監修 西村真衣 西村税理士事務所
個人事業主が支払う事務所・自宅兼事務所の家賃は、主に「地代家賃」の勘定科目を使って経費計上できますが、別の勘定科目を使用する場合もあります。
また、家賃を支払う際に敷金や礼金、更新料などを支払っている場合もあるでしょう。敷金や礼金などは別の勘定科目で仕訳する必要があるため、合算して計上しないように注意が必要です。
さらに、自宅兼事務所で活動する個人事業主の場合は、家事按分をしなければなりません。ご自身の状況や支払った金額などにあわせて、適切に勘定科目を使い分けて仕訳をしましょう。
本記事では、個人事業主が支払う家賃の仕訳で使う勘定科目や具体的な仕訳例・仕訳方法を紹介します。
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目次
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個人事業主が支払う家賃は経費計上できる?
経費にできる支出とは事業に関係がある支出です。個人事業主が支払う家賃に関しても、事業に関係があれば一般的に経費にできます。
経費にできる家賃 | 経費にできない家賃 |
---|---|
・事務所の家賃 ・管理費 ・共益費 ・礼金や返還されない敷金・保証金(20万円未満の場合) ・事務所の更新料(20万円未満の場合) | ・事業に関係ない自宅の家賃 ・将来返還される敷金・保証金 |
事務所の更新料や礼金、将来返還されない敷金・保証金は、将来に渡って効果が及ぶ繰延資産にあたるため、原則として経費ではなく資産として計上します。しかし、金額が20万円未満の場合は一括して経費計上が可能です。
家賃に関連する支出は、支出した費用の性質や金額、将来返還されるかどうかなどによって、経費計上の可否や仕訳時に設定する勘定科目を判断する必要があります。
個人事業主が家賃を経費計上する際の注意点
個人事業主が家賃を支払って経費計上する際の主な注意点は次の4つです。
個人事業主が家賃を経費計上する際の注意点
- 自宅兼事務所の場合は事業割合をもとに家事按分する
- 将来返還される敷金や保証金は経費にできない
- 礼金・更新料は金額によって経理上の取り扱いが変わる
- 経費の根拠となる資料を保管しておく
家賃に関連する支出をする場合、経費にできる支出なのか経費にできない支出なのか、正しく区分して適切に経理処理を行う必要があります。
なお、賃貸で家賃を支払っている個人事業主に限ります。住宅ローン控除を受けている持ち家の場合ではないため注意しましょう。
自宅兼事務所の場合は事業割合をもとに家事按分する
家賃のうち経費にできるのは事業に関係する金額だけです。
自宅兼事務所の家賃を支払う場合、事務所の家賃に相当する金額は経費にできますが、自宅の家賃に相当する金額は経費にできません。家賃のうち事業に関係する金額を計算する家事按分をする必要があります。
自宅兼事務所を事業用として使っている割合がどれくらいなのか、算出する方法としては面積や時間で計算する方法が一般的です。
たとえば、個人事業主が自宅兼事務所の一室を仕事部屋として使っている場合、自宅兼事務所の面積に占める仕事部屋の面積の割合を求めて事業用割合を算出し、家賃に事業用割合をかけあわせれば経費計上額を計算できます。
家事按分を詳しく知りたい方は「家事按分とは?個人事業主が知っておくべき経費計上の仕方や計算方法についてわかりやすく解説」をご覧ください。
将来返還される敷金や保証金は経費にできない
個人事業主が支払う敷金や保証金のうち、将来退去する際に返還されるものは資産として計上するため経費にはできません。
逆に敷金や保証金のうち将来返還されないものは、繰延資産として計上したうえで一定の償却期間にわたって償却を行います。
償却期間は賃貸契約の契約期間によって異なり、5年未満で更新時に権利金などの支払いが決まっている場合は契約期間、それ以外の場合は5年です。
ただし、敷金や保証金のうち将来返還されない金額が20万円未満の場合は、支出時に全額費用として計上できます。
また、退去時に敷金や保証金が返還される際に原状回復費用を差し引いた金額が返還される場合、原状回復費用を経費計上するのは退去時です。入居時に敷金や保証金を支払った段階では、原状回復費用の金額は分からないので経費計上は行いません。
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敷金の勘定科目とは? 経費にできるケースや仕訳の具体例を紹介
礼金・更新料は金額によって経理上の取り扱いが変わる
事務所として使う建物への入居や更新に際して個人事業主が礼金・更新料を支払う場合、20万円以上か未満かで経理処理の方法が変わります。
金額が20万円以上の場合、支払った礼金・更新料は繰延資産として資産計上して、契約期間に応じて償却処理します。償却期間は、5年未満で更新時に権利金などの支払いが決まっている場合は契約期間、それ以外の場合は5年です。
一方で礼金・更新料が20万円未満の場合は、全額をまとめて経費として処理できます。
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減価償却とは?対象資産や目的、計算方法をわかりやすく解説
経費の根拠となる資料を保管しておく
経費にできないものを計上したり、家事按分する際に事業割合を不当に引き上げて経費計上をしたりしないよう、経費は適切に計上する必要があります。
経費を適切に計上するためには根拠に基づいて計上する必要があり、根拠となる資料を保管しておくことが大切です。
個人事業主が家賃を経費計上するケースであれば、家賃の金額がわかるように賃貸借契約書を保管し、実際に支払った金額がわかるように銀行の明細などを保管しておきましょう。
保証金や礼金、更新料は、賃貸借契約書で定められた契約期間によって経理上の取り扱いや仕訳時に使う勘定科目が変わるので、賃貸借契約書を保管しておく必要があります。
自宅兼事務所の家賃を家事按分して経費計上する際、仕事部屋の面積割合を使って家事按分する場合は、自宅兼事務所の図面を保管して面積割合がわかるようにしておきましょう。
家賃の仕訳に使う勘定科目
家賃の仕訳に使う勘定科目はケースによって異なります。個人事業主が家賃を支払った場合、仕訳で使う主な勘定科目は次の4つです。
家賃の仕訳に使う勘定科目
- 事務所や店舗の家賃を支払った場合は【地代家賃】
- 翌月分の家賃を支払った場合は【前払費用】
- 礼金・更新料などが20万円以上の場合は【長期前払費用】
- 礼金・更新料などが20万円未満の場合は【支払手数料】
以下では、家賃の仕訳に使う各勘定科目の概要を紹介します。
【地代家賃】
個人事業主が事務所や店舗の家賃を支払った場合、勘定科目は「地代家賃」で仕訳します。
地代家賃とは、建物の家賃や共益費、月極駐車場使用料など、借りている建物や土地の賃料を支払ったときに使う勘定科目です。
事務所の家賃のほかに貸倉庫やトランクルームの賃借料を支払っている場合は、勘定科目「賃借料」「保管料」で仕訳することもできますが、一般的には勘定科目「地代家賃」で仕訳します。
【前払費用】
個人事業主が翌月の家賃を支払った場合、勘定科目は「前払費用」で仕訳して、翌月になったときに前払費用を地代家賃に振り替える仕訳を行います。
前払費用とは、一定の契約に基づいて継続して役務の提供を受ける場合に、まだ受けていない役務に対して対価を支払った場合に使う勘定科目です。
ただし、短期前払費用の特例の要件を満たす場合は、翌月の家賃を支払った場合でも当月に経費として計上できるため、勘定科目「地代家賃」で仕訳します。
短期前払費用に該当する場合は、翌月以降の費用を前払いした場合でも支払時点で経費計上が可能です。
【長期前払費用】
礼金や更新料、将来返還されない保証金の金額が20万円以上の場合、長期前払費用(税務上の繰延資産)として資産計上し、貸借期間に応じて償却処理します。
償却期間は、5年未満で更新時に権利金などの支払いが決まっている場合は契約期間です。それ以外の場合は5年で償却処理します。
長期前払費用とは、前払費用のうち、決算日の後1年を超えて費用となる部分の金額を計上する際に使う勘定科目です。
個人事業主が数年分の家賃をまとめて支払った場合、決算日後1年を超えて費用となる金額があれば長期前払費用で仕訳します。
【支払手数料】
礼金・更新料のように、将来に向かって効果が及ぶ支出は繰延資産として計上することが原則ですが、礼金・更新料の金額が20万円未満の場合は経費として一括計上が可能です。
一般的に勘定科目「支払手数料」や「地代家賃」を使って仕訳します。
支払手数料とは、商品やサービスに付随して発生する手数料などの費用を支払ったときに使う勘定科目です。
支払手数料は、個人事業主が事務手数料や金融機関の振込手数料を支払ったときだけでなく、弁護士・税理士に報酬を支払った場合も支払手数料で仕訳します。
なお、個人事業主が賃貸物件ではなくバーチャルオフィスを利用する場合、利用料金は「支払手数料」や「賃借料」などの勘定科目で仕訳するケースが一般的です。
【事例で解説】家賃の仕訳例
企業や個人事業主が家賃を支払った場合、どのような勘定科目を使って仕訳するのか、以下では具体的な事例を用いて家賃の仕訳例を紹介します。
自宅兼事務所の家賃を支払った場合
個人事業主の銀行口座から自宅兼事務所の家賃が引き落とされた場合、家賃のうち自宅(プライベート)の家賃に相当する金額は経費にできません。事務所分の家賃は「地代家賃」で、自宅分の家賃は「事業主貸」で仕訳します。
たとえば家賃が15万円、事業割合を30%と決めている場合、仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
地代家賃 | 45,000円 | 普通預金 | 150,000円 |
事業主貸 | 105,00円 |
事務所として賃借している物件の家賃を支払った場合
事務所の家賃100,000円を銀行振込で支払い、全額経費計上する場合の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
地代家賃 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
なお、個人事業主が12月に来月1月の家賃200,000円を支払った場合は、事業年度が変わるため「前払費用」の勘定科目で仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
前払費用 | 200,000円 | 普通預金 | 200,000円 |
1月1日に前払費用から地代家賃に振り返る場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
地代家賃 | 200,000円 | 前払費用 | 200,000円 |
バーチャルオフィスの利用料金を支払った場合
個人事業主がバーチャルオフィスを契約する場合も利用料金は経費計上が可能です。
個人事業主が月額15,000円のバーチャルオフィスを契約し、10月に1年分(10月〜翌年9月)の料金を一括で支払った場合は下記の仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
支払手数料 | 180,000円 | 普通預金 | 180,000円 |
当年度10月〜12月の利用料金は当年度分として計上するため、決算時に3ヶ月分を差し引き、残り9ヶ月分を翌年分として「前払費用」に振り返る仕訳をしましょう。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
前払費用 | 135,000円 | 支払手数料 | 135,000円 |
年度が切り替わったら「支払手数料」に振り替えます。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
支払手数料 | 135,000円 | 前払費用 | 135,000円 |
まとめ
事業に関係のある家賃であれば一般的に経費にできます。一方で事業に関係ない自宅の家賃や、将来返還される敷金・保証金は経費にできません。
家賃の仕訳をする際に用いる勘定科目は一般的に「地代家賃」です。ただし、ケースによっては前払費用・長期前払費用・支払手数料などの勘定科目で仕訳する場合もあります。
個人事業主が自宅兼事務所の家賃を支払う場合、自宅分の家賃は経費にできません。家事按分によって事業に関係する金額のみ経費計上する必要があるため注意しましょう。
家賃の仕訳の考え方や使う勘定科目についてルールを統一し、目的やケースに応じて適切に仕訳をしましょう。
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よくある質問
個人事業主は家賃を経費にできる?
事業に関係する家賃を支払った場合は一般的に経費にできます。
個人事業主が支払う家賃を経費にできるのか、詳しく知りたい方は「個人事業主が支払う家賃は経費計上できる?」をご覧ください。
家賃の仕訳に使う勘定科目は?
家賃の仕訳で用いる勘定科目は一般的に「地代家賃」です。ただし、前払費用・長期前払費用・支払手数料などの勘定科目を使う場合もあります。
家賃の仕訳で用いる勘定科目について詳しく知りたい方は「家賃の仕訳に使う勘定科目」をご覧ください。
監修 西村真衣(にしむら まい)
父も祖父も税理士という家系に長女として生まれる。実家は60年続く税理士事務所。学生結婚し、子供を授かるも、母、妻、娘の役割以外に、自分の人生も生きていきたいと2人の子供を育てながら税理士試験に合格する。自身も経営者の立場を経験しない事には、お客様の気持ちに真に寄り添うことはできないと感じ、実家の税理士事務所とは別に2021年に西村税理士事務所を開業。現在は、女性起業支援を中心に活動している。