監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
外注費は、外部の企業や個人事業主に業務の一部を委託する際の費用を指し、一般的に「外注費」や「外注工賃」の勘定科目を用いて仕訳をします。
ただし、外注費の仕訳は、誤解を招きやすい勘定科目もあるため注意が必要です。
本記事では、外注費の概要や仕訳で使う勘定科目を解説したうえで、事例ごとの仕訳例や注意点を解説します。また外注費として計上してしまいがちな、混同されやすい勘定科目も紹介しているので、正確に記帳するための参考にしてください。
目次
外注費とは?
外注費とは、自社の従業員では行わない業務を、外部の企業や個人事業主と契約を結び、該当業務を委託する際に発生する費用です。
外注する内容は、自社で新しい事業を行う際のホームページ制作やアプリ内のコンテンツ制作・物品の運送・建物の建築など、企業の事業領域で異なります。
一般的な外注費の処理手順は以下の通りです。
外注費の処理手順
- 仕様
- 見積
- 発注
- 納品
- 検収
- 支払
なお、外注をした場合は、設計図・仕様書・納品物などにより、適正な取引が行われていることを明らかにしなくてはなりません。
外注費の仕訳に用いる勘定科目
一般的に外注費の仕訳には、「外注費」や「外注工賃」の勘定科目を使用します。
支払明細書に、「業務委託費」と記載されている場合もありますが、業務委託は外注の一部になるため、勘定科目は「外注費」で問題ありません。
なお、青色申告に必要な青色申告決算書には「外注工賃」と記載されています。
外注費と誤解を招きやすい勘定科目
外注費と混同しやすい勘定科目は、以下の通りです。
外注費と混同しやすい勘定科目
- 給与
- 支払手数料
- 販売手数料
外注費とは明確に異なるので、各勘定科目の内容をしっかり理解し、適切に仕訳しましょう。
給与
給与は、自社の従業員として業務をさせる場合に支払う費用です。
企業が外注費と判断している場合でも、実際の業務内容から従業員としてみなされる場合は、給与の勘定科目になるため注意しましょう。
支払手数料
支払手数料は、商品やサービスに付随して発生する振り込み手数料、弁護士や税理士などへの報酬・顧問料など、専門性の高い仕事の依頼を処理する勘定科目です。
販売促進費
販売促進費は、商品・製品やサービスの販売促進に支出する費用全般を処理する勘定科目です。
たとえばカタログやグッズの作成、サンプルの配布などを外部の業者に依頼した場合でも、直接的に販売の促進を目的とした場合は、販売促進費として処理します。
外注費に関する源泉徴収の要否
源泉徴収は、雇用契約を結んだ正社員・パート・アルバイトなどに給与を支払う際や、一定の報酬・料金を支払う際に発生します。
源泉徴収義務者でない場合や、支払い相手が法人の場合は、原則、外注費に源泉徴収は必要ありません。
一方で、源泉徴収義務者が、個人に対して源泉徴収が必要な業務を依頼した場合は、源泉徴収が必要です。
外注費で源泉徴収が必要なケース
外注費で源泉徴収が必要なのは、「所得税法第204条第1項」に当てはまる報酬や料金を支払うケースです。
具体的には主に以下のような報酬・料金が挙げられます。
源泉徴収が必要な主な報酬・料金例
- 原稿料
- 挿絵・写真の報酬・料金
- 作曲料
- デザイン料
- 講演料 など
弁護士や公認会計士など特定の資格をもつ人に支払う報酬・料金でも源泉徴収が必要です。
なお、源泉徴収が必要になるのは、源泉徴収義務者が個人へ上記に該当する業務を依頼したときのみです。
また、報酬・料金によっては支払金額が一定額以下であれば、源泉徴収をしなくてもよい場合があります。
依頼内容や支払う金額などにあわせて、適切に源泉徴収をおこなうようにしましょう。
【事例で解説】外注費の仕訳例
外注費の仕訳は、源泉徴収のある・なしで処理する勘定科目が変わります。源泉徴収が必要ない法人相手と、必要な個人に支払った場合の仕訳例を紹介するので参考にしてください。
外注費を法人に支払う場合
清掃業者に、事業用の銀行口座から20万円の業務委託料を支払った場合の仕訳例は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
外注費 | 200,000円 | 普通預金 | 200,000円 |
法人に外注費を支払う場合は、源泉徴収が不要なので、費用の勘定科目である外注費を借方で処理します。貸方には、普通預金口座から支払った場合、普通預金の勘定科目が入ります。
外注費を源泉徴収が必要な個人に支払う場合
外部の個人に、原稿料として事業用の銀行口座から30万円を支払った場合の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
外注費 | 300,000円 | 普通預金 | 269,370円 |
預り金 | 30,630円 |
源泉徴収が必要な場合は、貸方に「預かり金」として処理し、外注費から預かり金を差し引いた額が個人に支払われます。
仕訳する際に、貸方金額の合計が外注費と一致しているかしっかり確認してください。
なお、源泉徴収する税額は、支払額が100万円を超えるか超えないないかで変わります。
原稿料の源泉徴収に関する税額の計算式は以下の通りです。
源泉徴収の税額の計算式
- 支払額100万円以下:税額=支払額×10.21%
- 支払額100万円超:税額=(支払額-100万円)×20.42%+102,100円
源泉徴収額が間違っていると、修正などでやりとりの手間が生じるので、しっかり確認してください。
外注費の仕訳や経費計上に関する注意点
外注費の仕訳や経費計上に関する注意点は、以下の通りです。
- 外注費と給与の判断基準を確認する
- 外注先から請求書を送付してもらう
- 消費税の仕入税額控除には適格請求書が必要
参考にしてください。
税務調査で外注費が給与とされないように外注費と給与の判断基準を確認する
外注費で処理していた費用が給与と見なされると、予想していない税金が発生する可能性があります。外注費が給与とされないように、両者の判断基準を確認することを推奨します。
国税庁が発表している法令解釈通達から外注費の判断基準は、以下の通りです。
外注費の判断基準
- 業務の遂行が当人以外でも可能
- 成果物の納品で請求書が発行される
- 時間的拘束・指揮監督を受けていない
- 必要な材料・機材の費用を当人が負担している
- 成果物が納品されないと報酬が支払われない
上記に該当しない場合は、給与とみなされる可能性があります。
たとえば、成果物が納品されていなくても、作業時間で料金が支払われる場合などは、給与となる可能性があるので注意してください。
トラブル回避のために外注先から請求書を送付してもらう
外注費で処理していた費用が給与とみなされないためにも、外注先に請求書を送付してもらい、外注費であることを明確にしましょう。
また、請求書を送付してもらう際は、成果物がしっかりとわかるようにしてもらってください。
たとえば、「○○時間分の報酬」など、給与と見なされかねない誤解を招くような記載は避けてもらい、「ホームページ作成一式」のように具体的な記載をしてもらうことが望ましいです。
インボイス制度により消費税の仕入税額控除には適格請求書が必要
2023年10月施行のインボイス制度により、外部に依頼して外注費を支払った際の消費税の仕入税額控除には、適格請求書(インボイス)が必要です。
インボイス制度による、外注費を支払った際の消費税の仕入税額控除は以下になります。
仕入税額控除の可否
- 売上1,000万円以上の課税事業者に支払った外注費の消費税は、適格請求書を発行してもらうことで仕入税額控除が可能
- 売上1,000万円未満の免税事業者に支払った外注費の消費税は、取引先がインボイスに対応している適格請求書発行事業者であれば、適格請求書を発行してもらうことで仕入税額控除が可能
- 売上1,000万円未満の免税事業者に支払った外注費の消費税は、取引先がインボイスに対応しない免税事業者であれば、仕入税額控除を受けられない(経過措置あり)
特に、売上1,000万円未満の事業者と取引をする際は注意が必要です。
フリーランスや個人事業主などに対して外注費を支払って依頼する場合は、免税事業者なのか、課税事業者として適格請求書を発行できるかなどをしっかり確認してください。
なお、適格請求書が交付された場合、「発行した日が属する課税期間の最終日の翌日から2ヶ月が経過した日を起点に7年間」は売り手と買い手の双方で保存が必要です。
インボイス制度に関して詳しく知りたい方は、「消費税の仕入税額控除とは?基礎知識とインボイス制度での変更点をわかりやすく解説」をあわせてご確認ください。
まとめ
外注費は、外部の企業や個人に、業務の一部を委託して支払った費用を処理する勘定科目です。
外注費の仕訳では、個人に源泉徴収が必要な業務を依頼した場合は、源泉徴収として「預り金」の勘定科目を入れましょう。
また、仕訳時は、外注費と混同しやすい勘定科目があるので注意が必要です。特に、給与は外注費との判断が明確でないため、きちんと基準を把握しておくことを推奨します。
2023年10月からはインボイス制度が開始されています。外注が多い企業は、トラブルを回避するためにも外注費の扱いや仕訳の理解を深め、適切に処理しましょう。
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よくある質問
外注費の仕訳に使う勘定科目は?
外注費の仕訳に使う勘定科目は、「外注費」または「外注工賃」です。
外注費の仕訳に使う勘定科目を詳しく知りたい方は「外注費の仕訳に使う勘定科目」をご覧ください。
外注費は源泉徴収が不要?
外注費の源泉徴収は、原則、必要ありません。ただし、源泉徴収義務者が個人へ業務を依頼する場合は、例外として源泉徴収が必要な場合があります。
外注費の源泉徴収に関して詳しく知りたい方は「外注費に関する源泉徴収の要否」をご覧ください。
監修 宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業後、税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは20年以上となる。現在は「100年先の“みらい”を創る。」税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティングを行う。