償却できる期間に関して詳しく知りたい場合は、「開業費は会計基準上では5年で均等償却・税法上では任意償却」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。