監修 北田 悠策 公認会計士・税理士
給与は、雇用形態などの条件によって用いる勘定科目が異なります。本記事では、給与の会計処理時に用いる勘定科目や具体的な仕訳例を解説します。
給与の会計処理時には、税金や保険料など各種天引きの処理も必要です。会計処理の注意点を説明するので、ぜひ参考にしてください。
確定申告の基本をすべて解説!確定申告が初めてでもわかりやすい図解入りの解説記事はこちら
目次
- 給与とは? 給料や賃金との違い
- 個人事業主の給与は確定申告の際に経費にできる?
- 個人事業主が確定申告で経費にできる給与
- 給与から控除するお金
- 源泉所得税
- 社会保険料(労働保険(雇用保険)・健康保険・厚生年金保険・介護保険)
- 住民税
- 財形貯蓄や積立金など
- 給与に用いる勘定科目
- 【給料手当】
- 【役員報酬】
- 【雑給】
- 【旅費交通費】
- 【外注費】
- 【事業主貸】
- 【立替金】
- 【事例で解説】給与の仕訳例
- 給与を未払費用として計上する場合
- 給与の計上と支払が同時の場合
- 社会保険料などの預り金を差し引いて給与を支払う場合
- 個人事業主が自分の生活費を引き出す場合
- 給与を前貸しする場合
- 給与を会計処理する際の注意点
- 会計ソフトの勘定科目の設定
- 給与の仕訳は合算でもよい
- まとめ
- 確定申告を簡単に終わらせる方法
- よくある質問
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給与とは? 給料や賃金との違い
「給料」は、労働に対する報酬のうち、固定給部分を指します。「給与・賃金」は、残業代など変動部分を含む総支給額で、額面とも呼ばれます。
給与(賃金)から、税金や保険料などの各種控除額を引いた額が手取りです。
個人事業主の給与は確定申告の際に経費にできる?
個人事業主の場合、事業主自身の給与を経費に計上することはできません。そもそも、個人事業主自身には「給与」という考え方がなく、個人事業主の所得は収入金額から経費を差し引いた金額であるためです。
ただし家族以外の従業員に給与を支払った場合は、一定の条件下で経費にできます。
個人事業主が確定申告で経費にできる給与
個人事業主が家族以外の従業員に支払った給与は、経費計上が可能です。
もし青色申告なら、事業専従者に該当する家族に支払った給与も経費にできます。ただし「青色事業専従者給与に関する届出書」で、氏名や業務内容などを税務署に届け出なければなりません。
事業専従者とは、以下の要件すべてに該当する人をいいます。
事業専業者の要件
- 生計を一にする配偶者または親族
- 該当の年の12月31日時点で15歳以上
- 該当の年の6ケ月を超える期間、事業に従事していた
なお、白色申告では家族に支払った給与の全額を経費にはできませんが、事業専従者に支払った給与のうち、一定の額まで確定申告で「事業専従者控除」が受けられます。
給与から控除するお金
給与から控除し「預り金」として処理するお金を解説します。
個人事業主が確定申告で経費にできる給与
源泉所得税は、従業員の所得を基に計算され、税務署に納付する税金です。
給与所得者は、年末調整によって還付金が発生する場合があります。
社会保険料(労働保険(雇用保険)・健康保険・厚生年金保険・介護保険)
労働保険のうちの雇用保険と、健康保険・厚生年金保険・介護保険はそれぞれ対象の従業員から徴収します。
対象条件は、労働時間や年齢などで規定されています。
住民税
住民税は、前年の所得を基に計算される、市町村に納める税金です。給与所得者は原則特別徴収で、会社が給与から天引きします。
転職などの理由で一時的に本人が納付するケースもあります。
財形貯蓄や積立金など
会社が財形貯蓄や社内旅行などの積立金を預かる場合も考えられます。内容は会社により異なります。
社宅や寮費の全額、または一部が天引きされるケースもあるでしょう。
給与に用いる勘定科目
給与に用いる勘定科目は以下の通りです。
給与の勘定科目
- 役員以外の従業員は【給料手当】
- 役員は【役員報酬】
- パート・アルバイトを分けて管理したい場合は【雑給】
- 交通費は【旅費交通費】
- 派遣社員は【外注費】
- 個人事業主が生活費を引き出す場合は【事業主貸】
- 前払いは【立替金】
それぞれ詳しく解説します。
【給料手当】
役員以外の給与は、「給料手当」を用います。給与を製造原価に含める場合は、「賃金」など個別の科目を設定してもよいでしょう。
「給料手当」は、労働に対する報酬の勘定科目です。
【役員報酬】
役員の場合は、「役員報酬」を用います。役員とは、取締役・監査役・執行役員などの役職者をいいます。
「役員報酬」は、役員の職務に対する報酬の勘定科目です。
【雑給】
パート・アルバイトの給与を区別して管理する場合「雑給」を用います。
特に管理する必要がない場合は「給料手当」を使用できます。「雑給」は、パートやアルバイトの給与に用いる勘定科目です。
【旅費交通費】
交通費は「旅費交通費」を用います。
「旅費交通費」は、業務で必要な交通費や宿泊費などに用いる勘定科目です。
【外注費】
派遣社員の給与は派遣会社が支払いますが、受入事業者が派遣会社に対して支払う報酬には「外注費」を用います。
「外注費」は、外部に業務の一部を委託したり、派遣社員を受け入れたりする際の手数料に用いる勘定科目です。
【事業主貸】
個人事業主が生活費を出金した場合は、「事業主貸」を用います。
「事業主貸」は、私的な支出を事業用資金から出金する場合や、個人口座に事業の売上などが入金された際に用いる勘定科目です。
【立替金】
支給日より前に従業員へ前貸しで支払う場合は、「立替金」を用います。
「立替金」は、会社が一時的に何らかの費用を立て替える際に用いる勘定科目です。
【事例で解説】給与の仕訳例
給与の具体的な仕訳例を解説します。
例の「給料手当」は「役員報酬」や「雑給」など状況にあわせて適宜選択してください。
給与を未払費用として計上する場合
給与を未払計上する場合の仕訳例を紹介します。
例:パートの給与3万円と交通費2,000円を未払費用として計上する
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給料手当 交通費 | 30,000円 2,000円 | 未払費用 | 32,000円 |
給与の支払時(現金手渡し)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払費用 | 32,000円 | 現金 | 32,000円 |
給与の計上と支払が同時の場合
給与の支払と同時に経費計上する場合の仕訳例を紹介します。
例:アルバイトの給与5万円を締め日当日に預金からの振込で支払った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給料手当 | 50,000円 | 預金 | 50,000円 |
社会保険料などの預り金を差し引いて給与を支払う場合
預り金を天引きして給与を未払計上する場合の仕訳例を紹介します。例ではわかりやすい数字を用いますが、実際の計算は所定の料率で行ってください。
例:正社員の給与20万円を未払計上する(源泉所得税2万円・住民税1万円・社会保険料3万円)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給料手当 | 200,000円 | 未払費用 預り金 預り金 預り金 | 140,000円 20,000円 10,000円 30,000円 |
給与の支払時(預金からの振込)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
未払費用 | 140,000円 | 預金 | 140,000円 |
個人事業主が自分の生活費を引き出す場合
個人事業主が事業用資金から生活費を出金する際の仕訳例を紹介します。
例:事業用口座から私的な資金として現金10万円を出金した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
事業主貸 | 100,000円 | 預金 | 100,000円 |
給与を前貸しする場合
給与を前貸しする際の仕訳例を紹介します。
例:従業員に給与3万円を現金で前貸しした
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
立替金 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
例:前貸しの3万円を現金で回収した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 30,000円 | 立替金 | 30,000円 |
例:前貸しの3万円を給与5万円からの天引きで回収した(預金から振込)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
給料手当 | 50,000円 | 立替金 預金 | 30,000円 20,000円 |
給与を会計処理する際の注意点
給与を会計処理する際の注意点を解説します。
会計ソフトの勘定科目の設定
給与は、販売費・一般管理費か売上原価のいずれかに分類されます。また、預り金も流動負債と固定負債に分かれるケースが考えられます。
必要があれば複数の勘定科目を設定してください。
給与の仕訳は合算でもよい
給与は複数人分を合算で仕訳できます。
雇用形態や部門別など、管理上必要である区別がされていれば従業員ごとの内訳は必要ありません。
まとめ
個人事業主自身の給料は、経費として計上できませんが、家族への給与は条件により経費にできる場合が存在します。
給与の勘定科目は「給料手当」、役員は「役員報酬」、パート・アルバイトを区別する場合は「雑給」、交通費は「旅費交通費」です。
状況により「外注費」「事業主貸」「立替金」も使用します。
確定申告を簡単に終わらせる方法
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。どちらを選択するにしても、期限までに正確な内容の書類を作成し申告しなければいけません。
確定申告書を作成する方法は手書きのほかにも、国税庁の「確定申告等作成コーナー」を利用するなどさまざまですが、会計知識がないと記入内容に悩む場面も出てくるでしょう。
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よくある質問
個人事業主の給与は経費にできる?
個人事業主の生活費は、経費として計上できません。家族以外の従業員への給与は、条件によっては経費計上が可能です。
給与の経費計上を詳しく知りたい方は「個人事業主の給与は確定申告の際に経費にできる?」をご覧ください。
給与に用いる勘定科目は?
給与は、「給料手当」を用いて仕訳します。役員は「役員報酬」、パート・アルバイトを分けて管理する場合は「雑給」交通費は「旅費交通費」を用います。
給与の勘定科目を詳しく知りたい方は「給与に用いる勘定科目」をご覧ください。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。