監修 北田 悠策 株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所
火災保険料や地震保険料などの損害保険料は経費にできる場合があります。仕訳で使う勘定科目は保険の内容や契約期間などで異なるため注意が必要です。
また、自宅兼事務所で活動する個人事業主の場合は家事按分が必要になります。割合に応じて経費にできる保険料を計算して仕訳をしましょう。
本記事では、損害保険料に関する経費計上の可否や仕訳に使う勘定科目、仕訳例を解説します。
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目次
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損害保険料は経費にできる?
企業や個人事業主が損害保険料を支払った場合、事業に関係する保険料であれば経費にできます。
なお、必要経費にできる費用は以下の通りです。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
出典:国税庁「No.2210 やさしい必要経費の知識」
損害保険料を経費にできないケース
事業に関係ない損害保険料の支出は経費にできません。
損害保険料を経費にできるケースとできないケース
- 経費にできるケース:事業に関係する火災保険料や自動車保険料などを支払った場合
- 経費にできないケース:私的な火災保険料や自動車保険料などを支払った場合
たとえば、企業や個人事業主がオフィスを借りる際、賃貸契約で火災保険への加入が義務付けられているため火災保険に加入するケースでは、支払う火災保険料は経費にできます。
一方で、個人事業主が自宅の火災保険料を払った場合は、事業とは関係がない個人的な支出であるため経費にできません。
損害保険料の会計処理上の取り扱い
損害保険料は、保険の契約期間によって会計処理の方法が変わります。ポイントとなるのは、「契約期間が1年を超えるかどうか」です。
以下では、契約期間の長さに応じた会計処理上の取扱方法を解説します。
契約期間が1年以内の損害保険料
一般的に1年契約の損害保険では、保険料の支払時にその全額を経費として処理します。
保険契約期間が事業年度をまたぐ場合、期間按分の考え方に基づいて各年度に費用を按分して計上することが原則です。しかし、1年分の保険料であれば、継続処理を前提に支払時の費用とすることも認められています。
契約期間が1年超の損害保険料
保険契約期間が1年を超える場合も保険料を経費として計上できます。
ただし、保険料を事業年度ごとに期間按分して、各年度に対応する保険料をそれぞれの年度の経費として計上しなければいけません。支払った保険料のうち、翌期以降に対応する分は当期ではなく翌期以降の費用として計上する必要があります。
また、保険期間が3年以上で、かつ当該保険期間満了後に満期返戻金を支払う旨の定めがある損害保険契約の場合は、以下の取り扱いとなります。
仕訳する際の取り扱い | |
---|---|
支払った保険料のうち積立保険料に相当する部分の金額 | 保険期間の満了または保険契約の解除もしくは失効のときまでは資産に計上 |
その他の部分の金額 | 期間の経過に応じて経費として計上 |
損害保険料の仕訳に使う勘定科目
損害保険料の仕訳に使う勘定科目はケースによって異なります。主な勘定科目は以下の4つです。
損害保険料の仕訳に使う勘定科目
- 契約期間が1年以内の保険契約に基づく保険料の場合は【保険料】
- 契約期間が1年を超える保険の保険料を支払う場合は【前払費用】または【長期前払費用】
- 保険料を支払った際に会計上資産にあたる金額を計上する場合は【保険積立金】
損害保険料の仕訳に使う各勘定科目の概要を解説します。
【保険料】
企業や個人事業主が支払う保険料のうち、契約期間が1年以内の保険契約に基づく保険料を支払う際には「保険料」の勘定科目を使います。
【前払費用】または【長期前払費用】
一定の契約に基づいて継続して役務の提供を受ける場合に、まだ受けていない役務に対して対価を支払ったときの勘定科目は「前払費用」です。
なお、前払費用のうち1年を超えて費用となる部分の金額を計上する際に使う場合は「長期前払費用」を使います。
損害保険の契約期間が1年を超える場合、保険料を事業年度ごとに期間按分して費用計上します。支払った保険料のうち、翌期に対応する分は前払費用として計上し、翌々期以降に対応する分は長期前払費用として計上しましょう。
【保険積立金】
貯蓄性のある保険契約を結び、保険料を支払った際に会計上資産にあたる金額を計上する場合の勘定科目は「保険積立金」です。
保険料を支払った場合、保険に相当する部分と貯蓄に相当する部分があるときには、以下のように仕訳します。
仕訳する際の取り扱い | |
---|---|
保険部分の保険料 | 勘定科目「保険料」などを使って費用として計上 |
貯蓄部分の保険料 | 勘定科目「保険積立金」を使って資産として計上 |
【事例で解説】損害保険料の仕訳例
損害保険料を支払った場合にどのように仕訳するのか、以下では具体的な事例を用いて損害保険料の仕訳例を紹介します。
契約期間が1年以内の保険契約を結び損害保険料を支払う場合
企業が1年契約の損害保険契約を結び、損害保険料30,000円を普通預金口座から支払った場合の仕訳例は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
保険料 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 |
損害保険契約の契約期間が1年を超える場合、保険料を事業年度ごとに期間按分して計上しなければならないため注意しましょう。
契約期間が1年を超える保険契約を結び損害保険料を支払う場合
事業年度が4月1日から翌年3月31日の企業が2年契約(2023年7月から2025年6月までの2年間)の損害保険契約を結んで損害保険料72,000円を普通預金口座から支払う場合は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
保険料 | 27,000円 | 普通預金 | 72,000円 |
前払費用 | 36,000円 | ||
長期前払費用 | 9,000円 |
当期2023年度の経費にあたるのは、2023年7月から2024年3月までの9ヶ月分の保険料27,000円です。翌期や翌々期に対応する金額も計算し仕訳します。
貯蓄性がある損害保険の積立部分を資産計上する場合
損害保険契約を結んで保険料160,000円を支払い、そのうち積立部分にあたる金額が40,000円の場合は、積立部分40,000円を勘定科目「保険積立金」で仕訳します。残り120,000円はそれぞれ保険料・前払費用・長期前払費用で仕訳します。
契約期間が2023年12月から2028年11月までの5年間、企業の事業年度が4月1日から翌年3月31日の場合は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
保険積立金 | 40,000円 | 普通預金 | 160,000円 |
保険料 | 8,000円 | ||
前払費用 | 24,000円 | ||
長期前払費用 | 88,000円 |
保険部分120,000円のうち当期の2023年度の経費にあたるのは、2023年12月から2024年3月までの4ヶ月分の保険料8,000円です。
2024年度に対応する12ヶ月分の保険料24,000円は「前払費用」で、2025年4月から2028年11月の期間に対応する保険料88,000円は「長期前払費用」で仕訳します。
個人事業主が損害保険料を支払う場合
個人事業主が1年契約の損害保険契約を結び、自宅兼事務所の損害保険料20,000円を銀行口座から支払った場合、事業割合を算出して按分する必要があります。
自宅兼事務所の使用割合が「自宅:事務所=4:6」の場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
保険料 | 12,000円 | 普通預金 | 20,000円 |
事業主貸 | 8,000円 |
損害保険料の仕訳に関する注意点
損害保険料の仕訳に関する主な注意点は以下の2つです。
損害保険料の仕訳に関する注意点
- 経費にできるものと経費にできないものを明確に区別する
- 損害保険料の仕訳で使う勘定科目はケースによって異なるので、仕訳時は適切な勘定科目を使う
経費にできる費用とは事業に関係する費用です。支払った損害保険料が経費にできるのか、よく確認したうえで経理処理をするようにしてください。
また、経費にできる場合でも、当期に費用計上する金額と翌期以降に費用計上する金額を区別して計上する必要があります。
記帳するごとに異なる勘定科目を使ったり帳簿付けが不適切な内容になったりしないよう、損害保険料の仕訳の考え方や使う勘定科目は社内でルールを統一することも大切です。
まとめ
損害保険料は、事業に関係がある場合に経費にできます。企業や個人事業主がオフィスを賃借して火災保険料を払うようなケースでは、一般的に経費計上が可能です。
仕訳をする際に用いる勘定科目は、保険契約期間が1年以内であれば一般的に「保険料」です。1年超の場合は勘定科目「前払費用」や「長期前払費用」などを使って仕訳します。
損害保険料の仕訳の考え方や使う勘定科目を正しく理解し、適切に帳簿付けを行うようにしてください。
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損害保険料は経費にできる?
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損害保険料を経費にできるのか詳しく知りたい人は「損害保険料は経費にできる?」をご覧ください。
損害保険料の仕訳に用いる勘定科目は?
損害保険料の仕訳で用いる勘定科目には、一般的に保険料・前払費用・長期前払費用・保険積立金があり、いずれの勘定科目を使うかはケースによって異なります。
損害保険料の仕訳で用いる勘定科目を詳しく知りたい人は「損害保険料の仕訳に使う勘定科目」をご覧ください。
監修 北田 悠策(きただ ゆうさく)
神戸大学経営学部卒業。2015年より有限責任監査法人トーマツ大阪事務所にて、製造業を中心に10数社の会社法監査及び金融商品取引法監査に従事する傍ら、スタートアップ向けの財務アドバイザリー業務に従事。その後、上場準備会社にて経理責任者として決算を推進。大企業からスタートアップまで様々なフェーズの企業に携わってきた経験を活かし、株式会社ARDOR/ARDOR税理士事務所を創業。