監修 安田 亮 安田亮公認会計士・税理士事務所
法人が負担した健康診断費用は「福利厚生費」として経費計上可能です。ただし、役員のみ対象となる場合は給与として課税されるケースもあります。
また、個人事業主本人の健康診断にかかった費用は、原則として経費に計上できません。
本記事では、健康診断費用に用いる勘定科目と会計処理の方法を事例を用いて解説します。
目次
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健康診断に用いる勘定科目
健康診断の費用は、一定の要件を満たせば「福利厚生費」の勘定科目を用いて経費にできます。
事業主は、労働安全衛生法にもとづき、毎年従業員に健康診断を受けさせなくてはなりません。
法人・個人事業主や規模にかかわらず、従業員を1人でも雇えば健康診断の実施が必要です。また、健康診断が義務である以上、健康診断の費用は原則として事業主が負担します。
通常、従業員がお勤め先から給与や賞与以外の経済的利益の供与を受けた場合は、「給与」として扱います。
健康診断費用を会社が負担した場合も経済的利益の供与にあたりますが、一定の要件のもと「福利厚生費」として経費に計上でき、課税されません。
詳しくは後述しますが、一定の要件を満たさない場合は経済的利益の提供とみなされ、「給与」として課税されます。
「福利厚生費」とは
そもそも福利厚生とは、企業が従業員に対して提供する、給与や賞与以外のサービス・制度です。法律で定められた「法定福利」と、会社が独自に実施する「法定外福利」に分かれます。健康診断費用は、法定外福利費のひとつです。
主な法定福利費 | ・健康保険料 ・厚生年金保険料 ・介護保険料 ・雇用保険料 ・労災保険料など |
---|---|
主な法定外福利費 | ・健康診断費用 ・人間ドック費用 ・新年会や忘年会費の費用 ・社員旅行の費用など |
法定福利には「法定福利費」、法定外福利費には「福利厚生費」の勘定科目を用いて処理します。
法人の健康診断に用いる場合【福利厚生費】
法人が従業員の健康診断費用を負担した場合、一定の要件を満たせば「福利厚生費」に計上でき、給与として課税されません。
なぜなら、健康診断の実施は事業主の義務であるからです。ただし、以下の要件を満たす必要があります。
福利厚生費に計上するための要件
- 特定の従業員だけを対象としたものではない
- 通常必要と認められる範囲を超えていない
- 会社が直接医療機関に健康診断費用を支払っている
福利厚生費に計上するには、すべての従業員が平等に受診できなくてはなりません。ただし、「一定年齢以上」の従業員をすべて対象としている場合も福利厚生費として認められます。
役員は労働安全衛生法の対象ではありませんが、健康管理義務があることには変わりないため、従業員と同様に福利厚生費として経費計上が可能です。
ただし役員のみなど、特定の人を対象に健康診断を実施する場合は、福利厚生費に計上できません。
また、福利厚生費に計上するには、会社が医療機関に直接費用を支払う必要があります。したがって、従業員が立て替えた健康診断費用を後日支払った場合は、福利厚生費として認められません。
個人事業主の健康診断に用いる場合は【事業主貸】
個人事業主が自身の健康診断費用を支払ったときに用いる勘定科目は、「事業主貸」です。
個人事業主が自身の健康診断に要した費用は、基本的に経費に計上できません。個人事業主には、法律で健康診断の実施が義務付けられているわけではないからです。
したがって、通常の医療費と同様に、個人的に支払う費用となります。青色専業専従者の家族の健康診断費用を支払った場合も同様です。
自身の健康診断費用を事業資金から支払った場合は、「事業主貸」の勘定科目を用いて処理しましょう。事業主貸とは、事業用口座からプライベートの費用を捻出した際に用いる勘定科目です。
ただし、従業員を1人でも雇っていれば健康診断の実施が義務付けられます。そのため、その従業員の健康診断費用を負担した場合は原則として福利厚生費に計上できます。
なお、自身の健康診断費用は経費に計上できません。ただし、健康診断で重大な疾病が見つかり治療を行った場合、その健康診断費用は「医療費控除」の対象です(※)。
(※)医療費控除とは、1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定額を超える場合に、一定額を所得から差し引ける所得控除です。
個人事業主が利用できる経費は「個人事業主が確定申告時に経費にできるものは?判断基準や経費にできるものを勘定科目別に解説」を参考にしてください。
【事例で解説】健康診断の実際の仕訳例
健康診断費用を支払ったときの具体的な仕訳例を、法人・個人事業主に分けて解説します。
健康診断の仕訳例
- 【法人】全従業員が対象の健康診断費用を負担した場合
- 【個人事業主】従業員の健康診断費用を負担した場合
- 【個人事業主】個人事業主本人の健康診断費用を支払った場合
【法人】全従業員が対象の健康診断費用を負担した場合の仕訳例
全従業員が対象の健康診断費用を負担したときは、「福利厚生費」を用いて仕訳します。従業員の健康診断費用50万円を支払ったときの仕訳例は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
福利厚生費 | 500,000円 | 現金 | 500,000円 |
【個人事業主】従業員の健康診断費用を負担した場合の仕訳例
個人事業主が従業員の健康診断費用を負担したときは、「福利厚生費」で経費に計上します。個人事業主が従業員の健康診断費用3万円を負担したときの仕訳例は、以下の通りです。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
福利厚生費 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
【個人事業主】個人事業主本人の健康診断費用を支払った場合の仕訳例
個人事業主本人の健康診断費用を事業資金から支払った場合は、「事業主貸」の勘定科目を用います。
たとえば、自身の健康診断費用1万円を事業資金から支払った場合は、次のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
事業主貸 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 |
健康診断の経費を計上する際のポイント・注意点
健康診断にかかった費用を経費に計上する際、以下のポイント・注意点をおさえておきましょう。
健康診断費用を経費に計上する際のポイント・注意点
- 法人が人間ドックや予防接種費用を負担した場合も経費にできる
- 配偶者の健康診断費用は福利厚生費にできない
- 健康診断費用には消費税が課税される
法人が人間ドックや予防接種費用を負担した場合も経費にできる
法人が従業員の人間ドック費用を負担した場合も、必要だと認められる範囲であれば、「福利厚生費」に計上でき課税されません。
ただし、役員など特定の地位にある人だけが高額な人間ドックを受診する場合は、給与として課税されます。
事業主には、従業員の健康に配慮する義務があります。したがって予防接種の費用も、従業員すべてが受診できるなどの要件を満たせば、福利厚生費への計上が可能です。
配偶者の健康診断費用は福利厚生費にできない
会社が従業員の配偶者の健康診断費用を負担するケースもあります。しかし、配偶者の健康診断費用は福利厚生費に計上できません。
配偶者に対する健康診断の実施は、法律で義務付けられているわけではないからです。
従業員の配偶者の健康診断費用は、経済的供与とみなされ、従業員の給与として課税されます。
健康診断費用には消費税が課税される
健康診断は自由診療に該当するため、消費税が課税されます。課税仕入として扱うため、消費税も含めた会計処理が必要です。
ただし、健康診断費用を経費に計上できない場合は「給与」となるため、消費税は課税されません。
まとめ
法人が従業員の健康診断費用を負担したときは、「福利厚生費」の勘定科目を用いて経費に計上できます。
ただし、会社が直接医療機関に健康診断費用を支払わなかった場合や、特定の人を対象に実施した場合などは、給与として課税されます。
一方、個人事業主が本人の健康診断のために支払った費用は、経費に計上できません。事業資金から費用を支払った場合は、「事業主貸」で処理します。
健康診断を実施したときの会計上の取り扱いについて正しい知識を持ち、正確に処理しましょう。
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監修 安田 亮
1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応などを経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。