監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
開業届を提出する際には、「屋号」を記入する欄が設けられています。
屋号は必須ではありませんが、個人事業主として事業を行っていくうえで、顧客や取引先からの信用獲得や、屋号名義で銀行口座を開設できる等のメリットがあります。
また、個人事業主として事業運営をしている自覚が増し、自身のモチベーションを上げる効果も期待できるでしょう。本記事では、屋号の考え方や付ける利点や注意点、開業届への記載方法等を解説します。
目次
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屋号(やごう)とは?
屋号は会社でいう社名に相当し、個人事業主の場合は事業名や店舗名として使用されます。
必ずしも必要な屋号ではありませんが、個人名で事業を行うと、顧客や取引先に信用を得られない可能性もあります。
屋号は以下のようなシーンで活用できるため、社会的信用を得るためにも有効なものといえるでしょう。
屋号を使うシーン
- 事業用の銀行口座の開設
- 名刺
- 領収書
- 請求書
- 見積書
- 契約書
- お店の看板 等
また、プライベートと事業用の銀行口座を分ける際、屋号つきの銀行口座を開設すれば、顧客や取引先からの入金もスムーズです。
以下の銀行では、屋号を使って銀行口座が開設できます。
屋号で口座開設できる銀行の例
- 楽天銀行
- PayPay銀行
- 三菱UFJ銀行
- みずほ銀行
- 三井住友銀行
- ゆうちょ銀行
なお、屋号を持たずに個人名で事業を行うことも可能です。
商号や雅号との違い
屋号と同じように使用される言葉に、商号(しょうごう)や雅号(がごう)等があります。3つの主な特徴や違いは、以下の表の通りです。項目 | 屋号 | 商号 | 雅号 |
---|---|---|---|
定義 | 個人事業主が事業活動に使用する名称 | 法人が法的に登録する会社名 | 芸術家や文筆家が使用する別名や号 |
法的効力 | 基本的に法的登録は不要 | 法務局で登記する必要がある | 法的効力なし (主に慣習的な使用) |
使用者 | 個人事業主 | 法人 | 芸術家・文筆家 |
登記 | 不要 | 必要 | 不要 |
記載義務 | 請求書や契約書に記載可能 | 請求書や契約書には必ず記載 | 書籍や作品で使用可能 |
商号は、法人が設立登記する際に使用する公式な名前を指し、会社法に基づいて保護され、他社と同一または類似する商号の使用は禁止されています。商号は、契約書や請求書等公式な書類に記載が必要です。
雅号は、書道家や画家・作家等が本名とは別に使用する芸名や筆名(ペンネーム)を指します。主に芸術や文化的な活動に用いられ、商業活動や法人登記には使用されません。
税務署や市区町村に提出する書類には、雅号として記入する欄がほとんどないため、雅号を屋号と同一に使うケースが多くなっています。
開業届に屋号は必要?
個人事業主として開業する際に提出する「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」には、屋号を記入する欄があります。
出典:国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」 をもとに作成
しかし、開業届に屋号の記載は必須ではありません。屋号はあとから設定・変更ができるため、屋号が未定の場合や設定しない場合は空欄で提出可能です。
屋号を個人事業主が事業に役立てる方法
開業にあたって屋号を設定する必要はありませんが、屋号をつけることで事業の認知度や信頼性を向上させることができます。
屋号がある場合、顧客に事業名を覚えてもらいやすく、ブランドとしての認知度を高めることが可能です。さらに、ウェブサイト・名刺・チラシ等のマーケティング資料に使用すると、個人名よりもプロとしての印象を与えられるでしょう。
また、屋号付きの銀行口座を開設すれば、事業用と個人用の資金管理がしやすくなり、取引先からのビジネスの信頼度も上がりやすいです。
開業届への屋号の書き方と注意点
屋号を付けて事業を始めたい場合は、「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」の指定欄への屋号の記入が必要です。ここでは、屋号の書き方や提出期限、決める際の注意点等を紹介します。
屋号の書き方と提出期限
開業届に屋号を記載する際は、以下の届出書の赤枠部分にフリガナも含めて記載します。
個人名で活動したい場合は屋号を無理につける必要はないため、屋号欄は空欄で提出します。
時間をかけて屋号を考えたい場合は、開業届の提出時は空欄にしておき、次回の確定申告の際に記載しても問題ありません。
開業届は管轄の税務署に提出する必要があり、期限は「事業を開始した日から1ヶ月以内」です。提出期限が土日・祝日等の場合は、これらの日の翌日が提出期限になります。
開業届の提出が遅れてもペナルティはありませんが、未提出の場合は補助金の申請ができない等のデメリットがあり事業運営の透明性を疑われる恐れもあるため、期限内の提出が必要です。
屋号をつける際の注意点
個人事業主の場合、「○○会社」「○○法人」等の屋号を使うことはできません。「会社」や「法人」という名称は、法務局に登記をした法人格を持っている法人にしか使用できないからです。
なお、「○○銀行」や「○○証券」のように、法律で定められた特定の業種の名称を使用することも禁止されています。
また、すでに存在する屋号を使用することも可能ですが、できるだけ避けた方が無難です。さらに、商標登録されている商号と同一の場合は、会社法等の法律に触れる可能性があり、トラブルに発展してしまうリスクもあるため、十分に注意してください。
仮に商標登録されていなくても、同じ市区町村で同じ名前を使用していると、顧客や取引先から誤解を受ける可能性があります。
屋号をつける際には、インターネット等で同じ名称がないか確認することをおすすめします。
商号を調べるには、「国税庁法人番号公表サイト」を利用すると便利です。
出典:国税庁「社会保証・税番号制度 法人番号公表サイト」
また、商標登録されている名称を調べるには、「特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP]」で商標検索するとよいでしょう。
出典:独立行政法人工業所有権情報・研修館「特許情報プラットフォーム|J-PlatPat [JPP]」
ホームページを設立することを考えている方は、ドメイン名と屋号が同一であれば分かりやすいため、ドメイン名が使用できるかも確認するとよいでしょう。
なお、ドメイン名を調べるには、JPRSが提供するドメイン名登録情報検索サービス「JPRS WHOIS」が便利です。
屋号なしで開業する利点と事業上の注意点
開業届に屋号を記載する必要はありませんが、屋号の有無によって手続き上の利点や、事業運営上の注意点があります。それぞれについて、個別に解説します。
屋号なしの利点
屋号なしで開業をする利点は、屋号を考える必要がないため開業届の記入が簡単に済み、提出までの手間を減らせることです。
また、屋号を設定しないことで名称に縛られない柔軟な事業展開ができ、事業内容の変更や方向性の修正の際に屋号の変更手続きが不要です。
屋号なしの事業上の注意点
屋号なしで開業する際は、以下のような事業運営上の課題が生じる可能性があるため、事前に考慮が必要です。
屋号なしで開業する際の注意点
- 屋号がないと事業イメージの視覚化が難しく、ブランディングにおいて不利になる可能性がある
- 仕事とプライベートの名前が同じになるため、顧客や取引先が混乱しやすくなる
- 事業の法人化や支店展開をする際、屋号なしでは統一性や信頼感を確保しにくくなる
屋号なしでの開業は、事業内容や将来の方向性に影響するため、目的やビジョンを明確にして選択することが大切です。
開業届の屋号はあとから変更できる
開業届に屋号を記載した場合や、記載しなかった場合は、あとから追記・変更が可能です。以下のような場合は、屋号の変更を検討してください。
屋号を変更するケース
- 事業内容が変わってしまった
- 複数の事業を展開することになった
- 屋号に違和感を感じた等
また、複数の屋号を持つことも可能なので、事業が増えた分だけ屋号を増やすという方法もあります。
屋号の変更手続きの進め方
屋号の変更は税務署で行いますが、手続きは比較的簡単です。確定申告の際に提出する申告書や決算書に新しい屋号を記載するだけで変更手続きが完了するため、特別な届出は必要ありません。
ただし、屋号の変更・追記の証拠を残したい場合や、申告書への記載だけでは不安な場合には開業届の再提出も可能です。
この場合、開業届の「その他参考事項」に屋号変更の旨を記載します。
出典:国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」 をもとに作成
また、銀行口座名に屋号を利用している場合は、金融機関で名義変更の手続きが必要です。その際には、新しい屋号を確認できる書類(申告書の控えや開業届のコピー)等を提示しましょう。
印象に残る屋号のポイント
屋号は、発音しやすく誰にでもわかりやすいものがよいでしょう。
発音がむずかしい場合や、長すぎる場合は、電話で顧客や取引先に正確に伝わりにくく、書類に記載するときや印鑑のバランスが悪くなってしまう可能性があります。
また、事業内容がイメージしやすく、顧客や取引先の印象に残る屋号ならば、ビジネスチャンスが広がるかもしれません。
たとえば、「○○デザイン」や「○○美容室」等は、どのような業種かわかりやすいでしょう。また、主力となるサービスや商品を屋号にすれば、ブランドの認知度を高めることができます。
シンプルでわかりやすい屋号にすることが、誰にでもすぐに覚えてもらえる一番の方法です。
下記のお店の屋号例を参考にして、屋号を考えてみるのもよいでしょう。
お店の屋号例
- ○○屋
- ○○堂
- ○○工房
- ○○商店
- ○○本舗
- ○○ベーカリー
- ○○サロン
- ○○家
- 事務所系の屋号例○○オフィス
- ○○事務所
- ○○院
- ○○舎
- ○○ラボ
- ○○企画
- ○○チーム
- ○○スタジオ
- ○○制作
- ○○塾
まとめ
屋号は設定しなくても開業できますが、屋号を付けることで、認知度やビジネスの信用度を高められる等のメリットがあります。ただし、屋号がない場合でも、開業届の提出後に追記や変更が可能であるため、開業時に無理に設定しなくても大丈夫です。
屋号は、単なる個人事業主本人の名称に比べて、事業の顔となる要素でもあります。商標登録されている商号との一致は避けつつ、自分の事業を的確に表現し、信頼を構築できる名前を慎重に選びましょう。
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個人事業を始める際には「開業届」を、青色申告をする際にはさらに「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。 記入項目はそれほど多くはありませんが、どうやって記入したらいいのかわからないという方も多いと思います。
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1. 個人事業の開業・廃業等届出書
開業届のことです。
2. 所得税の青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は事業開始日から2ヶ月以内、もしくは1月1日から3月15日までに提出する必要があります。期限を過ぎた場合、青色申告できるのは翌年からになるため注意が必要です。
3. 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や従業員に給与を支払うための申請書です。
4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
原則毎月支払う源泉所得税を年2回にまとめて納付するための手続です。毎月支払うのは手間ですので、ぜひ提出しましょう。
5. 青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
青色申告をする場合に、家族に支払う給与を経費にするための手続です。青色申告をして家族に給与を支払う場合は必ず提出しましょう。
freee開業の使い方を徹底解説
freee開業を使った開業届の書き方は、準備→作成→提出の3ステップに沿って必要事項を記入していくだけです。
Step1:準備編
準備編では事業の基本情報を入力します。迷いやすい職業欄も多彩な選択肢のなかから選ぶだけ。
事業の開始年月日、想定月収、仕事をする場所を記入します。
想定月収を記入すると青色申告、白色申告のどちらが、いくらお得かも自動で計算されます。
Step2:作成編
次に、作成編です。
申請者の情報を入力します。
名前、住所、電話番号、生年月日を記入しましょう。
給与を支払う人がいる場合は、上記のように入力をします。
今回は準備編で「家族」を選択しましたので、妻を例に記入を行いました。
さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。
※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。
今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。
Step3:提出編
最後のステップでは、開業に必要な書類をすべてプリントアウトし、税務署に提出します。
入力した住所をもとに、提出候補の地区がプルダウンで出てきます。地区を選ぶと、提出先の税務署が表示されますので、そちらに開業届けを提出しましょう。
届け出に関する説明とそれぞれの控えを含め、11枚のPDFが出来上がりました。印刷し、必要箇所に押印とマイナンバー(個人番号)の記載をしましょう。
郵送で提出したい方のために、宛先も1ページ目に記載されています。切り取って封筒に貼りつければ完了です。
いかがでしょう。
事業をスタートする際や、青色申告にしたい場合、切り替えたい場合など、届出の作成は意外と煩雑なものです。
しかし、freee開業を活用すれば、無料ですぐに届け出の作成が完了。
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freee開業とfreee会計を使って、効率良く届出を作成しましょう。
よくある質問
開業届に屋号は書かなくていい?
開業届の屋号欄は任意記入のため、必ずしも記載する必要はありません。屋号が未定の場合でも開業届を提出できます。
屋号について詳しく知りたい方は、「開業届に屋号は必要?」をご覧ください。
開業届の屋号はあとから変えられる?
開業届に記載した屋号は、後から変更可能です。変更があった場合は「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出することで屋号を更新できます。
開業届の変更手続きを詳しく知りたい方は、「開業届の屋号はあとから変更できる」をご覧ください。
監修 安田 亮(やすだ りょう)
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。