監修 寺林 智栄 NTS総合弁護士法人札幌事務所
公益通報とは、労働者・退職者・役員が、役務提供先の不正行為を、内部または外部の一定の通報先に通報することをいいます。
公益通報は主に公益通報者保護法によって定められており、通報の対象者や対象となる行為、通報先などが明示されています。
本記事では、公益通報の概要や、企業などの組織が従業員から公益通報を受けた場合の対処法を解説します。
目次
公益通報とは
公益通報とは、労働者・退職者・役員が、役務提供先の不正行為を、内部または外部の一定の通報先に通報することをいいます。公益通報は、主に「公益通報者保護法」によって定められています。
公益通報とみなされるかどうかは、その通報が「不正の目的でない」ことが判断基準になります。不正に利益を得る目的や、利益を得たり他人に損害を加えたりする目的がある場合は、「不正の目的でないこと」に当たらず、公益通報とみなされません。
また、公益通報における「役務提供先」とは、労働者・退職者・役員が役務を提供している、または過去に提供していた事業者を指します。たとえば、事業者に直接雇用されている労働者の場合は雇用元の事業者、派遣労働者として働いている場合は派遣先の事業者が、役務提供先に当てはまります。
出典:消費者庁「公益通報者保護法に関するQ&A(基本的事項)」
公益通報と内部告発の違い
不正行為の通報・報告を表す言葉に、内部告発があります。公益通報と混同されることもありますが、この2つは定義や法的保護などが異なります。
公益通報と内部告発の主な違いは、下表のとおりです。
公益通報 | 内部告発 | |
---|---|---|
通報先 | 内部または外部の一定の通報先 | 報道機関や関連省庁などの外部の機関 |
法的保護 | 公益通報者保護法が適用される | 公益通報者保護法は適用されない |
目的 | 公益のために行われる | 企業など組織内で問題解決が期待できない場合に行われる |
内部告発は、公益通報よりも広く一般的に使われる言葉で、定義が広いといえます。内部告発と呼ばれるものの中には、公益通報にあたるものもありますが、そうでないものも含まれるため、この2つは厳密にはイコールといえません。公益通報にあたらない内部告発は、公益通報者保護法の対象にもならないため注意しましょう。
公益通報者保護法とは
前述のとおり、公益通報は公益通報者保護法によって定められています。公益通報者保護法には、公益通報をした人が公益通報を理由に、解雇などの不利益な扱いを受けないよう、法的に保護する目的があります。
公益通報者保護法は2020年に改正が行われており、改正の内容としては、2022年6月から従業員300名を超える企業に対して、内部通報制度の導入を義務づけています。
詳しくは別記事「内部通報(公益通報)制度とは?対象行為やペナルティ、導入手順を解説」で解説しているため、あわせてご覧ください。
公益通報の対象者
公益通報の対象者は、公益通報者保護法で定められている対象者と置き換えることができます。
これには、企業の正社員や公務員、派遣社員、アルバイト、パートタイマー、業務委託先の社員やアルバイト、勤務先を退職してから1年以内の退職者、派遣先での勤務終了から1年以内の退職者、取締役や監査役などの役員が含まれます。
公益通報制度の整備にあたっては、これらの保護法対象者はもちろん、子会社や取引先の従業員などの通報も受け入れられるようにすると、より不正行為が早期に発見・是正されやすくなります。
公益通報の対象となる行為
公益通報の対象となる行為には「犯罪行為」「過料となる行為」「刑罰もしくは過料につながる行為」などがあります。
具体的な行為には次のようなものが挙げられます。
公益通報の対象となる行為
- 上司が会社の資金を横領している
- 保険金を不正請求している
- 残業代の不払いや労災隠しをしている
- 産地表示偽装をして商品を販売している
- 安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売している
社内のセクシャルハラスメントやパワーハラスメント、従業員の私生活上の法令違反行為などは公益通報の対象外です。ただし、ハラスメント行為の内容が暴行・脅迫や強制わいせつなどの犯罪行為に当たる場合は、公益通報の対象となる可能性もあります。
また、公益通報の対象とならなくても、労働法のルールが適用され、権利の濫用と認められる出向命令や懲戒、解雇などは無効となるケースがあります。
公益通報の対象外であるかどうかにかかわらず、企業は、あらゆる法令違反や社内規定違反の通報や相談を受け入れ、調査・是正に取り組める体制であることが望ましいといえます。
公益通報の通報先
先に述べたとおり、公益通報は内部または外部の一定の通報先に行われます。
具体的な通報先には、勤め先、行政機関、報道機関などがありますが、通報する際の優先順序の定めはなく、通報者は自由に通報先を選んで通報できます。
ただし、下表に示したとおり、公益通報者保護法によって保護される条件は通報先によって違いがあるため注意が必要です。
勤め先 | 詳細 | 勤め先の通報窓口、勤め先が委託する法律事務所・通報窓口、上司など |
---|---|---|
保護条件 | 違反行為が実際に行われている、または行われようとしている場合 | |
行政機関 | 詳細 | 違反行為に対して処分もしくは勧告などの権限を持つ行政機関 (通報先が適切でなかった場合は、その行政機関が通報先を通報者に紹介する義務がある) |
保護条件 | 違反行為があると信じるに値する情報や証拠がある、または違反行為があると考えて氏名などを記載した書面を提出する場合 | |
報道機関など | 詳細 | 報道機関や消費者団体、労働組合など |
保護条件 | 違反行為があると信じるに値する情報や証拠がある、または証拠が隠滅される恐れがあるなどの事情がある場合 |
従業員から公益通報を受けた場合の対応
企業などの組織は、従業員から公益通報を受けた場合、以下に挙げる点に注意して対応する必要があります。
公益通報を受けた場合の対応
- 通報に関する情報を公開しない
- 通報者を不利益に扱わない
- 通報者にすぐに返答する
- 通報内容を調査する
- 不正行為を速やかに是正する
- 通報者に結果をフィードバックする
通報に関する情報を公開しない
公益通報があった場合、通報に関する情報を正当な理由なしに公開してはいけません。特に公益通報の窓口となる部署や担当者には、通報者の特定につながる情報が漏えいすることを防ぐ義務が発生します。
通報者の情報だけでなく、公益通報の内容についても、対応にあたって関係する人以外には情報共有しないようにします。
通報者を不利益に扱わない
公益通報者保護法が定める公益通報者保護制度においては、公益通報があった場合に、通報者に不利益になるような扱いをすることは禁止されています。
不利益な扱いの具体例としては、解雇や降格、減給、転勤などがあります。
通報者にすぐに返答する
公益通報があったら、通報者にすぐ返答をするようにしてください。通報を受け取ったことの連絡と、調査を行う意思表示、秘密を厳守することなどを伝えます。
公益通報を放置してしまうと、通報者が内部で解決できないと判断し、外部の報道機関などに情報を流す可能性も考えられます。内部の通報はできるだけすぐに対応するようにしましょう。
通報内容を調査する
公益通報があった場合、実際に不正行為が行われているか調査を行う必要があります。不正の事実が確認できた場合には、影響範囲や関係者、原因を明らかにしなければいけません。
不正の内容や範囲によっては、法的な専門知識がなければ解決が難しいケースもあります。そのような事態に備え、顧問弁護士や外部専門家に相談できる仕組みをつくることが望ましいといえます。
不正行為を速やかに是正する
調査が終了し、不正の事実が確認できたら速やかに是正する必要があります。
また、是正措置をとったあとも、その効力が機能し続けているか、不正行為が再び行われていないかを確認することが重要です。
通報者に結果をフィードバックする
調査の結果は、不正行為が確認できたかどうかにかかわらず、通報者にフィードバックします。
通報者は、調査の結果だけでなく、自身の通報に対して組織がどのように対応したのか知りたいものです。特に調査の結果、不正が確認できなかった場合には、通報者に対して納得感のある説明が欠かせません。また、従業員の信頼を損ねないように、結果にかかわらず組織の不正を通報してくれた通報者への感謝も伝えましょう。
まとめ
公益通報は、内部・外部に不正を通報するもので、通報先は通報者が選択することができます。内部に通報があった場合、企業などの組織は、通報者に不利益のないよう速やかに対応する必要があり、不正の是正につなげなくてはいけません。
公益通報の対象にあたる不正はもちろん、あらゆる法令違反や社内規定違反の通報や相談を受け入れ、調査・是正に取り組める体制を整えておくことが重要です。これによって組織のガバナンスを強化できるほか、従業員との信頼関係を築けるといった効果が期待できます。
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よくある質問
公益通報とは?
公益通報とは、労働者・退職者・役員が、役務提供先の不正行為を、内部または外部の一定の通報先に通報することをいいます。公益通報とみなされるかどうかは、その通報が「不正の目的でない」ことが判断基準になります。
詳しくは記事内「公益通報とは」で解説しています。
パワハラは公益通報の対象行為?
パワーハラスメントは公益通報の対象外です。ただし、ハラスメント行為の内容が暴行・脅迫や強制わいせつなどの犯罪行為に当たる場合は、公益通報の対象となる可能性もあります。
詳しくは記事内「公益通報の対象となる行為」をご覧ください。
監修 寺林 智栄(てらばやし ともえ)
2007年弁護士登録。2013年頃より、数々のWebサイトで法律記事を作成。ヤフートピックス1位獲得複数回。離婚をはじめとする家族問題、労務問題が得意。
NTS総合弁護士法人札幌事務所