勘定科目の基礎知識

投資信託に用いる勘定科目は?保有目的による違いや仕訳例を紹介

監修 安田亮 安田亮公認会計士・税理士事務所

投資信託に用いる勘定科目は?保有目的による違いや仕訳例を紹介

投資信託を購入したときは、保有する目的に応じて「有価証券」または「投資有価証券」を用いて仕訳します。

また、分配金を受け取ったときは普通分配金と特別分配金で処理方法が異なるため注意が必要です。

本記事では、法人が投資信託を保有する場合の勘定科目仕訳例を解説します。

購入時・決算時、分配金を受け取ったとき、売却したときなど、状況別に紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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目次

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そもそも投資信託とは?

投資信託とは、投資家から集めた資金をひとつにまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資して運用する金融商品です。

運用がうまくいけば利益が出る一方で、運用がうまくいかず投資した額を下回れば、損失が生じます。

投資信託で得られる利益には、「分配金」と「譲渡益」の2つがあります。


利益の種類概要
分配金運用の結果生じた利益を口数に応じて投資家に分配するお金
譲渡益売却によって得られる利益

譲渡益は、売却時の基準価格が購入時の取得単価を上回った場合に生じる利益です。

投資信託に用いる勘定科目

投資信託を購入したときは、保有目的に応じて「有価証券」または「投資有価証券」の勘定科目を使用します。

また、分配金を受け取ったときや売却したときなど、状況に応じて使用する勘定科目が異なります。

投資信託に関する主な勘定科目は以下の通りです。

投資信託に用いる勘定科目

  • 売買目的で投資信託を購入した場合は【有価証券】
  • 資産形成を目的に投資信託を購入した場合は【投資有価証券】
  • 普通分配金を受け取った場合は【受取配当金】
  • 投資信託を売却した場合は【有価証券売却益・有価証券売却損】

【有価証券】

短期間の価格変動によって利益を得ることを目的に保有する投資信託(売買目的有価証券)は、「有価証券」の勘定科目を使用して資産(流動資産)に計上します。

「有価証券」は、株券や債券などを取得・売却したときに用いる勘定科目です。

また、売買目的有価証券は期末にその時点での時価評価を行い、「有価証券評価益」「有価証券評価損」を用いて評価差額を処理します。

「有価証券評価益」は有価証券の帳簿価格が時価より低いときに用いる勘定科目です。一方、有価証券の帳簿価格が時価より高いときは「有価証券評価損」を用いることを覚えておきましょう。

ただし、一般の事業会社が売買目的有価証券として保有することは稀であり、通常は証券会社などが用いる分類です。

【投資有価証券】

一方、資産形成を行う目的で保有する投資信託(その他有価証券)は、「投資有価証券」を使用して資産(投資その他の資産)に計上します。

「投資有価証券」は、長期保有を目的に保有する有価証券を処理するための勘定科目です。

売買目的有価証券と1年内に満期の到来する有価証券以外の有価証券を処理する際に用います。

その他有価証券(資産形成を行う目的で保有する投資信託など)も、期末時点で時価評価が必要です。

ただし、短期間での売買を想定していないため、時価の変動による差額を当期の損益として計上する必要はありません。

その他有価証券は、原則として「全部純資産直入法」によって会計処理を行います。

また、一定の条件を満たす場合は「部分純資産直入法」での処理も可能です。


区分概要
全部純資産直入法評価差額を当期の損益に計上せず、純資産として計上する方法
部分純資産直入法評価差額がプラスなら純資産、マイナスなら当期の損失として計上する方法(ただし、会計上は損失として計上しても税務上は損金として認められません)

なお、評価差額を純資産に計上する際は「その他有価証券評価差額金」の勘定科目を用いて処理します。

【受取配当金】

「受取配当金」は、普通分配金を受け取ったときに用いる勘定科目です。

投資信託の分配金は、「普通分配金」と「特別分配金」の2つに区分されます。


分配金の種類概要
普通分配金運用によって生じた収益から支払われるお金
特別分配金投資した元本の一部が払い戻されるもの

分配落ち後の基準価額(投資信託の値段)が個別元本を上回る部分が「普通分配金」、下回る部分が「特別分配金」です(※)。

普通分配金は、配当所得として20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)が差し引かれます。

一方、特別分配金は元本の一部が払い戻されるものであり、税金はかかりません。

なお、特別分配金を受け取った場合は、「有価証券」または「投資有価証券」を減額する仕訳を行います。これは、払い戻された金額だけ個別元本が下がるためです。

(※)個別元本は、投資信託を購入したときの基準価額のことで、投資家によって異なります。

【有価証券売却益】【有価証券売却損】

売買目的で保有していた投資信託の売却によって、利益を得た場合は「有価証券売却益」、損失が生じた場合は「有価証券売却損」を用います。

また、資産形成目的で保有していた投資信託の売却によって利益を得た場合は「投資有価証券売却益」を用いましょう。反対に、損失が生じた場合は「投資有価証券売却損」を使用します。

【事例で解説】投資信託の仕訳例

投資信託に関する仕訳例をいくつかのケースに分けて紹介します。

投資信託の仕訳例

  • 売買目的で投資信託を保有する場合
  • 資産形成を目的に投資信託を保有する場合
  • 普通分配金を受け取った場合
  • 特別分配金を受け取った場合
  • 投資信託を売却した場合

売買目的で投資信託を保有する場合

法人が短期的に売買を行う目的で投資信託を20万円購入し、保有する場合の仕訳は以下の通りです。


借方貸方
有価証券20万円預金20万円

また、売買目的有価証券は、期末時点の時価で投資信託を評価し、評価差額の仕訳を行う必要があります。

期末時点の時価が22万円だった場合

借方貸方
有価証券2万円有価証券評価益2万円

期末時点の時価が18万円だった場合

借方貸方
有価証券評価損2万円有価証券2万円

資産形成を目的に投資信託を保有する場合

法人が資産形成を目的に投資信託を20万円分購入し、保有する場合の仕訳は以下の通りです。なお、1年を超えて長期間保有するものとします。


借方貸方
投資有価証券20万円預金20万円

資産形成を目的に長期保有する投資信託は「その他有価証券」に該当します。そのため、決算時に時価で評価を行い、全部純資産直入法によって処理します。

たとえば、期末時点の評価が22万円だった場合の仕訳は以下の通りです(税効果会計は無視します)。


借方貸方
投資有価証券2万円その他有価証券評価差額金2万円

普通分配金を受け取った場合

分配金2万円を受け取ったときの仕訳を紹介します。

なお、支払われたのはすべて普通分配金で、源泉徴収された所得税および復興特別所得税・住民税(20.315%)が差し引かれて(いったん仮払金として処理)入金されたものとします。


借方貸方
預金15,937円受取配当金20,000円
仮払金4,063円

特別分配金を受け取った場合

資産形成を目的に保有している有価証券について、特別分配金1万円が入金されたときの仕訳は、以下の通りです。


借方貸方
預金1万円投資有価証券1万円

特別分配金は元本の払い戻しとみなされるため、上記のように(投資)有価証券を減額させる仕訳を行います。

投資信託を売却した場合

売買目的で保有する投資信託を売却した場合の仕訳例を紹介します。帳簿価額20万円の投資信託を25万円で売却した場合の仕訳は、以下の通りです。


借方貸方
預金25万円有価証券20万円
有価証券売却益5万円

一方、帳簿価額20万円の投資信託を18万円で売却し、損失が生じた場合は次のように仕訳します。


借方貸方
預金18万円有価証券20万円
有価証券売却損2万円

投資信託の仕訳を計上する際のポイント・注意点

投資信託を会計処理する際、いくつか注意点があります。以下のポイント・注意点を頭に入れておきましょう。

投資信託を経費に計上する際のポイント・注意点

  • 手数料は取得価額に含めて仕訳する
  • 個人事業主が投資信託を購入したときは「事業主貸」で処理する
  • 基本的に受取配当金の益金不算入の対象にはならない
  • 法人の確定申告で「有価証券の内訳書」が必要となる

手数料は取得価額に含めて仕訳する

投資信託の取得に要した費用(手数料など)は、取得価額に含めて資産に計上します。「支払手数料」などを用いて経費に計上することはできません。

個人事業主が投資信託を購入したときは「事業主貸」で処理する

個人事業主が事業資金で投資信託を個人的に購入したときは、「事業主貸」を用いて処理します。

個人事業主が私的に購入した投資信託は、個人的な支出となり経費には計上できないからです。

なお、「事業主貸」とは個人事業主が事業資金でプライベートの支払いをしたときに用いる勘定科目です。

基本的に受取配当金の益金不算入の対象にはならない

投資信託は、基本的に「受取配当金の益金不算入」の対象にはなりません。

受取配当金の益金不算入とは、法人が受け取る配当などのうち、一定の要件を満たす場合は益金の額に算入しないものとする制度です。

投資信託のうち、益金不算入の対象となるのは「特定株式投資信託(外国株価指数連動型特定株式投資信託を除く)」に限られます(※)。

特定株式投資信託の場合は、受け取った配当金の額の20%が益金に算入されません。

(※)特定株式投資信託とは、株式のみで構成される証券投資信託のうち、一定の上場投資信託(ETF)などの上場しているものを指します。

法人の確定申告で「有価証券の内訳書」が必要となる

法人が期末時点で有価証券を保有している場合、法人税の確定申告で「有価証券の内訳書」を添付する必要があります。期中に有価証券の変動があった場合も同様です。

有価証券の内訳書は、法人税申告書の添付書類「勘定科目内訳明細書」のひとつです。

「売買目的」「満期保有目的」「その他の目的」の3つに区分し、期末現在高や期中の明細を記載します。

まとめ

投資信託を売買目的で保有するときは「有価証券」、資産形成を行う目的で保有するときは「投資有価証券」の勘定科目を用いて処理します。

また、分配金を受け取った場合は普通分配金・特別分配金で処理方法が異なるため、内訳の確認が必要です。

投資信託に関する処理方法を正しく理解し、保有目的や種類に応じた適切な仕訳を行いましょう。

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よくある質問

投資信託を購入したときの勘定科目は?

投資信託を購入したときは、保有目的や種類に応じて「有価証券」や「投資有価証券」を使い分けます。

投資信託に用いる勘定科目を詳しく知りたい方は「投資信託に用いる勘定科目」をご覧ください。

個人事業主が投資信託を購入したときの勘定科目は?

個人事業主が投資信託を事業資金で購入したときは、事業所得には関係ないため「事業主貸」で処理します。

個人事業主が投資信託を購入したときの勘定科目を詳しく知りたい方は「個人事業主が投資信託を購入したときは「事業主貸」で処理する」をご覧ください。

監修 安田 亮(やすだ りょう)

1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。

監修者 安田亮