監修 税理士・CFP® 宮川真一 税理士法人みらいサクセスパートナーズ
株主総会資料の電子提供制度とは、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載して株主に提供する制度です。
電子提供制度は2019年の会社法改正によって、すべての上場会社を対象に義務化されました。2023年3月以降に実施される株主総会において適用が始まっており、従来の「ウェブ開示によるみなし提供制度」とは区別して理解する必要があります。
本記事では、ウェブ開示によるみなし提供制度との違いや株主総会資料の電子提供制度の適用条件、注意点を解説します。
目次
株主総会資料の電子提供制度とは
株主総会資料は、株主総会を開催するにあたって株主に提供する書類のことで、以下のような書類が含まれます。
株主総会資料
- 株主総会参考書類
- 事業報告
- 監査報告
- 計算書類
- 連結計算書類
株主総会資料に関する法律として、2019年の会社法改正により創設されたのが「株主総会資料の電子提供制度」です。株主総会資料の電子提供制度は、電子提供措置をとる旨を定款に定めた非上場会社および上場会社が株主に対して、自社のウェブサイトなどに株主総会資料を載せて提供する制度のことを意味します。
株主に対して、当該ウェブサイトのURLなどを株主総会の招集通知に記載して通知した場合は、株主に個別で承諾を得ていない場合であっても、株主に対し株主総会資料を適法に提供したものとします。
出典:e-Gov法令検索「会社法 第三百二十五条の二以下」
旧会社法でも、インターネット等を用いて株主総会資料を株主に提供することはできました。ただし、株主の個別の承諾を得なければならないため、株主数の多い上場会社での利用は現実的ではなく、ほとんど利用されていませんでした。
出典:e-Gov法令検索「会社法 第二百九十九条三項」
出典:「会社法 第三百一条二項」
出典:「会社法 第三百二条二項」
また、旧会社法上にはインターネットを利用した株主参考書類等の提供の方法として、ウェブ開示によるみなし提供制度(会社法施行規則94条1項、133条3項、会社計算規則133条3項、134条4項)があります。みなし提供制度の詳細と電子提供制度との違いについては後述します。
出典:e-Gov法令検索「会社法施行規則 第九十四条一項、第百三十三条三項」
出典:「会社計算規則 第百三十三条三項、 第百三十四条四項」
なお、株主総会の開催後は、株主総会で決定された事項や出席した取締役などの情報などを記載した株主総会議事録を作成することが、会社法によって義務付けられています。
株主総会議事録について詳しく知りたい方は、別記事「株主総会議事録とは?記載事項や書き方などについてわかりやすく解説」をご覧ください。
株主総会資料の電子提供制度が導入された背景
従来、上場会社は株主総会の開催にあたり、原則として資料を株主に書面で送付する必要がありました。しかし、上場会社にとって書面の印刷や郵送に手間やコストがかかるのはもちろん、株主にとっても書面を受け取り内容を確認するまでに時間がかかるといったデメリットが生じていました。
株主総会資料の電子提供制度はこうしたデメリットを解消し、オンラインですぐに資料を確認できるようになったことで、上場会社側のコスト削減や株主側の利便性向上を実現しています。
また、2024年10月から郵便料金が値上げされるのに伴い、特に郵便物を大量に発送する企業は郵送コストに大きな影響を受けることが予想されます。そのため、株主総会資料の電子提供制度は多くの株主を抱える上場会社にとって、ますます有益なものとなるでしょう。
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株主総会資料の電子提供制度とみなし提供制度の違い
みなし提供制度とは、株主総会資料の一部の事項(株主総会参考書類に記載すべき事項および事業報告に表示すべき事項、計算書類の一部の情報)について、インターネット上のウェブサイトで一定期間継続して開示することで、当該事項については株主に対して提供したものとみなす制度です。
出典:e-Gov法令検索「会社法施行規則 第九十四条一項、第百三十三条三項」
出典:「会社計算規則 第百三十三条四項、第百三十四条五項」
みなし提供制度は、もともと株主総会の運営に伴う会社の事務負担を軽減する目的と、開示の効率化・充実化を図る目的で導入されました。しかし、現在は上場会社に対して株主総会資料の電子提供制度が一律に適用されることになっており、すでに上場会社ではウェブ開示によるみなし提供制度は利用されていません。
現在のみなし提供制度は、「非上場会社」かつ「株主総会資料の電子提供制度をとる旨の定款の定めがない」会社に限って活用することができます。
株主総会資料の電子提供制度とウェブ開示によるみなし提供制度は、いずれも株主に対して必要な情報をウェブサイト上で開示することで提供したと許容される制度です。
しかし、ウェブ開示の対象となる事項は、電子提供制度の対象となる事項と異なります。以下のように、ウェブ開示によるみなし提供制度は対象外となる事項が多く、許容される範囲が限られます。
ウェブ開示によるみなし提供制度は、あくまで「することができる」という任意の制度です。一方、株主総会資料の電子提供制度では、対象となる株主総会資料については原則として電子提供措置を行わなければなりません。
このような違いから、ふたつの制度が両立することはありません。電子提供制度をとる旨の定款を定める会社、つまりすべての上場会社は、みなし提供制度の適用を受ける余地はないものとされています。
株主総会資料の電子提供制度の要件
株主総会資料の電子提供制度の要件について説明します。
対象となる会社
対象となる会社は、すべての上場会社および定款に規定した非上場会社です。
電子提供措置開始日・期間・対象となる株主
電子提供措置開始日は、以下のいずれかの早い日となります。
電子提供の開始日の要件
- 株主総会の日の3週間前の日
- 株主総会の招集の通知を発した日
電子提供措置期間は、電子提供措置開始日から株主総会の日以後3ヶ月を経過する日までの間となります。
また、電子提供制度の対象となる株主は議決権を有する株主です。
電子提供措置事項
電子提供措置事項は、以下のとおりです。
電子提供措置事項
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会の目的である事項がある場合は、その事項
- 書面による議決権行使ができる場合は、その旨
- 電磁的方法による議決権行使ができる場合は、その旨
- 株主総会参考書類
- 書面による議決権行使を規定する場合は、議決権行使書面に記載すべき事項
- 株主提案の議案の要領
- 事業報告
- 計算書類
- 連結計算書類
招集通知
なお、電子提供制度においても上場会社などは、株主総会を招集するにあたって書面による議決権行使を定めなければならないのが原則です。それに伴って、招集通知は、株主総会の日の2週間前までに発送します。
招集通知に記載する事項としては以下のとおりです。
招集通知に記載する事項
- 株主総会の日時および場所
- 株主総会の目的である事項がある場合は、その事項
- 書面による議決権行使ができる場合は、その旨
- 電磁的方法による議決権行使ができる場合は、その旨
- 電子提供措置を取っている旨
- 電子提供措置としてEDINET(金融庁の「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書 類に関する電子開示システム」)を利用した場合は、その旨
- 「電子提供措置事項」に係る情報を記載するウェブアドレス(URL)
株主総会資料の電子提供制度の注意点
株主総会資料の電子提供制度の注意点として、電子ならではのトラブルや制度に合わせた社内業務の追加などが挙げられます。どのようなトラブルが起こりうるかを予見した上で、対策を行えるよう準備しておきましょう。
電子提供措置が中断される可能性を想定
株主総会資料の電子提供を行っている期間中に、サーバーのダウンやハッキング被害などが原因で、電子提供措置が中断される恐れがあります。しかし電子提供措置に瑕疵が認められた場合は過料の制裁の対象です。
また、株主総会開催前における電子提供措置の中断は、株主総会決議の取消事由に該当する場合があります。
出典:e-Gov法令検索「会社法 第九百七十六条十九号、第八百三十一条一項一号」
ただし、以下のすべてに該当する場合は、電子提供措置の効力に影響はないものとされています。
- 電子提供措置の中断が生ずることにつき、株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと、または株式会社に正当な事由があること
- 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の十分の一を超えないこと
- 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の十分の一を超えないこと
- 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと
電子提供措置の中断が生じた場合、上記事由に該当することを立証できるように、ウェブサイトのログの保存などをしておくことが重要です。
定款変更が必要
電子提供制度は、定款にその旨を定めた会社に限って利用することができる制度です。また上場会社も、2019年の会社法の改正に伴い、2022年の施行から電子提供制度の利用が義務付けられています。
上場会社は電子提供制度の利用が義務付けられているため、本来は電子提供措置を行う旨の定款変更手続は必要ありません。しかし、電子提供措置事項記載書面の記載事項を一部省略する定めを記載する際に、あわせて電子提供措置をとる旨の定款変更手続についても株主総会決議を行うのが実務上一般的です。
また、電子提供制度の利用に伴い、ウェブ開示に関する定めを削除する定款変更も必要です。よって、上場会社は電子提供制度の創設に伴い、以下のような定款変更を行います。
定款変更の一例
現行定款 | 変更案 |
---|---|
<新設>
(ウェブ開示によるみなし提供) 第●条 当会社は、株主総会の招集の際に、株主総会参考書類等の情報について、法務省令に定めるところに従い、ウェブ開示することで、株主に対して提供したものとみなすことができる。 | (電子提供措置) 第●条 当会社は、株主総会の招集の際に、株主総会参考書類等の情報について、電子提供措置をとるものとする。 また、電子提供措置をとる事項のうち法務省令で定めるものの全部または一部について、議決権の基準日までに書面交付請求をした株主に対して交付する書面に記載しないことができる。 <削除> |
非上場会社の電子提供制度実施は定款変更の決議が必要
非上場会社は上場会社と異なり、みなし定款変更がないため、電子提供措置を利用するには株主総会で定款変更の決議を得ることが必要です。その際の定款変更は、記事内「定款変更が必要」で記載した内容と同様です。
しかし非上場会社は、自社のウェブサイトにおいて電子提供措置事項に相当する事項を一般に公開していないことが多い傾向にあります。そのため、閲覧時にパスワードを要求するなどして、株主のみが電子提供措置事項を閲覧できるようにするとよいでしょう。
会社法上、非上場会社が株主総会を招集する際は、原則として株主総会の日の1週間前までに株主に対して通知を発しなければならないとされています。
ただし電子提供措置を利用する場合は、株主総会の日の2週間前までに発送する必要があり、定款によってこの期限を短縮することができないため、この期間の差分については注意してください。
出典:e-Gov法令検索「会社法 第二百九十九条一項」
交付する株主総会資料の選定が必要
電子提供制度では、株主総会招集通知と議決権行使書面だけを株主に交付し、その他の株主参考書類などは電子提供措置を利用することが一般的です。この場合は、株主に発する招集通知は、現行法の下で実務上作成されている招集通知の冒頭1~2頁分のみで、はがき1枚でも可能です。
しかし、個人株主は交付された書面から十分な情報を得ることができず、結果的に個人株主の議決権行使率の低下を招くおそれがあると指摘されるかもしれません。そこで、会社は電子提供措置を行うと同時に全株主に対してすべての株主参考書類等を任意に書面で交付することも可能です。
また、「株主総会に来場した株主に対してのみ」「投資家との対話ミーティング時」というように、状況に応じて株主総会資料の一部または全部を書面で配布することもあります。
一方で、インターネットを利用した株主総会の招集通知の提供について各株主から承諾を得た場合は、書面交付を請求できる株主から除外されているため、ペーパーレスの株主総会招集手続を実施できます。
電子提供制度の一方で書面交付請求も可能
株主総会資料の電子提供制度を行うと、インターネットを利用できない株主は株主総会資料を閲覧できないのかというと、そうではありません。インターネットの利用が難しい株主に配慮した措置として、株主総会資料の書面交付請求があります。
また、株主総会参考書類等をインターネットではなく書面で確認したい株主に対しても、書面交付請求があれば、引き続き書面を送付することができます。
まとめ
株主総会資料の電子提供制度は、2019年の会社法改正に伴い、すべての上場会社に対して義務付けられました。電子提供制度を利用する際は、定款変更や株主に交付する株主総会資料の選定などが必要です。
しかし、当該ウェブサイトのURLなどを株主総会の招集通知に記載して通知した場合は、株主の個別の承諾を得ることなく、株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとされます。
よって、株主からの書面交付請求がない限り、株式総会資料を郵送する必要はありません。会社の郵送コストを削減するためにも、電子提供制度を積極的に活用しましょう。
よくある質問
株主総会資料の電子提供制度は義務?
株主総会資料とは、株主総会を開催するにあたって株主に提供する書類のことです。株主総会参考書類、事業報告、監査報告、計算書類、連結計算書類などが該当します。
詳しくは記事内「株主総会資料の電子提供制度とは」をご覧ください。
株主総会資料の電子提供制度は義務?
2019年の会社法改正に伴い、すべての上場会社に対して株主総会資料の電子提供制度が義務化されました。よって、「株主総会の日の3週間前の日」または「株主総会の招集の通知を発した日」のいずれかの早い日に電子提供措置を開始する必要があります。
詳しくは記事内「株主総会資料の電子提供制度の要件」をご覧ください。
監修 宮川 真一
岐阜県大垣市出身。1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事し、税理士としてのキャリアは25年以上に及ぶ。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表としてコンサルティング、税務対応を担当。また、事業会社の財務経理を担当し、複数企業の取締役・監査役にも従事。