監修 北田 悠策 公認会計士・税理士
取引先への移動や出張の旅費など、企業が交通費を支出する場面は多くあります。本記事では、交通費に用いる勘定科目や具体的な仕訳例を解説します。
交通費・旅費交通費の仕訳をする際は、目的に応じて適切な勘定科目を選択しなければなりません。
交通費と旅費交通費の違いや個人事業主の経費計上に関しても解説するので、ぜひ参考にしてください。
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目次
交通費と旅費交通費の違い
交通費とは、通勤や業務で電車・タクシーなどの交通手段を利用した場合の移動費用のことです。一方で旅費交通費は、出張の際の移動費用や宿泊費用などの旅費を指します。
いずれも会計処理の際は、「旅費交通費」の勘定科目で仕訳しますが、会社によっては区別して取り扱うケースもあります。
旅費交通費の支給ルールは、スムーズな運用のために就業規則で規定しておきましょう。
旅費交通費は経費にできる
移動にかかる費用や出張時の宿泊費用など、業務上の必要があり支出した旅費交通費は経費にできます。
私的な観光や出張に家族を帯同した場合の旅費など、業務に関連しない場合は経費にできません。
目的にプライベートと業務の両方が含まれる個人事業主は、家事按分の会計処理が必要です。家事按分は次項で解説します。
個人事業主の会計処理は家事按分に注意
交通費を支出した目的に業務とプライベートの両方が含まれる場合、経費計上の際は家事按分をしなければなりません。
家事按分とは、明確な基準で費用の業務使用割合を計算し、算出された金額のみ費用計上する処理のことです。
たとえばガソリン代の場合、走行距離や使用した日数を基に計算して按分します。正しく按分を行った証明として、業務日報など計算の根拠資料は保存しておきましょう。
家事按分に関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。個人事業主の方はぜひ参考にしてください。
【関連記事】
家事按分とは?個人事業主が知っておくべき経費計上の仕方や計算方法についてわかりやすく解説
旅費交通費として計上する費用
旅費交通費で仕訳する費用の例は以下の通りです。
旅費交通費で仕訳する費用
- 通勤代
- 移動にかかる費用
- 出張や転勤にかかる費用
それぞれ詳しく解説します。
通勤代
通勤にかかる費用としては、バス・電車などの定期代や通勤手当が考えられます。
交通機関または有料道路の通勤代は、1ヶ月あたり15万円が非課税の限度額です。
自転車やマイカー通勤の通勤手当の非課税限度額は、距離により異なります。例として、通勤距離が片道2km以上10km未満の場合で4,200円です。なお、片道2km未満の場合は全額が課税対象です。
以下の記事では、通勤手当に関して詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
【関連記事】
通勤手当が課税される?税法上のルールや支給時に気をつけたいポイントを解説
移動にかかる費用
取引先や作業現場などへ移動する際にかかる交通費の例は以下の通りです。
移動にかかる費用
- 電車・バス・タクシー・飛行機などの運賃
- 有料道路代・高速道路代
- ガソリン代
- レンタカー代
- コインパーキング代
電車・バスなどを利用した際に領収証を取得できなかった場合は、税務調査で指摘されないよう、出金伝票などの明確な記録を残しておきましょう。
出張や転勤にかかる費用
出張や転勤の際の交通費・宿泊代も旅費交通費で処理します。
法人の場合は、出張の際の日当や食事代も旅費交通費で計上できますが、個人事業主の場合は経費にできないため注意してください。
旅費交通費として計上する費用
旅費交通費に用いる勘定科目は以下の通りです。
旅費交通費に用いる勘定科目
- 業務に関連する移動費用や宿泊費用の場合は【旅費交通費】
- 取引先を接待する目的の場合は【交際費】
- 福利厚生が目的の場合は【福利厚生費】
- 研修に関連する場合は【研修費】
- 不特定多数に対する広告宣伝が目的の場合は【広告宣伝費】
- 旅費交通費として仮払いする場合は【仮払金】
それぞれ詳しく解説します。
【旅費交通費】
業務に関する移動費や宿泊費は、一般的に「旅費交通費」を使用します。
旅費交通費は、業務に関連して支出した移動のための費用や、出張時の宿泊費用などに用いる勘定科目です。
【交際費】
接待のためにかかった交通費などは「交際費」を使用します。
接待場所まで移動する際にかかった交通費や、取引先の人を送迎する際のタクシー代・代行運転代などが該当します。
交際費は、取引先などに対して接待や贈答を行った際の費用に用いる勘定科目です。
【福利厚生費】
従業員に対する福利厚生が目的の場合は「福利厚生費」を使用します。社員旅行や親睦会のための交通費・宿泊代などが該当します。
福利厚生費に計上するには、社会通念上妥当な金額であり、対象が全従業員でなければなりません。また一人会社や個人事業主は、家族以外の従業員がいないと計上できません。
福利厚生費は、従業員の福利厚生のために支出する費用に用いる勘定科目です。
【関連記事】
福利厚生費の勘定科目は?経費となる要件や仕訳例を紹介
【研修費】
研修やセミナーへの参加が目的の場合は「研修費」を使用します。移動のための交通費のほか、宿泊を伴う場合は宿泊代も含めます。
研修費は、業務に必要な研修などの参加費用や関連費用に用いる勘定科目です。
【関連記事】
研修費の勘定科目とは? 仕訳の具体例や経費に計上できない費用などを解説
【広告宣伝費】
不特定多数の相手に対する広告宣伝が目的の場合は「広告宣伝費」を使用します。イベントなどの招待客に対し、交通費を負担する場合などが考えられます。
広告宣伝費は、不特定多数の相手に対し広告宣伝を行う目的で支出した費用に用いる勘定科目です。
【仮払金】
旅費交通費を事前に仮払いする場合は「仮払金」を使用します。仮払いを受けた従業員は仮払金から旅費交通費を支払い、後日精算を行います。
仮払金は、金額や用途が確定していない費用のために概算で資金を出金する際に用いる勘定科目です。内容が確定すれば精算を行って適切な勘定科目に振り替えます。
【関連記事】
仮払金に使う勘定科目は? 経費計上の可否や仕訳方法・注意点も解説
【事例で解説】旅費交通費の仕訳例
旅費交通費の具体的な仕訳例を解説します。
業務で交通費や出張費を支払った場合・仮払精算する場合
業務上の必要があり旅費交通費を支払った際の仕訳例を紹介します。
例:新入社員の通勤定期代として1万円を現金で支給した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
旅費交通費 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
例:出張費用として5万円を仮払いした
仮払時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仮払金 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
精算時(実際にかかった旅費交通費が45,000円の場合)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
旅費交通費 現金 | 45,000円 5,000円 | 仮払金 | 50,000円 |
接待を行った場合
接待を行った際の仕訳例を紹介します。
例:取引先の送迎タクシー代5,000円をクレジットカードで支払った
支払時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
交際費 | 5,000円 | 未払金 | 5,000円 |
利用代金の引落時
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払金 | 5,000円 | 預金 | 5,000円 |
社員旅行など福利厚生目的の場合
社員旅行など福利厚生が目的の場合の仕訳例を紹介します。
例:社員旅行の貸し切りバス代10万円を預金から振込で支払った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
福利厚生費 | 100,000円 | 預金 | 100,000円 |
研修に参加した場合
研修に参加した場合の仕訳例を紹介します。
例:研修に参加するための電車代500円を現金で支払った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
研修費 | 500円 | 現金 | 500円 |
広告宣伝を行った場合
広告宣伝を行った場合の仕訳例を紹介します。
例:新商品のイベントに不特定多数の参加者を招待し、参加者の交通費合計5万円を現金で負担した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
広告宣伝費 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
まとめ
交通機関の利用料金などの交通費と出張の際の旅費は、いずれも「旅費交通費」の勘定科目で仕訳します。
目的にあわせ、以下の勘定科目を用いる場合もあります。
- 交際費
- 福利厚生費
- 研修費
- 広告宣伝費
- 仮払金
なお個人事業主は、家事按分に注意しましょう。
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よくある質問
旅費交通費は経費にできる?
業務のために支出した交通費は、経費に計上が可能です。
旅費交通費の経費計上に関して、詳しく知りたい方は「旅費交通費は経費にできる」をご覧ください。
交通費に用いる勘定科目は?
一般的には「旅費交通費」ですが、目的により「交際費」「福利厚生費」「研修費」「広告宣伝費」なども使用します。仮払いをする場合は、仮払金の勘定科目を用います。
交通費の勘定科目に関して、詳しく知りたい方は「交通費に用いる勘定科目」をご覧ください。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。